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  作者: 外山
184/216

神社

シティオパークを出た桐島と渡部は帰り道を歩いていた

様々なアトラクションを乗りレジャーバードというキャラクターにも会い、最後に観覧車に乗った2人は満足げに帰りの道を歩いていた

いつもの街中まで戻り、駅に向かって足を進める


「いやー、今日は楽しかったねー」

渡部は両腕を伸ばし、深呼吸をしながら言った

「おう、雨も降らなくてよかったよな」

6月というこの季節だが雨も降らずに終始快晴だった

「あ、そういえばさ、なんで今日は遊園地に誘ってくれたの?」

「ん?」

渡部からの問いに桐島は反射的に聞き返す

「私は遊園地好きで嬉しかったから訊くの忘れてたんだけど、いま考えたらなんか突然だったなって思って」

「いや別に、、、ま、お前とデートしたかっただけだよ」

桐島は軽く笑いながら流すように言った

「ふふっ、なにそれー」

渡部も桐島につられて思わず笑ってしまった

「あんま、、、した事ねえだろ?デートっぽい事、、、」

「え?」

少し真面目な口調になる桐島の方へ渡部はパッと振り向いた

「これからはいくらでも出来るけどな、、、?」

「、、、うん!」

渡部は跳ねるように元気よく頷いた

「でもさ、もうシティオパークなんて行って大丈夫?」

「? 何がだよ?」

「私の誕生日にもどこかに連れてってくれるんだよね?」

渡部は目を輝かせながらじっと桐島の目を見る

「なんだよその目は 心配すんなよ 考えてあるからよ」

桐島は笑いながら頷き、渡部の問いに答えた

「えっ、もう?」

「まああと半月しかねえからな 」

「どこどこ?どこ連れてってくれるの?」

渡部は桐島の肩を揺らしながら訊ねた

「ああ、あれだよ 葉花はばなの里ってとこ 三重県なんだけどよ」

「えっ!?葉花の里!?」

渡部はすかさずオウム返しした

「ああ、知ってたか?」

「知ってるよ!あの、キラキラな、キラキラに囲まれてる!あの、、、」

渡部はイメージだけで必死に説明する

「おうそれだよ 今日の夜景よりすげえんじゃねえかな?」

喜ぶ渡部を見て桐島は得意げに言ってみせた

「おおー、すごい!行った事無いの!葉花の里!」

渡部は葉花の里を想像しながらその景色に思いを馳せた

(よかった、、、喜んでくれて、、、)

桐島は内心ホッとしていた

「あ、そうだ、お前のバイト先にも近いうち行くからよ?」

「えっ?い、いいよー、恥ずかしいし」

渡部は軽く桐島の肩を押して照れ笑いした

「いいだろ別に 花屋だろ?なんか買って埼玉のおばあちゃんにでも送るよ」

「えー?じゃあ私がいない時間帯にしてね?」

「それじゃ意味ねえだろ」

桐島と渡部は笑いあいながら何気ない会話を交わしていた

「お前だって俺のバイト先の喫茶店に、、、、、」

桐島は言葉を止め、ふと目の前の看板に目を留めた

「、、、?」

渡部もつられて桐島の見る先を見た

そこには赤い看板があった 赤い看板に大きく【肉まん】と書いてある

「、、、、、」

桐島はその看板から目を離さず、呆然と眺めていた

「肉まん?夜の8時までだし、、、まだやってるね!」

渡部は携帯で時間を確認しながら2、3歩、桐島の前を歩いた

「ん、、、?おう、、、」

桐島は渡部の後をついて行くように足を進めた




肉まんを買った2人は一つずつ手に持ち、更に歩き続けていた

「すごいね専門店!色んな種類の肉まんがいっぱい!」

「肉まんってあんなに種類あるんだな、、、」

2人は熱々の肉まんを購入した店について、なんとなく会話をしていた

「それより、早く食っちまおうぜ 冷めるぞ?」

桐島は心配そうに手に持つ肉まんを見る

「ダメだよ ちゃんとしたとこで食べよ!」

「どこだよちゃんとしたとこって、、、ん?」

桐島はふと横に目をやった そこは急に森のようになっていた そしてその森の中には階段があり、その奥には神社があった

ここは都会の中だがその神社だけは森のように自然が溢れていた

「? どうかしたの?」

「、、、いや、、、」

桐島はその神社に妙に惹きつけられた 懐かしいような、悲しいような、その神社に入ってはいけないような、入らなければならないような

「歩、、、ここ、入ってみるか」

桐島は言うと同時に階段に足をかけた

「え?、、、入って大丈夫?」

渡部は誰かの私有地ではないかと心配しているようだ

「大丈夫だ、ここは、、、」

桐島は何故か確信を持ってそう言った だが自分でもその根拠は分からなかった




階段を何段か上がると、真正面にそのまま賽銭箱が置いてあった

街灯が少ない為、階段を上がった先は暗かった まだ薄暗い夕空が視界を保たせていた

特に何があるわけでもなく、ごく一般的な神社が建っていた

「すごいね 自然だ、、、」

階段からの真正面に賽銭箱が置いてあるのを渡部は発見した

「あっ、お賽銭箱があるよ?」

渡部は賽銭箱の前まで駆け寄った

「縄と鈴もある、、、せっかくだし、なんかお願いしていく?」

渡部はくるっと桐島の方へ振り返った

「えっ、、、?」

渡部は驚き、口をつぐんだ

「、、、、、」

桐島は神社やその周りを見ながら、涙を流していた

「せ、、、誠哉君、、、?」

「え、、、?は、あれっ、、、?」

桐島は渡部に呼ばれ、初めて自分が涙を流している事に気がついた

「、、、どうしたの、、、?」

泣いている桐島を初めて見た渡部は戸惑いながら訊ねた

「分かんねえ、、、なんだよこれ、、、くそっ、、、」

桐島は必死で涙を拭いながら渡部に背を向けた

(なんだよ気持ちわりぃ、、、変な気分になる、、、ここにいたら、、、)

桐島は俯き、胸を押さえながら息を落ち着かせようとした



『誠哉 ここはいいとこだろー?』



(、、、え、、、?)

