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  作者: 外山
187/216

17年前 2

「、、、誠哉 行こ」

美希はパッと子供を抱きかかえ、問題の現場から急いで遠ざかろうと走り出した

「ま、、、美希!待ってくれ!」

誠はカバンを置いて、逃げて行く美希を追いかけた





美希は子供を抱きかかえ、都会の真ん中を走っていた

「ママ、ママ」

抱きかかえられている子供は不安そうに美希を呼ぶ

「ママ 袋、落としたよ」

「いいの、、、いいの、、、」

「パパ なにしてたの?」

「、、、、、」


気がつくと誠の追ってくる姿は無くなっていた おそらく信号のタイミングなどで巻いたのだろう






ここまでの話を美希は響子に話した

「、、、そ、それ本当なの?見間違いじゃなくて?」

「見間違いじゃないわよ、、、誠君と由美さんだった、、、」

美希は交差点の信号待ちの間、電話をしていた

「私どうしたらいい、、、?」

「た、体勢崩しただけとか、きっとそんな感じよ!とにかくまだよく分からないでしょ!?」

「、、、うん、、、」

「だったら話を聞いてみないと、ね?2人は夫婦なんだからさ?」

「分かってるけど、、、」

響子は優しく宥めるが美希はまだ泣きじゃくっていた

「1人で考え過ぎちゃダメよ?私ならいつでも話ぐらい聞くから まずは誠君と話し合うんだよ?」

「うん、、、ごめんね?」

「いいのいいの 美希と響子の仲じゃん?」

響子は冗談目かして美希を元気付けた






「はぁっ、はぁっ、、、くそっ、、、」

誠は美希を探して夜の街を走り回っていた 膝をついて息を整えていると、100メートル程先の交差点に人だかりが出来ている事に気づいた

「、、、?」

誠はふと気になり、その人だかりの方へと歩いて行った


「信号無視かよ、、、ひでえな」

「てゆうか子供泣いてるよ?」

人だかりに近づくとだんだんそんな会話が聞こえてくるようになった

(事故か、、、?こんな交差点にトラックも停まってるし、、、)

そんな事を考えていると、確かに子供の泣き声が誠の耳にも入ってきた

そしてその子供の泣き声には聞き覚えがあった

「、、、誠哉?」

誠は急いで人混みをかき分けた 歩道の真ん中で泣いている子供は、間違いなく誠の子供だった

「うわぁ〜ん!うぇ〜ん!」

「大丈夫かい?」

「ほら、深呼吸してごらん」

子供の周りには数人の人達が寄り添っていた

「誠哉!大丈夫か!?」

誠はすぐに膝をつき、子供を抱きかかえた

「すいません!うちの子です!」

「子供をほったらかしてなにしてんだあんたは」

「少し傷があるみたいだからね」

誠が謝るとそれまで子供を見てくれた人達はそれぞれ一言ずつ言ってその場を離れた

「すいません、、、ありがとうございました!」

誠はお礼を言うと、次は子供に目を向けた 子供は誠に抱きかかえられると少し落ち着いてきていた

「大丈夫か誠哉?」

誠は子供の頭を撫でながら訊ねた

「あっ、、、頭打ったのか?タンコブみたいになってる、、、」

「いたい!んぅ〜!」

子供は頭を触られると痛いようだ 誠の手を激しく払った

「ごめんな、、、ちっちゃい擦り傷もいっぱい、、、後でお医者さん行こうな?」

子供の肘や膝には転んだ後のような傷があった

「、、、なぁ、お母さんどこだ?一緒にいたろ?」

「ママ、、、ママ、、、」

子供は首を傾げたり横に振ったりする

「、、、、、!」

誠はふと横に、トラックがある事を思い出した と、同時に救急車のサイレンが聞こえてきた

(、、、確か、、、信号無視、、、とか言ってたよな、、、)

誠は子供を抱いてゆっくりとトラックの前の方が見える位置まで歩き出した

(、、、まさかな、、、)

