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  作者: 外山
163/216


桐島が作ったカレーをおいしく平らげた一同は、その片付けに入っていた

子供達はいつものように担当の者が食器を洗い、担当以外がテーブルやイスを片付け、徒仲達は自分が使ったテーブルなどを片付けていた


「誠哉 このイスは元々あった場所に戻せばいいの?」

北脇は2つのイスを持ちながら桐島に訊ねた

食事の際にイスの数が足りなかったので先ほど違う部屋から持ってきていた その時に持ってきてくれたのも北脇だった

「あ、、、わりぃな 頼んでいいか?」

桐島はファイルを片手に忙しそうにしながら言った

「うん」

北脇はコクっと頷きながらその2つのイスを持ち、歩き出した

「待ってさなっちゃん 私も持つよ」

水野はニコッと笑いながら北脇の隣に現れた

「え?いいの?」

「そりゃあもう、ここは私の家だから お客さんにばっかり仕事させらんないでしょ?」

「、、、ありがとちいちゃん」

北脇は嬉しそうに微笑み、片方のイスを渡した




2人は一つずつイスを持ちながら薄暗い廊下を歩いていた

「ここの時間割ではこの後どういう予定なの?」

北脇は何気なく水野に訊ねた

「え~っと、、、ちょっとだけ何かして、就寝、だったかな?」

「え?何かって、、、何するの?」

水野の不十分な答えに北脇は聞き返した

「日によって違うからね 日記を書いたり~、絵本を読み聞かせしてもらったり~、自由時間だったりね その自由時間で慌てて宿題する子もいたり!」

水野は昔の毎日を思い出しながら楽しそうに話した

「へぇ、そうなんだ」

北脇もそれを少し嬉しそうな表情で聞いていた


「、、、そういえばさ、このイスを向こうの部屋に持ってきてくれたのもさなっちゃん?」

水野はふと気にかかり、後ろを指差しながら言った

「うん、数えてみたらイスが足りなかったから この奥の部屋から借りてきてたの」

北脇は反対に、前を指差しながら水野に説明した

「そうだったんだ、、、なんかゴメンね?さなっちゃんにばっかりこんな事させて」

「ううん、みんな何かしてたし、、、それに夕食をご馳走になったんだから、ちょっとぐらい手伝わないとね」

申し訳なさそうに謝る水野に対し、北脇はなんでもない笑顔で応えた

「、、、んふふっ」

水野は声を出さないように含み笑いした

「、、、な、なに?」

水野の怪しい笑い方に、北脇は警戒した

「、、、やっぱり、さなっちゃんは可愛い!」

水野ニヤニヤ笑い、前を見たまま言った

「え、、、な、なによそれ、、、」

急な水野からの言葉に、北脇は一気に顔を赤くした

「ねえねえ、彼氏とかいる?」

水野は北脇にグッと顔を寄せ、興味津々で訊いてきた

「い、いないわよそんなの、、、」

まじまじと見つめる水野に対し、北脇はぷいと顔を背けた

「ウッソー?じゃあじゃあ、好きな人は?」

「うっ、、、」

北脇は水野のその質問に少しひるんだ

「な、なによいきなり!」

北脇は強く言い返す事で話を終わらそうとした

「だって気になったんだもん ね、好きな人ぐらいいるでしょ~?」

水野は北脇の頬をぷにぷにとつつく

「~~!、、、いない」

「ウッソだ~!てゆうかホントに彼氏いないの?」

「だからいないってば!」

「え~?おかしいなぁ、、、」

水野はそう言いながら首を傾げ、ぶつぶつ呟いていた

「もう私の事はいいから、、、じゃあちいちゃんは?」

北脇はため息をつき、自分への質問を止めた

「ん?」

水野は首を傾げた

「彼氏とか、いる?」

「、、、いないなぁ」

水野は首を傾げたまま少し上を見ながら言った

「じゃあ、好きな人は?」

「いるよ」

北脇の言葉に水野はすぐに答えた

「え、、、いるの?」

「うん」

北脇は思わず聞き返したが、水野の答えは変わらなかった

「、、、ど、どんな人?」

なんだかんだ人の事は気になる北脇は興奮気味に訊ねた

「う~んっとね~、、、男の人」

水野はニッと笑いながら言ってみせた

「~~!分かってるわよ!」

北脇は水野に遊ばれてような気分だった

そんな会話をしていると、イスを片付ける部屋に着いた ガラガラとドアを引き、イスが多数重なっている場所に向かって歩き出す

