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  作者: 外山
180/216

再認識

桐島が偶然、恭丞と10数年ぶりに再会した日の翌日

恭丞から聞いた言葉の全てが桐島の気持ちを曇らせていた 今まで心の奥底に包み隠していた様々な思いが桐島の脳裏を駆け巡っていた

そんな心境でも当然日常は続く いつものように学校に行き、その後はバイトだった


「、、、、、」

テーブルを片付け、皿洗いをしながら桐島は浮かない表情をしていた

「、、、ホントに大丈夫か?桐島君」

桐島の様子を見兼ねたマスターは何度目かになる確認をした

「はい すみません、、、ちょっと考え事してて、、、」

桐島はパッと顔を上げ、苦笑いしながら答えた

(、、、くそっ、、、気にしないようにしてんのに、、、)

桐島は下唇を噛み締め、自分の心を律しようとしていた

(もうどうでもいいだろ、今更、、、両親の事なんか、、、)

自分に言い聞かせるように心の中で何度も呟く しかし、掘り出されたこの生傷はそう簡単には癒えなかった


カランカラーン


「っ、、、いらっしゃいませ!」

出入り口のドアが開く音に少し驚きながら、桐島は慌てて口を開いた

「こんにちはー、お久しぶりですねー」

笑顔でそう言いながら入ってきたのは凛だった

「おっ、、、り、凛ちゃんか、、、」

精神的に少し弱っているところを凛に見られるのは桐島としては避けたかった事態である

「、、、なんですか?嫌な顔して 私の事嫌いなんですか?」

凛は笑顔からすっと表情を落とし、冷めた目で桐島を見た

「そ、そんなんじゃねえよ 嫌な顔なんかしてねえし!」

桐島は慌てて笑顔を作り直し、首を振った

「、、、へぇ、まあいいですけど」

「、、、それより、どうしたんだよ?なんか用か?」

目の前のカウンター席に座る凛に桐島は訊ねた

「別に何もないですよ?いいじゃないですか お兄ちゃんに会いにきたんですよ」

「えっ、、、あ、、、お、おう」

桐島の動揺する姿を見て凛はニヤリと笑った

「ははっ!誠哉さんの表情は分かりやすくて良いですね それより私、お腹すいてるので誠哉さんのオススメ教えてください」

「、、、、、」

(からかって笑ってオススメ教えろって、、、相変わらずマイペースっていうか、自分勝手だなぁ)

桐島は小さくため息をつき、メニューを一通り頭に巡らせた

「、、、そういや凛ちゃんって、辛いモノ好きだったよな?」

「え?好きですけど、、、なんで知ってるんですか?」

「前、ピザにタバスコかけまくって食べてただろ?しかもハバネロピザに」

桐島は当時を思い出しながら笑った

「ああ〜、そんな事ありましたね〜、、、よく覚えてましたね」

「そりゃ覚えてるっつーの あのあと歩のやつ、全然ピザ食べれなくて閉店時間超えて食い続けてたんだぞ」

桐島は少し注意するような凛に言った

「それに、凛ちゃんの趣味っつうか嗜好っつうか、、、好みってのを初めて知ったからよ ちゃんと覚えとかねえとって思ってたんだよ」

「、、、、、」

凛はふっと俯き、桐島から目をそらした

「、、、凛ちゃん?」

凛の表情が見えなくなり、桐島は不安そうに呼びかけた

「、、、それで、オススメはなんですか?」

「あっ、そうだったな 辛いモノだから、カレーとかどうかなって」

「じゃ、それでお願いします」

凛は小さく頷きながら即答した

「、、、? おう、わかった」

凛の様子を不思議に思いながらも、桐島は頷きながら注文を受けた



「はい、カレーライスです」

桐島はカウンターに座る凛の前にカレーを置いた

「わぁー美味しそうですね!」

凛は先ほどまでの様子とは打って変わり、手を合わせて喜んで見せた

「いかにも喫茶店のカレーって感じですね 見た目は」

凛は色の濃いカレーを眺めながら手元の水を飲んだ

「おー、美味いと思うぞ?」

桐島は凛を見て微笑みながら言った

(こうやって普通にしてりゃ素直で可愛いのに、、、)

桐島はそう思った後、普段の冷たい凛を思い出し小さく息をついた

「、、、んー、美味しい、、、ですけど、ちょっと辛さが足りないですねー」

一口カレーを食べた凛は物足りなさそうに首を傾げた

「そうか?まあ、、、喫茶店のカレーってあんまり辛くねえもんだろ」

「そうなんですけど、、、でも美味しいですね」

凛は端からさらえるように上手に食べていた

「だよな?俺も好きなんだよ、このカレー 家で真似してもイマイチ上手くいかねえんだよな」

桐島は凛のコップに水を継ぎ足しながら少し嬉しそうに言った

「うんうん、、、美味しいです このちょっと具が残ってるのが私は好きなんですよね」

凛は笑顔でそう言うと、更に一口頬張った

「、、、、、」

「モグモグ、、、んん、気に入りました」

カレーを飲み込み、凛は上機嫌な様子で桐島に報告した

「、、、凛ちゃんって、カレー好きなんだな」

「え、、、?」

「なんか、、、食べ方とか見てたら分かるぞ?」

「、、、好きですけど、誠哉さんに言われるとムカつきます」

「はは!そうか?」

ぷいっと顔を背ける凛に桐島は笑いながら応えた

「あと、、、その、凛ちゃんっていうの、やめてもらえますか?」

「ん?何がだよ?」

「ちゃん付けしないでください なんか子供扱いされてるみたいでムカつくんですけど」

凛はため息をつきながら言った 先ほどまでの素直な状態からいつもの冷たい状態にスイッチが入ったようだ

「、、、んな事言われても、凛ちゃん、で慣れちまってるからな、、、」

桐島は困った様子で頭をかいた

「、、、、、」

凛はツンとした表情で桐島の言葉を無視した

「、、、はぁ、、、」

(相変わらず、、、やっかいな子だな、、、)