誠は子供を置き、自分だけが見えるようにトラックの前を覗き込んだ

「、、、、、は、、、、、?」

そこは真っ黒だった 血が変色し、アスファルトにこびりついて真っ黒い海のようだった そしてその真ん中で横たわっているのは、間違いなく美希だった つい数時間前、綺麗なウエディングドレスを着て誠の前に立っていた美希だった



『い、いや、、、あんまり綺麗だからさ、、、』

『え、、、?な、なに言ってんの、もぉ、、、』



親友や両親、お世話になった人にお礼を言っていた美希だった



『、、、ありがとう!響子!』

『お父さん!お母さん!今までありがとうございました!幸せになります!』



永遠の愛を誓った、この世に誰一人して代わりのいない、最愛の妻、美希だった



『、、、、、美希』

『え?なに?』

『、、、幸せにするよ、、、絶対 美希も誠哉も両方ともな』

『、、、、、よろしくお願いします』



「美希、、、美希、、、」

誠はうわ言を言いながら変わり果てた美希の元へと足を踏み出した

「ちょっと!近づかないでください!」

救急隊員がそれを止めた 美希は救急隊員の手によって手早く救急車の中へと運ばれて行く

「妻なんです、、、俺の!俺の妻なんです!美希!美希!」








「はぁはぁ、、、」

響子は病院の中を走っていた 突然の誠からの電話に響子はまだ状況を把握出来ないでいた

視線の奥に誠の姿を捉える 誠は廊下のイスに子供と一緒に座っていた

「誠君!」

響子は誠の前まで駆けつけ、荒い息を整えた

「響子ちゃん、、、」

誠の目に光は全く無く、暗くよどみくすんでいた

「はぁはぁ、、、っ!?誠哉君!?大丈夫なの!?」

誠の子供は両手両膝にガーゼ、頭には包帯を巻いていた

「一応大丈夫だってさ、、、頭を強く打ったみたいだからしばらくはズキズキするみたいだけど、、、」

「そ、そうなんだ、、、」

響子はパッと目線をあげ、使用中、という文字が光っているのを見た

「あ、あの、、、美希が事故にあったって、、、」

響子はおそるおそる誠に訊ねる

「、、、今、、、集中治療室に、、、」

「治療室!?じゃあ大丈夫なのよね!?治るのよね!?」

「、、、、、」

響子の言葉に誠は何も答えられなかった

「ねえ、、、?誠君、、、?」

「、、、全力で手を尽くすって、、、でも、、、でも、、、」

誠は俯き、目頭を押さえた

「分からないって、、、もしもの時の事も考えてくださいって、、、」

誠は息を絞り出し、声を震わせながら言った

「、、、え、、、?」

「美希が、、、もし美希がいなくなったら、、、どうしたらいいんだよ俺は、、、」

「う、、、うぇ〜ん、、、」

子供も不安な気持ちからか、泣き出してしまった


パァン!


