壁ドンから始まる関係
みなさん、こんにちは。
突然ですが、私は今イケメンに壁ドンされています。
壁に衝撃を加えて大きな音を鳴らす、イケメンのみが使用を許されるというあの壁ドンです。
女性なら一度はされてみたいと思ったことがあるのではないでしょうか?少なくとも私にはありました。今までは・・・
こんなにイケメンからされる壁ドンが怖いものだとは思わなかったのです。
完全に相手は私に向かって威嚇の意味を込めてしています。
ロマンスなんてものは始まりませんでした。
「あのさー」
「はっ、はい。なんでしょうか?」
「君さ、調子乗ってるよね?」
イケメンに絡まれました。
「マリンにちょっと優しくされたからって最近マリンのこと見すぎじゃない?」
「いや、そんなつもりは・・・」
「ない、とは言わせないよ。俺が気付かないわけないじゃん」
見てしまうのは仕方のないことだと思うのですが。
なぜなら悪役令嬢が男前になっていたから。
私は転生者だ。去年、高熱を出し寝込んだ時に前世での記憶がよみがえった。その時にこの世界の記憶を手に入れました。
そして知った。この世界では私がヒロインだと。
もう人生イージーモードじゃないか?と思いつつ迎えた高校の入学式。いよいよロマンスが始まると思っていた。
「おい」
そう声をかけられたとき私は思った。
さっそくプロローグイベント、来ましたかと。
「なんでしょうか?」
「ハンカチ、落としたぞ」
振り向いた私が見たのはガテン系のイケメンだった。
こんなキャラ、ゲームにいましたっけ? 出てくるキャラってみんな線が細かったような・・・
「マリン、先に行かないでよ」
「すまない。彼女にハンカチを届けたくてな」
「さっすが俺の婚約者。やさしーな」
イケメンに話しかけたこのキャラは見たことがある。
攻略対象の一人、セドリックだ。
そして、マリンは悪役令嬢の一人だった気が・・・
別人ですかね?
「今、婚約者って?」
「うん、そーだよ。マリンは俺の婚約者」
気のせいではありませんでした。ガテン系のイケメンこそ悪役令嬢のマリンさんでした。
マリンさん、彼女はとても可憐で傲慢な少女だった。
線は細く、ドリルのような縦まきツインテールが似合うようなお嬢様。悪役令嬢の見本みたいな人だった。ゲームの中では・・・
今では、ガテン系のイケメンとなっている彼女。
それは気になって恋愛なんかそっちのけで彼女のこと、みてしまいますよね?
マリンさんはとても優しかった。
ある女学生が荷物を持っていると
「私が運ぼう。どこへもっていけばいい?」
と女学生の持っている荷物を運んだかと思えば
「おい、お前大丈夫か?」
と体調の悪そうな生徒を小脇に抱えて運んだり・・・
明らかに悪役令嬢が、というよりも女性がやることではないことを普通にやってのけていた。
彼女は嫌われ者の悪役令嬢どころか学校中の人気者になっていたのだ。
そして、壁ドンされている今に至ります。
さすがに押され負けっぱなしではヒロインの名が廃ります。
「そうですね。でも、学園の人気者の彼女を目で追ってしまうのは仕方のないことだと思うのですが」
とりあえず、開き直る作戦に出てみました。
「仕方がない?君が彼女を見る回数は明らかにおかしいんだよ。何を企んでいる」
「何も企んでいませんよ」
嘘ではありません。気になってみているだけで・・・
「おい」
「・・・」
「おい」
怖いです。イケメンがにらむと怖いのですよ。
「わかってもらえないだろうけど、お話ししましょう」
「それでいいんだよ」
にらまれ続けるのは嫌なので私は正直に話すことにしました。
私は私が転生者であること、この世界が乙女ゲームであること、そしてマリンさんが悪役令嬢であることを。
「はぁ?何言ってんの君」
わかってもらえませんでしたか。当然ですよね・・・
「この世界は乙女ゲームなんかじゃない」
普通はそういいますよね。
「育成ゲームの世界だ」
「すみません。いまなんて?」
「だからこの世界は乙女ゲームの世界じゃなくて育成ゲームの世界だって」
マリンさんに危害を加えない人と認識された私。今ではすっかりセドリックの茶飲み友達です。同じ転生者として話がはずみます。
セドリックから聞いた話によるとどうやらこの世界には他にも何人か転生者がいるようです。
セドリックに教えてもらった転生者たちの名前を聞いて私は驚きました。
転生者たちはみな私が乙女ゲーム攻略対象キャラだと思っていた人たち。
会いに行き話を聞いてみるとみな口をそろえてこの世界は育成ゲームの世界だという。
彼らが育成するのは自分の婚約者たち。
セドリックでいうとマリンが育成対象に当たる。
セドリック曰く
「筋肉量が少ない子にはときめかないんだよねー。最低でも50%は欲しいよねー。だから、マリンちゃんを育てたんだ。マリンちゃんこそ俺の理想」
だそうだ。
その他の皆さんも婚約者たちを、ヤンデレやツンデレ、癒し系、天然など自分の好みに育てているらしい。
「ねぇ、私の相手は?」
「は?」
「これが乙女ゲームじゃないなら私だけ相手、いないんじゃ・・・」
「ああ、言われてみればそうかも。あんま気にしてなかった。ドンマイ」
「そんなー」
「ああ、でも確か隠しキャラがいるって聞いたことがあるような・・・」
「ほんとに?」
「聞いたことある程度だから何とも言えない」
「ええ、そんなー」
「そんなやついたらきっとそいつも転生者だろうな」
「えー、それは嫌かも」
「イケメンだぞ?」
「イケメンでも性格に難があるのはちょっと・・・」
「俺の性格に難があるといいたいのか」
あはは、そうですとも。
そんな話題で笑えるのは、セドリックの言っていたことが冗談だと思っていたから。
この半年後に私のもとに1人の男が訪れることを私はまだ知らない。
転生者ではないが性格に難があるイケメンが・・・