「ちいちゃんが好きな人かぁ、、、やっぱりちいちゃんと同じで、勉強が得意?」

やはり気になる北脇は何気なく水野に訊ねた

「ううん むしろ苦手なんじゃないかな?」

「へぇ、ちょっと意外、、、」

水野の答えを聞き、北脇はその人のイメージを僅かに膨らませる

「ふふっ、気になる?」

北脇の様子を見た水野はクスクス笑いながら訊ねた

「え、、、う、うん、そりゃあね、、、」

北脇は少し照れながらもそれを認めた

「誠ちゃんだよ」

水野はイスの置き場所の前に立ち、いつもの声で言った

「、、、え?」

「誠ちゃん」

「、、、な、何が、、、?」

北脇はイマイチ意味が分からず、反射的に訊ねた

「私の、好きな人」

水野は目の前の列にイスを重ねた

「、、、、、」

北脇は驚き、少し気まずそうな表情で目を逸らした

「、、、もう、そんな顔しないでよさなっちゃん!」

水野はポンと北脇の肩を叩いた

「う、うん、、、」

「びっくりした?」

「、、、びっくりした」

北脇はゆっくりと頷きながらイスを片付けた



廊下を歩き、皆が待つ部屋へと戻りながら水野は北脇に話をしていた

孤児院にいた頃の話、桐島と再会した話、桐島に告白されかけた話 一つ一つ、淡々と話していった


「え、、、誠哉に告白されたの?」

北脇は水野の話に驚くばかりだった

「いやいや、告白された訳じゃないよ?言いかけたっていうか、、、」

「ちなみにそれ、いつ頃の話?」

「え?、、、う~ん、、、春休みで、4月にはなってなかったかなぁ?確か」

水野はその日の自分の服装やしていた事などを手がかりに思い出していた

「それでそれで?どうなったの?」

北脇もやはり恋バナには興味があるようだ

「どうって、、、どうにも」

水野は顔を下げながら小さく首を振る

「え、、、」

「止めたの 誠ちゃんが言いそうだったから」

「言いそうって、、、告白?」

「うん」

「、、、なんで止めたの?誠哉の事好きなんでしょ、、、?」

北脇はここまで質問を続け、少し気を落ち着かせた

「うん、、、でも、誠ちゃんは私の事、好きじゃないから」

水野は目線を下げ、寂しそうな笑顔で言った

「、、、、、」

北脇は水野の言っている意味がよく理解出来なかった しかし、当人にしか分からない空気があるのだろうと感じ、質問はしなかった

「まあでも、、、ちょっと後悔してるけどね」

水野はいつもの明るい口調のまま言った

「、、、え?」

「あの時、誠ちゃんの言葉全部聞いてたら、、、どうなってたかなって、、、正直ちょっと思う」

水野はそう言うと、北脇の方を向き苦笑いした

「、、、、、」

「、、、ま、私が言うのも変な話だけどねー カッコつけるからだっつう話!」

水野は何気なく足を止め、廊下の壁にもたれた

「、、、じゃあ、今からでも遅くないじゃない」

「え?」

「ちいちゃんさえその気になればいいんでしょ?今度はこっちから言えばいいじゃない!」

北脇はぐっと水野に詰め寄りながら力説した

「、、、で、でもさ、なんか都合よくない?こっちは一回断ってる訳だし、、、」

「都合よくたっていいでしょ!?好きなんでしょ!?」

「っ、、、」

北脇にここまで真剣に答えられると思ってなかった水野は戸惑っていた

「、、、好きなんでしょ?」

北脇は改めて水野の気持ちを確かめた

「、、、、、うん」

水野はコクッと小さく頷いた

「誠哉だってちいちゃんに告白しようとしてたんだから、、、そうそう気持ちだって変わってないわよ」

「、、、どうかなぁ」

水野は頷く時と同じぐらい小さく首を傾げた

「女々しいとこもある奴だけど、そんな軽い奴じゃないわよきっと」

北脇は深く頷きながら桐島の顔を思い浮かべていた

「、、、ふふっ」

そんな北脇を見た水野は吹き出すように笑った

「っ、、、な、なによ?」

「、、、ううん、さなっちゃんに言ってみてよかったなって思って!」

水野は満面の笑顔でそう言うと、北脇の腕に抱きついた

「そ、そう、、、?何も大した事言ってないけど、、、」

「いえいえ、名言の連発だったよ?」

「どこがよ、、、」










数時間後


桐島は一人、鈴科孤児院の大浴場に入っていた

入浴を済ませた桐島は脱衣所にて体を拭き、上下スウェットを着用していた

「ふぅ~」

(やっぱり広い風呂はいいな、家の風呂とはなんかスッキリ感が違う)

