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  作者: 外山
158/216

大好きな人


ゴールデンウイーク初日


桐島、渡部、凛、水野の4人は埼玉に向かう新幹線に乗っていた

時刻は午後3時 ちなみに南涯高校の学園祭は翌日の10時からである 前日に埼玉に行く事になった理由は鈴科孤児院と桐島の都合だ 2週間程前、桐島がゴールデンウイークに帰る事を孤児院に連絡すると、鈴科愛が普段は孤児院の仕事で参加しない学校行事、林間合宿に参加する事になったのだ 桐島が孤児院で仕事をしてくれるなら、という話だった 桐島は快く引き受けたはいいが、学園祭はゴールデンウイーク2日目からだった その為、学園祭の前日になったのである


「久々ですね~埼玉、、、普段行く事は絶対ないですしね」

凛は携帯をいじりながら何気なく呟いた

「、、、だろうな」

「皆さん元気ですかね?」

凛はワクワクした表情で前屈みになり、桐島に訊ねる

「さあ、、、元気なんじゃねえか?」

「もう、テキトーにあしらわないでくださいよぉ」

凛は頬を膨らせ、わざとらしく怒ってみせる

「、、、、、」

桐島は凛の顔をじっと見ながらある事について考えていた

「、、、?」

凛は急に黙って顔を見られ、少し戸惑う

「リンリンはさぁ、私達の一つ年下だっけ?」

「、、、え?あ、私、、、ですか、、、?」

水野がいきなりつけたあだ名に凛は動揺しながら聞き返した

「うん!」

「リ、リンリンですか、、、」


「、、、、、」

桐島はそんな2人を視界に入れながらも、殆ど意識していなかった

桐島が先ほどから考えているある事、それは、凛には実の母親がいないという事

渡部は姉妹関係に当たるが腹違いの姉妹だ 現在の母は渡部の産みの親で、凛の母は凛を産んだ後、不慮の事故で亡くなっている 詳しくは【名古屋行】~【埼玉行】にて

(よく考えたら凛ちゃんは、、、俺や千佳と近い状態にあるんだよな、、、)

明るくなったり真面目になったり毒を吐いたり、色んな面を柔軟に使いこなす凛の事が、桐島はなんとなく心配だった


「、、、どうしたんですか?大丈夫ですか?」

ずっとボーっとしている桐島に、凛は首を傾げながら訊ねた

「ん?あ、ああ、、、」

桐島は凛の声でハッと我にかえった

「久しぶりの埼玉が楽しみなんですか?」

凛はニコッと笑いながら冗談混じりに言った

「いや、、、つうか、なんでそんなにネコかぶってんだよ?」

「え、、、」

桐島の問いかけに凛は表情が強張る

「もう埼玉に着いた時の事考えてスイッチ入れてんのか?つうか別にあいつらにネコかぶる必要も無いと、、、」

「なに言ってるんですか誠哉さん?私は普段からこうじゃないですか?」

凛はニコニコ笑いながら桐島の言葉を否定する

「は?何言ってんだよ気持ちわりぃな 普段はそんなわざとらしい笑顔しねえだろうが」

「、、、ひどいですわざとらしいなんて、、、誠哉さん、ずっと私の事そんな風に見てたんですね、、、」

凛はまたもやわざとらしく悲しい表情を作り、俯いた

「はぁ?どうしちまったんだよお前は」

「ちょっと誠ちゃん さっきから何言ってるの?リンリンが可哀相じゃん!」

水野は桐島の言葉を遮るように注意した

「え?いやこいつが、、、」

桐島はそこまで言いかけて、凛がネコをかぶっている理由が分かった

「ごめんねリンリン!怖かったよね?誠ちゃんも悪気はないと思うんだ」

「はい、、、ありがとうございます千佳さん、、、それは分かってるんです 誠哉さんは優しい方なので」

凛は水野の方を見て健気に笑ってみせた

「、、、、、」

(千佳がいるからか、、、)

桐島は納得はしたが、少し呆れた様子でため息をついた

ふと渡部を見ると、渡部は肘をつき、窓から外を眺めていた

表情もどこか冷たく、さっきから一言も喋らない

「、、、歩も、久しぶりだよな?埼玉」

桐島は気を遣ったように明るい声で渡部に訊ねる

「そっか、みーゆも埼玉出身なんだね」

「出身は名古屋だよ」

水野の言葉に渡部は素早く言い返す だがいつもと違い言葉に丸みがない 普段の凛のようだ

「あ、そうなんだっけ、、、」

水野は戸惑いながらややこしい渡部の経歴を頭でまとめる

「、、、、、」

(返事がないな、、、)

