出発
ついに、渡部が名古屋に引っ越す日がやってきた
両親は引っ越し業者との兼ね合いの為に、渡部とは別ルートで先に名古屋に向かっていた
新幹線で行く予定の渡部は駅にきていた
徒仲、野波佳、外山、北脇、九頭、瞬、安川が渡部を見送る為に駅まで来ていた
そして、名古屋から凛が来ていた
凛は、家が少し慌ただしくなるので外に出ておかなければならなかった そこで自分が嫌っている両親と共に、姉を待たなければならずそれが苦だったので、それを逃れる理由として渡部を迎えに来たのである
一応名目は、渡部が1人で新幹線に乗ってこれるかどうか心配、という事になっている
「姉がお世話になりました」
凛は皆に頭を下げて挨拶する
「またその内遊びにきてね 凛ちゃん」
「はい その時は是非、よろしくお願いします 麻癒さん」
徒仲と凛は仲良さそうに喋っている
「名古屋から来てすぐ帰んのか 大変だな」
外山は感心したように頷く
「いえ、もうしばらく皆さんには会えそうにないので、、、会えて良かったです」
凛はニコッと笑顔で答えた
「じゃあ、姉さん 私は先に行ってるね」
凛はそう渡部に言い改札口を通った
「うん、、、」
渡部は頷きながらそれだけ返事をした
「みんな、、、見送り、来てくれてありがとう」
渡部は小さく頭を下げた
「名古屋に行っても元気でね あと今日は来れなかったけど、浜先輩と片岡先輩もよろしく言っといてくれって」
「あゆみん 何かあったらいつでも連絡してね!」
瞬と安川は渡部の肩をポンと叩いた
「はい、、、ありがとうございます」
渡部は笑顔で丁寧に頭を下げる
「たまには帰ってきてね あと、乗り物酔いしないようにね」
「新幹線なら酔わねえだろ 2、3時間乗ってもよ」
「ぜっだいまだあぞぶぞ~!どもだぢだがらな~!」
北脇と外山は普通に挨拶したが、九頭は泣きながらだった
「うん、またね、、、」
渡部は少し九頭を心配そうに見ていた
「歩ちゃん、、、」
徒仲は俯きながら渡部の前に立った
「麻癒、、、」
「、、、これが、最後じゃないもんね」
「、、、、、」
徒仲はグッと顔を上げ、華やかな笑顔になった
「最後じゃないから、、、言う事なし!いつも通り、、、またね」
「、、、うん」
徒仲はゆっくりと渡部に抱きついた
「、、、またね、、、」
「、、、、、」
渡部はグッと抱きしめ、徒仲の言葉に応えた
「、、、じゃあ、そろそろ行くね、、、」
渡部は決心したように皆に言った
「え、、、で、でも、、、」
徒仲は不安そうに呟き、野波佳を見る
「あ、ああ、、、まだ、、、ちょっと待たねえか?」
野波佳はあたふたした様子で渡部に言った
「、、、もう、、、行かないと」
渡部は淋しそうな笑顔で言った
「い、いやでもさ、、、まだちょっと時間あるし、、、」
野波佳は駅に設置されてある時計を指差した
「、、、、、」
渡部は時計と、新幹線の発車時刻を見た
「、、、きっと、、、もう意味無いと思う、、、」
渡部は首を振り、俯きながら答えた
「、、、、、」
渡部のその言葉に、野波佳は何も返事をしなかった
(くそ、、、何してんだあいつ!)
