渡部の勇気
渡部の父との話を終えた桐島は、ホテルへ帰ってきた
ガチャ
「渡部 いるか?」
桐島は部屋の中を覗き込みながら言った
「あ、、、桐島君」
渡部は桐島が置いていった上着を着ていた
「お、逃げてなかったみたいだな」
桐島は軽く笑いながらジャンパーを脱いだ
「だから逃げないって!」
渡部はスネたように口を尖らす
「ん?これなんだ?」
テーブルには豪勢な料理が並んでいた
「なんかね、さっきいきなり入ってきて、置いていったの 多分夕食だと思うんだけど、、、ちょっと冷めてるね」
渡部は色んな角度から料理を見る
「、、、、、」
(こんなスゴいとこ泊まらせてもらってるのに、かなり生意気な事言っちまったな、、、なんとか謝りに行かないと、、、)
桐島は不安と申し訳ない気持ちが入り混じった気分だった
「? どうしたの?」
「いや、なんでもねえ」
「ふ~ん、、、てゆうかさ、、、」
渡部は思わせぶりな言い方で言葉を止める
「?」
「、、、名前は?」
「え?」
「名前で呼んでくれないの?」
「え、、、っと、、、お、お前だって名字で呼んでたろ!」
「それは桐島君が名字で呼ぶからでしょ!?」
「~~!、、、つ、つかそれ俺のパーカーなんだけど、、、」
桐島はごまかす為に渡部が着ている上着について指摘した
「寒かったの!仕方ないでしょ、、、?桐島君がいない間、さみしかったんだから、、、」
「う、、、そ、そうか、、、」
「、、、、、」
「、、、、、」
なんとなく気まずい空気になった
「、、、ちょ、ちょっと、お手洗い、、、」
「お、おう、、、」
渡部はソファーから立ち上がり、トイレへ向かった
「、、、、、」
桐島はベッドに寝転がっていた
(そういや、、、今日って、渡部と2人でここに泊まるんだよな、、、ふ、2人で、、、)
桐島は落ち着かない様子で寝返りをうつ
(、、、あれ、、、なんか急に緊張してきた、、、)
ドキドキと早くなる鼓動を抑えようと桐島は必死だった
少しすると渡部が戻ってきて、またソファーに座った
「、、、あ、あのさ、、、め、飯食うか?とりあえず、、、冷めてるけど」
桐島はハハハと何故か笑いながら話す
「え、、、?」
「あ、ふ、風呂入るか?先に、、、き、着替えは一応あるらしいからさ 浴衣みてえなのが、、、」
桐島は変に緊張した様子で喋っていた
「、、、、、」
渡部はシュンとした様子で黙り込んでしまった
「、、、? ど、どうかしたか、、、?」
桐島は自分の下心を見透かされたのか心配になった
「、、、あのね、ずっと考えてたんだけど、、、」
渡部はまだ悩んでいるような表情で話し出した
「?」
「今日、、、やっぱり、家に帰ろうかな、って思ってるの、、、」
渡部は絞り出すような声で言った
「え、、、?」
桐島は渡部の意外な言葉に驚いた
「な、なんでだよ?嫌なんだろ?あの家、、、」
「、、、でも、戻らないとダメなのも分かってるの、、、」
「、、、お前が無理しなくていいんだぞ?」
「、、、え、、、?」
渡部は桐島の優しい口調に顔を上げた
「、、、親戚と関係を良くする、、、そりゃ大事な事かもしんねえけど、、、お前が辛い思いしてまで仲良くする必要もねえんじゃねえか?」
桐島は先ほど父から聞いた話を思い出しながら言った
「、、、確かに私には、親戚の人達なんて関係ないし、、、お父さんとお母さんが親戚の人と今更仲良くなったって、、、って思ってるよ」
「え?じゃ、じゃあなんで?」
渡部の意外な考えに桐島は思わず聞き返した
