過去編〜誠〜4
両親に結婚の意思を伝え、認めてもらえた波崎美希は山田響子と2人でファミリーレストランにいた
「え?それだけで許してもらえたの?」
両親との話を美希から聞いた響子は、拍子抜けしたような声を出した
「うん、、、」
美希は照れ臭そうな表情で嬉しそうに頷き、手元のコーヒーに映った自分の顔と目を合わせた
「へ〜、私、正直絶対許してもらえないと思ってたな〜」
「え、、、な、なんでよ?」
「だってさぁ、美希のお父さんチョー怖いじゃん!」
響子は過去に見た美希の父を思い浮かべ、ぶるっと震えてみせた
「まあちょっと厳しいところもあるけど、、、」
「ちょっとじゃないわよ!昔、私が夜にあんたと遊ぼうとしただけでスゴイ怒られたの、覚えてるからね?」
「それはまあ、、、でも響子がタバコ吸ってるからよ?今は辞めたみたいだけど、、、」
美希は少しスネたように口をとがらせ、息をついた
「それにしても怖いよ〜、あんなに怒られた事、今までになかったし」
「ふふっ、そんなに?」
眉間にシワを寄せながら喋る響子に対し、美希は笑いながら答えた
「それにしても、、、美希もついに結婚かぁ〜、、、」
響子はしみじみとそう言うとアイスコーヒーを飲んだ
「なによぉそれ」
美希は照れ笑いしながら響子に言った
「いやぁ、、、私達も大人になったなぁって思って、、、小学校から一緒だからさ」
「、、、、、うん」
2人は何気無く学生時代を思い出した 年を取るにつれ、様々な経験をする事によって少しずつ考え方は変わってしまったが、美希が響子に、響子が美希に対して思う事は何も変わらなかった
「、、、そういう響子は、ないの?そういう話?」
「えぇ〜?結婚みたいな?」
「うん」
「ないよ〜!もう全然!相手いないもん!」
響子は激しく首を振りながら笑った
「ホントにぃ〜?後藤さんと仲良さそうだけど?イイ人じゃない 後藤さん」
「ダメダメ あの人は絶対ないよ なんかチャラそうだし、、、何よりあの無精髭が気にくわないのよね!」
響子は強い口調で美希の提案を拒否した
「ぶえっくしゅん!」
恭丞は何の前触れもなく大きなクシャミをした
「なにーもー、汚いんだけどー?」
由美は怪訝な表情で恭丞を見る
「悪いな、どっかで美女達が俺の噂をしてるみてーだ」
「バカじゃねーのかお前、、、」
自慢の無精髭をさすりながら得意げに喋る恭丞を誠は呆れた様子で見ていた
桐島誠、後藤恭丞、神田由美の幼馴染3人は居酒屋に集まっていた
「ところで、今日は何の話なの?」
由美は誠に訊ねた 今回、話があると由美と恭丞を呼んだのは誠だった
「ああ、、、」
誠は順を追ってゆっくりと話していった
子供が出来たという事、美希と結婚する事を2人で決めた事、美希の両親に許しを得たことを話した
「、、、ってゆう感じで、、、恭丞にはちょいちょい話してたけど由美には何も話してなかったからさ、、、」
誠は全て話し終えると、静かに笑いながら頭をかいた
「へえ〜、じゃあ完璧よね!何もかも上手くいってるんじゃない!?」
由美は小さく拍手をしながら隣に座る恭丞にも目を配った
「まあ今のとこはな 大変なのはこれからだから、、、」
誠はビールをぐっといっぱい飲み、照れをごまかした
「昔から知ってるお前らには、ちゃんと面と向かって自分の口で言いたくて、、、」
「へっ、、、カッコつけやがって、、、」
「、、、んふふっ!」
誠と恭丞の言葉に由美は嬉しそうに笑って見せた
「にしても、、、俺らの中で一番恋愛下手だったお前が最初に結婚するとはなぁ」
「ホントにねー」
恭丞の言葉を由美は全面的に肯定した
「う、うるせえなぁ、、、」
そう言いながらも誠は強く否定出来ないでいた
「あ、、、由美はどうなんだよ?彼氏いるんだろ?」
誠は思い出したように由美に訊ねる
「え?う〜んとね〜、、、」
「、、、?なんだぁ?別れの危機か?」
言葉に悩む由美を茶化すように恭丞は言った
「ううん、それはないんだけど〜、う〜ん、、、」
「、、、どうしたんだよ?」
妙に言いにくそうにする由美に誠は不思議そうに訊ねる
