第八 『天使は黒い羽だけを持つ』
お久です。
「ん…」
「起きましたか?」
誰だ…?
この声は…聞いたことないぞ…。
おもむろに手を伸ばす。
フニフニと柔らかい何かに触れた。
「あら、子供返りかしら。」
「す、すみません。おーい、早く目を開けて!」
ん?明日の声が聞こえた。
(まさか、これは…男のロマンが詰まった豊満なあれなのでは…!?)
(おい、変態黙れ。)
穂波の声が頭に響く。
「いてっ」
鐘がガンガン頭のなかで鳴っているような感覚がした。
声を出すとともに、目を開けると、俺が触っているのは、頬だとわかった。
(ちくしょう…!)
思わず、歯ぎしりを立てる。
「あら、私で不満かしら?ごめんなさいね」
穏やかそうにその人は笑って言った。
「すみません、小崎会長…」
申し訳なさそうに謝ったのは、俺を溺れさせた穂波…
で、俺の目の前にいる女子は会長…?
ん?待て?小崎ってどこかで聞いたことが…
『お前と一緒の図書委員やってる『前原高菜』は地味系だけど一途の純情少女。ツンデレ担当の高菜たんいじめてる人が『旗靡園』、ヤンデレ担当の『小崎古味』…で全員。』
あっ。
「す、すすすすいません!!!!」
ヤベェ、ヤンデレって言ったらあれだろ?片っ端から好きな人の周りを殺していく…!
(おい、訂正しろ。ヤンデレだっていろんなタイプいるんだぞ)
怒るなよ!!!!
ウヒィ…怖いよぉ…俺の周りが般若だよぉぉ…。
「いいえ、大丈夫ですよ。」
ニコニコと微笑む会長に俺は安堵
「彼から離れてくれさえすれば、ね?」
しなかった。
「彼…とは?」
「霜井戸くんよ。あなた、幼なじみだからって近いわ…後、数メートル離れなさい」
「それだと、私は壁にめり込むしか、手がないのですが…」
「あら、その発想はなかったわ。いいわね。じゃあ、壁にめり込んで歩いてくれない?」
冗談で言ったんだが…怖いというか、おかしいだな…
「歩けません…」
「あなたは、やらないで終わるの?そんな人、もっと霜井戸君に合わないわ。さっさと別れてくれない?」
わ、別れる?
「あのぅ…」
「何?」
先ほどのニコニコから真顔の連発が怖い。
「付き合ってません…」
「あら、そうなの…?じゃあ、私は、霜井戸君を誘惑させるために帰るわ。」
「はぁ…」
ため息のような、返事のような、曖昧な返事を返す。
それと、誘惑ってなんだよ…。
「あっ、それと体調は大丈夫だと伝えるけれど、大丈夫?」
…この人、もしかして、腐っても会長的な感じか…
まぁ、頭グワングワンする感じだけだし…大丈夫だろ…
「はい、大丈夫です。」
「嘘をつくのはやめて、もう一人の病人からも聞いたけれど、あなた溺れたでしょう?
意識や記憶も曖昧になるわ、一週間休みを伝えておくから。お大事に。」
そう言って、パタンとドアを閉めていく。
俺は、ただ呆然とするしかなかった。