野波佳はイライラしながら下唇を噛み締める
渡部は改札口を通った
「、、、お世話になりました みんな、バイバイ」
渡部は手を振りながら歩いていった
「バイバイ、、、」
「じゃあな」
各々、手を振りながら渡部を見送った
「、、、、、」
人通りが多い新幹線への道を渡部は1人、ゆっくりと歩いていた
「、、、、、!」
ふいに、目の奥から涙が溢れ出るような感じがした
渡部は慌てて首を振り、なんとか抑える
(、、、誠哉君、、、)
考えないようにしても、どうしても浮かぶのは桐島の事だった
(、、、私から、、、素直にちゃんと謝ってれば、、、こんな思い、しなくて良かったのかな、、、)
今になって出て来るのは後悔の念ばかりだった
そんな事を考えていると、ホームに着いた
渡部が乗る予定の新幹線はもう停まっていた
(ホントバカみたい、、、ちょっとケンカになったぐらいで、すぐ意地張って、、、)
コツコツと自分の足音が聞こえる程、今の渡部には周りは見えていなかった
(今更そんな事思うなんて、、、ホントにバカだよ、私、、、)
そう思っていると、だんだんと息苦しくなってきた ずっと俯いて歩いていたからである
ゆっくりと顔を上げ、深呼吸をする
「、、、え?」
顔を上げた渡部は前方を見た
渡部の席がある車両の出入り口より少し手前のベンチの近くに、男が立っていた
渡部はちょうどその男と目が合った
「え、、、せ、誠哉君、、、?」
そこにいたのは桐島だった
渡部は驚き、呆然としている
桐島は渡部の前まで歩み寄った
「歩、、、」
「あ、、、は、はい!」
渡部は頭の整理がつかず、呆然としたまま返事をした
「、、、ごめん!」
桐島は勢いよく頭を下げながら言った
「え、、、?」
渡部は今の状況を理解出来ていなかった
「俺が悪かった、、、ごめん!許してくれ!」
桐島は頭を下げたまま言った
「え、、、あ、あの、、、」
渡部はあたふたするだけで何と言っていいか分からなかった
「お前の方が色々大変なのに、、、自分勝手な事ばっか言って悪かった」
桐島は頭を下げたまま、少し目を開いた
「お前が名古屋に引っ越すって知って、、、なんつうか、素直に受け入れられなくて、、、認めたくなくて、それで、あんなむちゃくちゃな事言っちまったんだ、、、」
桐島はずっと頭を下げたまま、地面を見つめていた
「歩がいなくなるって現実から逃げてたんだと思う、、、むちゃくちゃな事言って目をそらして、、、お前を困らすだけなのに、、、本当に悪かった!」
「、、、、、」
「、、、あ、わりぃ、頭ばっか下げられても困るよな 人もいっぱい、、、」
桐島は慌てて頭を上げ、渡部の顔を見た
「うっ、、、ぐす、うぅ、、、」
「え、えぇ!?な、なんで泣いてんだよ!?」
桐島は驚き、周りの目を気にしていた
「うん、、、ごめん、、、」
渡部は涙を拭い、息を整える
「謝らなきゃいけないのは私だよ、、、私がもっと早く言ってれば、こんなケンカになんてならなかったのに、、、」
「んな事ねえよ、、、色々忙しかったんだろ?」
「ううん、、、そうじゃない 誠哉君と同じ、、、」
渡部は首を振りながら言った
「え?」
「私も、、、誠哉君がそばにいなくなるって事を認めたくなくて、、、誠哉君に言うと、もうダメになりそうな気がして、、、怖くて言えなかったの、、、」
「、、、、、」
桐島はやっと、渡部の気持ちが分かった
「でも、、、やっぱりちゃんと、もっと早く言っておけばよかった、、、」
渡部は額をコツンと桐島の胸に預ける
「引っ越す前に、、、もっと誠哉君といたかった、、、いっぱい思い出作りたかったな、、、」
「歩、、、」
桐島は渡部の両肩を持った
「まだ、、、これ、着けてるか?」
「え?」
桐島は首もとの紐を引っ張り、胸元からお守りを出した
「、、、うん」
渡部も同じように取り出した
渡部は赤色、桐島は緑色のお守りだった
真ん中に【縁】と書かれている
「俺は、、、クリスマスイブに歩に貰ったあの日から、ずっと着けてる、、、」
「うん、、、私も」
「じゃあ大丈夫だ」
「え、、、?」
渡部は自分のお守りを見つめる
「このお守りを持ってる人同士の縁は切れないんだろ?」
「あ、、、う、うん」
2人は、クリスマスイブの日の渡部の言葉を思い出していた
『うん 縁のお守りだよ これを持ってる人同士の縁は切れないの』
「なら、、、俺達は離れてたって大丈夫だ」
「、、、うん、、、」
渡部はゆっくりと深く頷く
「、、、、、」
「、、、、、」
不意に沈黙が流れた
2人は黙って見つめ合っていた
「、、、歩」
「誠哉君、、、」
