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いとう君といっしょ

「ねえ、いとう君」

「どうしたの、上総ちゃん」


何時ものように一緒に帰宅するのは幼馴染みのいとう君。


いとう君は好青年だ。

いつも朝は私のことを遅刻しないように起こしてくれるし、テスト前は私が追試に引っかからないように勉強を見てくれる。

困っている人を見たらすかさず助ける。(優先順位は私が一番だそうだが)


そんないとう君に言いたいことがあった。

最近ではなく、ずっと前から言いたかったことが。

なかなか言い出せなくて。


でも言うと決めた。

今のうちに言っておかなければ絶対に後悔するだろう。

だから、今日こそは言ってやる。


「チャンネルを変えるのはやめてくれない? 今良いところだったのに!」

「え?」

「だから、今ちょうど良いところだったじゃん。何でここで変えるわけ?」

そう、いとう君は頻繁にチャンネルを変えてしまうのだ。

今だって、幼い頃に引き離された幼馴染みが感動の再会を果たしたところでチャンネルを変えられてしまった。

いや、変わった先のバラエティ番組も面白いよ?

でも、続きが気になるじゃん!


「えっと上総ちゃんは何のことを言っているのかな?」

「テレビ番組のことだけど?」

「テ、テレビなんかここにないよね?」

「? あるじゃん」

そう言って私はいとう君の頭を指さす。

ここに小さめのテレビがあるじゃないか。

何をしらばっくれるのか。

しかもそのテレビは私ではチャンネルを変えることが出来ないのだ。

だから、わざわざ言っているというのに。


「か、上総ちゃん? それはぼくの頭ですよ?」

なぜか動揺を隠せない様子のいとう君。

私にはいつも敬語なんか使わないくせに敬語を使うなんて。


あ、砂嵐になった。


「いとう君の頭なのは知ってるよ? いとう君の頭はテレビでしょ?」

「……何で知ってるの?」

「何でって見たまんまじゃん」

「なんでもっと早くにいってくれないの!」

「何でって」

え? 何で私怒られてるの?

もしかして文句付けたのが悪かった?

でも、いとう君の頭のテレビで放送している番組ってインターネットとかで探しても見つからないんだよね。

だから、いとう君の頭で見るしかない。

しかも、ドラマは放送?期間が決まっているときた。

今言わなければこのドラマの続きを見ることは出来ない。

再放送システムがないいとう君の頭でドラマを見逃すということはこれから先そのドラマの内容が分からないことを意味する。

それだけは阻止したい。

なんてったって今回のドラマは私の最近のお気に入りなのだから。



前に、あまりにも良いところでチャンネルが変わるからなるべくいとう君の頭を見ないで過ごしたことがある。

見なければ続きも気にならないと思ったのだ。

だが、それは長くは続かなかった。


先生に呼び出されてしまったのだ。

いとうをいじめるなと。


友人や先輩に怒られてしまった。

イケメンをいじめるやつなんか滅びてしまえと。


いとう君はみんなに愛されているのだ。

いや、私も好きだよ? こんなにも優しいいとう君を嫌える人なんか居るのだろうか。

不良ですらいとう君のこと、慕っているからそんな人は少なくとも学内にはいないだろう。


そう、私はいとう君の顔を見ないで過ごすことによって、学内のほとんどの人間を敵に回してしまったのだ。

さすがに食堂のおばちゃんにもいとう君には優しくしてやれと言われた時は焦った。

だって、食堂のおばちゃんを敵に回すなんてそんな恐ろしいことは出来ない。

だから、また私はいとう君の顔を見て過ごすようになった。

懐かしいな。

元気かな、みんな。


そういえば、なんでみんなはいとう君の頭が気にならないのだろうか?

あんなに頻繁にチャンネル変えられたら気になると思うけどな。


それにイケメンって。

友人達のイケメンの基準ってなんだろう。

イケメンは顔じゃないんだなとしみじみと思ったのだった。


「まさか、上総ちゃんに見られていたなんて。恥ずかしい……」

「何が?」

「頭の中見られていたなんて……」

「頭の中というか頭というか」

「僕らにとって頭を見られるって言うことは頭の中がのぞかれているのと一緒なんだよ」

「へー」

そうだったのか。

見ていても全くいとう君の考えていることなんてわかんなかったけど。


「でも、その仕組みだといとう君の頭の中ってみんなに筒抜けじゃない?」

「みんなには見えないから大丈夫」

「え?」

いとう君の頭が見えないってそれはそれで怖くない?

頭がまるまるとないなんて。

みんなにはいとう君の食事とかどう見えているんだ?

食べ物がいきなり消えたりしてるのかな?


「えっと、上総ちゃん。変なこと考えてるのかも知れないから一応言うけど、みんなにはテレビが見えていないってだけで、僕の頭はちゃんとあるからね」

「あ、よかった」

みんなは普通に人間に見えていたんだ。

ホラーとかじゃなかった。


「あれ? じゃあ、なんで私だけいとう君の頭がテレビに見えてるの? 幻覚?」

さっきいとう君は何で知っているのかと言っていたから幻覚ではないとは思うが一応聞いてみる。

幻覚だったら、明日にでも病院に行かなくっちゃだし。


「僕の頭、本当はテレビだから幻覚ではないよ。むしろみんなが見ている方が偽物」

「あ、良かった。いとう君の家族だけテレビとか冷蔵庫に見えるような変な病気にでもかかってるんだと思った」

「え? 今なんて?」

「変な病気にでもかかったのかと思った」

「いや、その前」

「いとう君の家族だけテレビとか冷蔵庫に見えるような?」

「家族もか……」

いとう君は頭を抱えだした。

病気でないなら私は困らないのだが、いとう君にとっては何か困ることがあるのかも知れない。


「あのさ、いとう君」

「何?」

「別に誰かに言ったりしないから」

誰かに言ったところでみんなには普通の人間の頭に見えているというなら言ったところで誰も信じては暮れないだろう。

それに幼馴染みのいとう君をいじめたりはしないさ。


「上総ちゃん……」

私の手を両手で握りしめるいとう君。

そんなにも他の人に言われるのが怖かったのか。

というかそんなにも私は信用がないのか。


「好きです。付き合ってください」

「はい?」

「いや、この場合は結婚を前提に付き合ってくださいかな? でもなんかそれじゃあ重いような気もするし……」

「いとう君?」

「上総ちゃん。絶対に幸せにするから!」

なんかだんだんと告白からプロポーズみたいになってきているんだけど……。


「いとう君、突然すぎやしませんか?」

「え? 上総ちゃんはずっと僕の気持ちを知っていたんじゃないの? ずっと告白も出来ない僕を見てやきもきしていたとかでは?」

「いや、全くそんなことはないよ? いとう君の気持ちは初めて知りましたよ?」

「じゃあ、僕の早とちり?」

大きなため息をつくいとう君。

そんなに落ち込まなくても良いじゃないか。

なんか私が悪いことをしたような気分だ。


「あ、そうだ。いとう君」

「何?」

「デートなら遊園地が良いな。いとう君の頭で見たイルミネーション。綺麗だったから一緒に行こう?」

「……そうだね」


そして、私たちは晴れて恋人同士になりました。


でも、なぜ私にだけいとう君の頭がテレビに見えるのかは教えてくれない。

理由が知りたい気もするが、そのうち知ればいいことだ。

私たちはこれからもずっと一緒なのだから。


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