もったいないでしょ!
「あ、、、歩、、、」
「誠哉君、、、?」
桐島と渡部は呆然とした表情で顔を見合わせる
「お、、、お前何して、、、」
「誠哉君こそ、、、」
2人は互いに指を差しながら言った
「、、、、、」
「、、、、、」
妙な気まずい間が流れた
「、、、ひ、久しぶりだな」
桐島は動揺しながらもそれを抑え、何事もないかのように言った
「う、うん お久しぶりで、、、」
渡部も慌てて言い返しながら、手元のオレンジジュースのコップを両手で持つ
「、、、、、」
「、、、、、」
互いに目をそらしながら気を落ち着かせようとした
♪~♪
すると携帯の着信音が鳴った
「っ!?あ、あれ、マナーモード、、、」
桐島はポケットの携帯を取り出す
だがメールも電話も何も来ていない
「あ、ごめんなさい 私だ」
渡部は隣の席に置いていたバッグから携帯電話を取り出す
「え、、、えっ!?お前携帯持ってんのか!?」
桐島は渡部の携帯を見ながら言った
桐島が知っている渡部は携帯を持っていなかったのだ
「買ってもらったの 凛だけ持ってるのも変だからって、お父さんが」
「、、、そうか」
桐島は渡部の父の顔を思い出しながら頷いた
渡部は携帯を開き、メールを返している
(、、、つか、歩、、、1人でなにしてんだ、、、?)
桐島は文字を打ち込む渡部を見ながら考えていた
(もしかして、、、男と待ち合わせてんのか、、、?だ、だとしたらあんま近づかない方が、、、)
桐島がそんな事を考えていると、渡部は携帯を閉じた
「まだ?ってどういう意味かな?私はもう着いてるんだけど、、、」
渡部は不思議そうに首を傾げながら言った
「え、ん?メールの話か、、、?」
「うん もしかして場所間違えたのかなぁ」
「、、、、、」
渡部が首を傾げているのを桐島はチラチラ見ていた
「、、、あ、あのさ、そのメールの相手って、、、」
カランカラーン
すると喫茶店の入り口のドアが開いた
桐島は慌てて言葉を止め、接客モードになる
「いらっしゃ、、、」
桐島は最後まで言わず、礼も途中で止めた
「もぉ姉さん!お店の前で待っててよ!」
そう不機嫌そうに言いながら入ってきたのは凛だった
「り、凛ちゃん、、、」
桐島は凛の姿を見て、ふと考え込んだ
「あ、、、なんだ、もう誠哉さんと会っちゃったんだ」
凛はつまらなさそうにため息をついた
「え?凛はここに誠哉君がいるの知ってたの?」
渡部はキョトンとした表情で訊ねる
「てゆうか、、、お前、わざと歩連れてきたろ、、、」
「嫌ですねぇ、そんな顔で見ないでくださいよ」
睨んでくる桐島に対し、凛はニヤリと笑いながら言った
「別にたまたまですよ たまたま 姉さんにイイ喫茶店を紹介しようと思ったんで、ここを選んだだけです」
渡部の隣に座った凛は上着を脱いだ
「、、、、、」
桐島は黙って凛をじっと睨む
「別にいいじゃないですかぁ!姉さんと会うの、久しぶりでしょ?」
凛は渡部の両肩を持ち、ぐっと前に出す
「っ!」
渡部はビクッと反応し、目を開く
「、、、まあそうだけど」
桐島はボソッとそう言うと目を逸らした
「ちょっ、、、と、、、!」
渡部は凛の手を振り払う
「ふふっ♪」
渡部の様子を見て凛は楽しそうに笑う
「とりあえずカフェオレお願いしまーす」
凛は手を口に添え、桐島に注文する
「はいはい、、、」
桐島はため息混じりに返事し、調理場に向かった
「、、、ちょっと凛」
渡部は少し強めの口調で凛を呼ぶ
「なに?」
凛はそう返事しながら渡部のオレンジジュースを飲む
「、、、ジュースはいいとして、、、あまり失礼な態度取らないで 誠哉君に」
「なんで?」
凛はオレンジジュースを渡部の方に戻し、聞き返した
「なんでって、、、凛から見たら誠哉君は先輩でしょ?それに今は店員さんなんだから」
渡部はキチッとした口調で注意した
「いいじゃない別に 誠哉さん、そんな事で怒ったりしないし」
「そういう問題じゃないでしょ?」
「それに、、、なんか誠哉さん、上機嫌だし」
「、、、え?」
渡部は凛に聞き返しながら調理場の方を見る ギリギリ桐島は見えないがなんとなく気配は感じる事が出来た
「前、私が来た時と全然違うよ?」
「、、、ふ~ん」
渡部はさして気に留めない様子でオレンジジュースを口にする
「姉さんも、なんかいつもより機嫌いいし」
凛はニヤニヤしながら渡部の顔を覗き込む
「、、、べ、別にそんな事ない、、、」
渡部は顔を逸らし、凛の言葉を否定する
「ホント?」
「、、、、、そういう話、私や誠哉君の前でしないで」
渡部はあえて凛の方は見ず、静かに言い放った
「、、、はいはい、分かりましたよ」
凛はつまらなさそうにため息をつきながら承諾した
「はい、カフェオレ」
桐島は凛の前にカフェオレを置く
「ありがとうございます」
凛は冷たい表情で言いながら、ストローをくわえた
「、、、?」
桐島は2人の様子に違和感を覚えた
