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  作者: 外山
146/216


喫茶店 閉店時間は19時半


現在の時間は19時半直前だった


殆ど客もおらず、外もすっかり暗いこの時間に、渡部はまだハバネロピザと戦っていた

「、、、うぅっ」

「おい、、、もう残せよ」

ピザを一口食べる度に水を飲む渡部を見ながら桐島は呆れた様子で息をつく

「ごほっ!ごほごほっ!」

渡部は激しく咳き込み、コップにある水を一気に飲み干した

「ぷはぁ、、、ダメ、残せないよ もったいないからね、、、」

渡部は肩で息をしながら言った まだ半分の4切れしか食べていない

「もったいないかもしれねえけど、、、もう店閉まるからよ 俺も帰るし、、、」

桐島は時計を見ながら急かすように言った

「、、、でも、、、」

「別に構わないよ まだ」

会話を聞いていたマスターは2人に声をかける

「え?」

桐島は振り返り、マスターを見た

「私はあと1時間ほどは作業するし、、、その間ならまだいてもらってもいいが?桐島くんのお連れさんですからねぇ?」

マスターは渡部を見てニッコリ笑った

「あ、ありがとうございます、、、」

渡部はおじぎをしながら礼を言った

「桐島くんがついていてくれるならね」

「はぁ!?俺があと1時間もですか!?」

桐島は素早く反応し、訊ねる

「いやいや彼女がピザを食べ終えるまでだよ 30分ぐらいで食べ終わるかも?」

「マスターがいてくれりゃ充分でしょ!?」

「いいだろぉ?お連れなんだから」

マスターはニヤリと笑い、桐島の背中を押した

「、、、まあ別にいいですけど、、、」

桐島はカウンターを挟み、渡部の前に座った

「、、、ごめんね、、、?」

渡部はおそるおそる桐島の表情をうかがいながら言った

「、、、いいからよ さっさと食っちまえよ」

桐島は冗談っぽく笑いながら渡部のコップにお冷やを足した

「、、、うん」

渡部は小さく頷きながら答えた









1時間後


「、、、けほっ!けほっ!」

「、、、まだですか?」

咳き込む渡部を冷めた目で桐島は見ていた

「ご、ごめん、あと2切れ、、、」

「もうマスターも帰ったんですけど、、、」

桐島は喫茶店の裏口を見ながら言った

「はい、、、」

「俺に鍵だけ渡して、、、もう閉店してから1時間経ってますよ?」

「も、もぉ!その喋り方やめて!」


「ハハッ!わりぃわりぃ!あんまり遅いからよ!」

桐島は笑いながら渡部のコップに水を注いだ

「うん、、、喉がだんだん痛くなってきて、、、」

渡部は喉を押さえ、もう一方の手で水を飲んだ

「しかも冷めてるからな、ただでさえ食えねえのに」

「そうなんだよね、、、」

2人はハバネロピザを眺めながら言った

「もうこの2切れは俺が食ってやるよ」

「えっ?で、でもそれはなんか、、、」

食べようとする桐島を渡部は慌てて止める 何度か桐島はこの提案をしたのだが、毎回渡部が止めていたのだ

「お前にだけ任せてたらいつまで経っても帰れねえよ もう21時前だぞ?」

「、、、そっか、ごめん 私のせいで誠哉君が帰れないんだよね、、、」

渡部はシュンと下を向きながら言った

「そうだよ ったく こんな時間までここにいるの初めてだっつうの」

桐島は文句を言いながら自分のコップに水を注いだ

「うん、、、だよね」

「つか歩が喉痛いっつってんのに無視出来ねえだろ」

桐島はボソッと呟き、ハバネロピザを一切れ口につっこんだ

「え?」

桐島の意外な言葉に渡部は顔を上げた

「うぁ、、、なん、だこれ、、、」

桐島は情けない表情でたどたどしく言った

「っ、、、」

渡部は驚いた顔で桐島を見る

「から、、、つうか苦いっつうか、、、なんだよこれ、、、」

桐島は苦言を漏らしながら一気に水を飲んだ

「、、、っ~!」

渡部は震えながら下を向いた

「っはぁ、、、う、まだ残ってんなぁ、、、」

桐島は気持ち悪そうに口内の感触を確かめる

「ったく、凛ちゃんがかけたタバスコが完全に染み込んでるな、かけすぎなんだよ、、、」

桐島は次の一切れを持ち、眺めながら言った

「こんなもんホントに食う気だったのかよ、、、ん?」

桐島はふと渡部の方を見た

「っ、、、くっ、、、!」

渡部は苦しそうに声を漏らしながら震えている

「、、、ど、どした?」

桐島はピザを皿に戻した

「く~っ、、、ふぅっ、、、」

渡部は背中を丸め、苦しい息遣いを整えていた

「お、おい歩、、、?ど、どうしたんだよ?」

桐島は慌ててカウンターを出て客側に回った


「歩?大丈夫か?」

