2人
「ど、、、どした?こんな時間に?また凛ちゃんか?」
桐島は時計を見たり渡部を見たり窓から外を見たりと落ち着かないまま訊ねた
「ううん、この前勝手に帰っちゃったから、ちょっと挨拶っていうか、、、ん~っと、うん そんな感じ!」
渡部は言葉に迷ったが強く頷き押し通した
「ふ、ふ~ん、、、そうか」
桐島は目を泳がせながらとりあえずイスに座った
(なんだよコレ、、、なんか変な感じだな、、、)
桐島は居心地悪そうにチラッと渡部と水野を見た後、目線を下げた
「、、、、、!」
渡部はふと、少し離れたカウンターに座っている水野と目が合った
「あ、、、」
水野は少し迷った後、笑顔で会釈した
「、、、こんにちは、、、」
渡部は会釈を返しながら挨拶したが、殆ど吐息で声には出ていなかった
「、、、、、あ」
桐島は急に思い出したように立ち上がった
「なんか、、、頼むか?なにする?」
桐島は明らかに平常心は失っていたが、とにかく気を紛らわそうと動いた メニューを渡部の前に開いて見せる
「うん、えっとじゃあ、、、これ ウーロン茶で」
渡部はメニューを指差しながら名前を読んだ
「、、、、、」
水野はボーっとそんな2人のやりとりを見ていた そして、渡部の顔をジーッと見ていた
注文を受けた桐島が調理場に戻った直後、渡部と水野は再び目が合った
「、、、あの」
目が合った事をきっかけに水野は渡部に声をかけた
「えっ、あ、はい なんでしょうか?」
(誠哉君の知り合いの人かな?、、、彼女、、、?)
渡部はオドオドした仕草で水野の方を向く
「もしかして、、、渡部歩さん、、、?」
「、、、え、、、?」
(びっくりした、、、歩が来るとは、、、)
桐島は調理場でウーロン茶を用意しながら気持ちを落ち着かしていた
(千佳と歩が並んでんのって、、、なんかすげえ気まずいっていうか、、、やりにくいな)
桐島はコップに氷を入れながらため息をついた
(あ、、、つか、軽く紹介とかした方が良かったかな、、、)
桐島はコップにウーロン茶を注ぎながら考えていた
(ま、名前ぐらいは紹介すりゃいいよな、、、変な空気になっちまう前に、このウーロン茶を置く時にサラッとな サラッと)
桐島は自分に言い聞かせるようにして思いながらウーロン茶を持ち、調理場を出た
「、、、ん?」
桐島は眉間にしわを寄せ、目を凝らした
「ウソ!そこってかなり賢い学校じゃなかったっけ?」
「うん まあね♪進学校ってヤツだからねー」
渡部と水野は隣同士に座り、仲良く雑談していた
「、、、?」
桐島は素早く交互に2人を見ながらひたすら混乱していた
(は、、、?なに?知り合いだったのか、、、?)
桐島はウーロン茶を持ったまま立ち尽くしていた
「でもさ、みーゆの高校って制服かわいいよね!」
「そうだね しかもスカートが夏服と普通のとでちょっと柄が違って良い感じだよ 夏の方がちょっと明るいんだけどね」
みーゆ、とはどうやら渡部のあだ名のようだ 【あゆみ】の【ゆみ】の部分をひっくり返し、更に伸ばすとそうなる
「、、、、、」
桐島は呆然と2人を眺め、会話を聞いていた
「、、、?どしたの誠ちゃん?ボーっとして」
呆然としている桐島に気づいた水野は桐島に声をかける
「ん?いや、、、」
ハッと気がついた桐島は慌てて2人の前に立った
「はい、ウーロン茶な」
桐島は平静を装いながらウーロン茶を渡部に差し出した
「ありがとー」
渡部は軽く一言、礼を言いながらそれを飲んだ
「、、、、、」
桐島は疑うような表情で2人を見た
「、、、んふっ」
お茶を含んだ口を手で覆い、渡部は笑いをこらえた
「んん?」
「?」
水野と桐島は同時に渡部に注目する
渡部は急いで口の中のお茶を飲み込んだ
「なに今の変な顔!」
渡部は桐島の顔を指しながら言った
「えっ、、、」
「ふふっ、私もちょっと思ってた!」
水野はつい吹き出しながら渡部に同意する
「い、いや別に、、、」
桐島は慌てて目線をそらし、手を顔に当てた
「、、、知り合いだったのか?」
桐島は2人の顔を交互に見ながら何気なく訊ねる
「え?」
2人は声を重ねて聞き返した
「なんか仲良さそうだし、、、お前ら知り合いだったのかと思ってな」
「、、、、、」
桐島の言葉を聞き、渡部と水野は顔を見合わせた
「あはは!違うよ!?」
「初対面だよね?みーゆ!」
2人は楽しそうに笑いながら言った
「、、、ふ~ん、、、」
桐島はなんとなくイラッとしたが、それを表情には出さなかった
「そういえばみっちー、なんで私の名前知ってたの?」
渡部はふと水野を見ながら訊ねた みっちー、とは水野の【み】、千佳の【ち】を取ったニックネームである
「え、、、?」
桐島はあだ名の事も少し気になったが、それよりも気になる事に反応した
「え、あ~、、、さなっちゃんとか瞬さんから聞いたりしてたんだ 、、、埼玉に行った時にさ」
水野は桐島の顔色を窺いながらゆっくりと口にする
「、、、え、、、あ、そう」
桐島は小刻みに頷きながら慌てて返事をした
(なんも余計な事言ってないよな、、、)
桐島は目線を下げ、ドキドキしながら頭を回した
「へえ~、瞬さんとも知り合いだったんだ」
渡部は感心したように頷いた
「うん!今年の、、、じゃなくて去年のクリスマスぐらいだったかな?誠ちゃんと一緒に埼玉帰ってたんだ」
水野はテーブルに肘をつき、楽しそうに話す
「あ、、、そういや今、徒仲達来てるぞ」
「、、、え?」
桐島の言葉に、渡部は少し間をあけて反応した
「まだ多分名古屋駅にいるんじゃねえかな 次の新幹線で帰るっつってたけど、お前がいるなら来るんじゃねえか?徒仲」
「、、、、、」
渡部は目線を下げ、ジュースを少し口にした
「、、、いい もう帰ろうとしてるとこ、引き留めるのも悪いし!」
渡部は軽く首を振りながら笑顔で答えた
「そうか、、、?」
「うん」
渡部は頷き、再び目線を落とした
「、、、じゃあ、アドレスだけ教えてやるよ」
「、、、え、、、」
桐島はポケットから携帯を取り出し、画面を開いた
「その内メール送ってやれよ あいつ、飛び跳ねて喜ぶんじゃねえか?」
桐島は軽く笑いながら携帯をいじり、渡部に徒仲のアドレスを送る
「、、、、、あ」
携帯を開いた渡部はメールの受信を確認した
桐島からのメールには徒仲のアドレスが貼ってあった
「、、、、、」
渡部はそのアドレスを見つめながら徒仲の顔を思い浮かべた
「、、、うん ありがとう」