その瞬間、静かな病院の廊下に音が響いた 響子が誠をビンタしたのである

「情けない事言ってんじゃないわよ!子供の前で!」

響子は誠を睨みつけながら怒鳴った

「美希は、、、強いんだから!大丈夫に決まって、、、!」

響子の目からは大粒の涙が流れ出ていた

「響子ちゃん、、、」

「こんな事で、、、し、死んじゃう訳、、、ない!絶対に!」

響子は強い口調でそう言いながらも涙は止める事は出来なかった











3日後


桐島美希の葬儀が行われた


一通りの葬儀が終わり、誠は子供と一緒に外の石段に腰をかけていた

誠は力ない表情でボーッと俯いていたが、子供は何のことかよく理解出来ていないようだった 子供はまだ頭がズキズキと痛むようで、頭を撫でられるのを強く嫌った

「、、、誠哉、、、」

誠は息を絞り出しながら子供の肩を軽く抱き寄せた


「誠」

そう後ろから呼びかけたのは恭丞だった

慣れない黒いスーツに身を包んだ恭丞は誠の横に座り、ため息混じりに空を見上げた

「おじさん!」

子供は恭丞を指差しながら言った

「誰がおじさんだ、、、まだ20代だ」

恭丞は指を差してきた子供の手を軽く握った いつもの恭丞のツッコミにもどうにも元気がない

「、、、恭丞、、、」

「ん、、、?」

誠は静かに恭丞の名を呼んだ

「俺さ、、、もうどうしたらいいか分からないんだ、、、」

「、、、、、」

「俺には、、、美希しかいないのに、、、俺には、、、美希が必要なのに、、、美希がいないと、俺は、、、」

誠の声は震え、それ以上の言葉が出なかった 誠と恭丞の間に座っている子供は何も分からずいつもの様子でいた

「、、、俺だって、、、まだ信じられねえけど、、、」

気が弱くなっている誠に気を使い、恭丞は出来るだけ毅然とした態度を取っていた

するとそこに、響子がやってきた

「、、、、、」

響子は黙って誠の前に立ち、じっと誠の目を見た

「響子ちゃん、、、」

「誠君、、、聞きたい事があるの、、、いい?」

「え、、、?」

響子のものものしい様子に誠はパッと顔を上げた

「、、、誠君、、、浮気してたの?」

「、、、っ!?」

響子の言葉に誠は驚き、思わずサッと立ち上がった

「、、、由美さんと浮気してたの?」

「は、はぁ?おい、山田 お前何言って、、、」

「あんたは黙っててよ後藤 ねえ誠君 どうなの?」

恭丞を冷たくあしらい、響子は誠に迫った

「浮気なんか、、、してない、、、」

「じゃああの日、美希が見たのはなんだったの?誠君と由美さんが歩道橋で抱き合ってるのを見たって、、、美希が泣きながら電話してきた、、、」

響子はさらに誠を問い詰めた

「、、、、、」

響子の責め立てるような口調に、誠は思わず口をつぐんだ

「お、おい、山田、、、」

「どうなのよ!?誠君!?」

恭丞の言葉を無視し、響子はついに感情をあらわにし、荒っぽく怒鳴った

「ちっ、、、誠哉、行くぞ」

恭丞は子供を抱き上げ、その場から離れた 言葉の意味もまだ分からないような子供だが、こんな会話を聞かせない方がいいだろうと恭丞は判断した

「、、、、、」

「、、、違うわよね、、、?美希の見間違いよね、、、?」

「、、、、、」

響子の言葉に誠は何も答えなかった

「、、、ねえ、、、?なんで、、、黙ってるのよ、、、?」

響子は言葉を並べて行くうちにポロポロと涙が出てきた

「なんなのよ、、、最低!やっぱり浮気してたんじゃない!」

響子は泣きながら喚き散らした その葬儀に参列していた人たちもざわざわしながら誠達の方を見る

「ち、違うよ、、、浮気じゃない、、、」

「じゃあなんなのよ!?他の女と抱き合う事が浮気じゃなかったらなに!?なんていうの!?」

「、、、ごめん」

誠は呟くようにそれだけ言った

「私に謝ったって仕方ないのよ、、、美希は、、、浮気されて、、、」

「、、、、、」

「誠君に浮気されて、、、泣きながら死んだの!誠君のせいで!」

「、、、、、」

泣きながら心情を訴える響子に、誠は何も答えなかった

「、、、今、、、少し話が聞こえたのだが、、、」

そう言いながら誠と響子の元へと歩み寄ってきたのは美希の父だった