「、、、私が、凛と仲直りしたいから、、、かな、、、」
「え、、、り、凛ちゃん、、、?」
「うん、、、どんな事情があったって、、、凛は私の妹だし、私は凛のたった1人の姉だから、、、」
「、、、、、」
そう言って笑った渡部の顔は、今日の昼間とは全く違い、清々しい笑顔だった
(、、、忌み子、、、か、、、)
桐島は父の話を思い出し、渡部がどんな扱いを受けていたのか考えると胸が苦しかった
「、、、、、」
、、、ギュッ
桐島はソファーに座る渡部を優しく抱き寄せた
「ふぁ、、、え、え?」
渡部は急な桐島の行動に戸惑った
「、、、歩」
吐息に混ざるような声で囁く
「ふぇ、、、は、はい!」
渡部はキューッと顔が真っ赤になっていくのが自分で分かった
「、、、俺んとこなら、いつ戻ってきてもいいからな」
「、、、、、」
その言葉を聞いた渡部は、ゆっくり桐島の背中に手を回した
「、、、うん 分かった 誠哉君」
少しの間、2人は何も言わず抱きしめあっていた
「、、、じゃ、じゃあそろそろ行くか?」
桐島は渡部を離し、照れながら言った
「そ、そうだね!」
渡部は立ち上がり、バッグを手にとった
「あ、待てよ 送ってくよ」
桐島は素早くジャンパーの袖に腕を通す
「え?い、いいよ まだ19時半とかだし、、、」
「ジューブン夜じゃねえか!」
「大丈夫だよ!子供じゃないんだから!」
「16歳はまだ子供なんだよ!」
「~~、、、と、とにかくいいよ 家まで遠いし、、、」
渡部は言い争いを止め、遠慮した
「、、、俺には気ぃ遣うなっつったろ?」
「、、、そ、そうだけど、、、」
「、、、分かった じゃあ途中まで送る 途中からはお父さんに送ってもらえよ」
「え、、、う~ん、、、」
渡部は手を顎に添え、考え出した
「それが嫌なら今日は帰さねえからな」
「、、、分かった じゃあ電話貸して?」
渡部は手を差し出した
2人はホテルの前に立っていた
父に電話したところ、どうやらタクシーでホテルまで迎えに来てくれるようだ
「うぅ~、ただ立ってるだけなのにさみぃなぁ~」
桐島は両腕を震わせていた
「だよね~、、、昼間はまだマシなのに、、、」
渡部もかなり寒そうだった
「あ、、、そういえばこのパーカー、誠哉君に借りたままだったね」
渡部は思い出し、パーカーを脱ごうとした
「いや、まだ着とけよ 寒いだろ?」
桐島は渡部の両肩に優しく手を添えた
「てゆうか、持って帰っていいぞ 明日返してくれりゃいいし」
「え、、、いいの?」
渡部は桐島の方を見ながら訊ねる
「ああ、だから家にいる間、俺がそばにいると思って安心しろよ?」
桐島は優しい笑顔で言った
「、、、うん、ありがと」
もう少しすると、渡部の父がタクシーに乗ってやってきた
タクシーはホテルの前に横付けされた
「歩!」
父はタクシーから降り、小走りで駆け寄ってきた
「お父さん!」
渡部は2、3歩前に踏み出しながら言った
「ごめんね、、、勝手に出て行ったりして、、、」
「全くだ、、、だがまあ良い 戻ってきてくれてありがとう」
父は笑顔で渡部を迎え入れた
「、、、、、」
すると、何か言いたそうによそよそしい態度をしている桐島が父の目に入った
「、、、歩 ちょっと先にタクシーに乗ってなさい」
「え?」
「私は少し、桐島君と話をするからね」
「、、、そっか 分かった」
渡部は笑顔で頷いた
「じゃあまた明日ね 誠哉君」
「、、、ああ、じゃあな、歩」
桐島が手を振ると、渡部はタクシーに向かって歩き出した
「、、、、、」
「、、、、、」
「、、、すいませんでした!」
