きっかけ
俺はその日も遊び呆けていた。
友達とゲーセンに行き、適当にファストフード店で飯食って騒いで、家に帰ろうと駅へ向かっている最中だった。アパートの前。
「危ない!!」
「え?」
いきなり後ろから飛び付かれ、いや、もはやタックル。
俺は倒れた。
ガシャンと何かが割れる音。
腰をガッチリ掴んでいる細い腕。
首を動かして確認。
粉々の植木鉢。
驚愕に目を見開いてるアパート4階のババァ。
これは恐らく。
「大丈夫?」
俺を助けたと思われる声。綺麗な、澄んだ、女の声。
「あ、ありがとう!!俺危うく死ぬとこだった!!」
立ち上がって女の手を掴んで引き上げる。
まさかこんな風に命を救われるとは。こんなもんフィクションでしかあり得ないって思ってた。
「あなたが死ぬの、もう見たくないから」
女は言った。今何て言った?
「なぁ、今何て?」
「それじゃあ私はこれで」
女は俺に背を向けて。何?どういうこと?
歩き出した。
「なぁちょっと待ってくれよ」
女は止まらない。
「ねぇ、ちょっとさ」
女は止まらない。
「あ、時間あるなら一緒に飯でもどう?俺奢るしさ!」
飯ならさっき食ったんだった。何言ってんだ俺。
女は止まった。
「ラーメンがいいな」
振り返って笑った。