そういう選択
桐島と水野の皆の輪から抜け出し、北脇を探していた
「そういえば九頭っちもいないね 九頭っちも生徒会?」
水野は思い出したように桐島に訊ねる
「いや、あいつは生徒会に入れるようなヤツじゃねえだろうし、、、謎だな」
桐島は少し笑いながら言った
「へぇ~、、、」
水野は返事をしながら周りを見渡した
人ごみや屋台の隙間から見える水道、奥にはグラウンド、見上げれば校舎も建っていた
「、、、そんなに見る程の学校じゃねえだろ」
そんな水野を見た桐島は何気なく呟いた
「、、、へへっ、確かにそうかも」
そう言いながらも水野は学校全体を眺めていた
「ところでさなっちゃんはどこにいるの?」
「さぁ、、、ま、校舎の中か外だろうけど」
「そりゃそうでしょ」
「え?、、、あ、いやそういう事じゃなくてだな、、、」
桐島と水野はそんな会話をしながら校舎の周りを歩いていた
「さなっちゃんと誠ちゃんってさ、どうゆう感じで仲良くなったの?」
水野はふと桐島に疑問をぶつけた
「紗菜と?う~ん、、、」
桐島は北脇と初めて知り合った頃の事を思い出そうとした
「確か、、、自販機の前だな」
「うんうん」
水野は頷きながら桐島の顔を見る
「なんだったかな、、、学校の自販機が調子悪かったんだよ 壊れてたんだったっけな?金入れても反応しなくてよ、そこで色々やってたら後ろから紗菜が来て、、、」
桐島はそこで言葉を止め、詳しく思い返そうとした
「なんかキツく言われたんだよ 俺がセコい事してるみたいによ」
「へぇ~、ピッキングしてると思ったのかな?誠ちゃんが」
「そうかもな、だから最初の印象はすげえ悪かったけど、、、気がついたらいつもいたな お互いに」
桐島は大体の流れを思い出し、満足そうに頷いた
「まあさなっちゃんは真面目だもんね~」
「おう、最初はうるせえくらい生真面目だったけど、、、だんだん緩くなったのかもな」
桐島の言葉に水野は更に頷いた
「じゃあ、、、みーゆは?」
「、、、ん?」
水野の問いに桐島は僅かに動揺する
「みーゆとは、、、どうやって仲良くなったの?」
「、、、歩か?」
「うん」
桐島の確認に水野はコクっと頷いた
「、、、歩は、、、え~っとな、、、」
桐島は気を落ち着かせながら記憶を遡らせた
「焦栄、、、な まず焦栄と俺は中学の時から一緒で、、、高校に入ってなんやかんやあって徒仲と焦栄が付き合い始めたんだよ んで、徒仲と歩も仲良かったから、、、そんな感じでな」
桐島は入学当時の出来事をまとめて話した
「で?どうやって仲良くなっていったの?」
「え、、、どうやってって言われても、、、」
桐島は困った様子で頭をかいた
「、、、つか、、、どしたんだよ質問ばっかり 別に面白え事、、、」
「誠ちゃんと、、、みーゆって付き合ってたんだよね?」
水野はしっかり桐島の目を見ながら問いかけた
「は、、、?」
「ね、そうでしょ?」
水野は重ねて淡々と質問をする
「な、んだよ、、、なんでンナ事、、、」
「別に誰かに聞いた訳じゃないよ なんとなくそう思ったの、、、違う?」
激しく動揺する桐島に対し、水野は落ち着いた口調で話していた
「いや、、、ま、、、違わねえけど、、、」
「、、、、、」
桐島の返事に対し、水野はあえて頷かなかった
「、、、、、」
「、、、、、」
互いに口を開かず、妙な間が空いた 2人のこんな空気などお構いなしに周りはお祭り気分で騒いでいる
「、、、多分、、、っていうか、今にして思えばっていうか、、、私はずっと、そういう選択をしてたような気がするなぁ、、、」
水野は大きく吸い込んだ息をゆっくり吐き出しながら言った
「、、、そういう選択、、、?」
「さっき誠ちゃんさ、この学校の事話してくれたでしょ?文化祭とか体育祭とか」
桐島は聞き返したが水野はそれに答えず喋り出した
