言当
「俺が今日死ぬのを見た!?」
ラーメンを口に運びながら、女は頷く。
「何それ!?未来予知とかそんな感じ?」
ラーメンをすすりながら女は首を横に振る。
「私は今日をずっと生きてるの」
「ん?」
「今日の夜眠って、朝起きると明日じゃなくて今日の朝。その繰り返し。もう何回目かも忘れた。」
ん?この人もしかして電波ちゃん?
「えーっと。それは君の作り話?」
「嘘じゃないよ。じゃあ、今日のこと言い当てる。今何時?」
もう7時か。言い当てるってどういうことだろ。この後起こる事でも予知するのか?
「今ー、18時57分になった。」
「これ、見てて」
女は鞄から小さい何か。あ、これテレビだ。小型液晶テレビ持ち歩いてんの!?
「このあと入るニュース、19時から。まず最初に千葉で幼児虐待のニュース。次が交通事故、トラックが高速道路で横転、3名が重傷。次が銀行強盗、埼玉。次が」
「そんだけ聞けば十分だ。これが当たってりゃあんたを信じる」
「もういいの?」
にしても。この子の言ってる事が本当なら世界の常識が崩れるな。『3月9日、午後7時、ニュースをお伝えします』
まぁ嘘なら嘘で電波ちゃんだな。結構可愛いし有りだなだ。
『千葉県の--市で、4歳の男の子が母親に身体的虐待を受け…』
何?
「ほらね」
「…マジで?」
『次のニュースです。本日午後6時頃、--高速道でトラックが横転、3名が重傷』
どういうことだ?
「当ったりー」
「…」
『次のニュースです。』
俺はテレビを消した。
「まだ残ってる。見ないの?」
首を傾げて女が訊ねる。あ、この子やっぱ可愛い。
これは現実逃避だ。落ち着け俺。…待てよ?
「おい、これって事前に調べときゃどうにかなるんじゃねぇの?」
「んー?順番までわかるかな?」
「ぐ、とにかく!!俺はこんなんじゃ信じない!」
「むー、困る。あ、そうだ。」
「次はなんだ?天気予報でもしてくれるか?」
「それも出来るけど、あなたは信じないと思う。だからね」
向かいの席の男を指差した。
そして俺の耳元で囁いた。
「あの人、食い逃げするよ」
確かに、これなら完全な予知と言って過言じゃない。まさかあの男に食い逃げの前歴があるとか、そんなこと知っていたとしても当てられないだろう。
「ははは、やっぱあんた面白」
「あ!ちょっとお客さん!代金!!」
目の前では立派な食い逃げが発生していた。
「これで信じてくれる?あと、私、あんたじゃなくて。かざね。風に音で風音ちゃん」
俺は目の前の食い逃げと、どっちにしろ電波系な風音ちゃんとやら。これが夢だと思った。