声のない魔女
便乗。え、微妙にシチュエーションが違う?
こまけーことはいいんだよっ!
初めて出会ったのは森の中だった。
白銀色の髪が、蒼穹色の瞳が、とてもとても美しい人だった。
「こんにちは」
「――――」びくっ
「君、何処からきたの?」
「――――」ぱくぱく
「名前は?」
「――――」ぱくぱく
「喋れないの?」
「――――」……こくん
「じゃあ――」
次にあったのは街の中だった。
なんでも、普段は森の中ではなく、街で生活しているらしい。
最初のようないきあたりばったりではなく、ちゃんと約束して会いに行った。とてもどきどきした。
「……本当に良かったの?」
「――――」こくん
「後悔とかしてないの?」
「――――」こくん
「まったく……君と言う人が、よく分からないな」
「――――」くすくす
「ああもう、笑わないでくれ……。でも、この呪いが笑顔まで奪うものじゃなくて、本当によかったよ」
「――――」じーっ
「うん? ボクの顔に、何かついてる?」
「――――」さらさら
「えー、なになに? 『相変わらず君は綺麗だね』? ……ちょっと、筆談だからってなんてもの読ませるんだ、君は」
「――――」にまにま
「……まあ、君が楽しそうならそれでいいんだけれどさ」
そして、勇気を振り絞った。
「あの、さ……。ずっと言えなかったんだけど、あの日のこと、君に会えたこと、本当に嬉しかった。君には感謝してもしきれないくらいだ」
「――――」ふるふる
「『こちらこそ。感謝してもしきれない』って……君、やっぱり変わってるよ。いや、そこもひっくるめてというか、そんな君だからというか……ああ、もうっ、言葉にするのは楽でも、声に出すのは一苦労だな……」
「――――」きょとん
「その……つまりだな!」
「――――」さらさら
「『君がずっと好きだよ。これからも一緒にいよう』……。〜〜〜〜っ、君はどうしてそう……あ゛ーっ、ボクから言いたかったのに〜〜っ!」
「――――」くすくす
「笑わないでくれよ……。……とにかく、その……あれだ。好きだ、大好きだ。君のことが大好きなんだ。だから……ずっと、一緒にいてくれ」
「――――」……こくん
お互いに照れていたから、二人揃って顔は真っ赤で、お互いに愛し合っているから、二人揃って幸せだった。
それから長いこと一緒に居た。
一緒に居るだけで幸せだった。
声を聞けるだけで幸せだった。
それでも、どうしたって時間は変えられなかった。
「――くそっ! 駄目だ駄目だ、これじゃ駄目だ、これでも駄目だっ!」
「――――」さらさら
「『無理しないで』って、何を言い出すんだ、君は! このままじゃ君は死ぬんだぞ!」
「――――」さらさら
「『寿命ばかりはどうしようもない』……っ、そんなことは知ってるさ! 君は人間だ、ボクは魔女だ! 禁忌を侵して永い生命を持った魔女だ! 時間に差が有りすぎることくらい知っている! けれど……だからって諦められるワケないだろ!」
「――――」さらさら
「『ありがとう』なんて、今言わなくていい! 君を助けてから言ってくれ! じゃないと、まるで……まるでっ、君が死ぬみたいじゃないか!」
「――――」さらさら
「『それでも君と、ずっと一緒に居る』? ――っ、馬鹿。馬鹿だ、君は。本当に馬鹿だ」
「――――」くすくす
「『自覚している』、か……。――……なあ、君はなんでボクに声をくれたんだ。ボクは魔女だ、禁忌を侵し、代償に声を失い、生命の奇跡を手に入れた魔女だ。なのに、なんで君は、こんな強欲なボクに、君の声をくれたんだ」
「――――」さらさら
「『一目ぼれした女の子の声を聴きたかったから』……。まったく、君らしすぎる理由だね。それで君が声を失ったんじゃ、世話ないじゃないか……」
「――――」さらさら
「『僕が死んでも、僕の声は君と一緒に居る』。……ああ、分かってる、分かってるよ」
「――――」さらさら
「『だから泣かないでくれ』って……ははっ、無理言わないでくれよ」
「――――」さらさら
「『本当に、君を愛している。これまでもこれからも、ずっと愛している』……ああ、もう。君はなんで、こう恥ずかしいことを平気で書くんだ。…………ボクもさ。君を愛している。ずっとずっと、永遠に愛し続ける――」
……最後に、彼女は笑ってくれた。目元を真っ赤にして、泣きながら笑ってくれた。
僕は、森の中で出会った声のない魔女に恋をした。そして僕は彼女に声を上げた。彼女にずっと寄り添っていられるように、僕の体が死んだとしても、僕の声は、彼女と一緒に居られるように。
僕は死んだ。彼女を残して死んだ。
声のない魔女はもう居ない。声のなかった魔女が、これからを生きていくだけなのだ。
設定解説
主人公「僕」……一般人。体が弱いので森の中の屋敷で暮らしていた。「ボク」に一目ぼれして声をあげた。誰と話すこともない孤独な美少年だったためか、価値観はずれているし、思ったことも素直に口に出す。
……天寿を全うし、愛する人に見送られながらこの世を去った。
ヒロイン「ボク」……元・声のない魔女。現・声のなかった魔女。禁忌を侵し、生命の奇跡を手に入れたものの、代償に声を奪われた。魔女の魔法は呪文を以って起動するものなので、声を失うことはそのまま魔法を全て失うことに他ならない。命の奇跡の恩恵によって不老不死の肉体を持っている。「僕」から貰った声のおかげで魔法も仕えるようになったが、生命の奇跡関連の魔法は代償を支払っていないと判断されるからか使用不能。使われたものの効果は持続されている。
今もこの世の何処かで、静かに彼の声とと共に暮らしている。