桐島は大きく息を吐き、ドライヤーを手にした

(焦栄達も帰ったし、ガキ共も千佳達が寝かしつけてるはずだし、、、今日の仕事は終わったな、、、)

桐島はドライヤーで髪を乾かしながら再び息をついた

(明日は学園祭か、、、南涯高校に行くのは久しぶりだな ほぼ1年か、、、)

桐島が銘東高校に転入したのは2年の二学期である 現在は3年の一学期だ

(歩もさっき風呂に入ったし、、、風呂の湯は抜いたし、タオルも残ってないな)

桐島は一つ一つ確認しながら脱衣所を見渡す

「、、、よし」

桐島はコクっと頷き、脱衣所の出入り口を開けた

「、、、っっ!!」

開けた瞬間、桐島はビクッと体を震わせた 脱衣所の目の前の廊下の長椅子に渡部が座っていたのだ

「あ、誠哉君、、、よかった、早く出てきてくれた、、、」

桐島の姿を確認した渡部はホッと胸を撫で下ろした

「お、おう、、、なんだよ びっくりすんだろ そんなとこいたら、、、」

桐島は胸を押さえながら注意するように言った

「うん、ごめん、、、」

「んでどうしたんだよ?時間的には早えけどもう就寝時間だぞ?」

時刻はもう少しで21時半といったところである

「そうなんだけど、、、あの~、、、」

「?」

「部屋、、、分かんなくなっちゃって、、、」

「、、、は?部屋?」

渡部の言葉に桐島は抜けた声を出した

「う、うん、あの、ご飯とか食べた部屋は分かるんだけど、寝る部屋がどこか分かんなくなったの」

「え、、、あ、そうか?確かにちょっと広いし、、、いやでもウロウロ見て回れば分かるだろ?」

桐島は一度納得しようとしたが、やはり腑に落ちなかった

「そうだけど、、、ここの廊下なんかずっと薄暗いし、、、ウロウロするの怖いし、、、」

「、、、まあ分かった どうせ俺の寝室も近いし、一緒に行くか」

「うん、ありがとう、、、」

渡部は申し訳なさそうに頷きながら桐島の後ろについた


「てゆうか、風呂上がってからずっとそこに座ってたのか?」

桐島はふと気になり、渡部に訊ねた

「うん、誠哉君と入れ代わって部屋に向かおうと思った時、その部屋がどこか分からない事に気づいたの」

渡部はそこまで説明した後、ハッと口を抑えた

「あ、あの、勘違いしてたら困るから言うけど、別にこの道を1人で歩けない訳じゃないよ!?ただ、ウロウロするのが怖いってだけで、はっきり道さえ分かってれば問題ないから!」

渡部は急に思い出したように言葉を並べた

「分かってるよ それより一応、ここの形覚えとけよ これからも来る事あるかもしんねえし」

「、、、うん」

慌てて説明したのに対し、あまり反応がない桐島に渡部は少し恥ずかしくなった

(これからも、、、か)

渡部は桐島の背中を見ながら小さくため息をついた

「まずここ左な?まあここは分かるか」

最初の分かれ道で桐島は左を指差しながら言った

「うん、、、あ」

渡部は右を見て、ふと思い出したように声を出した

「、、、ん?」

桐島は後ろを振り返り、渡部の表情を窺った

「ここ、、、右にいったらあの場所だっけ、、、?」

渡部は薄暗く続く廊下の奥を見ながら呟くように行った

「え、、、?ああ、右は、、、真っ直ぐ行ったら渡り廊下があってその奥に別の棟があるな そっちの棟は一切手付かずで今は使われてねえけど、、、」

「、、、中庭に行けるんだよね?」

「ん、ああ 渡り廊下からな」

「じゃあ、、、久しぶりに行かない?」

「、、、え?」

桐島がふと渡部の方を見ると、笑顔で右を指差していた

「久しぶりっていうか、私はまだ一回しか行った事ないけど」

「、、、そう、だっけな」

桐島は軽く頭をかきながら渡部から目をそらした

「まあ名古屋から埼玉だし、なかなかこれねえし、、、じゃあ、、、行くか」

「うん」

2人は右に向かって足を進めた
















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