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  作者: 外山
186/216

17年前

名古屋市内のとあるビルの2階にある結婚式場

これからそこで誠と美希の2人は結婚式を挙げる

今日は2人の為に数多くの人達が式場に集まっていた


誠は関係者の控え室で服を着替え準備していた

「おっ、なかなかタキシード似合ってんじゃねえか!」

式用に用意したタキシードに身を包む誠に恭丞は軽い口調で声をかける

「、、、ああ」

「、、、?どしたよ?シャキッとしろよ!」

元気がない様子の誠の肩を恭丞は強く叩いた

「痛えよ、、、」

「、、、なんだぁ?緊張してんのか?」

「ま、まあな、、、」

誠は苦笑いしながら恭丞に叩かれた肩をさする

「おい誠哉〜、お前の父ちゃん緊張してんだってよ〜?」

恭丞はバカにしたような誠の子供に耳打ちする

「う、うるせえな!いじってくんな!」

誠は言い返しながら恭丞を子供から離れさせた


ガチャ


「誠君 美希も準備出来たよ〜?」

美希の親友である響子はドアを開けてニヤニヤしながら入ってくる

そして少し遅れて美希が入ってきた

美希はウエディングドレスに身を包み、いつもよりしっかりと化粧を施していた その雰囲気は普段の美希とはやはり違い、誠は吸い込まれるように美希を見ていた

「おぉ、すげえじゃん美希ちゃん!」

「近づくな後藤!」

舞い上がる恭丞を響子は鋭い目で牽制した

「、、、、、」

「、、、ど、どうしたの誠君?」

ボーッとした表情で見つめてくる誠に美希は心配そうに声をかけた

「い、いや、、、あんまり綺麗だからさ、、、」

「え、、、?な、なに言ってんの、もぉ、、、」

誠と美希は互いに照れ臭くなり目線を下にズラした

「うわぁ〜、ママとパパラブラブだねぇ〜?」

響子は子供の横にしゃがみ、楽しそうに耳打ちした

「ちょ、ちょっと響子!誠哉に変な事言わないで!」

美希は顔を真っ赤にしながら響子に言いつけた


ガチャ


すると更にドアが開く音がした

「あ、みなさんもうお集まりで!」

そう言って入ってきたのは誠と恭丞の幼馴染、神田由美だった 由美は女の子を連れて慌てて挨拶した 由美の娘である

「由美さん 今日はどうも、、、」

「ああっ!美希さん!すごいですね!」

美希の挨拶にかぶり、由美はウエディングドレスに驚嘆した

「あ、誠哉君と遊んできなさい ほら、遊ぼって」

由美は娘の背中を押すと、子供と娘は2人でソファーの方へ歩いて行った

「お似合いですね!綺麗です!」

「ありがとうございます」

由美のストレートな褒め方に美希は少し恥ずかしかった

「良かったね〜誠君!ずっと式挙げたいって言ってたもんね!」

由美は次に誠の前まで行き、笑顔で言った

「、、、由美、、、」

誠は困惑した表情で由美を見る

「、、、、、?」

誠の暗い表情に由美は不思議そうに首を傾げた


「、、、ねえ、誰?」

響子は小声で恭丞に訊ねた 響子は由美と会った事がなかったのだ

「会った事なかったか?神田由美だ 俺と誠の幼馴染だな」

「へぇ〜、、、」

響子が納得したように頷いていると、由美と目が合った

「あ、初めまして!」

由美は挨拶しながら響子の前まで来て軽く頭を下げた

「初めまして 山田響子です」

「神田由美です よろしくお願いします」

2人が頭を下げて挨拶していると、少し離れたソファーのある場所から娘の泣き声が聞こえた

「うわあ〜ん!ぁあ〜!」

「!?ど、どうしたの!?」

由美は娘の泣き声を聞き慌てて駆けつけた 見ると、子供が娘の持っていたぬいぐるみを取り上げてしまったようだ

「あ、、、コラ誠哉!人のモノ盗っちゃダメでしょ?」

それに気づいた美希も子供の元へと駆け寄った

「ううん、だって見せてくれるって、、、」

子供は首を振りながら言い訳する 恐らく怒られると思ったのだろう

