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大丈夫に見える?
駅のホームで僕は彼女をみつけた。
「あの、携帯電話」
「……」
「大丈夫?」
「……」
彼女は水色のベンチに座りながら、顔を下に向けてグッタリしていた。
「ワタシなら大丈夫なので…ケイタイください」
彼女はこちらを見ずにそう言うと、僕の方に手を伸ばしてきた。
僕はその手の上にそっと彼女の携帯を置いた。
「ありがとう」と彼女は言った。
「じゃあ、私はそろそろ行くから」
彼女は立ち上がって、ふらふらと駅のホームを歩き始めた。
「おつかれさまです」と僕は言った。
何がおつかれさまだよ。
よろよろと歩く彼女の後ろ姿を見送りながら僕は思う。
笠木さんも帰っちゃうし、こんなことなら、今日は家でゆっくり寝てれば良かった。
さて、僕も家に帰りますか。
そう思って改札に向かうと、彼女がフラフラとまだ歩いている。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫に見える?」
「何処かまで送りましょうか?」
「いや、いいから放っておいて。」
そう言い終わらないうちに、彼女はその場に座り込む。
「サイアク」と彼女は言った。
「歩けないから、手を貸してくれる?」
「いいですよ」と僕は言った。