渡部家
「妻、明日香が亡くなった半年後、、、私は再婚した それが今の妻だ」
父はまた話し始めた
「私と今の妻は、そのまま渡部家に住む事にした、、、渡部家にとっては私も妻も他人、当然、風当たりは強く良い顔はしなかった」
「、、、、、」
桐島はこの点が納得いかなかった
「つまり、昔の妻と今の妻の子、、、それが娘2人なんだ 歩と凛は母親が違う、、、この話は2人にはしていないが、感づいてはいると思う、、、」
「その話で行くと、、、昔の奥さんとの子が歩さんって事になりますけど、、、今の奥さんと歩さん、ホントの親子のように似ていると思うんですが、、、」
桐島は昼間に見た母の顔と渡部の顔を思い出していた
「違うんだ、、、」
「え?」
「昔の妻との子が凛、今の妻との子が歩 君の言う通り、歩と今の妻は本当の親子だよ」
「え、、、?」
桐島はますます意味が分からなかった
(2人目の妻の子の方が年上、、、?一体どういう、、、っ!?)
桐島は一つの答えにたどり着いた
「、、、もしかして、、、」
「、、、ああ、私は、、、明日香と結婚生活を送る陰で、、、今の妻と不倫をしていた」
「、、、っっ!」
桐島はあまりの驚きに言葉が出なかった
「だから最初、お見合いの話を聞いた時、乗り気ではなかった、、、その時には今の妻と付き合っていたから、、、教授である上司の顔を立てる程度に、、、と思っていた」
「じゃあ、、、なんで結婚する事になった時今の奥さんと別れなかったんですか、、、?」
「、、、見合いから1ヶ月、婚約が決まった時に、今の妻と別れようとした、、、だが、その時にはもう歩がお腹の中にいた、、、」
「、、、、、」
「今は結婚出来ない、と今の妻との問題を先延ばしにしている内に、後戻りが出来なくなってきていた、、、結婚はしないままに歩が生まれ、渡部家に婿養子に入った、、、」
「じゃあ、、、歩さんの母は、あなたと不倫している事を知らなかったんですか?」
「ああ、自覚はなかったはずだ、、、今は結婚が出来ない、と言った時も黙って受け入れてくれた、、、」
「、、、じゃ、じゃあ再婚する時!昔の奥さんが亡くなった半年後に今の奥さんと再婚する時、なんで渡部の家に住んだままなんですか?しかもそれから10年近くもそこに住むんですよね?」
「凛がいたからだ 凛は、、、渡部家の子供だった だから私が連れて出る事は出来なかった」
父は更に続けた
「その交渉が終わるまで私は凛のそばを離れる訳にはいかなかった 今の妻も理解してくれた、、、歩と凛を普通の姉妹として育てる為には出来るだけ早く一緒にいさせたかった」
「、、、で、でも、、、そんなの、、、」
「それから約9年間、、、ずっと、凛も一緒に外に引っ越せるよう家の人達と話し続けてきた、、、」
「、、、なのに、なんで凛ちゃんだけ置いて引っ越す事になったんですか、、、?」
「、、、埼玉の姉妹大学病院に転勤する事になったんだ、、、転勤の話は私が再婚した時からずっとあった、、、9年間保留というか、頼み込んで残させてもらっていた」
「ずっと残させてもらってたのに、なんで転勤する事になったんです、、、?」
「転勤をしないならクビを切ると言われてね、、、おそらく転勤の話自体、渡部の人が圧力をかけていたんだろう」
「、、、、、」
桐島は昼間に見た渡部の家を思い出していた
「だが、、、それでも残るつもりだった クビになり、別の職に就こうが、違う病院に行く事になろうが、それでもあの家に残り、凛の話を続けるつもりだった」
「それがなんで、、、?」
「、、、凛の祖父、つまり明日香の父とこんな話になってね、、、」
父は当時の様子を思い出しながら話し始めた
「そろそろ、転勤の話を受けたらどうだ?」
「いえ、、、凛を連れて行けないのなら、クビになってでもお断りします」
祖父と彼は9年間、終わらない水掛け論を続けていた
「、、、何度も言っているが、凛は明日香の唯一の子供だ それは分かっているな?」
