見知らぬ少女。
「そのカメラ、素敵ですね。どこで買ったのですか?」
そう言ってきたのは、見知らぬ少女だった。
駅前にあるベンチに座っている僕を見つめながら。
僕と同じ中学生くらいの年齢だろうか。
その姿は、黒いセーラー服に、長い髪をシュシュで一つにまとめているなかなかのべっぴんさんだった。
「いや、これは使い捨てカメラっていって…
あんまり多く写真を撮ることは出来ないんだけど…。」
焦った僕はつい、そう答えてしまった。
だが彼女は、ガッカリした顔をせずにこう言った。
「それでも、いいと思いますよ。」と。
初対面のはずなのに、なぜか知り合いであるかのように思えてきてしまう。
それに、こんなカメラを素敵だと褒めた。
残りのフィルムが一枚だけの古めかしい使い捨てカメラを。
「隣、座ってもいいですか?」
彼女が僕に問いかけた。
彼女と仲良くなりたい………。
そう思った僕は、「いいよ。」と答えた。
時刻は、夕暮れを指している。
駅前は、サラリーマンやら帰宅中の学祭やらで賑わっている。
「綺麗な夕日ですね。彼女がそう言った。」
僕はそれに答えるように頷く。
「そうだ。」
彼女は、ふと思い出したかのように、大きなトランクケースの中から、オレンジを取り出して僕に差し出した。
「お近づきのしるしです。受け取ってください。」
彼女は、微かに微笑んだ。
「えっ。いいの?」
僕は少し戸惑った。
知らない人から貰うのも……というのも理由の一つだが、こんなに新鮮なオレンジを僕が貰うのももったいないな……とも思った。
だが彼女は
「私なら大丈夫です。まだ家に残ってあるので。どうぞ、お召し上がりください。」
と言った。
「じゃあ、遠慮なく。」
僕は、お言葉に甘えてオレンジを頂いた。
味は、美味しかった。酸っぱさよりも甘さが強く残る。
「ねえ、君はどうして僕のカメラを「素敵」って思ったの?」
僕は気になった質問を彼女に聞いた。
「うーん。そうですね……。懐かしいなって思ったから…………ですかね。」
彼女は優しい顔でそう答えた。
だが、一瞬涙が一滴、頰を濡らしたような気がした。
「昔、私もカメラが欲しいなって思ってたんですけど、家が貧しくてそんな余裕もありませんでした。だから、カメラを見ると、その思い出が浮かんできて懐かしいなって思うんです。」
彼女は、笑いながらそう言った。
今思うと、彼女の顔を何処かで見たような気がした。
時刻はもう、夜になる前を指していた。
「もうこんな時間。そろそろ帰らないといけませんね。急に話しかけてごめんなさい。それでは。」
彼女はそう言って立ち去った。
そういえば、名前を聞いてなかったな……。
また会えるのかな?
その時がきたら、また話したいな。
気がつくと、僕の手首には彼女が付けていたのと同じシュシュが、元からあったかのようについていた。
「やっぱり、変わってない。あの子が車に轢かれそうなところを、私が助けたんだ。自分の命を捨てて。ちょっと後悔したなぁ…。でもあの子が幸せなら、それでいいかな。それじゃあ、私も帰ろうかな。シュシュも返したことだし。それじゃあまたね、親友。」