沈黙の一言
時刻は18時をまわった頃
桐島と渡部は、駅に向かって歩いていた
渡部がここ埼玉から新幹線で名古屋へ帰る為である 桐島は駅まで送る為に来ていた
「、、、悪いな、綿菓子貰えなくて」
桐島は肩を落とし、落ち込んだ様子で言った
「え、、、い、いいよぉ そんなに何度も謝らなくたって」
「、、、でも、綿菓子とかそういう甘いモノ好きなんだろ?」
「、、、う、うん まあ、、、」
「、、、すまん」
桐島はもう一度謝った
「し、仕方ないよ 先着50組だったなんて全然知らなかったし、、、」
「ちゃんと調べときゃよかったんだ、、、」
「まあいいじゃない?学園祭、すごく楽しかったし!」
「、、、まあ、それなら良かったけど、、、」
桐島はそう言いながらも中々煮え切らなかった
(ジンクスとか信じてる訳じゃねえけど、、、絶対別れない、っていう話だし、、、一緒に綿菓子、食べたかったんだけどな、、、)
この学園祭のジンクスとは、男女一緒に綿菓子を食べればその2人は絶対に付き合える、そして絶対に別れないというモノである
「つうか、、、徒仲とか、見送りに来て貰わなくても良かったのか?」
桐島は今更ながら疑問をぶつけた
「、、、うん ちゃんとみんなには挨拶したし、、、それに学校と駅って結構距離あるでしょ?悪いかなって思って」
「、、、俺には悪くないのかよ?」
「うん!」
渡部は笑顔で元気よくそう答えた
「うんって、、、」
「えへへ、、、」
「、、、ま、来なくていいって言われても行くけどよ」
「、、、、、」
渡部はその桐島の言葉を聞き、優しい笑みを浮かべた
2人は駅に着いた
この時間帯はちょうど人通りも多く、落ち着ける雰囲気ではなかった
「、、、、、」
「、、、、、」
そんな中、2人は黙って歩いていた
「、、、、、」
「、、、、、」
それは、今まで感じた事がないような、妙に居心地の悪い沈黙だった
少なくとも桐島はそう感じた
構内に入り、売店や靴屋、飲食店などが並ぶ道を歩き改札口に向かっていた
「、、、どうだった?久々にこっち帰って来て、、、楽しかったか?」
ふと桐島から話を切り出した いつもより少し声が上擦っていた
「、、、うん 楽しかったよ」
渡部は静かにコクっと頷いた
「あいつらも、なんかいつもより楽しそうにしてたしな 多分お前と会えたからみんな嬉しかったんだと思うぞ?」
「、、、そうかな だったら良いけど、、、」
渡部は先ほどと同じように静かに返事をした
「つうかよ もう帰らねえとダメなのか?」
「え?」
「こっちに泊まっていけねえのか?せっかく帰ってきたのに、、、」
「、、、うん ごめんね 家には今日中に帰るって言っちゃってるから、、、」
「、、、そか じゃあ仕方ねえな、、、」
桐島はなんとなく周りを見渡しながら息をついた
「そういえば凛ちゃん 元気か?電話じゃよく声聞くけど」
凛、とは渡部の妹である
「、、、元気だよ 高校生にもなったしね」
「あ、そうか もう高校生なんだよな凛ちゃんって なんか中学生みたいなイメージついちまってるからさ」
「、、、そうなんだ」
明るい口調で喋る桐島とは対照的に渡部は呟くような声だった
「、、、、、」
「、、、、、」
また無言の間が空いた
会話が上手く噛み合わない妙な感覚だった
桐島はチラチラ渡部の顔を見るが、渡部は至って冷静だった
「、、、遠距離だなんだっつっても、大した事ねえな!」
「、、、え?」
急に大きな声を出す桐島を、渡部は反射的に見た
「なにが遠距離恋愛だよ、、、住んでる場所が遠いだけじゃねえか なんも変わんねえよ、、、」
「、、、、、」
渡部は困惑した表情で少し前の地面を見つめる
「別に会おうと思えばいつだって会えるし、、、この時代、電話やらメールやらなんだってあるし、、、」
