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  作者: 外山
159/216

ストラップの裏側


午後6時頃

桐島は1人、孤児院の調理室にて夕食を作っていた

大きい鍋を使い、大量のカレーを作っていた

炊飯器は2つ使っていた

一つはタイマー付きで蒸しも勝手にやってくれ、ピッピッとボタンで使える近代的な炊飯器

もう一つは旧タイプで、火を自分で調節するタイプだ コンロのように火をつけ、あとは自分で判断しながら強めたり弱めたりするのだ

旧タイプの方が不便だが、近代的な炊飯器に比べてかなり多い量のご飯が炊けるので孤児院であるこの施設では重宝されていた


「、、、よし、あとは煮るだけだな」

桐島は鍋に蓋をして、ふぅとため息をつき、時計を見た

「もう6時か、、、って事は、風呂入ってるよな」

桐島はそう言いながらも、少し不安だった

(まあ千佳がいるから大丈夫だとは思うけど、、、風呂って何かと危ないからな ちゃんと入れるか?)

桐島は腕をくみ、首を傾げながら考え込んだ

「、、、やっぱおばあちゃんにも一緒に入ってもらうべきだったかな、、、」

桐島は悩みながらまな板や包丁を洗い出した

(まな板の汚れが落ちにくい、、、傷も多いし、替えた方がいいな、、、)

後でおばあさんに言おう、と桐島が思った時、ふと廊下から足音が聞こえた

「、、、?」

(また凛ちゃんか、、、?いや凛ちゃんは一緒に風呂に入ってるはずだし、、、)

桐島は洗い物の手を止めずに、チラッと調理室と廊下の出入り口を見た

(おばあちゃんか?じゃあついでにまな板の事言うか、、、)

桐島は再び前を向き洗い物を続けた

足音はだんだん近づき、調理室の前に来て立ち止まった

「あの、おばあちゃん まな板がちょっ、、、」

と、振り返りながら話す桐島はそこで言葉を止めた

振り返った先、調理室に入ってこようとしていたのは渡部だった

「え、、、?」

急に声をかけられ、渡部は驚きながら固まった

「えぁっ、、、歩?」

「、、、うん」

動揺する桐島に対し、冷静になった渡部はコクっと頷いた

「あ、、、そう 悪ぃな おばあちゃんかと思って、、、」

「、、、うん」

「、、、、、」

特に表情を変えずに頷く渡部に、桐島も落ち着きを取り戻し、再び前を向いてまな板を洗っていた

(なんだ歩か、、、びっくりした、、、)

桐島はまな板に水をかけながら考えていた

(、、、あれ、、、歩って、千佳達と風呂に入ってるはずじゃ、、、?)

桐島はその事に気づき、疑問に思った

「、、、、、」

桐島はバレないようにチラッと渡部を見る

渡部は桐島の後ろのちょうど正面にいた 調理室の壁にもたれながら下を向いている

(つか、、、何しにきたんだ、、、?)

桐島はとりあえず洗い物を続けた

「、、、、、」

「、、、、、」

桐島にとっては気まずい沈黙が流れた

(う~、、、やっぱまだ機嫌悪いのか、、、?さっきは楽しそうにガキ達と遊んでたけど、、、)

桐島は洗い終えたまな板を立てかけ、次に包丁を洗っていた

(こんな感じでこの後大丈夫か、、、?)

