表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 外山
173/216

情緒不安定

ある日の夜


「お疲れ様でしたー」

桐島はいつものようにマスターに挨拶をし、喫茶店の裏口から外に出た


時刻は20時半に差し掛かる頃

いつもよりも遅めにバイトを終えた桐島は家路につきながら息をついた

「ふー、、、マスターはいっつもこんな時間まで残ってんのか、、、さすがだな」

桐島は何気無くそう呟きながらケータイをぱかっと開いた

「んなっ!なんだこの着信量は、、、」

画面を見た瞬間思わず声を出してしまった 着信18件、Eメール9件というストーカーまがいの量の連絡が来ていたのだ

「誰だよこれ、、、」

桐島はまず、電話着信の方から確認していった

「早乙女さん、、、秋本、、、の2人からかかりまくって全部で18件か、、、」

桐島は呟きながら次にメールの確認をした

「早く帰ってこい、、、ウチにこい、、、つまみがない、、、また飲んでんのかよ、、、」

桐島はメールを読み上げながら呆れたようにため息混じりに言った

「ったく、、、店行けよな、、、」

(まあこれも家賃タダにしてもらうための条件だと思うか、、、)

桐島はそんな事を考えながら少し早歩きでアパートに向かった







アパートの前まできた桐島は改めて建物全体を眺めた

2階建てで、1階に4部屋の計8部屋ある

築何十年かと言うぐらい年季が入っていて、青っぽい外装も所々剥がれている

アパートの前には駐車場、その横には屋根付きの駐輪場があった


アパートについた桐島は自分の部屋には向かわず直接早乙女の部屋に向かって歩いていた

近づくと中から騒がしい声が聞こえてくる

「大家が一番うるせえってどんなアパートだよ、、、」

少し嫌味ったらしくそう言いながら早乙女の部屋のドアノブを回した

「こんばんはー、入りますよー」

桐島は軽い口調でドアを開けたが、それと同時に信じられない場面に遭遇した

水野と渡部が熱烈なキスを交わしていたのだ

体勢としては、水野が少し押される形で渡部から攻め入っているような状態だった

早乙女はそれを笑いながら眺め、秋本は部屋の隅で小さくなり、そんな秋本を須原は介抱していた

「え、、、、、はぁっ!?」

桐島の口からついて出たのはそれだけだった

「んふぅ、、、みっちーかぁわいい〜、、、」

渡部は虚ろな目で水野の顔を見ながら言った

「ちょっ、、、みーゆ、、、ダメだよぉ、誠ちゃんが見てるよ、、、」

水野も頬を蒸気させ、妖艶な瞳で渡部の目を見る

「あ、、、せーくんおかえりー、、、」

渡部は依然、水野に抱きついたまま桐島に挨拶した

「、、、いやおかえりじゃねえよ!なんだよこれ!?どういう状況!?」

桐島は手荷物をとりあえず玄関付近に置き、部屋に入っていった

「あー桐島君やっときたわねーん?おつまみよろしく 冷蔵庫にあるもの勝手に使っていいから」

早乙女は残りわずかのスルメをつまみながら桐島に言った

「作らねえよ!それより彼女と幼馴染がベタベタしてんの誰か説明出来るやついねえのか!」

桐島は怒鳴るような口調で喋りながら部屋の様子を見た ビールやつまみで溢れたゴミが散乱し、酒臭いにおいも充満していた

「それはみっちーがかわいいからだよせーくん、、、」

「お前は説明出来ねえだろうから黙ってろ!」

声をかけてくる渡部を桐島は強くいなした

「なぁにあれー、嫌らよねー、イライラしちゃってー」

渡部は回らない呂律で水野に話しかけた

「そんな事言っちゃダメだよみーゆ 誠ちゃんにも色々あるんだから」

「うん 分かったー」

そんな会話をしながら2人は顔を見合わせて笑っていた

(2人ともを殴りたい、、、)

