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  作者: 外山
189/216

複雑な感情

恭丞と響子から話を聞いた喫茶店の帰り、桐島は駅の構内のベンチに座っていた

話も込み入りいつのまにか外は暗い時刻になっていた

喫茶店からアパートへ帰るまでに、この駅の構内をいつも通っていた しかし今日は通り過ぎずに足を止め、頭の中を整理していた

「、、、、、」

(全然ワケが分かんねえ、、、神田由美って人が歩の母親だとしたら、、、写真に写ってるこの子は歩って事だよな、、、)

桐島は恭丞から貰った写真を眺めながら考えていた

(歩の母親と俺の父親が幼馴染で、、、俺と歩はこんな小さい頃に会ってた、、、?ホントなら同じ小学校で中学校で、、、幼馴染になってたのか、、、?)

ふと恭丞と響子からの話を思い出す 誠と由美が抱き合っている姿を見てその場から逃げ出した美希が、そのまま交通事故に遭ってしまった そんな画を自分なりに想像していた

(ホントなら、、、、、か、、、、、)

桐島は深くため息をついた

予想を遥かに上回った両親達の話に桐島はただただ疲れていた 自分が何故孤児院にいたのか、両親がいないのか、それらの理由は分かったが、全くスッキリしていなかった

(俺は結局、、、どうなりたいんだろうな、、、両親の話を聞いて、、、どうするつもりだったんだ、、、?)

桐島は恭丞から話を聞こうと思う前の自分の心境を思い出そうとしていた

(、、、んで今、、、どうしたいんだ俺は、、、)

桐島は自分自身の思いがよく分からなかった

そして以前、恭丞が言っていたある言葉を思い出していた




『誠はお前を捨てたんじゃねえ、、、絶対、それは違うからな』




(、、、こんな事なら、普通に捨てられたって思ってた方がマシだったかもな、、、)

眉間を押さえ、自嘲気味に笑って見せたが現状は何も変わらなかった

「、、、!」

桐島はふと顔を上げ、目を見開いた

「え、、、歩?」

「、、、あ、誠哉君!」

そこには渡部がいた 桐島が気づいた直後に渡部も桐島を見つけ、パァーっと明るい顔で駆け寄ってきた

「何してるのこんなところで?」

渡部は不思議そうな表情で桐島の前に立つ

「いや、、、てゆうかなんで、、、お前この駅は使わねえだろ?」

「バイト先の花屋さんからはこの駅が1番近いの 家からもちょっとだけ遠いけど、いつもの駅まで行く方が遠いから」

渡部は説明しながら桐島の横に座った

「、、、そうなのか、、、」

桐島の胸の鼓動はドクドクと強く打ち鳴らされていた すぐ隣に座る渡部から感じる空気に肌が敏感に反応する

「それより誠哉君は何してたの?」

「、、、俺は、、、ちょっと休んでた」

「ふふっ、そっかー」

桐島の言い方に少し可笑しさを感じ、渡部は小さく笑った

「、、、ああ、、、あ、どうだ?バイト、、、結局ちゃんと見に行けてねえんだけど、、、」

「いいよ見に来なくてー あんな感じだよ 響子さんと2人でお花の管理がメインかな まだ分からない事の方が多いけどね」

「そ、そっか、、、」

渡部が隣に座ってから、桐島は一度も目を合わせていなかった

「、、、楽しいか?バイト」

「え?、、、う〜ん、まだ考えながらやってるから疲れるけど、、、響子さんと2人だし、気は楽だから楽しいかな!」

桐島の妙な間の取り方に違和感を覚えながらも、渡部は思うままに答えた

「そうか、、、良い人そうで良かった、、、」

「、、、?」

桐島のその言葉に渡部は首を傾げた

「、、、、、じゃ、そろそろ帰ろうかな!」

渡部は様々な感情や疑問を抑え込み、バッと立ち上がった

「え、、、そうか?」

「うん!疲れたし、ゆっくり休まないとね!」

「っ、、、、、」

渡部のその言葉の意味は、そのまま桐島に向けられているかのようだった

(情けねえな、、、余計な心配させて、、、)

