第ニ 『ヒロインを一目見たくて…!』
「え?」
「お、明日じゃん!おはよー」
目の前にいる少女に何か違和感を覚える。
俺はその違和感を解明しようとして考えに浸ってしまった。
だからだろう、いつの間にか明日と呼ばれる少女の顔が目の前にあった。
「うわぁ!」
と小さな叫びをあげて俺は後ろに倒れてしまう。
俺を起き上がらせるために、少女はごめんごめんと笑いながら手を差し出す。
俺はその手を掴んで、ありがとうと言い、微笑んだ。
すると明日の口から、とても小さな声が聞こえた。
(やっぱり…?)
やっぱりってなんだ。
なにか、七音に対して思うことがあるのだろうか。
俺が口を開こうとした瞬間、明日は焦り始める。
「あっ、もうすぐ予鈴じゃん!行かなくちゃ!行こっ、け…七音」
なにかを言い間違えそうになった彼女は俺が口を開く前に瞬く間に俺の手を引いて、
教室へ行くために階段を駆け上がった。
「待っ、て!はや、いよぉ」
元の男性の体より女性の体は扱いにくく、少し走っただけで息が上がった
俺は腕を掴んでいる明日を息も絶え絶えに止めようとした。
「…ねぇねぇ、聞いてもいい?」
明日は階段の踊り場で振り返り、その黒い目でじっと俺を見つめる。
……少し怖い。まるで蛇に睨まれたカエルだ。
ゴクリと唾を飲み込む、が微笑みで取り繕い、俺も彼女を見つめ返す。
「どうしたの?」
「お昼一緒に食べよ!コウには内緒ね、女同士の話!」
指を一本立てて、口元へ持って行く仕草をする明日にびっくりしてしまう。
しーって可愛いな。
「うん、いいよ。中庭で?」
「…うん、中庭で。」
明日のテンションはみるみるうちに下がった。
……え、もしかして、これミスった?
屋上とか開いてないだろ、普通に考えたらさ。
ここがゲームとか漫画だったら、開いてるだろうな!
でもな、ここ絶対現実だろ?
ゲームとか信じないからな、だってそういう転生とかって小説だけだろ?
俺は現実主義者だ、だから絶対に信じないぞ。そんな空想世界。
明日はまた俺の腕を引いて行く。
先ほどのようなことがあったからだろうか、少女の歩幅は短くなっている。
そして、速度も合わせているようだ。
この子、メッチャ性格イケメン…!惚れそう。
なんて考えていると、頭の中にある記憶穂波が
「おいおい、お前が惚れてんのは俺だろ!」
というホナァァァ顔をし勝手に脳内に現れ、きめポーズをしている。
(そういえば、俺の元はどうなってんのかな〜)
なんて悠長に考えていたら、教室前に着いた。
「さ、入ろう!」
「うん」
ドアを開ければ、生徒数名がおはよーと挨拶をしてくれる。
挨拶を返し、自分の席らしき場所に座る。
「ねー、七音!今日さ、放課後カラオケ行くんだけど、行かない?イケメン男子も勢ぞろいよ!」
「あー…ごめんね、放課後は予定あって…」
お断り、だって俺イケメンに興味ねぇよ。
美人にしか興味ないよ?
「そっかー、じゃあまた誘うね。というか七音にはコウがいたもんねー」
ヒューヒューと冷やかしが入る。
「や、やめてよー…もー」
本気でやめろ、なんか恥ずかしい。耳まで赤くなってきた。
なにこれ、これが……恋?
——んなわけあるか!
なんか冷やかしって嘘でも恥ずかしくならない?
その異性に対して意識しちゃわない?
変な噂立ってないかな、なんて考えちゃわない?
そうだよね、考えるよね恥ずかしいよね。
どうでもいいけど、めちゃくちゃ明日からの視線が痛いんだけど…
後ろだけどわかるこの視線の痛さはなんだよ。
俺なんかしたっけ、怖いんだけど。
正直蛇に睨まれたカエルの気分ってこうなんだなーって考えれるくらいには余裕だけどさ……
準備も終わり席に着く頃には本鈴が鳴る。
と同時に先生が入ってきた。
「席についてるかー、おい男子ー早く席つけやー」
ちょっとぽっちゃりした坊主の先生が入ってきた。
服装はジャージで、メガネをしている。
あと、焼けてる。
このことから全てを予測し、俺は判断した。
スポーツ部の顧問だな、この人
と誰でもできる推理をして、ドヤる。
「…おい、七音。得意げにニッコリ笑うんやめろや」
こちらを見て、呆れている目線を向ける先生に対し焦る
あれま、表情出ちゃったのか…
「シマントまた太ったのー?」
「痩せるって言って太り続ける毎日に一言」
「うっさいわ、お前ら全員ミンチにすんぞ!」
クラスメイトはキャキャと笑いながら先生をいじる
おいおい、ミンチって…いいのかよ。
先生はまだ若めだけど…太ってるけど
つか、あだ名シマントって…
笑っちゃうの堪えるこっちの身になれよ。
「黙れ、知らせの時間やぞ!あー、高菜と七音は図書委員会があるから図書室に集合な」
すかさず手を上げて、質問する
「何するんですか?」
「飾りつくりや本の整理や、高菜と七音でやってくれよ。」
…腕がなるなー、本は好きだ。妹のために俺が何冊絵本作ったと思ってんだよ!
