二話
今宵のパーティーは、天川大公家令嬢である、次女和奏女史の御披露目を兼ねているという事もあり、例年に増して、多くの貴族諸家が出席しているらしい……、自分達の子息と令嬢をあわよくば……、と考えているのであろう、と兄上の弁……。まあ、俺達には無縁な事だがな……、と最後に付け加えた。
かく言う僕達も、僕自身の社交界デビューという事もあるけれど、生産体制を確実にしつつある砂糖を使った菓子、スイートポテトやパンプキンパイ等の、各家婦人及び令嬢への売り込みが主目的である。
結果から言って、貴婦人及び令嬢への売り込みは成功だった。甘い物が好きな女性、また、それを理解して、女性の好意を得ようとする下心ある男性への売り込みは芳しい結果をもたらした。逆に、砂糖を高級貴族の特権としてきた家柄にとっては、都合悪い話で、妨害をしようと画策したが、家柄史上主義でない天川大公家のパーティーという事から表立って行う事も出来ず、不発に終わった。
僕の社交界デビューは……、というと、反応は大きく三つに分かれた。
一つは、同じ子爵家又は侯爵家で、僕達松本家と親交を深める事により成功に至った智識等を得たい、領地経営を安定させたいというグループ。
二つ目は、自分達を脅かすと考え、早い内に楔を撃っておきたいグループ。
三つ目は、自分達の家柄に胡座をかいているグループ、公爵以上の家柄に多くある。
まあ、露骨に敵意や反感を示して来る輩も少なからずいた。
「おい! 最近、上り調子だからといって、生意気なんだよ! 子爵家無勢が!」
パーティー会場から呼び出されて行ってみれば、予想通りの展開……、相手は侯爵家の者か、伯爵家の小間使いか?5人程の少年、といっても、自分より年上の者達だ。
「だったら、どうすると仰るんですか?」
僕は敢えて、挑発的に尋ねる。
「痛い目に遭って貰うだけだ!」
言うなり、木刀で殴りかかって来た。
パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!某アニメキャラよろしく、の早撃ちで、護身用に持っていた水鉄砲(但し、かなり高圧力に改造)を眉間に放った。
「何!?」
少年達が怯んだ隙に僕は離れた。
「(まともに相手する訳無いでしょ?)」
「お兄さん……、私もそれ欲しいな……」
「はっ!?」
会場に戻る途中、髪を首にかかる位にした少女、自分と歳は同じ位か、が声を掛けて来た。
「さっき、侯爵の坊っちゃん達に使ってヤツだよ?」
「こちらでしょうか?」
「そうだよ。それから、敬語使わなくて良いからね……」
「そう? なら、助かる」
少女は、水鉄砲がお気に召したようである。
「後、お兄さんは、甘い物持って来てた人でしょ? 美味しかった……、うん、最高に」
少女は、蕩けそうな顔で宣った。
「それは良かった……」
僕は若干引き気味に答えた。
「お兄さんも欲しいな……、なーんてね……、半分、冗談だけど」
僕の顔を覗き込み話す少女、魔性の女!?
「全部じゃなく、半分かよ!?」
ツッコミ入れる僕……
「これ創ったのお兄さんでしょ?」
水鉄砲を見せながら尋ねて来る少女、
「そうだよ」
僕は答えた。
「後、少女でなく、名前で呼んで欲しいな……。私は、近衛美冬、お兄さんは?」
「僕は、松本玲央だよ、美冬さん」
「美冬だよ? 玲央……。玲央が近くに居たら、甘い物も不自由しないでしょ? 後、こういった面白そうな物手に入りそうだし……。玲央については、追々知って行けば良いと思うし、他の貴族連中にはうんざりだから……」
「そう? 物欲満載だけど、ありがとう」
「(お姉さまに唾をつけられる前に……ね?)」
チュッ……、美冬は僕の肩に手を置いて、頬に口付けて来た。
「はっ!?」
僕は、惚けて、変な声が出た。
「挨拶のキスだよ?」
「(挨拶のキスって……、西洋か!)」
心中、ツッコミ入れた。
「美冬!」
美冬とやり取りしていると、少女の声が聞こえた。
「あっ……、お姉さま」
美冬は、少女の方に顔を向けた。
「美冬、会場に居ないと思ったら、こんな所に居たのね……? そちらの子は?」
「僕は……」
「松本玲央……、件のお菓子を送って来た家の子だよ? これから、贔屓にしてもらうんだ……」
美冬は、僕の言葉を遮って答えた。
「いや、まだ決まってませんから……」
僕は否定するが、
「そうなの? ご贔屓にお願いしますね……」
美冬のお姉さんは、僕の言葉を無視した。
「紹介遅れましたね……、近衛大公家長女咲良です。妹共々よろしくお願いしますね? 松本子爵家と言えば、甘い物の贈答品、美味しかったわ! これからも、お願いね?って伝え頂きたいわ? 是非、美冬と仲良くして頂戴ね、私とでも良いわよ?」
と言いながら、さりげなく、僕の手を握りしめ、胸の近くに寄せる咲良女史と、ニヤリと笑う美冬の顔が見えた。
「(姉妹揃って……かよ)」
「お姉さま、そろそろ戻りましょ?」
時計を見て美冬が話題を変えた。
「そうね。じゃあね、玲央君?」
別れ際に、頬にキスしてきた咲良女史。
「じゃあね、玲央。」
「(何なん、あの姉妹は!? というか、キスが挨拶になったのか? 父上も、兄上も何も言ってなかったけどな……)」
僕は、ため息つきながら、会場に戻った。