我が街まで
「あゆみ、、、って、、、?」
「歩だよ 渡部歩」
「渡部に会ったのか?」
外山は驚いた表情で桐島に訊ねた
「ああ、一昨日にな」
「一昨日!?めちゃくちゃ最近じゃねえか!」
外山は思わず声を荒げた
「この喫茶店に来たんだよ 凛ちゃんと一緒にな」
「、、、、、」
外山は黙って混乱していた
「、、、お前は結構あっさりしてるけどよ、、、」
「え?」
外山はゆっくりと顔を上げた
「俺らの方じゃ、渡部は、、、なんつうかな、タブーっつうか、、、全然話に出てこねえからよ」
「え、、、」
桐島はその言葉に少し戸惑った
「そう、、、か、ま、そうだよな、、、」
(はっきり言って、、、完全に俺のせいだよな、歩がみんなと連絡しなくなったのは、、、)
桐島は申し訳ない気持ちがこみ上げ、どんな表情をしていいか分からなくなった
「いつぶりぐらいに会ったんだよ?」
「、、、どんぐらいだったかな、、、」
桐島は腕を組んで考え込んだ
「、、、5ヵ月、、、半年ぐらいか、、、」
桐島は計算した結果をそのまま口にした
「へぇ、、、まあそんなもんか、、、」
外山は呟きながらブドウジュースを飲む
「、、、、、」
(まだ半年だったのか、、、1年ぐらい会ってねえような気がしてたけど、、、)
桐島は相変わらず時間に違和感を覚えていた
「どうだった?」
「え?」
外山の曖昧な問いに桐島は聞き返す
「久々に会って、、、なんも思わなかったのかよ?」
「、、、まあ別に、、、」
桐島は首を傾げながら言った
「別にってこたねえだろ 無理には聞かねえけどよ」
外山はため息をつきながら肘をついた
「いや、、、久しぶりだなーぐらいは思ったけど、、、」
桐島は頭をかきながら難しそうな表情になった
「、、、ふ~ん」
外山は納得いかない様子で頷いた
1時間半ほど経った頃 夕方の6時半過ぎ
客のピークを終え、喫茶店は再び閑静な空気になった
九頭もいつの間にか外山の隣に座り、一息ついた桐島もカウンターを挟んでイスに座った
北脇は未だに店の奥で眠りについていた
「あぁ~疲れた、、、」
桐島はため息をつきながらイスに座った
「すげえなぁお前!さすがプロだな!」
「なんのプロなんだよ俺は、、、」
興奮する九頭に対し、桐島はなんともなく答えた
「あ、北脇」
外山は店の奥を指差しながら言った
「ん?」
桐島は後ろを振り返った 北脇は目をこすりながら店内に入ってきた
「、、、?」
北脇は眠そうなボーっとした表情で周りを見ていた
「北脇!こっちこっち!」
九頭は笑顔で激しく手を振りながら北脇を呼んだ
「、、、うん」
北脇はコクっと頷き、九頭の隣まで歩く
「紗菜、結構寝たなぁ~お前」
イスに座った北脇に桐島は何気なく話しかけた
「うん、、、そう?」
北脇は下を向き、目は半分閉じていた
「、、、なんだよ まだ眠いのか?つかここどこか分かってるよな?」
「うん、大丈夫、、、」
「そうか?ここ俺の家じゃねえぞ?寝ぼけてねえよな?」
「、、、もぉ、うるさい」
桐島の問いかけに、北脇は頭をかきながらテキトーに言いつけた
「え、、、」
「はぁ、、、」
北脇はため息をつき、長い間隔でまばたきをしながら下を向いていた
「えぇ、、、寝起き悪、、、」
桐島は北脇に耳障りにならないように小さい声で呟いた
「てゆうか寝る前も性格変わってたよな 睡眠に対して貪欲なのかもしれん」
外山はボソッと呟いた
「確かにいつものキチッとした感じはなかったな、、、早く寝させろってオーラは誰よりあった」
桐島も思い出し、腕を組みながら言った
「う~!北脇の悪口言うなよ!いくら寝てるからってよー!」
九頭は2人の言葉を聞き、不満そうに声を漏らす
「ちょっ、声でけえって、、、」
「うるさい」
北脇は九頭を睨みつけながら言った
桐島の忠告は虚しく、九頭はシュンと俯いた
「なんだよー、庇ってんのにー」
「うるさい 声でかい」
北脇は再び九頭に睨まれた 九頭は唯一、席が北脇と隣な為余計に声が届くようだ
九頭は再び俯き、落ち込んでしまった
「理不尽だな、、、」
「ああ、、、」
桐島と外山は小声で喋りながら2人の様子を見ていた
「あっ!そうだ北脇ぃー!俺さっき、、、」
「うるせえっつってんの あんた耳と脳と性格、どれが悪いの?」
北脇は九頭にグッと顔を寄せ、思い切り睨みつけた
「これはバカだな、、、」
「ああ、疑う余地もない」
桐島と外山は2人を見ながら頷いていた
「ち、違うんだって!さっき連絡しといたんだよ!え~っと、1時間ちょいぐらい前かな?」
九頭は慌てながら必死で言葉を紡ぎ出す
「は?誰に?」「そこの裏のとこにここの住所書いてあったからメールで送ったんだよ 漢字とか難しかったけど、、、」
「だから誰に?」
質問に答えず要領の悪い九頭に北脇はイラつきながら聞き返した
「水野!水野だよ!北脇仲良くなってたみたいだからさ!」
九頭は機嫌の悪い北脇に怯えながら言った
「え、、、」
突然出てきた水野の名前に、桐島はハッと反応する
カランカラーン
すると喫茶店のドアが開く音がした
「、、、あっ!さなっちゃん発見ー!」
そう言いながら北脇を指差したのは水野だった
「あ、、、ちいちゃん!」
北脇は急にスイッチが入ったのか、先ほどとは打って変わって明るい表情になった
「はるばる我が街までようこそ、だね!」
水野は北脇の前で大きく腕を開いた
「、、、、、」
桐島は呆然とした表情で水野を見ていた
「、、、こんばんは、誠ちゃん」
水野はニコッと笑いながら目の前の桐島に挨拶した
「、、、ああ、、、」
桐島は小刻みに頷きながら、僅かに目線を下げた