1K
朝 9時半過ぎ
ピンポーン
「という訳で、お邪魔しまーす!」
「、、、、、」
元気のいい徒仲の挨拶に対し、桐島は呆然と突っ立っていた
徒仲の後ろには野波佳がいた
「よー誠哉 久しぶりだな」
野波佳は九頭を背負いながら笑顔で挨拶した
「、、、おう」
久々の親友の言葉にも、今の桐島は生返事だった
ふと野波佳の背中の九頭の顔を見たが、どうやら眠っているようだ
「とりあえず、入ってもいいわよね?」
少し後ろにいた北脇が桐島に声をかける
「、、、何人?」
「5人だよ5人 見りゃ分かるだろー?」
北脇の横にいる外山はバカにしたように言った
「、、、そっか」
徒仲達は強引に桐島の部屋に入り、それぞれくつろいでいた
「こういうとこに住んでたのか~お前」
野波佳は部屋を見渡しながら言った
「まあ、、、」
「こういうのなんて言うんだっけ?ワンルーム?」
「1Kな そこにキッチンあるから」
徒仲の問いに桐島はキッチンを指差しながら答えた
「ん~!疲れたからちょっと寝るわね」
「はぁ!?ちょっと待て!」
ぐーっと伸びた後、自前のタオルケットをかぶり寝ようとする北脇を桐島は止めた
「俺も寝よっかな~」
「だから待てって!」
あくびをしている外山に桐島はツッコむ
「なによ?大きい声出して」
北脇は怪訝な表情で桐島に訊ねた
「、、、あのなぁ、ここは俺んちなんだよ お前ら自由にやりすぎだろ」
桐島は呆れた様子でため息混じりに言った
「あ、そうだ 梓ちゃん呼ぼうよ」
「だから自由にやんなって!」
テキトーな提案をする徒仲に桐島は厳しくツッコんだ
「つうか、、、なんで九頭は寝てんだよ」
桐島は廊下で眠りについている九頭を見ながら言った
「疲れたみたいね」
北脇もタオルケットを膝にかけながら同じように九頭を見た
「疲れたって、、、せいぜい3時間ぐらいだろ?埼玉から名古屋までなんて、、、」
「東京に行ってたんだよ」
「え、、、東京?」
桐島は野波佳の方を見ながら訊ね返す
「おう 東京っていちいち建物でかいよな~ 圧迫感がすげえな」
野波佳は思い出しながらしみじみ語った
「はぁ?何しに東京行ったんだよ つか何しに名古屋に来たんだよ?連絡もなしにいきなりよ」
「よし、俺がここに至るまでの経緯を簡単に説明しよう」
外山は桐島を見ながら深く頷いた
「一回しか言わないからよく聞けよ?」
「ああ」
外山の確認に桐島はなんとなくイラつきながら頷く
「まず、大学の為に東京にいる浜薫さん、片岡綾さんの2人に会いに遊びに行こうという計画が今から一週間ほど前に決まった お2人と連絡して日を合わせたところ、昨日が全員にとって都合の良い日だった訳だ ちなみに全員とは浜さん、片岡さん、俺、北脇、九頭、徒仲、野波佳、瞬さん、安川さんだ その流れでそのまま名古屋にいる桐島にも会いにいってやろうという話になった そして昨日、浜さんと片岡さんと共に東京を満喫している中、桐島に連絡を取っていない事に気づいた 夜の9時頃だっただろうか 徒仲が連絡をしたところ、桐島は快く承諾した 俺達はその後、お2人の家に泊めさせてもらうか、もしくはホテルかどこかにでも泊まろうと思っていた しかし異常なテンションになった浜さんと片岡さんがそれを許さなかったんだな ゲーセン、スポーツ、ボードゲームなどが楽しめる24時間営業の店があるんだが、それに朝まで付き合わされた 朝になり、これから名古屋に向かう訳だが瞬さんと安川さんはあまりの疲れに家に帰ると言い出し、そのまま帰宅 正直、俺達全員埼玉に帰りたかったが桐島からすればつい昨日出来た約束 しかも快く承諾してくれたとなれば破る訳にはいかないだろう、という事で名古屋に向かう事を決意した 俺達は全員名古屋行きの新幹線で爆睡 一番はしゃいでた九頭は新幹線を降りても爆睡 浜さんと片岡さんに聞いた住所を辿り、この桐島の部屋に到着した 以上」