…うん、13冊だけだよ!悪りぃか!?と一人漫才を心の中で繰り広げる。
短い童話程度なら、ゆるい絵と一緒に書くことができる。
でも、こっちの世界では七音ちゃんの性格も考慮していかなくちゃ、
人体実験とかされかねんからな。
……というか高菜ちゃんどれだ?
キョロキョロと見回すけどいなさそうだ。
図書委員ってなんかメガネのイメージない?
実際メガネだったんだよ、北上さんと不原の奴。
二人ともあんなクラスだったからかめちゃくちゃはっちゃけてたな…。
いい雰囲気になってくっついたうちのクラス生徒カップル第3号……
くそう、幸せになれよぉ…!
というかメガネの地味目の女子いないし、ここのクラス全員美しい…!?
珍しいな、なんか
……待てよ、今気づいた、いつの間にか休み時間だ。
「はぁー、マジ疲れた」
話しかけてきたのは明日だった
「ちょっとさー、英語ってまともな教師いないわけ?マジないわ〜…」
さっき明日は英語教師に当てられた
そして間違え、その教師に鼻で笑われていた
さすがに俺もあれはムカついた
「はぁ…まだお昼になんないかなー」
はやくーと文句を言う明日に対して、少し困ったように微笑みと、急かしてもならないよと伝える。
「そういえば、放課後も大丈夫?」
「うーん、図書委員のお仕事あるの。その後なら」
ん?待て、今何を聞いた?
こいつは「放課後大丈夫?」と聞いた
ならば、高菜さんとやらを聞き出すしかない!
「ねぇねぇ、高菜さんってどんな人だっけ?」
「…またー?あのねぇ、あそこの髪がふわふわの人だよ」
……え、ちょ、まって。
ちょっと待て、俺すごい失礼なことした…
勝手にメガネとか言ってた
が…すごく可愛い!!
いや全員美少女だけどさ。
別に外見で差別しようとか思ってないけど、
特別目につく可愛さっていうか。
そんな感じがする。
「かわいい…」
思わず呟いてしまう。
「えー、七音もかわいいよー!」
「ううん、明日ちゃんの方がかわいいよ」
微笑みながら、相手にそう返す。
そうすれば、七音のイメージは壊れない…はずだ。
「そっか、ありがとう…昼休み!忘れないでよ!」
元気にそう言って去っていく。
頷いてから、俺は手に持っている本を読み進めた。
花が主人公、花は皆を悪に変えていく存在。
最後は光になり、すべてを正義に帰す存在。
この世界で初めて読んだ本だ。
綺麗な花が悪に染まる経緯が次巻にある。
だけど、その本が見つからないので困っている。
学級文庫の中を覗いてもないのだ。
一体どこだろうと思いながら、俺は次にある国語の時間を楽しむのだった。
昼休みになった。
明日との約束もあり、一緒に中庭に行っている。
合流したと同時に明日は突然愚痴を言いはじめるので驚愕した。
「でさ、マジ最悪なんだけどー」
「うん」
相槌を打ちながら歩く。
「あっ、ついた。ここで食べよっか」
長い髪をたなびかせながら、明日は微笑んだ。
静かに座り、横目で明日を見る。
長い髪を赤いカチューシャで止めているので、綺麗な茶髪がより際立って美しく見える。
「私さ、実はね…」
なにやらひそひそ話を始めようとしているが、
……秘め事を聞くのが俺でいいのだろうか。
だが、聞いてみようと思う。
こういう時ほどわくわくする時間はないからな!
「——男なんだ」
…ん?!待て待て、非常事態だ
狼が近くにいる、俺がやったエロゲーだとこの後襲われていた。
やばい、この体で抗えるはずなどないのだから、無理やり…!
「ぷっ、ふ…ハハハハハハ!」
突然、明日が笑い出した。
指をさされて、それはないから!と大きな声で笑っている。
「お前の思考、前とまるっきり変わってねぇな!」
エロゲー、エロゲーって!ねぇーよ!と笑われ続ける。
俺は顔を真っ赤にして否定しようとするが、ハッと気づく。
俺は、俺は一言も声に出して返答などしていない。
「あなたは誰…?」
思わず怪訝な表情を浮かべて聞く俺とは対照的に、明日は笑顔を崩さない。
……こいつは明日じゃない、怖い。
じゃあ、誰だ?
