イイ情報
「へぇー、バイトしてるんですか 誠哉さん」
凛はストローでカフェオレを飲みながら言った
「ああ ちょっと前からな」
桐島は返事をしながらイスに座った
「なんでこの喫茶店なんですか?そこらにコンビニとか色々あるのに」
「う~ん、、、なんでって聞かれたら困るけど、、、」
桐島は下を向いた後、顔を上げ店内を見渡した
「なんか、、、落ち着くな~って思って よく分かんねえけど」
「、、、確かに、分かりますよ なんとなく」
凛は桐島の顔を見てクスリと笑った
「ところで凛ちゃんは?一人で何してんの?」
「勉強ですよ勉強 テスト前なので、一応復習しておこうと思ったんです」
凛はカウンターのテーブルに置いたノートやプリントをポンポンと叩きながら言った
「え?、、、ああ、テスト前ね」
桐島は頷きながら答えた 桐島の学校ではテストは先週に終わっていた
「まああんなテスト余裕ですけどねー」
凛はペン回しをしながら呟いた
「家で勉強すりゃいいじゃねえか わざわざ外に出なくても」
「、、、!」
桐島の言葉に凛は黙り込んだ
「まあ俺は勉強とかあんました事ねえから、よく分か、、、」
「嫌なんですよ 家は」
凛は桐島の言葉を遮るように言った
「、、、え、、、?」
「、、、親がいますから、、、」
凛はノートをじっと見ながら言った
「あ、、、」
その言葉を聞き、桐島は凛の家庭事情を思い出した 凛には実の母親がおらず、父親の事も嫌っていた
詳しくはタイトル【名古屋行】~【埼玉行】などにて
「そっか、、、」
桐島は気まずそうに黙り込んだ
(まだ仲良くなってねえんだな、、、)
桐島は少し申し訳なく思った 【名古屋行】~【埼玉行】の時、自分が首を突っ込まなかったら、凛は余計な事を知らずに済んだからである
「そんな事より、誠哉さんのオススメのメニュー教えてくださいよ 私、お腹減ってるんで」
「え、、、?」
ケロッとした様子の凛に、桐島は驚いた
「、、、?なんですか?」
凛はキョトンとした表情で桐島を見る
「あ、、、いや、、、なんもねえけど、、、」
(凛ちゃん自身はあんまり気にしてねえのかな、、、)
桐島は考えながら頭をかいた
「なんなんですか?気になるんですけど」
凛はむくれた表情でため息をつく
「、、、俺が家の話したからさ、気分悪くしたかなぁ~って思ってよ」
桐島は笑ってごまかしながら言った
「え、、、?」
「でもまぁあんま気にしてないみたいだから良いんだけど」
「、、、、、」
凛は桐島の言葉を聞き、下を向いた
「、、、凛ちゃん、、、?」
桐島は凛の顔を覗き込む
「、、、本当は、、、すごく、気分悪かったです、、、」
凛は下を向いたまま、低い声で言った
「、、、え、、、?」
「無理して明るくしようと思ってただけです、、、本当はすごく気分が悪いです、、、」
「う、、、マ、マジで?」
「はい、、、」
凛は下を向いたまま、桐島の顔を睨んだ
「、、、ご、ごめんな?無理させて、、、」
「、、、、、」
桐島は謝るが凛は下を向いたまま黙っている
「わ、悪かったよ じゃあ、、、あの、なんか一つ奢るからよ」
「わぁ!ホントですか!?ありがとうございますぅ♪」
凛は急に明るい表情になった
「え、、、」
「じゃーあ!ん~どれにしよっかな~!」
凛はウキウキした様子でメニューを開きだした
「、、、お、お前騙しやがったな!やっぱ奢るのナシ!」
桐島はカウンター越しに凛が持つメニューを取り上げた
「えー?ズルいですよぉ!誠哉さんが言ったんじゃないですか!」
「うるせー!演技なんかしやがって!奢るとしてもアレだ!カフェオレのみな!」
「ちょっ!要らないですよカフェオレばっかり!」
結局桐島は凛にサンドイッチを奢らされていた
「わぁ~!おいしいそうですね♪」
凛は手を合わせながら目を輝かせる
「味わって食えよな」
桐島はため息混じりに言いながら再びイスに座った
「いただきまーす!」
凛はそう言いながらサンドイッチを一つ手に取り、口に運んだ
「、、、、、」
凛はモグモグと口を動かす
「、、、ま、普通ですねー」
凛は次のサンドイッチに手を伸ばした
「なんだよ!食う前あんなに楽しそうだったくせに!」
桐島は軽くカウンターを叩きながら言った
「アハハ!冗談じゃないですかぁ~ おいしいですよ」
凛は、どうぞ?と桐島にも一つ手渡す
「、、、、、」
(相変わらず生意気だな、、、最後に会った印象が強かったからどんなキャラか忘れてたけど、、、)
桐島は色々考えながら凛から手渡されたサンドイッチを受け取る
「まさか誠哉さんが作ってくれるなんて思いませんでしたよ しかもおいしいですし」