桐島はそんな気持ちをグッとこらえ、須原と秋本の方を向いた

「なあ、これどうなってんだよ?あいつら、酒でも飲んだのか?」

何か言われるのが嫌になった桐島は、渡部達には聞こえないように須原に訊ねた

「、、、ああ 早乙女さんに騙されてな、、、」

部屋の隅でうずくまる秋本の背中を撫でながら、須原は話しだした

「まず最初は俺と梓と葵さんの3人だけだったんだけど、、、酔っ払った早乙女さんが水野を呼べって言い出して、、、それと同時ぐらいに桐島の彼女を呼べって言ってさ、、、」






数時間前


「ふ〜ん、、、あんたが桐島君の彼女ねえ〜、、、」

早乙女はテーブルの向かいに渡部を座らせ、じーっと品定めするように見る

「は、はい!あ、あの、よろしくお願いします!渡部歩と申します!」

何故かガチガチに緊張している渡部は勢い良く頭を下げた


ガンッ!


「ふあっ!」

しかし思いきりテーブルを頭にぶつけてしまっていた

「み、みーゆ!大丈夫!?」

隣に座っている水野は慌てて渡部の様子をうかがった

「う、うん、、、」

渡部は強く打った額を押さえながら頷いた

「ハハハハ!あんた面白いわねぇ!」

早乙女は渡部の様子を見て高らかに笑った

「う、うぅ、、、」

渡部は恥ずかしさやらなんやらで顔を真っ赤にした

「じゃ、これあんたらの分ね」

早乙女は水野と渡部の前にコップを置いた 中にはすでに飲み物が入っている

「あ、あの、私達まだ未成年なので、、、」

水野は申し訳なさそうにそう言いながらチラチラと渡部を見た

「へっ?ああ、ビールじゃないわよ 須原君も梓ちゃんも飲んでるジュースよ」

早乙女は秋本と須原を指し、あははと笑った

「うん ジュースやから大丈夫やで」

「俺も最初は酒勧められたのかと思ったけどな」

秋本と須原は笑顔で頷きながら水野と渡部を安心させた

「そうなんですか、じゃあ、、、」

水野は渡部の顔を見ながら反応を待った

「うん、、、じゃあ、頂きます」

渡部は頷きながらコップを持った

「じゃ、わたくし早乙女葵と、渡部歩ちゃんのハツ対面を祝して、、、カンパーイ!」

早乙女の合図に合わせ、5人は互いにコップかちあわせた







「今思えば、俺たちにジュースを飲ませてたのも伏線だったんだ、、、水野と歩に飲ませる為の、、、」

須原は絶望した声色でそう言いながらチラッと早乙女を見る

「そ、それで?どうなったんだよ?」

桐島は慌てて話の続きを求めた

「、、、乾杯の勢いでとりあえずそのまま一気に飲んだんだよ 2人に出したのは飲みやすいけどアルコールすげえキツいカクテルだったみたいでな、、、」

須原は更に続きを話し始めた







「、、、んん?」

一気に飲んだ後、水野は顔を歪ませながら自分のコップを確認した

「、、、?どうかした?ちーちゃん?」

妙な反応を見せる水野に秋本は不思議そうに訊ねた

「えっと、、、?なんか変な味ですね、、、?」

水野は迷いながら言葉を選び、早乙女に訊いてみた

「そう?」

早乙女はとぼけた声で返事をした