渡部が問いかけに答えない事で、桐島は何とも言えない気まずさを感じていた

「、、、誠哉君」

「んんっ?あ、おう」

返事がないと思った矢先に話しかけられ、桐島は激しく動揺する

「、、、なんで今日行くの?学園祭は明日だよね」

渡部は窓の外の流れる景色を見たまま桐島に訊ねた

「ああ、ほら、前に言っただろ?愛が合宿行っててな 人手が足りねえから俺と千佳が代わりに、、、」

「じゃあ私は明日でいいよね 私もお世話になる訳だからお手伝いはするけど、明日からだったらお世話になる事もなかったのに」

「う、、、、、」

もっともな事を言われ、桐島はたじろいだ

「でも、、、連れて行かねえとお前来ねえだろ?」

「、、、はぁ」

桐島の苦し紛れの理由に渡部はため息をついた

(、、、た、ため息つかれた、、、)

桐島は少し落ち込みながら苦笑いする

「ま、まあいいじゃん ご両親にも姉妹揃って許可もらったんだろ?」

「結構怒られたけどね」

渡部は桐島の言葉にそう答えながら立ち上がった

「あ、そう、、、か、、、」

桐島が気まずそうに顔を下げながら頷くと、渡部は席を離れ歩き出した

「あっ、みーゆ?どこ行くの?」

「お手洗い」

水野の問いに振り返らずに答え、渡部は去っていった


「、、、なんかさ、みーゆ怒ってない?」

水野は手を添え、小声で桐島に訊ねた

「、、、そうか?、、、いや、うん、どうだろうな、、、」

桐島は不安そうな表情で首を傾げながら言葉を濁した

「、、、でも、昔は姉さん、いつもあんな感じでしたよ?」

凛はそう言うと、紙パックジュースをストローで吸った

「え?」

桐島はばっと顔を上げ、耳を傾けた

「少なくとも小学生ぐらいの間は、、、まあ今みたいにイライラしてる訳じゃないですけど、言葉とか表情とか冷たいっていうか、、、ちょっと暗い感じですかね」

凛は首を傾げながら適切な言葉を探す

「、、、そうか」

(そういや、徒仲もそういう事言ってたっけな、、、)

桐島は軽く窓側にもたれ、流れる外の景色を見ていた










埼玉に着いた4人はその足で孤児院まで向かった

新幹線の着く駅から電車を利用して更に数駅移動し、そこからは孤児院まで歩いていった


孤児院の前に着くと【鈴科孤児院】と書いてある標札があった

「そういえば須原君は来ないの?」

「来るぞ 多分、明日秋本と来るんじゃねえか?」

水野や桐島を中心に会話をしながら孤児院の門をくぐった

(こんな標札あったんだ、、、前は暗かったから分かんなかった、、、)

渡部はなんとなくそんな事を思いながら門を通過した









受付のおっさんこと草津に挨拶を済ませ、4人は子供達とおばあさんのいるいつもの部屋に入った

洗濯物を畳む、という仕事を終えた子供達は渡部、水野、凛の3人に興味津々だった


「アソボー、千佳ちゃん」

「凛お姉ちゃん、一緒に積み木しよー」

「歩ちゃん!こっちきてー」

3人は右から左までずっと子供達に引っ張りだこだった

「あっ、これ懐かしー!うんうん!遊ぼ遊ぼ!」

水野は凛と渡部の手を引きながら、上手く子供達と一緒に遊んでいた


桐島はそれを横目に一つのファイルを開いていた このファイルに挟まれているプリントには孤児院での日程や1日の時間割が書いてあった 1日の時間割を普段、管理しているのは鈴科愛だが、鈴科は時間割を全て覚えているのでこのファイルを開く事はめったになかった


「、、、あの、おばあちゃん 次はお話って書いてあるんですけど、、、」

桐島は頭を悩ませながらおばあさんに訊ねた

「ほうほうそうかい」

おばあさんは笑顔でゆっくり頷く

「お話ってなんですかね?」

「ああ、お話っていうのはね、、、おとぎ話をテープで聞かせるんだよ」

「、、、え~っと、じゃあ、ラジカセとかがあるんですか?」

「ああ、あるねぇ」

おばあさんは頷きながら答えた

「どこにあるんですかね?あんまりそういうのの場所知らないんですけど、、、」

「私も知らないねぇ」

「え?」

「愛が管理してるからねぇ」

「、、、そうですか、、、」

「まあいいんじゃないかいたまには みんなでお風呂の時間まで子供達と遊んでやっとくれ」

おばあさんはイスに座り、子供達と渡部達を見渡しながら言った

「、、、そうですね 分かりました」

桐島も同じように部屋を見渡し、ファイルをテーブルに置いた




桐島は部屋を出て廊下を歩き、トイレで用を足していた

これからの時間割を頭の中でまとめていた

(この後風呂入らして、、、晩飯だな 今日の担当の子供と一緒に皿洗いして、、、次なんだったかな、、、)

