ホテルは行かないよ
「マナツダヨ」と彼女は言った。
マナツ?
僕は昔、「真夏」という名前の女の子に会ったことがある。
しかし、今、僕の前で酔っぱらって、いまにも吐きそうなこの子が、あの「真夏」なのだろうか?
上目になりながら、気持ち悪そうにふらふらしている彼女に聞いてみた。
「少し、お茶でもしていきます?」
「……うう」
返事がないので、僕が手を引っ張ると、彼女は何も言わずについてきた。
開いてる店を探しながら、僕たちは新宿の方に向かっていた。
もう12時を回ってる。
「開いてないですね」
僕が言うと、真夏は言った。
「まだ?」
「すみません。夜遅くにやってるカフェとか探してるんですけど」
「ホテルは行かないよ〜」などと言いながら、彼女は僕に手を引っ張られて歩いている。
それにしても、僕が女の子と手をつなぐなんて、だいぶ久しぶりだな、と思う。
15分くらい歩いて、ようやく開いてるカフェを見つけて僕たちは入った。
席に座ると「やっとついた〜」と、真夏は言った。
その声の感じを、やはり僕はどこかで聞いたことがあるような気がした。
いや、間違いない。小学校だ。
真夏と僕は同じクラスだった。
雰囲気がだいぶ違うな。
ぼさぼさのロングヘアーで水をごくごく飲んでいる目の前の真夏を見ながら思う。
昔の真夏の髪はショートだった。
まるで男の子みたいな格好ばっかりしていた。
クラスで一番足が速かったんじゃなかったっけ。
そう。
僕は小学校の頃、真夏のことが好きだったんだ。