「う〜ん、、、ホントはまだ周りには言わないでくれって言われてるんだけど、、、2人は昔からの親友だから言うね?」
由美は手を口に添え、少し小声になった 誠と恭丞も頷き、心なしか顔を寄せた
「実は私、、、妊娠してるの!」
「、、、え、はぁっ!?」
「そっ、う、、、マ、マジかよ由美!?」
由美からの報告に誠と恭丞は度肝を抜かれた
「うん、、、今は4ヶ月なんだ だから一応、お酒も飲まないの」
由美は居酒屋にも関わらずウーロン茶を頼み、それを飲んでいた
「じゃ、じゃあ言えよな!分かってたら居酒屋なんか、、、っつうか、大丈夫なのか!?体調とか、、、」
誠はわちゃわちゃと手を動かしながら由美の体調を気遣った
「大丈夫だよぉ ちょっと前まで吐き気とかあったんだけど今は収まったし、そんなに安静にしなくていいみたいだよ?」
「ホントかよ、、、でもあれだな、腹は出たりしねえのか?」
恭丞は目線を落とし由美のお腹を見る 見た目は変わっていないように恭丞には見えた
「うん それはまだまだみたい とにかく大丈夫だから そんなに気にしなくても」
由美は首を振り、笑顔で2人に言った
「そっか、、、じゃあ由美も結婚か、、、」
誠は深くため息をつきながら嬉しそうに笑った
「そうだねぇー、今はお相手と色々相談中」
由美は両手でコップを持ち、ぐっとウーロン茶を飲んだ
「、、、4ヶ月、、、ってのはよく分かんねえけど、誠んとこはどうなんだよ?」
恭丞は首を傾げ、考えながら呟いた
「ん?」
「美希ちゃんは妊娠何ヶ月なんだよ?もしかしたら、由美の子供と同い年になるんじゃねえの?」
「あっ、、、確かに、、、」
誠は手を口に添え、考え込んだ
「えっと、、、ちょっと前に4ヶ月って言ってた気がする、、、今は5ヶ月ぐらいになんのかな?」
「へぇー、じゃあ私の方がちょっと、、、一ヶ月ぐらい遅いかもね!」
「おおー、じゃあ多分同じ学年になんじゃねえか?」
恭丞は楽しそうに2人の顔を交互に見た
「かもな!」
「ふふ、なんか楽しみだね!私達みたいに、幼馴染になるのかな?」
「仲良くなるといいな 俺らの子供」
誠は由美はまだ見ぬ子供達を想像しながら話に花を咲かせていた
それから更に数日後
誠と美希の2人はこれからの生活を話し合う為、大通りから一本外れた落ち着いた雰囲気の喫茶店にいた
すでに何度か来た事のある、恭丞の行きつけの喫茶店である
誠は会話の流れで由美の妊娠についても美希にしていた
「、、、つー訳だからさ、由美んとこの子と同い年になりそうなんだよ」
「へぇ、、、でも私、由美さんに会った事ないから、あんまり実感わかないわね」
「え、、、?ああ、そういや前、由美もそう言ってたな、、、」
誠の中では美希と由美はとうに会っているモノだという認識だった
「でも、、、そんな話、私にしていいの?由美さん、誰にも話してなかったんでしょ?」
「ああ、美希なら話していいって言ってたからさ 多分、同じ立場だからかもな 由美と美希は」
誠はそういうと大きく口を開けてパスタを食べた
カランカラーン
すると喫茶店の出入り口のドアが開いた
一組の大人なカップルが入ってきた
「、、、ゆ、由美!」
誠は入ってきたカップルを見て声を上げた
カップルは由美とその彼氏だった
「ちょっと!口にパスタ入ってるから!汚いわね!」
美希は誠に文句を言いながら自分のパスタを手で守った
「、、、?あ、誠君!?」
誠に気づいた由美はササっと2人のテーブルの元へ駆け寄った
「、、、はっ!?も、もしかして、、、誠君の彼女の美希さん!?」
由美は思わず口を押さえながら言った
「あ、はい 波崎美希です、、、由美さん、ですか?」
「はい!神田由美といいます!」
美希は少し遠慮がちに、由美は元気よく笑顔で挨拶した
「2人とも同い年なんだから、、、もっと気軽でいいと思うぞ?」
2人の他人行儀な様子に誠は違和感を覚えながら言った
「ちなみに、、、彼は浅川明義さん、私の彼氏です!」
由美は後ろにいる男に足並みをそろえ、袖を掴んだ
「こんにちは」
男は丁寧に誠と美希に挨拶をした 声や顔から察するに、年齢はこの3人よりもいくらか上に見えた 28か29歳あたりだろう