桐島は渡部に悟られないようにため息をついた

「、、、誠哉君」

渡部は落ち着いた声で桐島に声をかける

「えっ、、、ん?なんだ?」

桐島は洗った包丁についてる水分を素早く布巾で拭った

「何か、手伝う事ある?」

「、、、手伝う事?」

「うん」

桐島は包丁を立てかけ、振り返りながら言った

「いや、特にねえけど、、、あとこれ煮込むだけだからさ」

桐島はカレーの材料を全て入れた鍋を指差しながら言った

「そうなんだ」

渡部は小さく頷きながら言った

「、、、、、」

桐島はどうしていいか分からず、炊飯器や水道や鍋を順番に見ながら気を紛らわしていた

「、、、てゆうか、風呂入ってんじゃなかったっけ?」

桐島は何気なく渡部の方を見ながら言った

「、、、さっきみっちーに頼まれたの 調理、1人じゃ大変だろうから手伝いにいってあげてって」

渡部は目線を下げ、床のタイルを見つめながら言った

「みっちー、、、ああ、千佳か ふ~ん、、、」

桐島は頷きながら渡部の行動に納得した

「でもまぁ、、、特にねえかな」

「そう、、、」

「、、、、、」

「、、、、、」

桐島はやりにくそうに頭をかきながら、ふとテーブルに目をやった

「あ、、、じゃあこれ、向こうの部屋まで持っていってくれるか?」

桐島は銀色のスチーム製のカゴに入ったお盆を指差しながら言った

「、、、うん」

渡部は頷きながらカゴに手を伸ばした

桐島はその横のカゴを持った そこにはカレーを盛る為のお皿が入っていた






2人はそれぞれ荷物を持ち、調理室を出て廊下を歩いていた

お皿とスチーム製のカゴが擦れ合い、耳につく音がなっていた


「この廊下さ、なんか薄暗いだろ?節電の為かなんかで電気が点かねえようになってんだよ」

桐島は天井の蛍光灯を見ながら言った

「へぇ、、、」

「今はまだマシだけどな 夜中になると外から差し込む街灯だけでよ 昔は千佳とかは怖がってたな 確か」

「そう、、、」

「、、、、、」

先ほどから何を言ってもイマイチ手応えが無く、桐島は困っていた



部屋にお皿とお盆を置いた2人は調理室に戻った

とは言っても特に何をする訳でもなく、桐島は時々カレーを混ぜ、渡部は立っているだけだった


「お、ほら、だんだんカレーのにおいしてきたろ?」

桐島は鍋の蓋をあけ、混ぜながら渡部に訊ねる

「うん、、、」

渡部はチラッとだけ鍋を見て頷いた

「このでけぇ炊飯器さ、珍しいだろ?ちょっと古いタイプでな ここで火の調整とかすんだよ」

桐島は炊飯器を指しながら渡部に説明する

「うん、、、」

しかし渡部はただ頷くだけだった

「、、、、、」

桐島は呆れた様子で小さく息をついた

「、、、あのよ、いつまで怒ってんだよ?」

「、、、何が?」

「何がじゃねえだろ なんか怒ってんじゃねえか」

「、、、別に怒ってない」

渡部はぷいと顔を背け、ため息混じりに答えた

「、、、そんなに嫌か?ここ」

「、、、そうじゃない」

渡部は小さく首を振る

「じゃあなんだよ 埼玉が嫌なのか?」

「、、、ホントに、今は怒ってる訳じゃないよ ごめん」

渡部は困ったような笑みをこぼしながら言った

「え、、、?」

今日1日、ずっと表情が変わらなかった渡部の笑顔に桐島は少し驚いた

「ごめんね、、、ちょっと疲れてるのかな、、、」

渡部は首を傾げながら肩を持ち、小さく腕を回した

「、、、、、」

桐島は渡部の様子を見ながらたまにカレーを混ぜる

「そっか まあ子供の相手なんて滅多にしねえだろうからな そりゃ疲れるよな」

「う、うん、そういうのもあるかな、、、うん」

渡部は肩をさすりながら頷いた

「明日は学園祭だし、何かと疲れるだろうから、今日は早めに寝ねえとな」

「うん、、、」

「みんなとも久しぶりだしな」

「っ、、、うん、、、」

渡部はふと顔を逸らし、小さく頷いた

「、、、やっぱりな」

桐島はふっとため息をついた

「、、、な、何がっ!?」

渡部はキッと桐島を睨みながら言った

「お前、、、徒仲達と会いたくないんだろ?」

「、、、、、」

桐島は鍋に蓋をし、体を渡部の方へ向ける

「そんな訳、、、ない」

渡部は小さく首を振りながら答えた

「、、、いくら事情があったっつっても、いきなり連絡も出来なくしたんだもんな、、、」

「、、、、、」

「でも大丈夫だって あいつらはそんな事でいつまでも怒ってねえよ」

「、、、分かんないでしょ そんなの、、、」

渡部は俯いたまま、桐島の言葉に言い返す

「そりゃ、、、もしかしたらみんな何も思ってないかもしれないけど、、、でも、なんかズルい気がするの」

渡部は目線を下げ、下を向いたまま今の気持ちを言葉にした

「ズルい?」

「うん、、、だって私の勝手な事情で、もうみんなとは会わないって決めたんだよ、、、?なのにまた、今度は私の都合で会いたいなんて、、、」

「、、、、、」

「なんかスゴく身勝手っていうか、、、そんな勝手な自分が嫌だよ、、、」

「、、、またそれかよ」

桐島はため息混じりに呟いた

「え?」

「緋斬との時も、、、俺と別れた理由でそんな事言ってたよな」

「っ、、、?」





『、、、付き合ってるのは誠哉君なのに、、、誠哉君より緋斬君を優先してるような気がして、、、そんな自分がイヤだったの!』


『誠哉君に迷惑をかけてる自分が、一番キライだから、、、』





「意外とプライド高いっつうか、、、我が強いとこあるよな」

「うっ、、、」

