瞬の日記 思い出
3月9日 木曜日
〔卒業式前日なのに、浜先輩は、真奈美と共にいつも通り私の部屋にやってきた
勝手に置いているゲーム機を起動させ、夢中でテレビに向かう〕
「ちょ、、、ダ、ダメですよぉ、、、」
「ふふふ、もっと欲しいのか?」
「あっ、そん、、、せっかくずっと溜めてたのにぃ、、、」
「もう我慢しなくていいぞ」
「、、、、、」
瞬はそんな安川と浜のやり取りを見ていた
「あ、、、そ、そんな無理やり、、、」
「本当はお前も欲しいくせに」
「いやナニやってんの?人ん家のリビングで」
瞬はソファーに腰掛けながら2人に訊ねる
「だ、だって先輩がスキルの種を勝手に使いまくるから!私が集めたのに!」
「使える時に使うもんだ」
安川がテレビを指差しながら抗議する横で、浜は頷きながら呟く
「紛らわしい声出さないでくれる?てゆうかそろそろ帰った方がいいんじゃないですか?明日は卒業式なんですから」
瞬は時計を見ながら言った 時刻は21時頃だった
「そうね、、、もうそろそろ、、、」
「いや帰らんぞ 私達は」
浜は安川の言葉を遮りながら言った
「え?」
瞬と安川は声を揃えて聞き返す
「今日はここに泊まるからな」
浜はゲーム機の電源を切りながら言った
「え?私達って?私も入ってるんですか?」
「勝手に決めないでくださいよ!私、聞いてないんですけど!」
安川の言葉にかぶるように瞬は浜に言った
「うむ お前には言ってないからな」
浜は立ち上がりながら堂々とした様子で言う
「私も聞いてないん、、、」
「言ってないからなって、、、ど、どこ行くんですか!」
「風呂だ 服はテキトーに借りるぞ」
浜はそう言いながらリビングを出た
「あっ、、、」
瞬が声をかける前に、浜は見えなくなった
「、、、もう、なんでいきなり、、、」
瞬は困った様子で頭をかく
「ねえ、、、私も泊まるの?」
安川は不安そうに瞬に訊ねる
「先輩がそう言ってるんだからそうなるね」
「、、、、、」
〔しかもいきなり私の部屋に泊まるなんて言い出した 真奈美も勝手に巻き込まれたみたい 少しは周りの人の事も考えてほしい〕
浜に続き、2人も順番に風呂に入った
風呂から上がった3人は寝室に布団を3つ並べる
左から浜、瞬、安川の順だった
3人はトランプで遊んでいた
「、、、うぅ~ん、、、」
瞬は浜のカードを睨みながら悩んでいた
「ふふふ、、、さぁさぁ、、、」
浜はニヤニヤ笑いながら3枚のカードを差し出す
「、、、、、」
ピタ
瞬は浜の手札の一枚に手をつける
「、、、、、」
浜は黙ってニヤニヤしながら瞬を見つめる
「、、、、、」
ピタ
瞬は隣のカードに手を移動させた
が、浜の表情は変わらない
「、、、これですね!」
瞬は最初に触れたカードに素早く手を戻し、勢いよく引いた
「そうだ それがババだ」
「~~っ!!」
瞬は引いたカードを見て声にならない声を出す
「なに?純、ババ引いちゃったの?」
安川は手を口にそえ、小さく笑う
「うるさい!」
瞬は間髪入れずに言い返した
そんなやり取りをしている間に浜は安川のカードを引く
「むぅ、、、」
どうやら思わしいカードではないようだ
「私はこれ引いて、さっさと上がっちゃうからね~♪」
安川は意気揚々と瞬のカードを引く
「、、、う!」
安川は思わず声に出してしまった
「ウププ、どしたの真奈美?ババ引いちゃった?」
瞬は先ほどの安川と同じ仕草をしながら言った
「くぅ~~!絶対一番に上がってやる!」
安川はそう自分に言い聞かせた
結局、安川が最下位でババ抜きは終わった
「はぁ~あ、イイ年してババ抜きで熱中してる場合じゃないよね~」
負けた安川は仰向けで布団に寝ころびながら言った
「うむ、3人でするのは久しぶりだな」
浜は、トランプを片付けている瞬の手を眺めながら言った
「、、、そうですね、、、」
瞬は昔、3人でトランプしていた頃の事を思い出していた
「、、、浜先輩、東京にはいつ行くんでしたっけ?」
瞬はトランプをケースに入れながら訊ねた
「む?、、、ああ、卒業式の次の日の予定だ」
浜はトランプのケースだけを目で追う
「ですよね、、、」
「、、、、、」
瞬はトランプのケースを枕の上に置いた
安川は黙って前髪をいじっている
「、、、だから、今日は泊まりに来たんだ」
「え?」
浜の唐突な言葉に思わず2人は聞き返した
「お前らも知っている通り、私と綾は部屋を借りて東京に住む事になった」
「、、、、、」
「、、、、、」
浜の言葉に2人の表情は少し暗くなった
「そうなれば、今までのようにこの部屋に遊びに来る回数は減るだろう」
「、、、、、」
「、、、、、」
「、、、私も淋しい」
「、、、え?」
意外な言葉に2人は浜の方を振り返る
「だから、、、お前らとの今までの思い出 全部頭の中に詰め込んでから、東京に行こうと思う」
浜は真剣な表情で、2人に言った
「、、、、、」
「、、、、、」
2人は少し驚いた表情をした後、互いに顔を見合わせた
「、、、ふふっ」
「ハハハ、何ですかそれ、、、」
浜の不器用な言い方に、瞬と安川は笑ってしまった
「む、、、何かおかしいか?」
浜は困惑した様子で訊ねる
「要するに、思い出話でもしましょうって事ですよね?」
安川はニヤニヤ笑いながら訊ねる
「うむ、、、まあそんなところだな」
浜は照れながら頬を引っ掻く
「、、、じゃあ最初から言えばいいじゃないですか いきなり泊まるなんて言わないで」
瞬は迷惑そうな言い方をしたが、どこか嬉しそうだった
「うむ、、、確かにそうだな」
浜は頷きながら呟く
「じゃあ、どこから話します?」
瞬は枕をどかし、壁にもたれながら膝を立てる
「てゆうか、純が泣いてる場面しか浮かんでこないんだけど」
「私もだ」
笑いながら言う安川に、浜は頷きながら答える
「そんなに泣いてないし!あれでしょ?手袋を森で無くした時ぐらい、、、」
「いや、校庭で転んだ時も泣いてた」
浜は瞬の言葉を遮った
「こ、転んだらそりゃ泣きますよ!」
「プールサイドで転んだ時も泣いてなかったっけ?」
「だから転んだら泣くでしょ!普通!」
〔思い出話がしたいんならそう言えばいいのに 浜先輩はいつも要領がいいのか悪いのか分からない〕
〔でもこの日、3人で話していた時間は、私にとってとても幸せな時間だった〕
〔明日の卒業式は、笑顔で送り出そうと思う〕