沈黙を破ったのは桐島だった
「かなり色んな生意気な事言って、、、本当の事情なんて分かっていないのに、、、」
桐島は頭を下げたまま言った
「、、、何を言っているんだ」
父はため息まじりに言った
「私は、君に礼を言いたい程、感謝しているのに」
「、、、え?」
桐島はゆっくりと顔を上げた
「君の言う通り、、、私は昔も今も、妻や凛、歩の気持ちを何一つ考えていなかったのかもしれない、、、自分の為のくせに、それがみんなの為になると勝手に思っていた、、、」
父はしみじみとした表情で言った
「今日、、、歩と凛に、できる限りの事情を話すよ」
「え、、、?」
「母親が違う事、、、いきなり凛を置いて引っ越してしまった事、、、その他色々、君に話した事をな、、、」
「、、、そうですか、、、」
「私と凛は、もう昔のようにはなれないかもしれない、、、でも、歩とは仲直りしてほしい、、、出来るはずだと思っている」
父はタクシーの後部座席に座っている渡部に目をやりながら言った
「桐島君、、、今日は本当にありがとう」
父は最初に会った時のように深々と礼をした
「あ、いえ!こちらこそ、、、」
桐島もまた頭を下げる
「、、、ところで、桐島君」
父は頭を上げ、少し小声で言った
「はい?」
桐島は父に耳を寄せる
「、、、今、下の名前で呼び合っていたが、、、」
「っっ!」
桐島はドキッと大きく心臓が鳴るのが分かった
「は、、、はい、え~、、、と、、、」
桐島はこの寒さにもかかわらずやたらと汗が流れ出た
「ハハッ、まあ君なら、私は大歓迎だよ」
「え、、、?」
「遊びじゃないならね」
父は笑いながら冗談を言った
「っっ!!」
桐島はその言葉になんとか言い返さねばと頭を回した
「あ、遊びじゃありませんっ!」
「え?」
桐島は随分気合いの入った返答に父は驚いた
「、、、、、」
渡部はタクシーの窓越しに2人を見ていた
姿は見えるが窓のせいで声は聞こえない
(まだかな、、、)
渡部はただ待たされている為暇だった
「すいません、窓開けていいですか?」
「あいよ」
タクシーの運転手に頼んで渡部は窓を開けてもらった
(何の話してるんだろ、、、)
窓が全開になった瞬間、桐島の声が聞こえてきた
「俺は、、、一生、歩を大切にします!」
「、、、ふぇ?」
いきなり飛び込んできた言葉はプロポーズに近い言葉だった
「え、、、あ、ああ、、、」
軽く訊いた質問にこんな答えが返ってくると思わなかった父はかなり動揺した
「、、、あ」
桐島は窓を開けている渡部と目が合った
「あ、、、し、閉めてもらっていいですか!?」
渡部は真っ赤な顔で慌てて運転手に窓を閉めてもらった
「、、、歩、聞こえていたのか?」
父は微笑しながら呟く
「い、いや聞こえてないですよ!多分、、、」
桐島は更にダラダラと汗を流していた
「、、、ふっ、とにかく今日はありがとう 明日、歩が帰る時間は、また明日連絡するよ 多分昼の2時から4時ぐらいだと思う」
「そ、そうですか、、、」
「君の新幹線代も歩に渡しておく 遠慮せずに受け取ってくれ」
「、、、すいません!何から何まで!」
「いや いいんだよ 私が、歩や凛と正面から向き合えそうなのは君のおかげだからね」
「、、、、、」
そう言って、渡部の父はタクシーに乗車した
「、、、、、」
桐島はタクシーが発車するのを見送っていた
すると、車の中から渡部が小さく手を振っているのが分かった
「、、、、、」
桐島も手を振り、タクシーが見えなくなるまで見送った