そう言われると、渡部は妙に恥ずかしかった

「お前はそう言うけどよ、、、相手の気持ちはどうなるんだよ?」

「えっ、、、」

「緋斬の時も、、、俺と別れた理由は、みんなと別れた理由と同じなんだろ?」

「、、、うん」

「お前がいくらもう会わないって決めても、、、あいつらは、お前と会いたいって思ってただろうな」

「、、、、、」

「多分、今もそうだろ、、、」

「、、、、、」

渡部は俯いたまま、ギュッと拳を握った

「、、、本当は、、、それだけじゃないの、、、」

「、、、え?」

「本当は、、、怖いの みんなと会うのが、、、」

「、、、、、」

桐島は少し驚いた表情で渡部を見る

「麻癒達がもしかしたら、、、私なんかもう友達じゃないって思ってて、嫌われてたらって思うと、、、怖いの」

「、、、あのなぁ、徒仲がそんな事思う訳、、、」

「分かんないじゃんそんなの!」

「っ、、、」

急に声を荒げた渡部に桐島はグッと口をつぐんだ

「もう、、、私、ちょうど1年も会ってないんだよ、、、?しかもあんな別れ方して、、、」

「、、、、、」

「怖いよそりゃ、、、怖いに決まってる、、、」

「、、、そうか」

桐島は深く頷いた

「、、、今から1ヶ月ぐらい前にさ、徒仲とか焦栄が名古屋に遊びに来たんだよ」

「、、、?」

急に話を始めた桐島を渡部は不思議そうに見る

「つうか歩にも言ったよな、ほら、お前が喫茶店に来た日な 千佳と初めて会った日」

「う、うん、、、」

「あの日からちょっと経って、、、徒仲が電話してきたんだよ 忘れ物したかもって」

「、、、、、」

渡部はよく分からないまま桐島の話を聞いていた

「なんかすげえ焦りながらさ、大事なモノだから探してくれって、不安そうにな」

「、、、、、」

「んで、探したら見つかったんだよ」

と、桐島はズボンのポケットから何かを取り出した

「ストラップなんだけどよ 多分バッグかカバンかに付けててなんかの拍子で外れたんだろうな」

「、、、?」

渡部はグッとそのストラップを見るが、ますます桐島の話が分からなくなってきた

「見た事あるか?これ」

「、、、ない、と思うけど、、、」

渡部は首を傾げながらそのストラップを見た

すると桐島はそのストラップを裏返した

「、、、あ」

渡部はストラップの裏側を見て、目を見開いた

ストラップの裏側には、渡部と徒仲、2人のプリクラが貼ってあった

互いに満面の笑みで抱き合い、写り方など全く気にしていない様子だった

「これ、、、」

渡部は震えた声を抑えながら桐島からストラップを受け取る

「中学ん時か?これ」

「、、、うん」

渡部は顔を下げ、震えながら答える

「すげえ楽しそうにしてんじゃねえか こんな笑ってよ」

「ち、違うよ、、、麻癒がこそばしてきたの、、、」

「、、、確かにそうも見えるな」

桐島は頷きながら優しく答えた

「あいつな、、、ストラップはともかく、これは大事なモノだって言ってたぞ」

「、、、うん、、、うん」

渡部は俯いたまま何度も頷いた

「いつも持ち歩いてんだろうな、、、お前と連絡取れなくなったこの1年の間も、、、」

「うん、、、」

「徒仲は、今でもお前の事、親友だって思ってんだよ」

「、、、うっ、、うぅ」

渡部はストラップを握りながら、ついに泣き出してしまった

「うぐっ、、、うぅっ、、、」

渡部は肩を震わせながら手で涙を拭う

「あと、もう少しで徒仲達来るからな」

「ふぇっ、、、へぇっ!?」

渡部は目を真っ赤にしながら驚き、桐島を見た

「孤児院に着いてすぐ呼んだんだよ 最初からその予定だったからな」

「えぇ、、、ふぐっ、、、」

渡部は色んな感情のせいで涙が止まらなかった

すると廊下から何者かが調理室に入ってきた

「わぁ~カレーのイイにお、、、」

カレーの匂いにつられて入ってきたのは徒仲だった

「えっ、、、」

徒仲は目の前の光景に驚き、息を飲んだ

「ううっぐ、、、ふぐ~、、、麻癒~」

渡部は涙を流し、鼻水をすすりながら徒仲を見る

「あ、歩ちゃん、、、」

徒仲は渡部を指差しながら言った

「、、、が、誠哉君に泣かされてる!?久しぶりに会った歩ちゃんが久しぶりに帰ってきた誠哉君に泣かされてる!?」

徒仲は混乱し、ひたすら今の状況を口に出した

「俺が泣かした訳じゃねえよ」

「麻癒~!麻癒~!」

渡部は泣き声を上げながら徒仲に抱きついた

「きゃっ!あ、歩ちゃん!どうしたの!」

徒仲はもたれかかってくる渡部を小さい体で支える

「麻癒~、ごべん~!麻癒~!」

「も、もう何で泣いでんの歩ぢゃ~ん!」

徒仲も渡部につられて泣き出してしまった

「うぐっ、、、ふぅ~、、、麻癒~!」

「泣がないでよ歩ぢゃ~ん!」

2人して泣きながら抱き合っていた


「なにこの声、、、」

と、恐る恐る廊下から調理室を覗いてきたのは安川だった

「なっ、、、」

安川は両手を口に抑え、驚いた表情をした

「どうしたの真奈美?」

後ろにいた瞬は調理室を覗こうとする

「キ、キリシマンがあゆみんと麻癒ちゃんを泣かせてる、、、」

「は?」

安川の説明を全く理解出来なかった瞬は自分自身も調理室を見た

「、、、ホントね」

瞬は細かく頷き、安川と顔を見合わせる


「麻癒!麻癒!ごべんね~!大好ぎだよ~!」

「歩ぢゃん意味分がんないよ~!」











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