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  作者: 外山
175/216

血は繋がってねえけど

「てゆうか、、、もう帰ってこなくていいから」

「えっ、、、?」

凛からの辛辣な言葉に桐島は動揺しながら渡部を見た

「、、、凛、、、?」

渡部はバッと起き上がり、床に置いたままの携帯を見ながら妹の名を呼んだ

「気安く呼ばないで もう、、、いいから」

「ちょっ、凛ちゃ、、、」


プツッ



「あっ、、、」

桐島は慌てて携帯を取ろうとするがその前に凛は電話を切ってしまった

「、、、な、なあ歩、凛ちゃ、、、」

渡部を見て、桐島はハッと言葉を止めた 渡部は不安そうな悲しそうな表情で携帯を見つめている

「、、、、、」

凛からの言葉に傷心した渡部に、桐島は声をかける事が出来なかった

桐島は気を利かして立ち上がり、ゆっくりと玄関に向かった

(、、、今はそっとしといた方がいいよな、、、)

桐島はガチャっとドアを開き、背中を丸めている渡部を見ながら静かにドアを閉じた


(、、、びっくりした、、、凛ちゃんがあんな事言うなんて、、、)

桐島はアパートの壁にもたれながら先ほどの出来事を整理していた

そして今から1年2ヶ月前、初めて凛と出会った日の事を思い出していた





『だって、、、あんな3人と暮らしてたら、私までどうかしちゃいますから』






(あん時から、もうとっくに仲直りしてるもんだと思ってたけど、、、)

桐島は先ほどの凛の言葉と傷ついた渡部の表情を思い出していた

(意外と険悪だったのか、、、?そういう風には見えなかったんだけど、、、)

桐島は今までの渡部姉妹の様子を順に思い出すが、初めて会った日以降はいつでも仲良くしているように思えた

(にしても、、、凛ちゃんの言い方はキツイっつうか、ちょっとひでえよな、、、姉なんかいないって、、、)

桐島は改めて先ほどの電話でのやり取りを思い返す

(特に2人は、何年も別れて育った姉妹なんだし、、、母親も違う訳だし、デリケートな部分だと思うんだけどな、、、)

桐島はそんな事を考えていると、無意識のうちにポケットから携帯を取り出していた

「、、、んな事思いながら首突っ込む俺も、相当無神経かもな、、、」

ふっと息をつくようにそう呟きながら、パカッと携帯を開いた

(でも、、、ほっとけねえもんな、、、)



プルルルルル プルルルルル



字余り気味のコール音が桐島の耳に鳴り響いた

もちろんかけている相手は凛である

「あれ、、、出ねえな、、、」



プルルルルル プルルルルル


プルルルルル プルルルルル


プルルルルル プルルルルル


プルルル プツッ


「、、、何ですかしつこいですね、、、」

やっと電話に出た凛はため息をつきながら呟いた

「あ、凛ちゃん ちょっといいか?」

「、、、何ですか?」

凛は不機嫌そうな声色で桐島に訊き返した

「さっきの電話さ、、、ちょっとひでえんじゃねえか?姉なんかいないとか、、、」

「、、、はぁ、姉さんに頼まれたんですか?」

「そういう訳じゃねえよ 今も歩には聞こえねえとこにいっからさ」

「じゃあいいじゃないですか 姉さん、何にも言ってないんでしょ?」

「いやそりゃ、、、なかなか言いにくいだろ?でも歩はなんか、、、」

「それは、、、私達が普通の姉妹じゃないからですか?」

「えっ、、、」

言いにくい事をズバッと口にする凛に、桐島はたじろいだ

「それぞれ違う母親で、小中高で合わせて6年間も離れて暮らして、長女の姉さんは本家の人達とは血が繋がってなくて、私は親の事が大嫌いな、そんな姉妹だから、誠哉さんはこうして気にかけてるんですか?」