「ごめんなさい由美さん ほら誠哉も謝るの」

美希は由美と娘に頭を下げながら子供を叱る

「いえいえ、、、ほ〜ら、ね?泣いちゃダメだよ〜」

由美は優しい口調で娘をあやした

「せーくんが、、、せーくんが、、、」

娘は由美に頭を撫でられ少しずつ泣き止んできた

「ごめんね、、、?」

美希も娘に優しく声をかけ謝った

「、、、ごめんなさい」

母親が謝る姿を見てやっと分かったのか、子供も続いて娘に謝り、ぬいぐるみを差し出した

「うん、、、いいよ」

娘はコクリと頷き、子供からぬいぐるみを受け取った



少しすると子供と娘はまた、何事もなかったかのように楽しく遊んでいた

そんな様子を見て恭丞はため息をついた

「ったく、ガキってな単純な生き物だな」

「だからかわいいんでしょ?あ〜あ、私も早く結婚したいなぁ〜」

響子は純粋無垢な子供達を見ながら羨ましそうに呟いた

「あっ、そういえば、、、由美さん」

響子はパッと振り返り、由美の方を見て目を輝かせた

「はい?」

「由美さんの旦那さんはどんな人なんですか?」

響子は興味津々で由美に訊ねた しかしその瞬間、シーンと沈黙した空気が場を支配した

「、、、?」

響子は何のことか分からず周りを見るが、みんな気まずそうな表情をする

「あ、、、私、結婚してないんです」

「え、、、、、」

首を振りながら言う由美に、響子は驚きで言葉を止める

「す、すいません、何も知らずに、、、!」

「いえいえ、相手がいない訳じゃないんですよ?」

「え?」

「ちょっと色々とタイミングが合わなくて、、、向こうの都合が良くなくて、時期が合うまで、、、ってだけなんで」

慌てて謝る響子に由美は笑顔で穏やかに返した

「あ、、、そうなんですか?」

「はい!歩と3人でもよく会いますしね」

空気がなんとなく和らぎ、響子はホッとした

(時期が合うまで、、、?)

誠は険しい表情でグッと拳を握りしめた

「、、、おい誠?どうしたんだよ?」

誠の異変に気付いた恭丞は心配そうに訊ねる

「いや、、、なんもねえよ」

「さっきからなんか変だぞお前、、、」

「んな事ねえよ ちょっと緊張してるだけだって」

「、、、そういやお前、昨日の歩道橋辺りから、、、」

「大丈夫だから、、、、、な?」

誠は恭丞の言葉を遮り、強い口調で言った

「、、、、、そうか?」

そう言われると恭丞はそれ以上何も言えなかった







無事に結婚式は行われた


神父の祈り


誓いの言葉


そしてベールを上げ、誓いのキスを交わした










結婚証明書の署名や賛美歌斉唱など、全ての行程を終え、最後に式場の出入り口から新郎新婦の2人は出てきた

その場にワッと拍手と歓声が湧いた

美希は手に持っていたブーケを投げた

そのブーケは綺麗な放物線を描き、ぽとんと一人の女性の手の上に乗った

「あ、、、やったぁ!」

その女性は由美だった 由美は嬉しそうにブーケを天に掲げ皆にアピールした

「おっ、やったじゃねえか由美 結婚も近いんじゃねえか?」

恭丞は笑いながらそう言うと由美の娘と目線を合わせるようにしゃがんだ

「な?、、、え〜っと、この子の名前なんつったっけな、、、」

恭丞が娘の名前を考えていると、娘は由美の後ろに隠れた

「あっ!」

「えへへ〜、名前も覚えてくれないヒゲのおじさんは嫌いだって」

由美は楽しそうに娘の気持ちを代弁した

「誰がおじさんだ!」

恭丞がそうツッコむとワッと笑いが起きた


「美希!チョーキレーだよ!最高!」

参列者の中から響子のよく通る声が美希の耳に入った

「、、、ありがとう!響子!」

美希は響子に手を振りながら満面の笑みで答えた

「、、、あ」

美希は響子のすぐ隣にいる人物にも気付いた 美希の両親である 母は穏やかな表情で2人を見守り、先ほどバージンロードを共に歩いた強面の父は、いつもの険しい表情をしていた

