その姿に
16時前頃
渡部と桐島は良い調子で焼きそばを作っていた
「ありがとうございます」
渡部は笑顔で接客をしていた
「、、、、、」
桐島はそんな渡部の様子を、焼きそばが焦げ付かないように混ぜながら見ていた
「おいしいですよ 私も食べましたから!」
渡部は楽しそうに桐島が作った焼きそばを売り込んでいた
「、、、、、」
そんな渡部に、気づかない内に桐島は見惚れていた
「、、、んん?どうしたの?」
「っっ!」
気を抜いていると、ふと渡部と目が合ってしまった
「、、、いや、、、ソース」
「え?」
「そのソース、かけてくれるか?」
桐島はごまかしながらせっせと焼きそばを混ぜる
「あ、ちょっと足りなかったかな?」
渡部はそのソースを焼きそば全体にかけた
ジュ~ジュォ~
鉄板から溢れる音は一層力強さを増した
「これぐらい?」
渡部は桐島に確認しながらソースのキャップを閉める
「ああ、、、」
(なんか今、歩の顔ボーっと見ちまってたな、、、)
桐島はチラッとだけ渡部の顔を見る
「あっ、ありがとうございます350円になります」
「、、、、、」
桐島はまた、渡部の顔を眺めていた
「、、、あ」
(やべえ、また歩の方を、、、)
今度はハッと気づき、視線を鉄板に移した
(やっぱ、、、久しぶりに会ったからだよな、、、)
桐島は焼きそばを混ぜながら考えていた
(また、、、しばらく会えないからだよな、、、)
そう考えると、無性に淋しい気持ちになってしまった
「歩さんに手伝いだして貰ってからよく売れるわ」
「ホント?紗菜ちゃん」
「うん やっぱり接客が良いと違うみたい」
「えへへ~そうかな?」
北脇の言葉に渡部は嬉しそうに笑う
「確かにな 桐島は無愛想な顔しかしねえからなぁ」
「てめえにだけは言われたくありません 外山」
桐島は一切振り向かずに外山に言い返した
「あー!あゆみんだー!!」
少し遠い人混みの中からそんな声が聞こえてきた
「あ、、、真奈美さん!瞬さん!」
渡部が見つけたのは安川と瞬だった
安川は店前にまで駆け寄ってきた
「来てたなら早く言ってよー!まあ麻癒ちゃんから聞いてたけどさ!」
「お久しぶりですー!お変わりないみたいで!」
そこに歩いて瞬がやってきた
「久しぶり歩ちゃん、、、てゆうか何やってんの?」
渡部が店の中で働いている事を瞬は不思議そうに眺める
「はい!手伝ってるんですよ せっかくですから」
渡部は楽しそうに説明した
「へ~、、、」
瞬は並んでいる桐島と渡部を交互に見る
「買わねえんならどいてくださいよ 営業妨害だぞ」
桐島はしっしっと追い払うように手を振った
「、、、、、」
瞬は桐島の言葉を聞いているのか聞いていないのか、ボーっと2人を眺める
「なにをー!じゃあ先輩様が買ってやるわよ!いくら!?」
「ありがとうございます真奈美さん!350円です」
意地になった安川は簡単に焼きそばを購入にしてくれた
「歩 パック」
「はい」
渡部は安川に接客しながらも、桐島の言葉にすぐ反応した
「、、、、、」
瞬はそんな様子も黙って見つめていた
「、、、?なんすか?」
じろじろ見られるのが好きではない桐島は、パック片手に瞬に訊ねる
「、、、いやね、なんかさ、、、」
瞬は更に一歩引き、出店を全体的に視界に入れ桐島と渡部を見た
「?」
「はい?」
桐島と渡部は瞬の言葉に注目する
「こうやって見たらね、夫婦みたいだなーって思って 2人」
瞬は手で2人を指しながら言った
「な、、、は、ばっ、何言ってんですか!」
「なにって、、、そう見えたから」
慌てふためく桐島に対し、瞬は落ち着いた態度だった
「いきなり言わないでくださいよ、、、」
桐島はそう言い返しながらも、渡部の様子を見た
「、、、、、」
渡部は俯きながら黙っている
「、、、?」
桐島は渡部の表情があと一歩のところで見えなかった
「、、、嬉しいです」
渡部は下を向いたまま呟くように口に出した
「ありがとうございます!そう言って頂けるなんて、、、」
渡部は本当に嬉しそうな満面の笑顔だった
「そう?見えたように言っただけだけどね」
瞬はそう冷静に言いながらも、渡部の笑顔が見れて満足そうだった
「あゆみんは素直だねー!チョーかわいいんだからもー!」
安川は焼きそばを片手に、もう一方の手で渡部の頭を撫でた
「、、、、、」
(ま、、、俺も嬉しいけど、、、)
安川とじゃれている渡部を見ながら、桐島は1人和やかな気持ちになっていた
安川と瞬もいなくなり、桐島達は何事もなく順調に焼きそばを売っていた
(今が16時、、、あと1時間あるけど多分ちょっと早めに売り切れるな)
出店を出せる時間は17時までなので桐島はそれを踏まえて計算していた
「歩ちゃん!」
店の前からひょこっと徒仲が現れた
「あ、、、麻癒」
「ごめんねー?歩ちゃんも誠哉君といれればと思って、、、よく考えたら誠哉君、実行係だったよね」
徒仲は前のめりになりながら、野波佳を連れていった事や先ほどの言葉を渡部に謝った
「ううん!いいよ 麻癒のおかげで誠哉君と一緒に出店出来たし、楽しかったよ」