凛は早口で畳み掛けるように桐島に問いかけた

「っ、、、」

「だとしたら、、、いい迷惑ですよ おせっかいなんですよ 人の家の中に、勝手に入って来ないでください」

凛は落ち着き払った口調で強く言い放った

「、、、、、ごめん」

桐島は今までのデリカシーのない自分の言動を思い返し、小さい声で謝った

「俺は、、、親も兄弟もいねえからさ、、、実際のとこはあんま分かんねえんだけど、、、」

「、、、、、!」

凛は桐島の事情を考慮せずにした先ほどの発言を少し申し訳なく思った

「でも、、、家族はいるからよ」

「、、、え、、、?」

桐島の【家族】というワードに凛は戸惑った

「いつでも帰れる場所があるから、、、それは家族だって思ってるし、血縁も大事かもしんねえけど、、、俺の家族は、みんな縁で繋がってて、、、」

桐島は鈴科孤児院の事を思い浮かべ、喋りながら必死で次の言葉を考える

「それは、、、血よりも大事なもんなんじゃねえかな、、、とか思ってんだけど、、、」

桐島は歯切れ悪くそういうと、なんとなく気まずく頭をかいた

「、、、何が言いたいのか分かりません」

「わりぃ、なんか上手く言えねえけど、、、」

桐島は恥ずかしそうに苦笑いした

「両親にも姉にも言えねえような悩みとかあるんならさ、、、いつでも俺に言えよ」

「、、、、、!」

「兄貴みてえなもんだろ?血は繋がってねえけどさ、、、?」

「、、、、、」

桐島の言葉を聞き、凛は黙り込んだ

「、、、凛ちゃん、、、?」

「、、、私は、、、親が嫌いなんです、、、」

凛は少し躊躇った後、ゆっくりと口を開いた

「、、、ああ、そうみたいだな、、、」

「姉さんもそれは分かってくれてて、、、今日も、早く帰ってくるって約束したんです 姉さんが家を出る前に、、、」

「えっ?」

「親にも、、、私がテキトーに理由つけて言ったんですよ?怒ってるから、、、」

「あ、、、確かに歩の携帯、両親からかかってきてなかった、、、」

桐島は先ほど見た渡部の携帯を思い出していた 凛からかかってくるまで携帯は鳴っていなかった

「本当は親なんか喋りたくもないですけど、、、姉さんの為に色々理由つけたりして話したんです なのに、、、あんな感じだったから、、、」

「、、、、、」

桐島は渡部の両親と凛がテーブルにつき、夕食をとっている映像を思い浮かべた 凛の嫌悪感がその場一帯を包んでいるように桐島は感じた

「つい、、、ちょっと酷い事言っちゃったんです」

「、、、そっか」

桐島は先ほどまでの凛の態度や言動も、なんとなく理解出来た

「でも、、、ただ姉さんに甘えてただけかもしれませんね 姉さんにとってあの親は、れっきとした両親ですもんね、、、」

「、、、いいじゃねえか 甘えたら」

「えっ?」

凛は桐島からの意外な言葉に思わず訊き返した

「妹なんだから、甘えて頼りゃいいんだよ 姉と兄貴によ」

「、、、っ、、、っ」

凛は息を飲み込み、胸を押さえ気を落ち着かせようとした

(今まで、、、そんな風に考えた事なかった、、、)

両親、姉と別れ親戚の中で育っていた時も、嫌いになった親と再び暮らす事になった時も、凛はいつでも一人で気丈に振舞っていた

誰かに頼ったり甘えたりする事など、考えた事もなかったのだ

「にしてもあいつ、、、凛ちゃんとの約束破って酔っ払って、、、何してんだよ」

桐島は呆れたようにため息をついた


ガチャ!


するとすごい勢いで桐島の部屋のドアが開いた

「うぉっ!?」

桐島はビクッと反応し、一歩離れた

「あ!せ、誠哉君!もう帰るね!」

部屋から出て来た渡部は急いだ口調で桐島に告げた

「えっ?」

「、、、姉さん、、、?」

電話越しだが渡部の声は凛にまで聞こえた

「り、凛が、、、待ってるから!」

渡部は慌てて靴を履こうとするが、歩きながらなのでなかなか履けない 酔いが冷め、現状を整理出来たと同時に飛び出してきたようだ

「ちょ、落ち着けよ!まず靴履けって!」

「う、うん!でも早く行かないと、、、」

「ほら、バッグは持ってやるから!」


「、、、、、」

凛はそんな二人の会話を電話越しに聞きながら、ベッドの上で立て膝に顔をうずめていた


「あ、ありがと、、、」

ようやく靴を履けた渡部は桐島からバッグを受け取ろうとする

「いいって、家まで送ってやるから」

「え?いいよ、そんなの悪いし、、、」

「ンな事気にすんな それよりさっさと行くぞ!」

「、、、うん!」

二人はネオンの光に包まれた夜の街へと駆け出して行った

「つー訳で凛ちゃん!今からそっち行くからな!」

桐島は走りながら電話の向こう側の凛に声をかける

「、、、、、」

「、、、凛ちゃん!?」

返事がない凛に、桐島は慌てて呼びかける

「、、、早く来てくださいよー?10分以内にこれなかったらアイス奢ってくださいね」

「は、はぁ!?10分!?行ける訳ねえだろ!」

凛の無理難題に桐島は強く言い返した

「じゃあアイス決定ですねー」

「誠哉君!?どうしたの!?」

少し前を走っている渡部は軽く振り向きながら桐島に訊ねた

「凛ちゃんが電話で、あと10分で帰ってこいってよ!」

「じゅ、、、えぇっ!せ、せめて15分にして!」

「いや15分も無理だろ!」

「アハハハッ!アイスは二人の割り勘でいいですから!」


(ずっと独りだと思ってたけど、、、甘えていい人が2人もいるなんて、、、)


妹想いの姉と兄を持った凛は、ただそれだけで、忘れかけていた幸せを感じていた















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