ふと桐島の頭の中にそんな言葉が流れた



『あっ、誠哉、離れちゃダメ 危ないでしょ?』



(また違う声、、、?)

頭を押さえながら桐島はその声を必死に聞こうとした



『疲れたなー!誠哉!』


『もぉ、、、何してるのよ』


『そうか、、、やっと明日なんだよな、、、』


『、、、私、、、間違ってなかった、、、』




一気に桐島の頭の中に言葉が流れ込んでくる ズキズキと頭が痛むのを我慢しながらその言葉を聞いた 桐島は聞かなければならないような気がした



『母さんと父さんはな、、、ここで肉まん食べるのが、大好きだったんだ、、、』



(っ、、、!)

桐島は込み上げてくる涙を堪えながら胸を押さえた 字のごとく胸が押しつぶされそうな不安に心が襲われていた

「う、、、ぐぅ、、、はぁっ、はぁっ、、、」

息が切れて汗が流れる、頭痛もずっと止まらなかった

「うぅっ、、、、、っ、、、?」

ふとした瞬間、その全てが止まった 何故か流れる涙、押しつぶされそうな不安、息切れ、頭痛 それらがピタッと無くなり、そして温かい血液が全身を駆け巡るように、芯の底からの安心感が桐島を包んだ

「なん、、、、、えっ?」

少しして桐島は気づいた 渡部が桐島の背中に抱きついていたのだ

その背中に隙間が無くなるほど、渡部は全身で桐島を包み込んでいた

「歩、、、?」

桐島は自分の脇腹から伸びている渡部の腕を見ながら呼びかけた

「、、、、、」

渡部は離さないように、ギュッと強く桐島を抱きしめた

「、、、ごめんね、、、?」

「、、、え?」

「私は今まで、、、誠哉君の言葉にいっぱい助けてもらってきて、、、いっぱい色んな言葉、かけてもらったけど、、、」

渡部は桐島の背中に頬をつけたまま、一つずつ息を吸いながら話した

「私は全然言葉に出来ない、、、今の誠哉君になんて言葉をかけたらいいのか、全然分かんない、、、」

「、、、歩、、、」

「でも、、、!上手い事言えないけど、、、!でも!」

渡部は背中から頬を離し、代わりに額をつけた

「、、、私は、、、ちゃんとここにいるよ、、、?」

「、、、!」

「、、、誠哉君の、、、言う通り、、、」

2人の脳裏には同時に、一ヶ月半前のゴールデンウィークでの出来事が浮かび上がっていた




『ずっとここにいろよ、、、もう離れんな どこにも行くな いつも、俺の目が届くとこに、、、ちゃんといろ、、、!』




これは桐島からの渡部への告白の言葉でもあった

「、、、歩」

桐島は自分のへそ辺りで組まれている渡部の両手を優しく握った

「わりぃな もう大丈夫だ」

先ほどまでの不安が嘘のように桐島の心は晴れやかだった それほどまでに強く、背中に渡部を感じていた

「大丈夫なら、、、良かった」

渡部はゆっくりと桐島を離し、小刻みに頷く 急に抱きついた自分の行為が後になって照れ臭くなってきているようだ

「そろそろ肉まん食おうぜ いい加減冷めちまう」

桐島は近くにあった大きな石に腰掛けながら言った

「えっ、そんなところに座って大丈夫?」

特に何が書いてある訳でもない石だが神社という事で渡部は過剰に反応した

「大丈夫だろ そんな心の狭い神様はいねえよ」

桐島は特に気にしない様子で肉まんを食べ始めた

「もぉ、、、」

渡部は少し呆れたように息をつき、桐島の隣に腰掛けた

「バチが当たっても、、、これで半分、かな?」

渡部はニコッと笑いながら肉まんを一口食べた

「っ、、、だな」

渡部の笑顔にドキッとした桐島はそっけなく返事をし、顔をそらした

(なんだろうな、、、なんつっていいのかよく分かんねえけど、、、なんか、、、)

桐島は渡部と2人でいるこの空間に言葉にし難い感情を抱いていた

「何考えてるの?」

隣から渡部が表情を覗き込んでくる

「えっ?い、いや、、、」

不意をつかれた桐島は少し動揺する

「なんつーかさ、、、俺らは、絶対大丈夫だよな、、、」

「え、、、?」

穏やかな表情でそう言った桐島の顔を渡部は見た

「、、、どういう意味?」

渡部は首を傾げて聞き返した

「えっ?、、、そ、そのままの意味だよ!」

桐島は少し考えたが上手く言葉が出てこなかった

(これから先、、、俺らなら何があっても大丈夫だって、、、本当に思える、、、)

数多くの試練を2人で乗り越えてきたという事が、桐島のこの想いに繋がっていた

「えー?意味分かんないよ?」

「う、うるせえな!深く考えんなよ!」

「とりあえず、、、」

渡部は桐島に顔を向け、しっかりと目を見た

「、、、ずっと一緒にいれる、、、ってこと?」

渡部は小さく笑いながら桐島に訊ねる

「っ、、、そ、そうだよ」

桐島は照れ臭さを誤魔化すように肉まんを頬張った

「ふふっ、そっかー」

渡部は肉まんを食べながら楽しそうに笑う

「、、、おう」

美味しそうに肉まんを食べる渡部を見ながら、桐島はホッと息をつき最後の一口を口に放り込んだ













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