「まあ、、、な」
桐島はチラッとマスターの方に目をやる マスターは常連客と談笑していた
「、、、あのマスター、いっつもああなんですか?」
凛は小声で桐島に耳打ちした
「ああ、、、俺が来たら何も仕事しなくなるんだよ、、、常連客と話してるか、雑誌読んでるかだな」
「へぇ、、、やっぱり、誠哉さんが料理上手だから任されたんですか?」
「さぁ、、、まあ、メニューとかについては色々詳しく勉強させられたけどな」
「それでも上手ですよね~、ここにあるメニューは全部作れるんですよね?」
「一応はな、作った事ねえヤツいっぱいあるけど」
「ホントに誠哉さんって料理出来るんですね~、話には聞いてましたが実際にこうして見るまでは信じられなかったですよ」
凛はそう言いながらサンドイッチを更に口に運ぶ
「まあ仕込みはマスターがしてるし、、、っていうか、俺が料理上手なんて誰に聞いたんだよ」
桐島は笑いながら凛に訊ねた
「そりゃ姉さんですよ 初めて聞いたのは結構前、、、一年近く前になりますかね」
凛はサンドイッチを口に含んだまま喋った
「え、、、」
桐島は一瞬、フリーズしたように頭の中が真っ白になった
だが直後に素早く稼働する
「あっ、そう、、、そうか、そりゃな、、、」
桐島は小刻みに頷きながら腕を組んだ
「、、、、、」
凛はそんな桐島の表情をじっと見る
「、、、誠哉さん」
「、、、ん、、、?」
「、、、今、彼女います?」
「はっ、、、ああ!?なんだよいきなり!」
桐島は急に声を荒げ、立ち上がった
「おーい、静かにしろよ桐島くーん!」
マスターは少し離れた場所から手を口に添え注意した だが怒っている感じはなく、隣の常連客も笑っていた
「あっ、すいません、、、」
桐島は反射的に謝り、軽く頭を下げた
「あはは♪怒られてる~!」
「お前のせいだろうが!」
指を差し笑ってくる凛に桐島は素早く言い返す
「だから騒ぐなよ~ 彼女が来て嬉しいのは分かるけど」
マスターは重ねて注意する
「はぁ~い♪ごめんなさぁ~い」
凛はマスターに手を振りながら謝った
「すいません!けど彼女じゃないですから!」
桐島は謝りながらもしっかり否定した
「で?彼女いるんですか?」
凛は、次は小声でコソコソ話をするように口に手を添えた
「、、、いねえよ」
桐島は仕方なく一言で答えた
「じゃあ彼女になりそうな人は?」
「、、、だからいねえって、別に興味もねえだろ」
「ありますよぉ!面白いじゃないですかぁ!」
凛は小声のまま楽しそうに言った
「てゆうか、ホントにいないんですか?」
「いない」
「ホントに?」
「いない」
桐島は凛の問いにきっぱりと答える
「ふ~ん、、、まあよく考えたらそりゃそうかって感じですよね~」
凛は小声でそう言いながら頷く
「え、、、?」
そう言われるとあまりイイ気分ではない桐島だった
「だって誠哉さんってなんか無愛想ですし、普段から暗いっていうか、つまんなさそうにしてますし、、、負のオーラが出てますよね」
凛は納得するように頷きながら言った
「く、暗い?」
「ええ、そりゃモテないですよね~あはは~」
凛は笑いながらサンドイッチの最後の一切れを口に運んだ
「う、、、」
(強く否定出来ない自分が嫌だな、、、)
桐島は軽く落ち込み、下を向いた
「じゃあそろそろ帰りますね、サンドイッチ、ありがとうございましたー!」
落ち込んでいる桐島をよそに、凛は満面の笑みでカフェオレ代を桐島に渡した
「ああ、、、」
桐島は肩を落とし、ため息混じりに返事をした
「、、、そんな落ち込まないでくださいよぉ?また来ますからね」
凛は立ち上がり、イスを持つ両手に重心を置く
「お前が来たらヘコむんだよ、、、」
「あはは!誠哉さんは相変わらずで安心しました!」
凛は出入り口に向かって歩き出した
(そっちも相変わらずだな、、、)
桐島はそう思ったが口には出さなかった
「あ、誠哉さん、最後にイイ情報です♪」
凛は出入り口付近で振り返った
「え、、、」
(ま、まだなんかあんのかよ、、、)
桐島は戸惑いながらも身構えた
「歩と凛、渡部姉妹は彼氏ナシですから♪今がチャンスですよ~?」
「っっ、、、」
桐島が言葉に詰まっている間に、凛はドアを開けた
「また今度、機会があったら料理教えてくださいね?」
凛はそれだけ言うと、ドアを閉め去っていった
「、、、、、」
桐島はとりあえず、落ち着いて席についた
(、、、そうか、、、あいつ、彼氏いないのか、、、)
「ふ~ん、、、」
桐島は気にしない素振りを見せたが、その情報は頭の片隅から消えなかった