後ろには美希の母、鈴科孤児院の受付の草津談司の2人がいた

「あ、、、、、お義父さん、、、」

「誠くん、、、どういう事だ?」

怯えたような表情をする誠に対し、父は緊張感ある面持ちで誠に訊ねた





「貴様ぁ!!」

全ての話を聞いた父は誠の頬を思い切り殴り飛ばした

「うぐふっ!」

誠はそのまま地面に倒れこんだ

「あんた!やめなさいな!」

「おじさん!落ち着いてください!」

母と草津は荒ぶる父の腕を掴み押さえ込んだ

「離せ!こいつは、、、美希を死なせた上に浮気までしてたんだぞ!このクズが!」

父は更に誠に殴りかかろうとするが、若い草津の方が力は強く、母にも押さえられ動けない

「すいません、、、浮気じゃないんです、、、浮気じゃ、、、」

誠は地べたにへたり込み、頬を押さえながら何度も繰り返す

「まだ言い訳するか貴様ぁ!」

「お父さん!少し落ち着きなさいな!」

「彼の話を聞いてみましょう!おじさん!」

母と草津は必死で父を落ち着かせようと語りかけた

「、、、なら理由を言え!浮気でなければなんだ!言ってみろ!」

父は誠を指差し鬼気迫る表情で問い詰めた

「、、、理由は、、、言えないんです、、、」

「ふ、、、ふざけるなぁ!このクズがぁ!」

父は母と草津の腕を振り払い、座り込んでいる誠の胸ぐらを掴み、再び殴り飛ばした

「ぐっ!、、、すいません、、、でも浮気なんかじゃない、、、それだけは絶対に違うんです、、、」

「ふざけるな、、、貴様みたいなガキに、、、美希は、、、」

父はその場で膝をつき、泣き崩れた 美希が結婚すると言い出した時も、孫である桐島誠哉が生まれた時も、美希の結婚式の時も、決して人前では泣かなかった、感情を表にしなかった父が、思うままに涙を流し、喘ぎ苦しんだ

「おじさん、、、」

草津は倒れこむ父の背中をさすった

「すみませんでした、、、でも本当に浮気じゃないんです 浮気が許せないと思ったから俺は、、、!」

誠はそこでハッとした表情になり、慌てて口をつぐんだ

「誠君、、、何故教えてくれないんだい、、、?」

母は誠の目線に合わせてしゃがみ込んだ

「、、、すみません、、、」

「、、、、、はぁ、、、、、」

母はため息をつき、立ち上がった

「、、、おい、、、行くぞ」

息を落ち着かせた父はバッと立ち上がり、いつもの毅然とした表情になった

「、、、もう帰るんですか、、、?」

母は悲しげな父の背中に問いかけた

「そうだ、、、誠哉を連れてな」

「、、、え、、、?」

誠は耳を疑い、顔を上げて父の方を見た

「当然だ 誠哉はウチの孤児院で引き取る 約束を忘れたとは言わさん」

「、、、っ!?」

父の言葉を聞き、誠は約一年前、結婚の許しを得るために埼玉の孤児院に行った日の事を思い出していた




『その子はウチで引き取らせてもらう、、、君が、美希を幸せに出来なかったらな』





「君に浮気された美希が、、、幸せだったと思うか、、、?私は思えんな、、、」

父は誠の方を一切見ずにゆっくりと喋った

「そっ、、、れは、、、!」

「確か、誠哉は君の友人と向こうにいたな 今日、連れて帰る」

父はそのまま恭丞と子供がいた方へ向かって歩き出した

「まっ、、、!それは、、、!」

誠は慌てて立ち上がり、父の背中を追いかけた

「待って下さい!お願いします!」

誠は父の前に回り込み、膝をついて土下座をした

「それだけは待って下さい!お願いします!誠哉だけは、、、」

「、、、、、」

父は立ち止まらず、黙って誠の横を通り過ぎた

「あんた、、、本気かい?」

「当然だ、、、こんな男に、大事な美希の子供は任せられない、、、」

母と父は小さく会話を交わしながら歩く その後ろを草津はついて歩き、思うことは色々あったが何も言えないでいた

「お願いします、、、誠哉だけは、、、お願いします、、、お願いします!!」

誠は土下座したままひたすらに懇願したが、父は一度として振り返ることはなかった












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