そんな気分じゃない
学園祭の二週間後
ゴールデンウイークも終わり、いつもの学校が始まっていた
もう学園祭の時のような浮ついた空気はすっかり無くなっていた
「、、、、、」
桐島はこの二週間、ずっと抜け殻のようだった
学校には毎日来るが殆ど言葉を発さず、授業中も休み時間も関係なく同じ表情で窓の外を眺めている
明らかに落ち込んでいるのが遠目でも分かる程だった
友人の中で唯一、同じクラスの外山はその桐島の様子を見ていた
「、、、、、」
(相変わらず落ち込んでやがる、、、)
外山は小さくため息をついた
昼休み
外山は食堂で北脇と九頭に、桐島の事について話していた
「、、、って感じでよ 全然動かねえし、元気ねえんだわ 息してんのかって思うぐらいだよ」
外山はスパゲティを食べながら言った
「そう、、、」
北脇はため息混じりにそう答えた後、水を飲んだ
「そもそもさ、、、なんで桐島と渡部、別れたんだ?俺学園祭の時お前らといなかったからよく分かんねえんだけど」
九頭は学園祭の時、桐島達の焼きそばの出店の向かいで腕相撲屋をやっていた
「なんでって、、、そんなの知るかよ」
「学園祭の時は最初から最後まで普通だったわよ、、、むしろ楽しそうだった、、、」
外山と北脇は九頭の問いにそれぞれ答えた
「ん~?楽しいのになんで別れるんだよ?」
九頭はますます分からなくなった
「私がそう思っただけって話よ、、、ホントは色々考えてたんじゃない?」
ごちそうさま、と北脇はお盆を持ち、昼の定食を流し台に運びに行った
「う~ん、、、難しいんだな、、、」
九頭は腕を組みながら考える
「もういいから過干渉すんなよ どーせあいつらの問題なんだし、、、」
外山は投げやりな言い方で呟いた
「で、でもよぉ、、、桐島元気ねえし、、、」
「別にあいつは元から元気ある奴じゃねえだろ まあ二週間もあの調子だから気にはなるけどよ、、、」
外山はスパゲティを食べ終え、ぐっと水を飲んだ
「だろぉ?じゃなんか声かけてやろうぜー?俺はこういう時上手い言葉思いつかねえけど、外山は賢いし、、、なんか言えるだろ?」
「俺だって思いつかねえよ」
外山は席を立ち、お盆ごと皿を持ち上げた
「、、、つうか、そんな気分じゃねえし、、、」
「、、、え?」
「、、、ちっ、もういいだろ」
外山は不機嫌そうな様子で流し台に向かって歩いていった
「、、、、、」
九頭は外山の背中を見ながら今の態度について考えていた
「なんでイラついてんだろ、、、?そういえば北脇もなんか変な感じだったよな、、、」
考えては見るが、バカな九頭には全く答えが浮かばなかった
九頭は急いで昼食を食べ終え、野波佳、徒仲と屋上にいた
先ほど外山から聞いた桐島の様子を出来るだけ正確に2人に伝えていた
「、、、やっぱそんな感じか、アイツ、、、」
野波佳はため息混じりに呟いた
「そうなんだよ、、、もう二週間も経ってんのに、、、どうにかなんねえかなぁ?」
「どうにかっつってもな、、、」
野波佳は困った様子で頭を掻いた
「なんでいきなり別れたんだよ?外山と北脇は知らないらしいんだけど、、、徒仲はなんか知らねえか?」
九頭は渡部と親友の徒仲に訊いてみた
「、、、さぁ、私も分かんない、、、」
徒仲は俯き、首を振りながら答えた
「ん~、そっかぁ、、、」
九頭はスネたように唇を尖らす
「、、、、、」
野波佳は俯いている徒仲をチラッと見た
「、、、まあいいじゃねえか その話は、、、」
「え?」
九頭は野波佳の意外な言葉に思わず反応する
「ほっときゃ元気になんだろ、、、」
「え、、、でも、お前と桐島って中学からの仲なんだろ?だったらなんか、、、」
「なんつうかな、、、あんま、そういう気分じゃねえ」
「え、、、?」
外山と同じ事を言う野波佳に、九頭は驚いた
「ど、どういう事だよそれ、、、外山も同じような事言ってたけど、、、」
「、、、多分、みんな同じ事言うだろ、、、」
野波佳は最後にそう呟きながら、徒仲と共に屋内に戻った
「、、、う~?意味分かんねえ、、、なんでだよ?」
(桐島が落ち込んでんのほっといて、、、理由がそんな気分じゃねえって、、、なんなんだよ?)