用を足した桐島は水道で手を洗った

(日記書かすんだっけな、、、いや、それは週末だけだったっけ、、、とりあえずそれが終わったら布団敷かせて就寝 それで終わりだよな、、、)

桐島は首を傾げながらも確認をして一応安心した

(すげえな愛、、、いつもこんなの殆ど1人でやってんのか、、、?今は千佳とかいるからいいけど、1人じゃトイレに行くのも大変だな)

桐島は頭をかきながら改めて鈴科を尊敬した

タオルで手を拭き薄暗い廊下に出た

「、、、っ!!」

桐島はビクッと全身を強ばらせ、前を見た

「誠哉さん トイレに行ってたんですか」

廊下の壁にもたれた凛が笑顔で桐島を出迎えた

「えっ、、、い、いきなりなんだよ凛ちゃん びっくりしたじゃねえか」

桐島は胸を押さえ、落ち着きながら訊ねた

「誠哉さんが出て行ったから気になったんです」

凛は子供達がいる部屋に向かってゆっくり歩き出した

「、、、そうか」

「それにしても子供ってホントうるさいですよね ずっと相手してたら疲れますよ」

凛はぐーっと両腕を伸ばしながら言った

(それが理由か)

「、、、まあ、確かにな」

桐島は前を歩く凛の背中を見ながら答えた

「どっからあの元気が出てるんでしょうね 不思議で仕方ないです」


「、、、、、」

(そういや凛ちゃん、、、俺が孤児院出身だって知ってたのか、、、?)

桐島は凛の後ろを歩きながらふとそんな事を考えた

(ここに着いた時も特に何も言ってなかったし、、、歩から聞いてた、、、?いやでも歩はそんな事言わねえだろうし、、、)

桐島は1人で必死に考えていた

「まあでも、、、あの子たちにはそれなりの事情があるんですよねー」

凛は前を向いたまま、ぶっきらぼうな言い方をした

「え、、、」

「ま、私には関係ありませんけど、、、」

凛はいつもの落ち着いた口調でそう言うと、小さくため息をついた

(、、、そっか、凛ちゃんも、、、)

桐島は少し俯き、もう一度凛の家庭事情を思い出す 凛には実の母親がおらず、小学4年生から高校1年生という思春期の間、親無しで生活していたのだ

(だから俺に何も聞かなかったのか、、、同じだから、気ぃ遣って、、、)

桐島は凛の成長に感動し、少し嬉しくなった

「ところで誠哉さんはここで育ったんですよね?」

「え?あ、ああ」

「両親はどうされたんですか?やっぱり捨てられたんですか?」

「、、、、、」

(気遣い、、、この子はしねえか 特に俺には、、、)

ブレない凛を見て、それはそれで桐島は安心した

「さあな、あんまり知らねえけど、、、母親の方は交通事故で亡くなったって聞いてる」

桐島はそう言い終わると、ズキッと頭が痛くなった

(うっ、、、またかよ)

桐島はぐっと頭を抑えたが、前を向いていた凛は気づかなかった

「そうですか、、、私の母は不慮の事故ってだけ聞いてますけど、多分交通事故かなんかでしょうね、、、」

凛は心なしか寂しそうな声で呟いた

「、、、、、」

桐島はどんな顔をしていいか分からず、俯いていた

「まっ、いいですけどね別に 顔も何も覚えてないですから」

「えっ?」

凛の急な態度の変化に桐島は驚いた

「今は、、、大好きな人がいますから さみしくないです」

凛はくるっと振り返り、笑顔で言った

その笑顔はいつもの作った笑顔ではなく、気持ちが素直に表情に出ていたように桐島には見えた

「凛ちゃん、、、」

(、、、そっか、、、そんなに歩と仲良くなったのか、、、)

桐島は初めて会った時の凛を思い出していた




『嫌いな人が、、、3人も来てるんです』


『だって、、、あんな3人と暮らしてたら、私までどうかしちゃいますから』




「、、、、、」

桐島はどう表していいのか分からないくらいに嬉しく、たまらなかった

昔と今の凛を比べると、何故か見ている桐島の方が照れくさいほどだった

「さ、早く戻りましょう?姉さん達、うるさい子供達の相手で大変でしょうからね」

凛は廊下の奥に見える明かりがついている部屋を小さく指差した

「、、、おう そうだな」

桐島は嬉しさからか、笑みが溢れ出て止まらなかった


「、、、なんですかニヤニヤして 気持ち悪いですね、、、」

「う、うるせえなぁ 大体お前、子供の相手が大変なの分かっててなんでトイレについてきたんだよ」

「休もうと思ったんです 子供の相手が大変なので」

「、、、そういう事ね、、、」


















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