(なんだ、、、?なんかさっきと雰囲気が、、、)
2人を交互に見ながら桐島は考える
「誠哉さん、姉さん携帯持ってますよ」
凛は渡部を指差しながら言った
「?」
渡部はその言葉の意図するモノが分からず、ふと凛の方を見る
「え?ああ、知ってるけど、、、」
「連絡先、交換したんですか?」
凛はストローを口につけたまま続けて訊ねる
「え、、、?」
「、、、っ」
少し戸惑う桐島に対し、渡部はキッと凛の方を見た
凛はどこ吹く風と、顔を逸らしている
「、、、じゃあまあ、、、しとくか?交換」
桐島は携帯が入っているポケットを触りながら言った
「、、、うん」
渡部は少し躊躇った後、バッグから携帯を取り出した
「、、、うん、登録出来た」
渡部は呟きながら携帯を閉じる
「ああ、俺も、、、」
なんとも気まずい雰囲気で桐島は携帯をポケットにしまった
「、、、ピザ」
凛は唐突に言った
「ん?」
「んじゃないですよ店員さん ピザお願いします」
凛は冷静な声色と口調で桐島に言いつけた
「あ、ああ、注文な」
「このハバネロのやつ、ください」
凛はメニューを指差しながら言った
「う、、、」
渡部はそれを見て思わず顔をしかめた
「え、大丈夫か?それかなり辛いぞ?」
桐島は凛の指すメニューを見ながら心配するように言った
「私、辛いの好きなんです いいから早くお願いします」
凛はそう言うとカフェオレをストローで飲みだした
「、、、、、」
(そんな甘いもん飲んでんのに、、、)
桐島は凛を見ながらふと思った
「、、、なんですか?」
凛は迷惑そうに嫌な表情をしながら桐島に言い放つ
「い、いや?注文承りました」
桐島は慌て気味に調理場に向かう
(ま、それは関係ねえか、、、それより凛ちゃん、なんか喋り方が昔に戻ったみたいな、、、)
桐島は首を傾げながらそんな事を思っていた
「、、、、、」
渡部は横目でチラチラ凛を見た
「、、、どうかした?姉さん」
「、、、こんなの、よく食べれるなぁって思って、、、」
渡部はメニューのハバネロピザの写真を見る 写真のピザの表面は真っ赤だった
「姉さんダメだもんね~、辛いの」
「うん、、、ってゆうか、ここでピザ食べる予定だったの?待ち合わせだけして、デパートに行く予定じゃ、、、」
「しょうがないじゃない 食べたくなったんだもん」
凛はわがままを言う子供のように唇を尖らせる
「、、、そう?」
(凛、、、なにかおかしいような、、、)
渡部は凛の言動や態度に違和感を覚えていた
「ほいよ、ハバネロピザな」
桐島はハバネロピザを凛の前に置いた もう既に8等分されており、余計な手を加えずとも食べられる状態だった
「ありがとうございます おいしそうです」
そういう凛のテンションはイマイチ上がっていなかった
「、、、、、」
渡部は恐ろしいモノを見るような目でハバネロピザを見る
(うぅ、、、無理、、、)
渡部は心なしか凛と距離を取り、ハバネロから目を逸らした
「いただきまーす」
凛はそう言いながらピザを手に取り、口に含んだ
モグモグとよく咀嚼している
「どうだ?」
桐島は食べている凛を見ながら訊ねた
「、、、おいしいですけど、、、う~ん」
凛は食べさしのピザを皿に戻し、小首を傾げた
「? なんだよ?」
「ちょっと辛さが足りないですね~」
凛は調味料のタバスコに手を伸ばした
「え、、、」
桐島が声を出す前に、凛はタバスコをピザにまんべんなくかけた
「っっ!!」
渡部は信じられないといった表情でピザと凛を交互に見る
「これぐらいですかね?」
凛は食べさしのピザを口に放り込んだ
「だ、だめだよ凛!生活習慣病になるよ!味覚障害の第一歩だよ!」
渡部は思いつく言葉を並べて凛を注意した
「、、、ちょうどいいかな」
凛は渡部の言葉を無視し、感想を述べる
渡部は完全に引いていた
「すげえな凛ちゃん 辛いの強いっていうか、好きなんだな 俺だったらタバスコかけるまでもなく、、、」
「あっ!」
桐島の言葉を遮るように凛は突如甲高い声を出した
「っ!」
急な凛の叫びに渡部は体をビクッと震わせた
「ど、どうした凛ちゃんいきなり?」
桐島は驚きながらも凛に訊ねた
「用事思い出しました」
凛は慌てて荷物や上着を手に持った
「え?よ、用事?」
渡部はあたふたしながら凛を見る
「ごめん姉さん!帰るね!」
「ま、待って凛!このピザどうするの!もったいないでしょ!」
渡部は最もな意見を凛に提示した
「姉さんが食べて!もったいないから!」
「え、、、」
もったいない、という自分の言葉がそのまま真っ直ぐ返ってきた
「じゃお願いね!姉さん!」
凛はそう言いながら足早に店を去った
「えぇ、、、」
渡部は残されたハバネロピザを見る
8切れ中7切れはまだ残っている
「、、、どうする?歩、、、」
「、、、た、食べるよ!もったいないからね!」
渡部はヤケになったような口調でイスに座り直し、タバスコがかかったハバネロピザに手を伸ばした