「、、、ああ」
「さなっちゃんとかみーゆと出会った時の話とか、、、そういう誠ちゃんの思い出みたいな事を教えてもらった訳だけども、、、」
水野は少しわざとらしい口調を使った
「そういうの聞きながらこの校舎とか見てると、なんか寂しいっていうか、変な感覚になるんだよね」
「、、、?変な感覚?」
「うん、だってさ、、、」
水野はチラッと桐島を見た後、改めて校舎を見上げた
「一歩違えばさ、、、私も、ここにいたかもしれないんだから、、、」
「、、、え、、、」
水野の言葉に桐島は驚いた表情で息を飲んだ
「だってそうでしょ?もし私が何かの手違いで誠ちゃんみたいに誰にも引き取られなかったら、私、埼玉にいたままだったと思うしね」
「、、、ああ、まあそうかもな、、、」
「きっとそうだよ 中学も同じだったと思う、、、野波佳君とも友達になっててさ、、、」
「、、、、、」
水野が話しているのを聞きながら桐島は口を噤んだ
「高校もそうだよ、、、南涯高校でさ、さなっちゃんとも九頭っちとも同級生で、、、あ、みーゆもここ、通ってたんだっけ?」
「ああ、、、」
「じゃあみーゆとも一緒だ もちろん誠ちゃんも、、、一緒で、、、」
水野は少しずつ声のトーンを落としていった
「誠ちゃんも、、、一緒、、、だったら、、、どうだったんだろ」
「え、、、?」
「中学も高校もずっと同じで、、、私と誠ちゃん、同級生で、、、一緒に登校して、一緒に下校して、、、文化祭して体育祭して学園祭して、、、同じ思い出をいっぱい持ってたら、、、」
水野はゆっくりと息を吸い、そして止めた
「、、、どうなってたと思う、、、?」
水野はまっすぐ桐島の目を見ながら最後の問いかけをした
「、、、、、!」
桐島は戸惑いながらゆっくりと水野から目を離した
「、、、どう、、、って言われてもな、、、」
桐島は頭をかきながらごまかすように言った
「、、、、、ふふふっ!」
緊張した糸を切るように水野は小さく笑った
「えっ?」
「やっぱり私は、そういう選択しちゃうんだなぁ、、、」
水野は桐島の答えを聞かずに、満足そうに微笑んだ
「、、、は?」
「なんかスッキリした!ゴメンね?変な事ばっかり言って!」
「は、、、いやいやいや、今も変な事言ってるぞ」
「やっぱり、結局そうなんだよねー」
水野は納得した様子でぐーっと腕を伸ばした
「いや、なんなんだよ?そのそういう選択ってのは どういう選択なんだよ?」
桐島の中では話は全くまとまっておらず、整理するように訊ねた
「んー?えっとねー、そういう選択っていうのはねー?簡単に言うとー、、、」
水野の言葉を聞きながら桐島は少し身構えた
「私と、誠ちゃ、、、、、」
「おー!桐島ぁー!水野ちゃーん!」
すると少し離れた場所から2人の名を呼ぶ声がした
2人がそちらを振り向くと、手を振りながら駆け足で寄ってくる九頭の姿があった
「九頭!?」
「おう桐島!なにしてんのー!?水野ちゃんも!」
九頭は頭に仮面をつけ、片手に焼き鳥、片手にりんご飴を持ちながら2人に訊ねた
「うん九頭っち さなっちゃん探してたんだ」
「北脇か?北脇なら向こういるし行こうぜー!」
九頭は元気いっぱいに北脇がいる方向を指さした
「え?ホント?じゃあ行くぞ!九頭っち!」
「おー!」
水野の掛け声に九頭は楽しそうに答えた
「え、、、ちょ、ちょっと待てよ!」
桐島は慌てて水野を引き止めた
「あ、ゴメン!ありがとうね誠ちゃん!私、さなっちゃんとこ行くね!」
「い、いやそりゃ分かったけどよ!質問に答えろよ!」
桐島は走り出しそうな水野にぐっと詰め寄った
「、、、うん、、、」
水野はすっと息を飲み込み、落ち着いた表情を見せた
「、、、卆壬大学に、、、行ける選択ってコト」
「、、、え?」
桐島は拍子抜けしたような声を出した