「、、、うん」
渡部はまた静かに頷きながら返事をした
「もしかしたらこんぐらいの距離は遠距離恋愛って言わねえのかもしれねえな?やっぱ、、、外国ぐらい離れてねえと」
「、、、どうだろうね、、、」
「外国なら多分、連絡とかも難しいんだろ?会うとなったらパスポート要るしな」
桐島は笑いながら楽しそうに話していた
「それに比べりゃ全然近いよな 埼玉から名古屋なんて ほんの数時間で行けるんだからよ」
普段は無口な桐島だが、今日はやたらと舌が回る
桐島は自分でもその理由は分からなかったが、とにかく落ち着かない気分だった
「全然、、、歩としたい事なんて、まだまだ山ほどあるもんな」
「、、、うん」
「遊園地とか水族館とか、、、そういうデートっぽい事一回もしてねえし、、、映画見たり飯食ったり、、、どっかで買い物したり、、、こんなド定番の事すらまだ全然してねえよな!」
「、、、うん 出来なかったよね」
渡部は表情を変えず、ずっと前を見ていた
「これからすりゃいいよ そんな事、、、夏休みだってもうじきあるしな」
そうこう言っていると、2人は改札口に着いた
「別に夏休みじゃなくてもよ 土日とかあるんだし、たまにそっちに行ったりするよ俺」
改札口に着き、立ち止まっても桐島は話を止めなかった
「そりゃ会えない時期は淋しいけど、、、会えた時の事考えたら耐えられるし、、、」
「、、、うん」
「あ、そうだ、、、焦栄の提案なんだけどな、その内Wデートしようって 徒仲と焦栄と、歩と俺での4人で それも夏休みなら日程合わせられるよな?」
「、、、、、」
「なんだよ、、、やる事いっぱいあんじゃねえか 忙しいな今年は、、、」
桐島はハハッと笑いながら頭を掻く
「、、、、、」
「、、、、、」
騒がしく人波が揺れる改札口付近、2人は三度、沈黙に包まれた
「、、、ど、どうしたんだよ歩?さっきから元気ねえぞ?」
「、、、、、」
桐島の言う通り、駅に着いた辺りから渡部は俯き気味で、表情も明るくなかった
「、、、あのね、誠哉く、、、」
「あ、もしかして、やっぱ綿菓子食べたかったのか?」
「、、、え?」
桐島は渡部の言葉を遮り喋り出した
「それかもう徒仲達と会えねえから淋しいのか?大丈夫だって、別に夏休みになればいくらでも、、、」
「誠哉君」
「、、、ん?どうした、、、?」
桐島の言葉を渡部は力強い声で止めた
「、、、私ね、今日はただ遊びに来た訳じゃないんだよ、、、?」
渡部は真剣な表情で、だが穏やかな佇まいで言った
「、、、なんだよ改まって?」
「今日は、、、誠哉君に話したい事があったから来たの」
「、、、俺に、、、話?」
桐島は額から流れ出る汗を服の袖で拭う
「うん、、、本当は電話で言おうと思ってたんだけど、、、ちょうど学園祭もあるし、やっぱり直接言いたくて、、、」
渡部は何か、複雑に入り組んだ感情を抑え込むような表情を浮かべた
「、、、なんだよ じゃあ早く言や良かったのに、、、」
「、、、誠哉君、、、」
「、、、お、おう どした?」
俯いている渡部に、桐島は問い返した
「、、、、、」
「、、、、、」
2人の間にはまた、沈黙が流れた
桐島はもしかしたら、感覚で分かっていたのかもしれない 次に渡部が口にする一言を
その一言を聞きたくないが為に、無意識の内に饒舌になっていたのだ
そんな事をしても、何の意味もないと知りながら
「、、、、、」
渡部はゆっくりと頭を下げた
「、、、?」
「誠哉君、、、私と、、、別れてください」
「、、、え、、?」
「、、、、、」
渡部はゆっくりと頭を上げた
動揺や迷いは一切なく、微かに微笑むその表情は
桐島が今まで見た中で、最も綺麗な渡部の姿だった