「ね、みーゆ ちょっと変な感じしない?」

水野は隣に座る渡部にも訊ねた

「、、、?水野さ、なんか顔赤くねえ?」

須原はジュースをテーブルに置きながら何気無く言った

「えっ、、、」

水野は須原の言葉に反応する間もなく口を塞がれた 渡部の唇によってである

「ん〜!?」

水野は声にならない声をあげ、慌てて渡部から唇を離した

「にゃ、にゃにしてんのみーゆ!ちょっ、、、」

「ん〜、みっちー、、、」

抵抗する水野に渡部は聞く耳持たず、更にキスをした

「ちょっ、みー、、、あの、、、」

「んー、ちゅーちゅぅー、みっちー、、、」

渡部は水野に何度も何度もしつこくキスをする

須原と秋本はその様子を呆然とした表情で眺めていた

「アハハハー!あんたサイコーねー!」

早乙女は腹を抱えて笑いながら渡部を褒め称えた

「ちょっ葵さん!何飲ましたんですか!?」

秋本は慌てて早乙女を問いただした

「なにって、、、普通のお酒よ カクテルってやつ 知り合いのバーテンダーからもらったチョーおいしいヤツよー!」

早乙女は楽しそうに秋本と須原に説明した

「はぁっ!?なに飲ましてんですか!?未成年ですよ!?」

「それにしても一杯で酔う子なんて始めて見たわー!」

秋本からの注意にも早乙女は反省の様子を見せず、ケラケラと楽しそうに笑っていた

「おい歩!やめろって!」

見かねた須原は渡部の肩を引き、水野から引き離そうと試みた

「ふわぁっ、、、あ、浩二君、、、」

「しっかりしろよな あんだけで酔ったのか?」

須原は呆れたようにため息をついた

「、、、ヤキモチ焼いてるの?浩二君?」

「は?」

「じゃあ浩二君にもちゅぅ〜、、、」

「バ、バカ!桐島に殺されるっつうの!」

須原は体をそらし、慌てて逃げ出した

「なに照れてんの〜?小学生の時は毎日してたのに〜、、、」

「した事ねえよ‼︎酔っただけでどんだけ記憶が改ざんされてんだよ!」

離れようとする須原の腕を、渡部は異常な力で握っていた

「歩ちゃん!もうやめぇな!」

秋本は須原と渡部の間に入り、止めようとした

「はいスキあり!」

渡部は須原を掴んでいた手で素早く秋本の腕を掴み、もう片方の手で首をロックした

「はぇっ!?あ、あの、歩ちゃん、、、?もうやめへん、、、?」

秋本は渡部の目に怯えながら引きつった笑顔を浮かべた

「、、、んちゅ〜、、、」

渡部は容赦無く秋本の唇を奪った






「それで1分ぐらいずっと梓とキスして、、、もうこんな状態だよ、、、」

部屋の隅で三角座りしながら秋本はぶつぶつとうわ言を口にしていた

「1分って、、、」

須原の説明を受け、桐島は改めて渡部を見た

(そういやあいつ、、、アルコール入ったらキス魔になるんだったな、、、)

桐島は以前、酔っ払った渡部が通行人の女性にキスをしようとした事を思い出した

「かなり、、、その、、、ディープなヤツだったみたいでよ、、、梓はノックアウトされて、キスで弱った水野にガンガン酒飲ませて、水野もあんな状態だ、、、自分も飲んでたし、、、」