「だってさー!誠ちゃんとずっと一緒にいたら私勉強しなかったと思うんだよねー!南涯高校も、そんなに進学校って訳じゃないでしょ?」
「え、、、ま、まあな」
「浜さん片岡さんぐらいの天才はともかく、私なんかじゃ無理!きっと遊んじゃうもん!」
「、、、、、」
桐島は全く予想外の水野の言葉に呆気にとられていた
「でも、、、こうして再会出来て、誠ちゃんに助けてもらったから、今も卆壬大学を目指してる訳で、、、」
「、、、、、」
桐島は以前の水野のおじいさんとのやりとりを思い出していた
「浜さんや片岡さんみたいな卆壬大学生にも知り合えたから、、、やっぱり、そういう選択してたんだよ これで受からなきゃウソだよねー!」
水野は顔を上げ、ニカッと明るく笑ってみせた
「、、、んだよ、そういう事かよ」
桐島は一息つきながら答えた
「うん!じゃ、さなっちゃんに会ってくるから!みんなに言っておいてね!」
「おう」
水野は小さく手を振り、桐島は笑顔で応えた
「九頭っちはなにしてんのー?」
「俺は向こうで腕相撲してんだよ!」
「腕相撲?」
そんな水野と九頭の会話も、桐島からはだんだん聞こえなくなっていった
「、、、なんか納得いかねえけど、、、ま、いっか」
桐島は振り返り、今来た道を戻った
「、、、、、」
水野はチラッと後ろを振り向いた 離れた場所にいる桐島の後ろ姿が見える
(なんで、、、そういう選択しちゃうのかな、、、)
水野はため息をつきながら考えていた
(誠ちゃんに告白されそうになった時も、、、喫茶店で会った時も、、、今日も、、、)
水野は九頭の少し後ろを歩きながら俯いていた
(いっつも、、、誠ちゃんと、、、付き合わない選択してるんだよね、、、)
水野はそう思いながらふと周りの校舎や駐輪場、グラウンドを見渡した その後九頭を見ながら渡部、北脇や他の皆の顔を思い浮かべた
(、、、怖いのかな、、、誠ちゃんの思い出が、、、)
水野ははっきりとした答えが出ないまま、考える事をやめた
桐島は先ほどまで皆といた場所に戻ってきた
皆はそれぞれ行きたい場所に行っており、適当にいくつかのグループに分かれていた
「どこに行ってたの~?」
戻ってきた桐島に気づいた片岡はいつものように柔らかい口調で訊ねた
「紗菜がいないから探してたんですよ 千佳と一緒に」
桐島がそう言うと片岡は相槌をうちながら頷いた
桐島はふと、渡部の姿を見つけた 渡部は水風船を取る為に屋台の前でしゃがんでいた
「うぅ~!もう一回お願いします!」
渡部は悔しそうな表情で人差し指を立てた
「姉さん、そんなのにお金使ってどうするの?」
凛は呆れたようにため息をついた
「凛ちゃんもさっき何回もやってたけどな」
野波佳は凛の後ろでボソッと呟いた
「、、、で、でもスーパーボールはまだ使い道がありますから、、、」
凛は苦しく動揺しながら言い訳をした
「、、、、、」
桐島はなんとなく渡部のしゃがむ姿を眺めていた
「風向きかな、、、?湿度?」
「んなもん関係ねえよ」
ごたくを並べる渡部の隣で外山はビシッとツッコんだ 外山は両手に水風船を持っている
「う、、、」
渡部は外山の水風船を見ながらたじろいだ
「、、、、、」
(歩とは、、、マジで色々あったよな、、、)
桐島は渡部を見ながらふと、そう思った
初めて出会った日から体育祭、文化祭、告白したクリスマス、付き合い初めた大晦日から別れた一年前の学園祭 それからの出来事も含め、渡部と過ごした全ての映像が走馬灯のように桐島の頭に流れた
(やっと、、、戻ってきた、、、)
桐島は顔を上げ渡部を見た後、近くにいる外山や野波佳の顔を見た
(歩もみんなと会えたし、、、これで、、、)
桐島はふと、南涯高校の校舎を見上げた
(これでまた、、、歩も俺も、やっと前に進める、、、今度は、友達として、、、)