「君が桐島誠君かい?由美からよく話は聞くよ」
「あ、そうですか、、、こちらこそ、よくお聞きしてます」
明義の余裕ある大人の雰囲気に誠は少し気圧された
(なんつうか、、、しっかりしてそうだし、、、優しそうな人だな、、、)
誠は少しホッとしたように息をついた
幼馴染である由美が変な男に騙されていないか誠はずっと心配をしていたが、明義の佇まいを見て安心した
由美と明義は誠と美希のテーブルから少し離れたところに座った
「それで、、、これからどうするの?」
「え?どうする、、、って?」
美希からの曖昧な質問に誠は聞き返した
「何にも考えてないの?私達、結婚するんでしょ、、、?」
「、、、お、おう、そうだな、、、」
「うん、、、」
改めて2人で確認すると2人は少し恥ずかしくなった
「住む場所も戸籍も、生活リズムも全部変わるだろうし、、、仕事もどうするのかとか、、、考える事いっぱいあるのよ?子供が生まれたらもっと大変だろうし、、、」
「あ、そうだな、、、結構色々あんだな、、、」
「当たり前でしょ!?大変なんだからね?結婚て」
「お、おう、、、」
美希に強く言われ、誠は自分の考えの甘さに気づいた
(そっか、、、美希の両親に許してもらって安心してたけど、、、ちゃんと考えなきゃなんねえのはここからなんだよな)
誠は理屈ではその事は分かってるつもりだったが、本当の意味で理解できていなかった
(急な話だから、金もあんまり用意出来てないし、、、結婚式だって挙げられねえし、、、指輪も何も無い、、、)
誠は現状の事実を並べていくと、マイナスな事柄しか浮かんでこなかった
(、、、情けねえな、、、なんつー甲斐性の無い男なんだよ俺は、、、)
目の前の美希とお腹の中の子供を思うと、誠は自分自身に悔しさを感じた
「、、、だからとりあえず誠君のアパートで2人暮らしして、この子が生まれて生活が落ち着いたらもうちょっと広いとこに、、、、、聞いてる?誠君?」
下を向いてる誠の表情を覗き込みながら美希は訊ねた
「ん?おう、、、」
誠は顔を上げ、力なく答えた
「ちょっと、、、ちゃんと聞いてたの?私達の話なんだからね?」
「あのさ美希、、、」
美希からの追及を遮るように誠は言葉を挟んだ
「?なに?」
「絶対、、、結婚式するからな」
「、、、え?」
誠からの突然の言葉に美希は驚いた
「指輪も絶対用意するから、、、今は無理だけど、多分、子供が生まれてからになるだろうけど、、、生まれてから1年2年かかるだろうけど、、、」
「、、、、、」
「それでも、、、絶対結婚式するから 頑張って貯めるから、、、」
誠は思いの丈をそのまま口にした 情けない自分を認めた上で、美希の為に式を挙げたいと心の底から思った
「、、、今はそんな話してないでしょ!?これからの生活の話してるんだけど!?」
美希はキッと強い目つきで誠の顔を見た
「え、、、い、いやそれは分かってるけど!」
「ホントに時間無いんだからね!?この子が生まれてくるまでに生活整えないとダメなんだから!」
「う、、、ご、ごめん、、、」
美希にまくしたてられると、改めて自分の甘さを実感した
「それに、、、そのお金を貯めるのだって、、、2人で、なのよ?」
「え、、、あ、ああ」
息をつき、落ち着いた美希の口調に誠は合わせた
「それに私、誠君と違ってちょっとは貯金してるから」
「ぬ、、、お、俺だってしてるっつうの!車買おうと思って貯めてた分が、、、」
「絶対だからね」
言い返す誠の言葉を遮り、美希は一言呟いた
「え?」
「結婚式、、、約束だからね?」
美希は照れ臭さを強めの口調で誤魔化しながらも、誠の目を見て言った
「っ、、、お、、、おう」
美希からの意外な言葉に誠は戸惑いながら力強く頷いた
「、、、じゃ、会社の方にも相談しないとね 出産の休み貰わないとダメだし、その後の育児の事を考えたら辞める事も視野に入れとかないと、、、」
美希はスパッと話を現実に戻した
「うん、、、そうだな」
「、、、ちゃ、ちゃんと聞いてる?」
「聞いてるよ 大丈夫」
「、、、ならいいけど、、、」
先に待つ結婚生活、そしてまだ見ぬ子供の為に2人は一歩ずつ、前進していった