真夏の最悪な話
私は泥酔状態だった。
ここはどこなんだろう。
気がつくと私は、知らない男性二人に抱えられながら、電車に揺られていた。
「この子、大丈夫かな?」
「知りませんよ僕は。カサキサン、責任持って送って下さいね」
「でも、どこ住んでるんだろ」
「ああ、この子、手にケイタイ持ってますね」
「ちょっと見せてもらおうか」
「いいんですか?」
「他にいい方法ある?」
その時、電車のドアが開いた。まだらに人が降りて、その分だけ乗りこんできた。
「三番線の電車間もなくドアが閉まります」
私は、あまりの気持ちわるさに、二人の手をふりほどいて、思わず電車を降りる。その次の瞬間にドアが閉まった。そして、そのまま近くにあったトイレに駆け込んで、またすこし、記憶を失った。
……。
「最悪だ」と私は声に出して言った。
ふたの空いたカバン。
吐いたものが飛び散っている個室トイレの中で私は携帯電話を探していた。
ナイ。
ケイタイガナイ。
最悪だ。
私はガンガンする頭を抱えながら、自分の携帯に電話をかけた。
「はいもしもし」
私の携帯から、知らない男の声が聞こえてきた。
「携帯、返して」
私は公衆電話を抱き抱えるようにして、どうにか言葉を吐き出した。
「いまどこですか」
誰かが聞いてくる。
「わからない。代々木かな」
「いまから向かうので動かないでください」
私は最初からどこかに動くつもりなんてなかった。