「、、、ちょいちょいツッコみたいとこがあるけど、まあ分かった」
外山の流れるような文章を理解し、桐島は頷いた
「ん、、、」
ふと周りを見ると、徒仲、野波佳、北脇の3人はもう寝ていた
「な、、、」
桐島は驚いた表情で3人の顔を順に見渡す
「だから俺達は非常に疲れてんだよ 寝させろ」
外山は荷物のカバンを枕にし、パーカーを布団代わりに被っていた
「お、おい!俺、昼過ぎにバイトあるんだよ!家を出なきゃなんねえんだよ!」
「じゃあこいつらにそう伝えといてやるから 安心してバイト行け」
「はぁ!?そういう問題じゃねえだろ!俺の家、、、」
「フグーーッ、、、ZZZ、、、ZZZ、、、」
ついに外山も眠りについてしまった
「、、、チッ、こいつら、、、」
桐島は舌打ちした後、全員の寝顔を睨みつけた
グツグツグツグツ
「、、、ん、、、?」
妙な物音がする中、野波佳は目を覚ました
手元の携帯で時間を確認すると3時半 5時間以上眠っていた事になる
「、、、、、」
野波佳は目をこすりながら周りを見渡し、状況を確認した すぐ隣で寝ている徒仲、部屋の隅でタオルケットを被り寝ている北脇、カバンを枕に、パーカーを掛け布団にしている外山、廊下で倒れている九頭 そして場所はあまり見慣れない桐島の部屋だった
「、、、あ」
キッチンを見ると、コンロの近くに桐島が立っていた
調理台やその周りで何か作業をしているようだ
「誠哉 なにしてんだよ?」
「うぉっ、な、なんだよ 起きてたのか?」
桐島はビクッと体を震わし、野波佳の方を見た
「おう、なんか作ってんのか?」
野波佳はあくびしながら立ち上がった
「ああ、パスタだよ 味付けはテキトーにありあわせだけどな」
「へぇ~」
野波佳は頷きながらキッチンに足を運ぶ
「お前らの分もあるからよ 心配すんな」
「えっ、、、マジで?」
そう聞いた野波佳は改めてキッチン周りや茹でてあるパスタを見た 確かに、1人用にしてはあまりに多すぎる量だ
「ああ ついでだよ あと1時間ぐらいしたらバイト行くから、食ったら出てけよ」
「、、、、、」
「、、、ん?」
黙る野波佳が気になり、桐島は振り返った
「そか、、、そうかそうか」
野波佳はニヤニヤ笑いながら何度も頷いた
「? なんだよ気持ちわりぃなぁ」
桐島は怪訝な表情で呟きながら再び作業に戻った
「、、、ん、、、ん?」
すると九頭がゆっくりと起き上がった
「お、九頭も目ぇ覚めたか」
と桐島が言ったと同時に、九頭はキッチンに足を踏み入れた
「良い匂い、、、桐島!なんか作ってるだろ!」
食べ物の匂いを感じ取った九頭はキッチンを見渡す
「作ってるよ 見りゃ分かるだろ」
「あー!つうか桐島!久しぶりだな!」
九頭は声を上げながら桐島を指差した
「はいはい久しぶり」
「へー!ここが桐島の部屋かぁ!」
「お前順番めちゃくちゃだな」
桐島はため息をつきながら作業を続けた
「あれか!あれか!ワンルームか!」
「1Kだよ!キッチンあんだろ!つかこのくだりはもうやったんだよ!」
そんな桐島と九頭との会話を、野波佳は楽しそうに笑いながら見ていた