九頭は考えれば考える程皆の言っている意味が分からなくなっていた
放課後
桐島は帰宅しようとトボトボ廊下を歩いていた
「、、、、、」
その表情には色が無く、正に放心状態だった
昇降口に着き、靴を履き替えていると廊下の方から声が聞こえた
「キリシマーン!」
よく通る高い声で、桐島を特殊な呼び名で呼ぶのは安川だった
「、、、安川さん、、、と、瞬さん、、、」
桐島は安川の横にいる瞬にも気づいた
だが相変わらず表情は浮かない
「もぉっ!暗い顔しちゃってさー!いつまでしけた面してるつもりよ~?」
安川はニヤニヤしながら桐島の頬をつついた
「、、、なんですか?」
桐島はため息混じりに用件を訊ねる
「う、、、」
桐島のあまりの無気力さに安川はたじろいだ
「今からカラオケでもいかない?思いっきり声出してスッキリしようよ」
瞬のその言葉に安川は激しく頷く
「そうそう!私の美声、聞かしたげるからさ!」
「、、、いいです 遠慮しときます」
桐島はそう呟くとさっさと出口に向かって歩き出した
「え、、、じゃあボーリングとか!?」
「遠慮しときます」
「あ、そう、、、」
安川の提案に桐島は即答で断った
「、、、重症ね、、、」
帰っていく桐島の背中を見ながら瞬は呟いた
「、、、はぁ~あ、いつまでも引きずっちゃって、男らしくないなぁ!」
安川はスネた口調で乱暴に言った
「、、、、、ハァ」
そこへ肩を落とし、ゆっくりと歩いてくる人物がいた
「、、、九頭君?」
瞬はいち早く気づき、名を呼んだ
「あ、、、純さんに真奈美ちゃん」
九頭は力なく顔を上げた
「、、、なになに~?あんたまでそんなに暗い顔?キリシマンだけで充分よ」
「、、、うん」
安川のめんどくさい絡みに九頭は小さく頷き、昇降口の下駄箱に向かった
「、、、じょ、冗談よ!どしたの?」
安川はさすがに気の毒になり、一応訊ねてみた
「、、、桐島がさ、最近元気ねえじゃんか?」
九頭は呟くような言い方で2人に言った
「そうね、、、」
瞬はさっきの桐島の様子を頭に浮かべていた
「だから、俺としてはまたいつもの桐島に戻ってほしいんだよ あんな落ち込んだ感じじゃなくて」
「うん、、、まあね」
安川は難しそうな表情をしながら相槌を打つ
「でもさ、、、みんな何にも考えてくんねえんだよ」
「え、、、?」
瞬はふと顔を上げ、反応した
「学園祭の時一緒にいなかった俺より、あいつらの方がなんか気の利いた事言えると思うんだけど、、、みんな桐島の事ほっとけばいいって」
「、、、、、」
瞬と安川は互いに迷うような表情を見合わせた
「今はほっといた方がいい、って言い方でもねえんだよ なんか投げやりな、、、そんな気分じゃねえとか言って」
九頭はいじけたような言い方で下駄箱をガリガリと引っ掻く
「、、、それは、仕方ないかもね」
瞬はため息混じりに言った
「え、、、?」
九頭は顔を上げ、2人の方を見た
「うん、、、私らも今さっきキリシマンに声かけたけどさー、正直、そんな気分じゃなかったもん」
「、、、な、なんで?真奈美ちゃん?」
「、、、あのね?落ち着いて考えてね」
「う、うん」
九頭は安川の言葉に耳を傾けた
「学園祭の日にね、、、キリシマンとあゆみん、別れちゃったじゃない?」
安川は一つずつ整理するように話し出した
「うん」
「その日からね、、、私も麻癒ちゃんも、他のみんなとも連絡とれなくなっちゃったの」
「え、、、そ、そうなの?」
「うん 麻癒ちゃんも今のあゆみんの事、よく分かんないらしいよ」
「、、、あ、確かに、、、」
九頭は昼休みの徒仲の様子や言葉を思い出していた
「つまりね、、、これは、キリシマンがただ、あゆみんにフられたってだけじゃないの」
「、、、、、」
九頭はやっと、皆の言葉や態度の意味が分かった
「私達全員、、、あゆみんにフられちゃったんだよ 簡単に言えばね」
安川は言い辛そうだったが、なるべく軽い口調で言った
「、、、そ、そっか、、、」
(俺、、、別に、渡部とはいつでも会えると思ってた、、、)
改めて考え直すと、どれだけ無神経な言葉を皆にぶつけ、どれだけ勝手な考え方をしていたか、自分が恥ずかしくなった
(そう思ったら、、、あいつらの態度も当たり前だよな、、、)
九頭は先ほどより、暗い表情になってしまった
「、、、、、まあでも、あんまり深く考えずに、前向きでいられるのが九頭君の良いところじゃない?」
瞬は優しい笑顔を浮かべ、九頭を元気づけようとした
「え、、、、、」
九頭は目を見開き、瞬を見た
「、、、そうだよなー!俺の良いところだよ!うん!よく分かんねえけど!」
九頭は誉められた事が嬉しく、急に明るい表情になった
(単純ね、、、)
安川が心の中でそう呟くと、九頭は意気揚々と出口に向かった
「じゃあまた明日!純さん!真奈美ちゃん!」
九頭は笑顔で昇降口を出て行き、そのまま歩いていった
「、、、てゆうか純 さっきの誉め言葉なの?」
「いいんじゃない?深く考えず、前向きに受け取ってくれたみたいだし」