「はい、、、しかし私の子でもあります」
「、、、では私はどうすればいい?」
「え、、、?」
「たった1人の娘を奪われ、、、孫まで奪われ、、、何を希望に生きれば良い、、、?」
「、、、、、」
彼は祖父のその言葉に何も言えなかった
「それに、、、お前の子も、不憫だとは思わんのか?」
「、、、え?」
「私も含め、お前ら3人を誰も良くは思っとらん、、、ただ生まれてきただけで、忌み子だと呼ばれているあの子の事はどうでもいいのか?」
「、、、、、」
「それに、、、凛と二度と会わさないと言っている訳ではない 会いにこれば会わせる お前のような男でも、凛にとってはたった1人の親だ」
「え、、、?」
「凛は明日香の子供だからこの家に住む、、、お前達は他人だから違う家に住む、、、これは何かおかしい事なのか?」
「、、、し、しかし、、、」
「お前が連れてきた女の気持ちも考えてみろ 9年間も夫の前妻の家に住む、、、きっと毎日、神経をすり減らしてきたはずだ」
「、、、、、」
「お前が凛を想う気持ちはこの9年間でよく分かった だが、お前にとっては同様に想わねばならない相手が2人、いるのではないのか?」
「、、、はい」
「お前が凛を手放したくない気持ちは、私にも同じだけある 凛は私達が育てる」
「、、、はい、、、」
「、、、この話がきっかけで、埼玉に引っ越す決心がついたんだ、、、凛を置いてね、、、」
「、、、、、」
桐島は黙って考え込むような表情で話を聞いていた
「これが、話の全てだ、、、桐島君が訊きたかった事には答えられたと思うんだが、、、」
「、、、はい」
「色んな事を考えて出した答えだったが、、、多分、これで合っていたんだろうと思う」
「、、、、、」
桐島は顔を上げ、話を聞いていた
「あのままあの家にいても、、、ずっと関係が悪化し続けるだけだっただろう、、、歩や妻にも肩身の狭い思いをさせていただろうし」
「、、、、、」
桐島は黙って父の話を聞く
「今は、、、少しずつだが、関係は良くなってきているんだ こういう親戚が集まる時になれば必ず3人で出席するし、今回の法事も、前日から準備をして、翌日の後始末も手伝う そうしている内に、良い関係にはなっているんだ」
「、、、知らねえよそんなの」
桐島は不意に呟いた
「え?」
「良い関係になってるか知らないすけど、、、これで合ってるってなんだよ?」
「、、、なにって、、、」
「歩と凛ちゃん、姉妹が離れ離れに暮らして、仲良くなくなって、、、それで合ってるんですか?」
「、、、そ、それは、、、」
「全部あんたが悪いくせにな、合ってるなんて言うなよ 正解だったみたいに、、、おかしいだろ!」
「、、、、、」
「歩はな、、、今日、来るのを嫌がってたんだぞ?」
「え、、、あ、あの子が?」
「行きたくなくて、、、ずっと暗い顔して、でも両親の前じゃなんでもないフリして、、、さっきは泣いてた、、、」
「、、、、、」
父は全く知らなかった娘の気持ちに動揺していた
「今だって、、、なんで黙って出かけて、ずっと帰ってこなかったのか、、、分かりますか?」
「、、、、、」
「もう、、、作り笑顔も出来ないくらい、、、あの家が辛いからだろ!何の罪もないのに周り全員に忌み子だって言われて、、、我慢出来なくて外に飛び出したんだろ!」
ずっと冷静に気持ちを落ち着けようとした桐島は、ついに声を荒げてしまった
「そんな気持ちも何にも分かってねえくせに、、、何が良い関係だ、、、歩はな、ホントは一瞬だってその家に居たくねえんだよ!でもあんたが凛ちゃんの為に頑張ってるのを知ってるから我慢して、、、、、」
桐島はそこで言葉を止めた
どうやら父はもう、全て分かったようだった 力の限り拳を握りしめ、唇から血が出るほど噛みしめていた
「、、、全く他人の俺に、こんなに話して頂いてありがとうございます、、、」
桐島は深々と頭を下げた
父は何も言わず、俯き、ベンチに深くもたれるように座っていた