桐島は渡部の隣に回り、顔を覗き込むように見る

「うっ、、、も、もうダメ、、、」

「えっ、、、?」

「あはははっ!おかしいよ誠哉君!」

「、、、は?」

急に笑い出す渡部に対し、桐島は呆然とした表情になった

「ハハハッ!もぉ~我慢出来ないっ!あっははは!」

「な、なんだよ?何がそんなにおかしいんだよ!」

桐島はなにがなんだか分からず、渡部に訊ねる

「だって、、、ピザ食べた時の誠哉君の顔、、、おっかしいんだもん!あははっ!びっくりしちゃったよもぉ!」

渡部は腹を抱えながら大笑いしだした

「、、、な、、、なにがだよ!元はと言えば歩のせいだろうが!」

「あはは!それと誠哉君の顔が面白いのは無関係だよ!」

「う、うるせえな!もう最後のはお前が食え!」

「え~?もう一回さっきの顔見せてよ!」

「絶対食わねえ!決めた!絶対食わねえからな!」










なんだかんだで激辛ハバネロピザを食べ終えた2人は、夜の街を歩いていた

最寄りの駅に向かって2人は足を進めた


「、、、ごめんね?今日は最後の最後まで、、、」

渡部は恐縮して桐島に謝った

「ん?」

「凛が失礼な態度とったり、ピザでこんな時間まで残ってもらったり、、、あと、ずっと前に座らせちゃってごめんなさい 店員さんなのに、、、」

渡部は今日の出来事を思い出し、順番に言った

「いいっていいって 凛ちゃんはいっつもあんな感じだぞ?店も暇だからずっと座ってたってマスター1人で全然いけるし 時間だって大した事ねえよ」

桐島は軽く笑いながら渡部に言った

「そう、、、?」

「ああ」

桐島は大きく頷いた

「つうかよ 謝ってばっかだな歩」

「え?」

「今日はなんかずっと謝ってねえか?事ある事にごめん、ごめんって、、、」

「、、、そうだったかも」

「久々に会ったんだからよ 気ぃばっか遣うなよ」

「、、、うん」

桐島の言葉に、渡部は心底嬉しそうに返事をし、頷いた


「、、、ちょっと待ってて?」

渡部は桐島にそう言うと振り返って歩き出した

「ん?どうしたんだよ?」

「辛いの食べ過ぎて喉渇いちゃった そこのコンビニで飲み物買ってくるね あ、誠哉君のも買ってくる!」

「え、、、いや、俺は要らねえぞ?」

「遠慮しないで!今日のお詫びっていうか、、、お礼だから!」

「、、、そうか?じゃ、頼む」

(お礼って、、、なんのだよ)

桐島は頭をかきながら近くのガードレールにもたれた

「せっかくだし、飲んだ事ないの買うね!」

「おう」桐島は遠くから声をかけてくる渡部を見て頷いた




コンビニに入った渡部を待っている間、桐島は考えていた

(歩、、、全然変わってねえな、、、)

桐島はそう思うと自然と表情が緩んだ

(、、、あんな別れ方したけど、、、会ってみると、意外と普通に喋れるもんだよな、、、)

桐島は顔を上げ、ボーっと空を見上げながら最後に別れた日の事を思い出していた

「、、、ふぅ」

桐島は気を落ち着かせ、顔を下げた

「おーい!誠哉く~ん!」

すると渡部がコンビニの方向から歩いてきた 缶ジュースを両手に持っているが片方はすでにあいている どうやら飲みながら歩いているようだ

「んな急いで飲まなくてもよ、、、」

「あははー!すっごい喉渇いてたもんでさー!」

渡部は陽気に笑いながら歩いてくる

「こんなジュース飲んだ事ねえんですけどさー!チョーおいしいわよー!嘘じゃナイヨー!」

「、、、?い、いいから静かにしろよ?どした?でけえ声出して、、、」

先ほどから渡部の口調や様子がおかしい事に桐島は気づいた

「だってめちゃウマなんですよー!?ハイ誠哉君の分になりま~す!」

渡部は桐島に缶ジュースを渡した

「そ、そか、ありがとな」

桐島は渡部の様子を不思議そうに見ながら缶ジュースを受け取った

「、、、?」

桐島は缶ジュースの外装を凝視した

「誠哉君も飲んだ事ないっしょそんなの!?いいから、いいから飲みなヨ!」

渡部はパンパンと桐島の肩を叩く

「い、いや、、、お前これ、、、」

桐島は呟きながら渡部の缶ジュースを見た

「どしたの?早く早く、一回飲んだら分かるって~!」

「やっぱり、、、」

桐島は渡部の持つ缶と自分の缶を見て気づいた

「お前、、、これビールじゃねえか!」

2人が持っているのは缶ジュースではなく缶ビールだった

「俺らまだ高校生だぞ!アルコール飲んでいい年じゃねえぞ!」

「アルコール、、、?ってなんだっけ?」

渡部はビールを少量飲んだだけでかなり酔っ払っていた











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