「、、、お父さん!お母さん!」

美希は歩みを止め、両親の方を向いた

「今までありがとうございました!幸せになります!」

美希はウエディングドレスのまま頭を下げてお礼を言った

母は笑顔で頷き、父は更に険しい表情で頷いた おそらく父はこみ上げる涙を我慢していたのだろう

「、、、、、」

親友の響子や両親に挨拶している美希を見て、誠は強く決心した

「、、、、、美希」

「え?なに?」

「、、、幸せにするよ、、、絶対 美希も誠哉も両方ともな」

誠は晴れやかな表情でそう言いながら美希の手を握った

「、、、、、よろしくお願いします」

美希は手を握り返し、優しくつぶやいた



「じゃ、撮りますよ?いいかい?」

美希の母はカメラを構えながら確認した

最後に教会をバックに写真を撮ることになったのだ 真ん中の誠と美希のそれぞれの隣に恭丞と響子、由美は階段を2段ほど上り、誠の後ろで娘を抱きかかえていた そして真ん中の更に真ん中には、誠と美希の子供が両手を繋がれて立っていた



パシャッ



何事もなく、無事に挙式の全てが終わった





その日の夜


結婚式を終えた美希は響子と子供を連れてファミレスに来ていた 式の打ち上げ、というほどのモノではないが、結婚式の後は気の置けない親友同士でゆっくり喋ろうと美希は前から決めていたのだ