渡部は優しく徒仲の頭を上げさせる
「ああ、徒仲が謝る事はなんもねえよ」
桐島も優しい言葉を徒仲に投げかける
「歩ちゃん、、、誠哉君、、、大好きー!」
徒仲は店の内側に入り込み、後ろから渡部に抱きつく
「あははっ、暑いってば麻癒」
「歩ちゃんの背中気持ちいー!」
「、、、、、」
そんな2人の様子を桐島は穏やかな目で眺めていた
「ただ、、、てめえは別だけどなぁ、焦栄」
「っっ、、、」
店の前で気配を消しながら立っていた野波佳はビクッと反応した
「なにサボってんだコラ?しかも無断でよぉ?」
桐島は野波佳の胸ぐらをガッと掴んだ
「い、、、いいじゃねえかよぉ、俺はただの手伝いなんだし、、、実行係は外山とお前、、、」
「言い訳すんじゃねえ!」
桐島は更にグイッと野波佳の胸ぐらを引き寄せた
「現場に立ったら全員平等なんだよ、、、大体てめえがそういう言い訳出来ねえようにジュースとかラーメンとか奢りまくっただろうが!」
「わ、分かってるって 悪かったヨ、、、ハハ、、、」
野波佳はとりあえず桐島の気を落ち着かせようとした
「ったく、、、」
桐島は野波佳の胸ぐらを離した
「だからよ、次はお前らが行ってこいよ」
野波佳は桐島に掴まれた箇所を触りながら言った
「は?何が?」
「今度は俺と麻癒がこの店手伝うから、、、誠哉と渡部の2人で学園祭回ってこいよ」
「え、、、」
学園祭を2人で回る、という事を諦めていた桐島は突然の提案に上手く頭が回らなかった
「え~っと、、、」
桐島はどうしていいか分からず、とりあえず渡部を見た
「、、、、、」
渡部も同じような反応で、驚いた様子で桐島を見ていた
「いいから 早く行ってきたら?」
北脇は話を聞いていたようだ 後ろで麺の袋を破りながら2人の背中を押した
「え、、、いいのか?」
桐島は北脇と外山に訊ねる
「俺は絶対許さ、、、」
「いいわよ!さっさと行ってきなさい」
北脇は外山の口を押さえ込みながら言った
「、、、、、」
桐島は渡部の顔を見た
「、、、じゃあ、お言葉に甘えさしてもらお?」
渡部は小首を傾げながら桐島に言った
「、、、ああ じゃあ行くか、、、?」
「うん!」
2人は今度は客として学園祭を回った
この学園祭は、街の祭りのようになかなか本格的だった
お面や金魚すくい、焼き鳥や射的など定番の出店がたくさん出ており、客も近所の中高生や小学生、家族連れの人達など、まるで本当のお祭りだった
「わぁ!こんなのもあるんだぁ!」
渡部は目を輝かせながら言った
その視線の先には水風船釣りの出店があった
「そうだな、、、つか焼きそばとかじゃなくてこういうのなら楽だったんじゃ、、、」
桐島はブツブツ言いながら考えていた
「じゃあ次は水風船釣りにいこ!」
渡部は頭に黄色いひよこのお面をつけながら、腕を桐島の腕に絡ませた
「は、走んなよ 危ねえぞ?」
「大丈夫!」
渡部は腕を組ながら強引に桐島を引っ張る
2人ともしっかり学園祭を楽しんでいた
「どれを取ろっかな~、、、」
渡部は針金付きの紐を片手に水槽全体を見ていた 水槽には色んな色や柄の水風船が浮いている
「、、、、、」
桐島は真剣な様子の渡部の顔を眺めていた
「よ~し、、、」
渡部はそろ~っと紐を水につける
水風船のゴムと針金を掛け合わせ、ゆっくりと引き上げる
「、、、あっ!」
紐は空中でブチっと千切れた
「あう~、、、やっぱり簡単じゃないんだね、、、」
渡部は落ち込んだ様子で呟いた
「、、、、、」
桐島はボーっとした顔で渡部を眺めている
「、、、?」
渡部は桐島を不思議そうな表情で見つめる
「、、、!」
桐島はまた渡部に見惚れていたようだ
ハッと我に返り、表情を整えた
「どうしたの?ボヘーってして」
渡部は桐島の顔を覗き込むようにしながら言った
「な、なんもねえよ!それより次は俺の番だな!」
桐島は焦りながら針金付きの紐を受け取った
(そうか、、、歩の方ばっかり見ちまう理由なんて考えてたけど、、、ンナ事考える必要なかったんだな)
桐島は水槽の中にある水風船に狙いを定める
「頑張って誠哉君!」
「おう!」
渡部のエールに桐島は力強く答える
(久しぶりに会ったからとか、、、またしばらく会えねえからとか関係ねえ)
桐島は素早い手捌きで水風船を釣り上げた
「よっし!」
「わぁ!すごい!私全然ダメだったのに!」
渡部は桐島の釣り上げぶりを見ながら拍手した
(俺は、歩が引っ越す前から、、、いっつもこの姿に見とれてたじゃねえか、、、)
「、、、ほら、これやるよ」
桐島は水風船を渡部に突き出した
「え、、、いいの?」
「いいのっつうか、、、歩が欲しがるから取ったんだよ」
「えっ、、、」
渡部は少し顔を赤らめた
「てゆうかまあ、俺は要らねえから」
「、、、、、」
渡部は桐島から水風船を受け取った
「、、、ありがと!」
渡部は桐島の右腕に抱きつきながら言った
「べ、別に普通だろ、、、大袈裟だな」
「えへへ、、、こうする為の口実かな♪」
渡部は桐島の肩にこてんと頭を預け、腕を強く抱き寄せた
(何よりも、、、この笑ってる姿に、、、)