俺以外にこの世界に来た可能性が少しでもあるのなら……。
「そうそう、さすがだよー。健ちゃん」
ハートでもつきそうな勢いで愛らしく笑った明日に対し、少し、
……ほんのすこーしドキッとしてしまった。
「へぇードキドキしたんだな、顔が良いって恐ろしいなぁ……」
「なんで、思考読んでんだよ。——穂波」
ホッとする、健ちゃんなんて呼ぶやつ、俺は一人しか知らない。
明日はなんだよなんだよーと少し頬を膨らましてから、お弁当箱にがっついている。
俺はというと、購買で買ったいちごぱんだ
美味そうだったんだよ、なんか…魅惑のいちごぱわーっていうのが発動されて…
「なんでって、もぐ…俺と健ちゃんが一心同体の親友だから?」
「…」
いや、そう言われるとなんか納得しちゃいそうなんだけどさ
……違うだろ!絶対!
「うん、違う。けど、今の健ちゃんには教えれなーい」
「教えろよ穂波ー、一心同体の親友なんだろー?」
ほれほれと肘で明日の体を突く。
思わず胸に当たり、ごめんと反射的に謝る。
……待て、こいつ——七音よりでかい…!?
Dか…いやEかもしれないな。
「おい、変態。美乳第一の俺に喧嘩売ってんのか」
「お前もな、変態」
女子が中庭で変態と言い合ってるのもおかしい。
そろそろ本題に入りたいところだ
『何故、俺らが美少女になっているのか』
これが俺の最大の疑問だ。
いや、美少女であることは問題じゃない。
むしろご褒美——
「まぁ、本題に入ろうか」
「お、おう」
無理やり思考を遮られた。
親友が冷たいのだが、どうすれば良いんだ
というか、俺には穂波の心情が来ないのか
不便だな——
「お前の言ってた疑問、全部を略すとここはゲームの世界だ」
ねえだろ、ここは小説かよ。
ねぇよ、絶対ねぇよ。
心の中でぶつくさと否定の言葉を並べていると、明日はハーッと盛大なためいきをつき、説明を始めた。
「お前が|現実主義を理想としている理想主義者《リアリストに憧れるロマンチスト》だというのはわかってるけどな、本気でここゲームの世界なんだよ。
しかも俺のやってた『AllDAY〜あなたとのキスは恋の味〜』っていうギャルゲー。
上野七音は主人公の幼馴染。
お前と一緒の図書委員やってる『前原高菜』は地味系だけど一途の純情少女。
ツンデレ担当の高菜たんいじめてる人が『旗靡園』、
ヤンデレ担当の『小崎古味』…で全員。」
「お前は?」
「『宇保町明日』サポート役、好感度伝えたりとかするタイプ。ちなみにある特殊なルートを進むと俺に行き着く」
なるほどな…大体理解した。
つまりは俺にヒロイン全員を攻略しろということだな。おk、把握。
「高菜たんだけは渡さんぞ。」
「残念だったな、攻略するほかないんだ」
「とりあえず、焼きそばパンが一番うまいぞ」
「何で今その話題を出したよ?」
はぁと少しため息をついた。
周りを見渡す、校舎内に誰かはいても、校舎外にはいない
「なぁ、なんで外に誰もいないんだ?」
怪しい、この光景、いやこの事態が可笑しいのだ
「……ここはフィールド外だぞ」
「可笑しいんだよ、それが」
ゲーム内であっても誰かは居るだろ。
この世界もそうだ、校舎内をうろつけば誰かがいる。
しかも、授業も人間の言動もまるで現実かのようになっている。
なのに、何故外に誰もいないのだ。
「だから、フィールド外だってば!ここは異空間なんだよ!本来ならバグなんだよ」
なんでだ…?
みんなの声は聞こえてくるのに。
「今日の先生、ちょーうざいんだけど」
「いや、でもあんた気に入ってるんじゃん」
「ねぇ、今日のシューの投稿、見たー!?」
「見た見たー!超かっこいい!」
「お前のえろ本みーっけ!」
「おいやめろよー、うわ、おっさんだ!」
「…」
いじめも悪口もイケメンなアイドルの話題も全て現実にあったことだ。
現実とゲームの境がわからない。
全部がわからない。
分からなくなった。
「おい、しっかりしろよ。健ちゃん強い子だろ?ここは別世界だ、元の世界じゃない。」
俺の頬を両手でしっかりと掴み、明日は言った。
「七音のことずっと支えてあげるから、安心してくれる?」
「うん…」
穂波も明日も優しい。
やばい惚れた。
……超絶美少女だもんな、当たり前だな。
「おい、台無し」
「うるっせぇ、美少女」
「褒め言葉じゃねえか」
二人そろって笑うと同時に、予鈴が鳴り始めた。
やばいやばいと二人慌てて駆けるが途中で俺がすっ転んでしまった。
誰かにぶつかったからだ。
「わぁ!ごめんね!」
俺はすぐに謝ったが、その子は本当に小さな言葉を囁き走って行った
「……大丈夫かな?」
「七音大丈夫!?早く行かなきゃ、先生に怒られて面倒だよ!」
「次シマント先生の授業か…」
走りながら、次は何でいじられんだろうなと考えていた。
……さっきの子ごめんなさいって泣きそうな表情で言ってたな…確か——高菜ちゃん。