互いに名を呼び合い、ゆっくりと唇を近づける
「、、、、、」
(誠哉君、、、)
渡部は緊張した気持ちを抑え、目を閉じようとした
目を閉じる寸前、渡部の視界に入ったのは、桐島の後ろのベンチに座り、キラキラした目でこちらを見ている凛だった
「っっ!」
渡部は桐島の両肩を思い切り押した
「おわっ!」
桐島は急に押され体勢を崩し、後ろに倒れそうになった
「あっ、ご、ごめん!」
渡部は慌てて桐島に謝った
「えぇ~?なんでやめちゃうんですか?せっかく面白かったのに♪」
凛はもったいなさそうな表情で言う
「え、、、り、凛ちゃん!?」
「凛!いつからいたの!?」
渡部は少し叱るような口調で言った
「そろそろ発車の時間だから姉さんを呼びに行こうと思って そしたら面白い事になってたから見てたの」
凛はベンチから立ち上がりながら言った
「う、、、」
「も、もう、、、」
2人は恥ずかしそうに互いの様子をうかがう
「まあ、2人ともしばらく会う事は無い訳ですし、、、キスぐらいしといた方がいいかもですね した事ないんでしょ~?」
「なっ、、、」
「ちょ、ちょっと凛!」
2人は年下の凛を相手にたじたじだった
「一回ぐらい肉感的な関係になっておいた方がいいと思いますよ?じゃ、お邪魔な私は席に戻ってますんで」
凛はフフフと笑いながら新幹線の中に入っていった
「、、、、、」
「、、、、、」
また2人の間に沈黙が流れた
だが先ほどまでとは違う気まずい沈黙だった
「、、、あ、はは ホントマセた事ばっか言うよな!凛ちゃんは!」
桐島は場の空気を変える為、明るい言い方をした
「、、、、、」
しかし、渡部は黙って俯いている
「、、、?」
桐島は、様子がおかしい渡部の表情をうかがった
「ど、どした?」
声をかけると渡部は少し顔を上げ、上目遣いで桐島を見た
「キス、、、する?」
「えっ、、、」
渡部の言葉に桐島は動揺した
「あ、、、っと、、、」
桐島は次にどんな言葉を繋げていいか分からなかった
「、、、、、」
そこで桐島はある事に気づいた
渡部の顔は赤くなっており、そして不安げだった
「、、、、、」
桐島はまた、渡部の両肩を掴んだ
「歩、、、」
「誠哉君、、、」
「お取り込み中のところすいません」
2人の横から再び凛が現れた
「っっ!!」
「っ!り、凛!いきなり出てこないでよ!」
2人は慌てて離れ、凛の方を見る
「姉さん もう発車の時間だから」
凛は渡部の腕を掴み、引っ張って歩き出した
「えっ、、、も、もうそんな時間!?」
「うん 1分前 多分あと20秒ぐらい」
渡部は凛に連れられどんどん新幹線に近づく
「あ、、、ちょっと!」
桐島は渡部と凛のもとまで駆け寄る
「すいません誠哉さん 次、姉さんと会うまでおあずけという事で、、、」
「う、うるせえなお前は!俺は歩に、、、」
「最後の言葉ですか?別に要りませんよね?」
「はぁ!?」
渡部と凛は新幹線に乗り込んだ
「遠距離恋愛、するんでしょ?これから」
「だからそういう話をだなぁ、、、!」
と、桐島が話そうとすると、ツンツンと渡部に肩をつつかれた
「ん?」
振り返った桐島の目の前には、渡部の顔があった
「っ!?」
そして、互いの唇は重なりあっていた 渡部は桐島の両肩に手をかけている
「ん、、、」
桐島は突然の出来事に思考停止していた
その様子を凛は目を丸くさせ、見るというより目撃していた
触れ合うだけの口づけ
だが2人にとっての初めてのキスは、とてもあたたかく、そして何にも代え難い幸せな味がした
唇をゆっくりと離し、渡部は慌てて後ろを向いた
「あ、、、あの、、、」
桐島は情けない程に動揺してしまっていた
「、、、とりあえず、、、家についたら電話するね、、、」
渡部は後ろを向いたまま言った
声は小さかったが、意思はしっかり桐島の方を向いていた
「、、、あ、ああ!頼むな!」
桐島がそう返事をすると、ドアが閉まる合図が鳴った
「、、、うん!」
ドアが閉まる寸前に渡部は振り返った
その表情は、渡部の嬉しさの全てが表されているかのような笑顔だった
ドアが閉じ、新幹線は発車した
窓越しに中を見ると、凛はキャーキャー騒ぎ、渡部は真っ赤な顔で照れている
桐島はそれを見て、少し笑った
(確かに、、、最後の言葉なんか要らねえよな、、、)
新幹線を見送りながら、桐島は首から提げているお守りを握った
(縁は切れない、、、俺と歩なら、絶対に)
桐島はそう心に誓い、お守りの【縁】という文字を見つめた
だが、渡部が名古屋に引っ越した事によって、、、、、
とても険しく苦しい2つの試練に、2人は苛まられる事になる