桐島は少し悔しそうに唇を噛み締めた

「じゃあまたね バイバイ」

渡部は改札口の前で桐島に手を振り、切符を通そうとした

「あ、ちょっと、、、!」

桐島は手を伸ばし、足りない声で渡部を呼び止めた

「え、、、?」

渡部は少し驚きながら切符を通す手を押さえた

「俺も行く 送ってくよ」

桐島は立ち上がり切符を買うため財布を出した

「へっ?いいって!わざわざお金出してまで!」

「もう買った じゃあ行くか」

桐島は素早く切符を購入し、改札口の前まで戻って来た

「〜〜!そんなの、、、悪いよ」

渡部は申し訳なさそうに小さい声で呟いた

「いいだろ?もうちょっとだけ、、、一緒にいたいからよ」

桐島はそう答えると切符を通し、改札口を通った

「っっ、、、じゃ、じゃあ、、、いいけど、、、」

桐島からの突然の言葉に戸惑いながら渡部も後について歩いた

「、、、、、」

桐島は額ににじむ汗を拭いながら、迷いを捨てようと息を飲んでいた









渡部の家の最寄り駅に着き、2人は太陽の沈み切った夜の街を歩いていた

「うー、ムシムシするねー」

渡部はパタパタと手で自分を仰ぎながら顔をしかめた

「そうだな、、、まあまだまだ暑くなるだろうな 」

「そっか、まだ6月だもんね」

桐島と渡部は何気ない会話を交わしながら一歩一歩目的地へと近づいて行く

「あ、、、そういえばさ、誠哉君って響子さんと知り合いだったの?」

「、、、、、!」

桐島は渡部の方を見ずにそのまま考え込んだ

「、、、? 誠哉君?」

渡部は不思議そうに桐島の表情を覗き込む

「、、、ああ」

桐島はそうとだけ答えた

「、、、そうだったんだ びっくりした」

渡部は少し遠慮がちに笑いながら言った いくつか聞きたい事もあったが、桐島の反応を見て全ての言葉を飲み込んだ


(暑いな、、、手汗がスゴイ、、、)

渡部は自分の手汗を拭うために手をぐっと強く腰に押し当てた

「っ!?」

手汗を拭き終えた瞬間、ガッと荒っぽく桐島に手を取られた

「えっ、、、?」

渡部は顔を上げるが、桐島は前を見たままだった

握られた手を見ながら、渡部も何も言わずに足を進めた



手を繋いだまま歩き続け、渡部の家の前に着いた

その道中、桐島は殆ど口を開かず、自分から喋ることはなかった 渡部は少し変に思いながらも、その事について言及しなかった

「ありがとう わざわざ送ってくれて」

渡部は明るい声で桐島にお礼を言う

「ああ、、、」

桐島は渡部の家を見ながら力なく答えた

「、、、、、」

桐島はじっと渡部の家のインターホンを見つめた 少し汗をかきながら生唾を飲み込む

様々な感情が渦巻き、自分の気持ちが自分でも分からなくなっていた

「大丈夫?」

「えっ、、、?」

声をかけられ桐島はパッと渡部の顔を見た

渡部は初めて出会った頃と何も変わらない表情で桐島を見ていた

「、、、、、っ!」

桐島は慌てて汗を拭い、渡部から顔を背けた

何も変わらない純粋な渡部の顔を見て、今の自分の考えが全て顔に出ているような気がしたからである

「、、、ねぇ、どうしたの?」

渡部は意を決して桐島に訊ねた

「、、、え?」

「さっきからおかしいよ?誠哉君」

「、、、大丈夫 なんもねえよ」

桐島は明るい表情で渡部の方を見た 渡部は心配そうに桐島の様子を窺う

「、、、ホントに?」

その答えに対し渡部は不満そうな表情を見せた

「ホントだよ 疲れてるだけだって」

「、、、、、分かった」

渡部はスネながら振り返り、家の門に手をかけた

(いつもそうやって大事な事、隠すんだから、、、)

渡部はそう思いながらも、桐島を信じて何も聞かない事にした

「ん、、、っ!?」

渡部は息が詰まるような感覚に驚いた しかしその原因はすぐに分かった

桐島が後ろから渡部を抱きしめているのである 桐島の吐息がすぐ耳元に当たるのを感じた

「あっ、、、誠哉君、、、?」

「、、、、、」

渡部からの呼びかけに桐島は答えなかった

(少しでいいから、、、こうしてたい、、、)

桐島はその想いを口には出せなかった


「、、、じゃあ、またな」

桐島はそう言って渡部から離れ、背中を向けて歩き出した

「う、、、うん またね」

渡部は桐島の背中に手を振りながら言った

桐島は少しだけ振り返り、渡部に向けて手を振る

「、、、!」

桐島が振り返った事に、渡部は強く安堵した 何故か、もう桐島が振り返らないような、そんな味わった事の無い不安に襲われていたからである















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