桐島は小さくため息をついた後、息を整えた

「凛」

「はい!なんですかぁ?」

凛は先ほどとは全く表情を変え、途端に明るい声色で答えた

「、、、、、」

(ま、ある意味わかりやすい子なのかもな、、、)

桐島は凛の笑顔を見て少しホッとした

(、、、そういや、凛ちゃんも母親ってもんを知らねえんだよな、、、)

カレーを食べる凛の姿を見ながらふと、桐島は自分の境遇と凛を重ね合わせていた

(歩の父親の話だと、、、凛ちゃんが生まれて間も無く亡くなったんだっけ、、、)

桐島は過去に聞いた渡部家の話を思い出しながら凛の生い立ちについて考えていた

「あのさ、、、」

「? はい」

おもむろに口を開いた桐島に凛は聞き返した

「凛ちゃ、、、あ、いや、凛は、、、自分の母親の事って、どんぐらい知ってる?」

「え、、、母親、、、ですか?」

桐島からの唐突な質問に凛は戸惑った

「う〜ん、、、私が物心つく前に亡くなってますからね、、、まああまり知らないですかね、、、」

凛は首を傾げながら難しそうに答えた

「その、、、知りたいって思うか?母親の事、、、」

「う〜ん、、、そうですね、、、」

うなりながら考える凛を桐島はじっと見ていた

「た、、、例えばさ、お母さんの若い頃を知ってる、なんて人が現れたりしたら、、、?」

「、、、まあ、母親との思い出とかないですし、てゆうか姉さんの母親をホントの母だと思ってたんで、、、そんなに強い思い入れとかはないですけど、、、」

凛は様々な事情を抱えていたがしっかり客観視し、冷静に分析していた

「そうか、、、?」

(そっか、、、だよな、、、)

桐島は安心したように息をついた

(やっぱそうだよな 今まで何にも気にしてこなかったんだから、、、別に今更昔の事知る必要なんて、、、)

「でももし、母の若い頃を知ってる人が現れたら、、、その人に話は聞いてみたいです」

「、、、え?」

凛の発言に桐島は裏をかかれ驚いた

「やっぱり、、、どんな人だったのかなって思いますよ 写真は見た事ありますし、、、明日香さん、名前も知ってますから」

「、、、そうか」

桐島は渡部の父親から聞いた話を思い出し、明日香という名前も思い出していた

「顔も結構似てるんですよ?でも写真だから、声も喋り方も知らないし、、、性格だって分かるはずない、、、」

「、、、、、」

「もし生きてたら、、、私の事、愛情を持って育ててくれたのかな、、、」

「、、、、、」

そう言った凛の表情は見た事がないほど悲しそうな、不安そうな、切ない表情だった 見た事がないはずなのに、桐島は凛の気持ちが痛いほど理解出来た

「あ、、、でも別にそこまで固執してる訳じゃないですよ?今は」

「え?」

「今は姉さんもいますし、、、お兄ちゃんもいますから 私は大丈夫です」

凛はコクっと頷きながらそう言うと、再びカレーを食べ始めた

「、、、ははっ、そっか、、、」

(確かにな、、、凛ちゃんの言う通りだ)

桐島は凛の前向きな言葉に考えさせられた

(血じゃない繋がりだって大事だとか、偉そうな事言ったばっかなのに、、、逆に凛ちゃんに教えてもらうなんてな、、、)

「? 何をニヤニヤしてるんです?気持ち悪い」

凛は桐島の表情を見ながら怪訝な目つきで言った

「わりぃな、凛ちゃんがあんまり美味そうにカレー食ってるからよ」

桐島はテキトーに言葉を繋いで誤魔化した


(埼玉に帰ればおばあちゃんがいて、愛がいて、焦栄みてえな友達もいて、、、千佳っていう幼馴染がいて、、、)


「あっ、だからその凛ちゃんっていうのやめてって言ってるじゃないですか?」

「いやもう慣れてるからさ 難しいんだよ」

「何が難しいんですか ちゃんを付けないだけです バカなんですか?」


(歩っていう恋人がいて、、、凛ちゃんっていう妹がいて、、、)


「うるせえなぁ バカとか気持ち悪いとか、失礼だぞ」

「客にうるさいとか言わないでください」

「うっ、、、都合良く客になりやがって、、、」


(こんだけ家族に囲まれてんだから、、、俺は恵まれてんだよな、、、それで充分だよ、、、)


「なんか言いました?」

「、、、言ってねえよ 凛」

「あっ、、、ふふっ、そうですか?」

「おう」










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