「でさでさ!あの中学って屋上あったじゃん?だからそこに先輩を呼んだの!告白しようと思って!」

「うん、それでどうなったの?」

興奮気味に話す響子に美希は食い入るように耳を傾けた

「そしたらさ、まあフラれたのね?それはいいの 仕方ないじゃん?で、一応理由聞いてみたの」

「うんうん」

「そしたらその先輩、、、美希の事が好きだって!だから無理とか言ってきたの!」

「えぇ〜?そんなの始めて聞いたけど!?」

「当時はホント美希に話そうか迷ったの!でもどうかな〜って、それは先輩に悪いかな〜とか色々考えて、、、」


2人は昔の話を思い出す限り話していた こうして話していると思い出話はなかなか尽きなかった


「はぁ〜、よく出てくるわねぇ〜、色んな話が、、、誠哉君寝ちゃってるんじゃない?」

響子は一息つきながら美希の横で寝ている子供に目を送った 子供は壁にもたれるように眠り、美希との間にはビニール袋が置いてあった

「そうね、、、色々あったのね、、、響子とは」

美希はしんみりした表情で小さく呟いた

「な、、、なによぉ、これからも色々あるわよ!」

響子は美希とは反対に明るい口調で話した

「、、、あのね響子、、、私ね、、、結婚してからこの1年間、ずっと不安だった」

「、、、、、」

響子は黙って美希の言葉に耳を傾ける

「生活が変わって誠哉が生まれて、、、ホントに大丈夫かなって、、、誠君ともいっぱいケンカしたし、、、これからやっていけるのかなって、そんな事ばっかり考えてた」

「うん、、、」

「そんな時にね?響子はいつも相談に乗ってくれたよね、、、っていうか、私が一方的に愚痴喋ってただけだけど」

「ふふっ、そうだったねー」

響子は小さく笑い、手元の紅茶を飲んだ

美希は考え込んだ表情をしながら紅茶に映る自分の顔と目を合わせた

「私ね、、、響子は知ってると思うけど、、、その、、、あんまり素直じゃないから、、、こういう時にしか言えないから、言うね?」

美希は紅茶から目を離しパッと顔を上げ、響子と目を合わせた

「ありがとう響子、、、大好きですので、これからもよろしくお願いします」

美希は少し背筋を伸ばし、丁寧にお辞儀した

「、、、私も美希が大好きです これからよろしく」

響子も美希と同じように頭を下げた

「、、、ふふふっ、恥ずかしー」

美希は口を押さえて照れ臭そうに笑った

「美希から言い出したんでしょー?」

響子も恥ずかしさをごまかす為に雑な口調で目をそらした

それからも2人のたわいない雑談は続いた







その頃

誠、恭丞、由美の3人は居酒屋にて、昔の思い出話に花を咲かせていた 美希と響子と同じように幼馴染だけで集まり、気兼ねなく話をしていた


「つうかよ、子供が居酒屋なんかにいて大丈夫か?」

恭丞は枝豆をつまみながら由美の娘を指しながら言った

「大丈夫でしょ お酒飲まないし、ねー?」

由美はフライドポテトを食べながら横に座る娘に声をかける

「誠哉と同じ学年になるんだよな その子」

「うん!もう2年ぐらいしたら幼稚園だし、さっそく一緒だね!」

「おう」

誠と由美は嬉しそうに顔を見合わせた

「俺は一足遅れちまったなぁ〜、ガキなんか嫌いだったけど、お前らの子供見てたら羨ましくなるな」

恭丞はしみじみ言いながらビールをぐいっと飲んだ

「お前よくそんなビールばっかり飲めるなぁ」

誠は呆れたように呟きながら熱燗を口に運ぶ

「、、、あ、もう10時半かぁ」

由美は時計を見ながらため息交じりに呟いた

「お、、、マジか そろそろ帰らないとな」

誠も時間を確認し、最後にくいっと熱燗を飲み干した

「マジかよ誠!今日は朝までだと思ってたのによぉ」

「無理に決まってんだろ!美希に殺されるっつーの!」

残念そうに言う恭丞に対し誠は大げさに言い返した

「お?やっぱお前、美希ちゃんに尻に敷かれてんのか?」

恭丞はニヤニヤ笑いながら言った

「そういう訳じゃねえけど、、、美希ももう響子ちゃんと別れて帰ってるだろうし、それに帰るって約束したんだよ」

誠は帰り支度をしながら少し言いづらそうに言った

「じゃあ私もそろそろ帰ろっかな」

由美も誠に続いて帰り支度を始めた

「え〜?お前も帰んのかよぉ?」

「だって朝までなんてこの子が耐えられないもん」

スネたように言う恭丞を由美はさらっと受け流した

「じゃあな 俺らは帰るから 今日はありがとな」

「バイバイ恭丞君!またね」

誠と由美は恭丞に軽く挨拶すると足早に居酒屋を出てしまった

「、、、はぁ〜あ、2人とも大人になったなぁ〜、昔は何も考えねえでバカみてえに遊びまわってたのによぉ、、、」

恭丞はさみしそうに呟きながらビールを飲み、あることに気づいた

「あ、、、あいつら金払わねえで帰りやがった、、、自分が飲んだ分ぐらい置いていきやがれ!」







美希と別れて家に帰った響子はソファーで休んでいた

「美希もついに式まで挙げちゃったかぁ、、、私も早く相手見つけて結婚しないとねぇ〜、、、」

響子はソファーに首を預けて気を抜いてだらけていた


♩〜♩


すると響子の携帯の着信音が鳴った

「ん、、、」

(こんな時間に、、、?)

時刻は10時半を回り11時前になっていた

「え、、、美希から?」

つい先ほど別れたばかりの美希の名が、携帯のディスプレイに映し出されていた

「、、、、、」


ピッ


「もしもし?」

「、、、響子、、、?」

響子は美希のその声ですぐに分かった 美希は泣いていた

「美希、、、?どうしたの?」

「うっ、、、ふぐぅ、、、響子、、、」

「大丈夫?落ち着いて」

泣きじゃくる美希に響子は冷静に声をかけた

「どうしよ、、、私、、、うぅ、、、」「どうしたの?何があったの?落ち着いて話してみて?」

親友の声を聞き少し落ち着いた美希は、響子に促されるままに話し始めた



美希が響子に電話をするつい数分前

美希は子供と一緒に自宅へと向かっていた 片手は子供と手をつなぎ、もう片方の手にはビニール袋があった

「ママ、ママ」

「?なに?誠哉」

「それ、なに?」

子供は美希が持つビニール袋を指差した

「これ?ほら、ご飯屋さん行く前に行ったでしょ?赤い看板の」

「うん」

「そこで買った美味しいものよ ママとパパが大好きなモノなの 誠哉の分もあるからね」

「、、、うん!」

その言葉を聞き子供は嬉しそうに笑って見せた

歩道橋に差し掛かり、2人は階段をゆっくりと登っていた

「パパ、もう帰ってるかなぁ」

美希は子供に語りかけるように呟いた

「わかんない」

「ふふっ、そりゃそっか」

首を振る子供を見て美希は優しく笑った

「あ、パパ」

子供は歩道橋の先を指差した

「え?」

美希はパッと子供が指差す方向を見た

そこには誠がいた

「、、、え、、、?」

美希は自分の目を疑った そこには、最愛の夫である誠が自分ではない女と抱きしめあっていた しかも相手は美希もよく知っている由美である

それを頭で理解出来るまでにかなりの時間を要した 美希はその一瞬がいつまでも続くような恐怖に似た感情を覚えた


ドサッ


美希は手に持っていたビニール袋を落とした

「、、、え、、、!?」

その音に気づきパッと振り返った誠は同時に美希と目があった














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