三話
そして、舞台は、パーティーのフィナーレとなるダンスを迎えた。
「僕は、咲良嬢とお相手させて頂けたら嬉しいな……、って無理だろうな……、子爵の自分じゃあ」
そう語るのは、パーティーで親しくなった庄内子爵家長男の悠斗君、僕の一つ上だ。
「そうだね……。既に、和奏嬢と迄はいかないけど、侯爵、伯爵家の連中が群がっているからね……」
咲良嬢というのは、近衛大公家の次女で、10歳を迎えた、黒髪を背中にかかる位に伸ばした、お淑やかな少女で、今回のパーティーにおいては和奏嬢と人気を二分している。確かに、あの魔性じゃあ、まだまだ女を知らない少年では、ころっと騙されてしまうだろうな……。僕も、先制のジャブを打たれた……。
「だね……。玲央君はどうなんだい? 随分、挨拶回りしてたみたいだけど」
悠斗君が尋ねて来た。
「う~ん……、僕はいまのところは何とも言えないね……。悠斗君の所は、桜桃っていう特産物があるんだから、それを売り込みして行けば良いと思うけどね。確かに、和奏嬢や咲良嬢はきれいな方だけどね……、上の人達を押し退けて……は無理だね」
「だよね……」
僕達は、顔を見合せ、互いにため息をついた、互いに意味合いは異なるけど。
「玲央! 一緒に踊ろうよ?」
僕達がダンスを踊っていると、声を掛けて来たのは、先ほどの美冬嬢だ。後ろには、金魚の糞みたいに男がついて歩いているんだけど、みっともないよな……。
「玲央君? そちらの女性は?」
悠斗君が尋ねて来た。
「件の咲良嬢の妹さんだってさ、名前は……」
「美冬です。玲央は、私が先約なの(お菓子のね……)」
僕の紹介を遮って、美冬が答えた。先約とか……、決まってないし!
「(玲央……、領地……)」
僕が、不満げな表情を見せると、耳元で囁いた。
「(階級権力使うなよ……。卑怯だろ!)」
僕が、反論すると、
「(近衛家で売れたら、商売上げ上げだよ?)」
締まりを見せる美冬……。
「(商売するなら私怨関係なりそうな家を選ばないよ……?)」
宥めすかす僕……。
「(確かにね……)」
「(でしょ……?)」
「二人で、何、こそこそ話しているんだい?」
二人で話してたら、悠斗君にツッコミ入れられた。
「よし! 丁度良かったね、悠斗君。咲良嬢に、話してみるから……、悠斗君の事……(悠斗君に気が向いてくれたら、凄く良いからね、僕にとっては)」
「そう? ありがとう!」
綻んだ顔を見せる悠斗君。
「じゃあ、行って来るね!」
僕は、美冬を連れて離れた。
「(美冬にとっても、良い事だろ?)」
「(うん! 確かに。金魚の糞みたいにくっついて来る連中より、あの子は良さそうだし)」
「(うまく話してくれよ?)」
「(うまく行ったら、ご褒美頂戴よ? 勿論、松本家の贈答品で?)」
「(うまく行ったら、な?)」