変わった
お爺さんとの話が終わった後、水野と桐島の2人は家を出て外にいた
どちらから言い出す訳でもなく、自然に家の周りを歩いていた
「、、、今日はありがとねー 誠ちゃん」
水野は桐島に明るく礼を言った
「ん?ああ、、、」
桐島はソワソワした様子で相槌を打った
「でも、悪かったな 勝手に家まで押しかけて、、、」
桐島は軽く頬をひっかきながら言った
「、、、ううん こっちこそごめんね 怒鳴ったりして」
水野は首を振り、笑いながら答えた
「にしても、、、おじさんが千佳をビンタしたのにはビックリしたな」
桐島は頷き、感心した様子で言った
「そうだよねー?おじいちゃんにあんな事されたの初めてだし、ホントビックリした」
そう言うと、水野は優しく微笑んだ
「でもおじいちゃん、、、私の事、真剣に考えてくれてて、、、スゴく嬉しかったな、、、」
水野は下を向き、心底嬉しそうに呟いた
「、、、だな」
そんな水野を見ていると、桐島も同じように嬉しくなった
「それもこれも、誠ちゃんが来てくれたおかげだよねー!ありがとう!」
水野は夜の空を見上げ、手を口に添えて大きめの声で叫ぶように言った
「ははっ、なんだそれ」
「なに笑ってんのよー!人がお礼言ってるのに!」
「叫ぶ必要ねえだろ?」
「そ、それは、水野家代々伝わるお礼の言い方で、、、!」
それからしばらく、2人は何気ない雑談をしながら散歩をしていた
時間も決めず、特に内容もなく、ただ話しているこの状態が2人にとって居心地が良かった
「愛ちゃんってもう高校生だっけ?」
「ああ、中学はもう卒業したしな」
「へ~、愛ちゃんが高校生かぁ、想像もつかないなぁ!」
水野は昔の鈴科の姿を思い浮かべる
「そりゃそうかもな、千佳が孤児院を出たのが小5だろ?愛はそん時小3だからな」
「あはは!小3ってチョー子供だよ!」
「赤ん坊みてえなもんだよな」
「赤ちゃんではないでしょ!」
2人は歩調に合わせたペースで喋っていた
「、、、私達も、もう高校3年生だもんねぇ」
水野は夜空を見上げながらしみじみと呟く
「、、、そうだな」
桐島はそんな水野の方をチラッと見る
「昔とは、、、色々違うし、、、いっぱい変わったよね」
「、、、ああ」
桐島は水野の言葉に小さく頷いた
「俺は、、、変わったと思う」
桐島は目線を変えず、やや前方の地面を見ている
「、、、?だよね?」
水野は桐島の言葉に違和感を覚えながらも、同調した
「今こうやって千佳と喋ってても、、、昔とは違うって、すげえ思う」
桐島は立ち止まり、水野の方を見る
「、、、え、、、?」
2、3歩桐島の前にいた水野は、少し戸惑いながら振り返る
「俺の気持ちは、あの時とは全然違う、、、!」
「っ、、、」
水野は目を見開き、驚いた表情で桐島を見る
(、、、もう、決めてたんだ、、、)
桐島は高ぶる気持ちを落ち着いて抑えた
(おじさんとの話が終わったら、、、ちゃんとこの気持ち、ハッキリさせようって、、、)
「俺は、、、千佳の事、、、」
「誠ちゃん」
水野は桐島の言葉を遮った
「えっ、、、?」
つまづいたような感覚で桐島は言葉を止めた
「誠ちゃんさ、、、覚えてる?」
水野はゆっくりと歩き出しながら言った
「、、、? な、なにを?」
話を途中で止められ気持ちが冷めやらないまま、桐島は水野について歩く
「昔、、、私がおじいちゃんに引き取られる時、別れ際にした約束」
水野の口調がいつもより落ち着いてるように桐島は感じた
「、、、約束?ああ」
桐島はその約束を頭の中に思い浮かべいた
「どんな内容だった?」
「え、、、ああ、大人になったら、千佳に会いに行くって、、、」
「その約束じゃないよ?」
水野はクスクス笑いながら言った
「、、、え?」
桐島は不思議そうに首を傾げる 以前、その約束の話をしたので桐島はそれ以外分からなかった
「じゃ、じゃあなんなんだよ?」
「、、、やっぱり、誠ちゃんは忘れてたんだ」
「え、、、?」
少し前を歩く水野は、ゆっくりと振り返った
「大人になったら、、、結婚しよう、って、約束」
そう言った水野は、寂しげな表情で笑った
「え、、、あ、、、」
水野に言われ、桐島はその約束をはっきりと思い出した
『大人になったら、、、結婚してくれる、、、?』
『、、、うん 結婚しような』
「、、、覚えてる」
思い出した桐島は頷きながら言った
「あははっ ウソばっかりー!今忘れてたじゃん!」
水野は笑いながら再び歩き出した
「ち、違うって!マジで忘れてねえよ!前、その約束の話になった時、お前が忘れてると思ったから、、、」
「ふふ、そっかー」
必死で言い訳する桐島を見ながら水野は笑った
「私は、、、ずーっと覚えてたよ 孤児院から出てった日から、誠ちゃんと再会したあの日も、、、今も、さ」
水野は前を見たまま桐島の方を見ずに言った
「、、、ああ」
桐島は水野のやや後ろを歩きながら頷く
「、、、、、」
「千佳、だから俺は、、、」
「でも、難しいもんだよねぇ」
水野は少し大きめの声で言った
「え、、、?」
「約束って、、、なかなか守れないもんだよね」
水野は桐島の方へ振り返り、ニコッと笑った
「っ、、、、、」
桐島は思わず押し黙った
「まあ、、、小学生の時なんかは、何がなんだか分からないまま生きてるもんね そりゃそうかぁ」
水野はグーッと伸びながら言った
「、、、、、」
「時間が経てば考え方も変わるし、、、立ち位置も変わる、、、」
「、、、、、」
「でも、そんな勢いだけみたいな約束とか、言葉とかってさ、後から良い思い出になったりす、、、」
「千佳」
喋る水野の名を、桐島は呼んだ
「、、、なに?」
水野は落ち着いた様子で桐島に返事をした
「、、、勢いだけとは、思ってねえよ、、、」
「、、、、、」
水野は辛そうな、寂しそうな、苦しい表情で桐島を見た