須原は恐ろしそうに水野と渡部を見る

「ったく、、、2人して、、、」

桐島は水野と渡部を見ながらため息をつき、立ち上がった

「おい、その辺にしとけ2人とも」

桐島はイチャつく2人に向かって言った

「あ、ねえみっちー、せーくんが羨ましがってるよー?」

「そのせーくんやめろ!さっきから気になんだよ!」

酔っているので無駄と分かりつつも桐島は渡部にツッコんだ

「とにかく、、、2人ともちょっと落ち着け とりあえず離れろよ」

桐島は水野と渡部の間に入り、2人の肩を掴んで離れさせた

「うー、、、」

渡部は唸りながら押された方向へ倒れこんだ

「誠ちゃん、、、」

水野は頬を赤く染め、トロンとした目で桐島を見た

「千佳まで何してんだよ、、、もしこんなんがどっかにバレたらどうすんだよ?」

「え、、、?」

「お前、、、卆壬大学目指して勉強してんだろ、、、?オープンキャンパス行ったり、高校から推薦してもらったり、色々あるんじゃねえのかよ?」

「、、、、、」

水野は桐島の顔を見ながら呆然とした表情で話を聞いている

「なんかの拍子で取り下げみたいな事になるかもしれねえんだからさ、、、気をつけねえと」

「、、、、、」

「まあ、、、歩のせいみたいだからあんまり強くは言えないけどよ、、、」

桐島は横で仰向けで倒れている渡部を見ながら言った

「、、、私の事、、、心配してくれてるの、、、?」

「えっ?ああ、まあそりゃあな、、、」

「、、、ぜいぢゃぁ〜〜ん‼︎‼︎」

すると水野は泣きながら桐島に抱きついてきた

「おわっ!」

「ぜいぢゃんやざじいね〜‼︎優じい〜〜!」

「お、、、おまっ、なんだよ汚ねえなぁ!」

鼻水も涙も肩に擦り付けられ、桐島は怪訝な表情で言った

「最近じょうぢょふあんでいでね、、、すぐ泣いぢゃうの、、、」

「、、、そりゃ分かったけどよ、、、くっつくなよ」

「、、、なんで、、、?」

水野は桐島を離さず抱きしめたまま言った

「いや、、、その、歩もいるし、、、」

桐島は照れ臭そうに頬を引っ掻きながら呟いた 幼馴染に彼女の話をするのは少し恥ずかしかった

「、、、みーゆは寝てるよ、、、」

「いや須原とかも、、、あれ?」

桐島は首を捻り、周りを見たが須原と秋本はいなかった

「さっきどっか行ったよ、、、部屋に連れてったのかな、、、」

「じゃ、じゃあすぐ戻ってくんじゃねえの?」

「須原君はあの状況のあずを一人っきりにしないよ、、、」

「〜、、、」

桐島は早乙女を見たが、やはり酔い潰れて寝てしまっていた

「今は誰も見てないから、、、」

水野は更に体を寄せ、桐島に強く抱きついた

「お、おい、、、」

「、、、今だけ、、、甘えさせてよ、、、幼馴染としてで、、、いいから、、、」

水野は震えた声を絞り出すように言った 水野にとってこんな言葉は、酒の力を借りた今しか言えなかった

「、、、お願い、、、」

水野は桐島の顔を見ないでぐっと体を密着させた 今は、桐島の顔を見るのが怖かった

「、、、千佳、、、」

桐島はぐっと唇を噛み締めた後、水野の肩を掴んだ

「、、、ごめん、やっぱ歩にわりぃからさ、、、」

桐島は遠慮がちに笑いながらそう言うと、水野を体から離した

「、、、、、」

なされるがままに離れた水野は俯き、桐島からは表情がうかがえなかった

「、、、うん、、、」

水野はそれだけ呟くと立ち上がり、玄関に向かって歩き出した

「あ、、、千佳、、、」

「今日はあずのトコ泊まらせてもらおーっと」

桐島の声を掻き消すように水野は明るい口調で言った しかし、背中を向けていたためどんな顔をしていたかは分からなかった

「、、、そうか」

「うん もう眠いしねぇ、、、ふぁ〜あ、、、」

水野はあくびで開いた口に手を添えた

玄関で靴をはき、外に出ようとドアを開けた

「、、、誠ちゃん」

「ん?」

名を呼ばれ、桐島は顔を上げた 水野は外に一歩踏み出し、クルッと振り返った

「大好きだったよ」

水野はパァーっと晴れ渡るような満面の笑顔で言った

「えっ、、、は、はぁ?だった?」

「うん だって今は好きじゃないもん!」

水野は楽しそうにそう言うとイジワルな笑みを浮かべた

「、、、なんだよそれ、、、」

桐島はプッと吹き出しながら小さく笑った

「さぁ?なんだろねー?」

水野は首を傾げながらそう言い残し、バタンとドアを閉めた

「、、、さよなら、、、」

水野はドアにコツンと額を当て、吐息とともに呟いた

(、、、、、さよなら、、、、、大好きだった誠ちゃん、、、、、)

水野はそう強く念じながら、ゆっくりとドアから額を離した

「、、、、、」

水野はゆっくりと秋本の部屋に向かって歩き出した

「、、、よーっし、今日は、、、あずと一緒に泣こ、、、」

(最近、、、情緒不安定だからね、、、)

アパートから見える星空を眺めながら、水野は目からこぼれそうな涙を必死に堪えていた











評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