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  作者: 外山
136/216

過去編~誠~1

「よしっ!今日も張り切っていくか!」

誠はガラスに映った自分の姿を確認し、くぐっとネクタイをあげた


地元の高校を卒業した誠は社会人4年目を向かえていた

これまた地元の中小企業に入社し、会社で主にデスクワークを行っていた

人見知りな誠だが4年もいれば、この会社内で緊張してしまうような人はいなかった


会社の入り口のガラスを鏡代わりにし、服装を整えた誠は、軽く気合いを入れ建物に入っていった




誠の仕事場は2階にあった

小汚く、うっすらと暗い雰囲気の階段をのぼり、真正面のドアを開けるとそこが誠の仕事場だった

他の社員たちと軽く挨拶を交わしながら誠は自分のデスクに着いた

デスクには1人1台パソコンがついてある

周りを見渡すと、社員たちは忙しそうに歩き回ったり、パソコンに向き合ったりしていた


「おはよう 誠君」

するとパソコンを挟んだ向かいにいる女性が挨拶をしてきた

「あ、おはよう美希」

誠は笑顔で挨拶を返す

「今日は遅刻しなかったね」

「今日もだよ!一回しかした事ねえだろ!」

「そうね 大事な日に一回だけ遅刻したわね」

「う、、、いつまで覚えてんだよ、、、」

流暢に喋る美希に誠はいつも言いくるめられていた

彼女の名前は波崎美希【はさきみき】

誠の同僚にして彼女だった 同時期に入社した2人はこの会社で知り合い、そして付き合う事になった


「、、、?んん?」

誠は何かに気づき、美希の顔をじろじろ見だした

「、、、な、なによ急に、、、」

美希は恥ずかしそうに目線を下げる

「、、、なんか、、、顔赤くねえか?」

「え、、、?」

美希は反射的に自分の顔を手で触った

「風邪か?いつもより赤い気がするけど、、、」

「別にしんどくはないし、、、大丈夫でしょ」

美希はさして気にも留めなかった

「気をつけろよ?どんな病気が潜んでるか分かんねえからな」

「大丈夫よ 大袈裟ね」

「確か明日休みだったろ?病院とか行ってみたらどうだよ?」

「、、、どっちにしろ、明日は病院に行く予定だったから、、、ついでに看てもらうね」

「え、、、?なんで病院に行く予定だったんだ?」

誠は不思議に思い訊ねた 美希が病気を持っているという話は聞いた事がなかった

「ちょっと気になる事があるの 大した事じゃないから気にしないで」

「、、、そうか、、、」

優しい口調になった美希に、誠はそれ以上訊けなかった









仕事が終わった誠は1人、自宅に帰る道を歩いていた

「あ~あ、今日は美希とメシ食いに行きたかったのになぁ~」

誠はつまらなさそうに呟く

先ほど美希を夕食に誘ったのだが、美希は取引先の方々との会議があるとの事だった 時間がかかるかもしれないので今日は無理だ、と美希に言われたのである

「すげえよなぁ美希は 俺、取引先の人とまともな会議なんてしたことねえよ」

自分より仕事が出来る美希に、誠は彼氏として少し負い目を感じていた


「、、、ま、ごちゃごちゃ考えても仕方ねえ、、、それより貯金も貯まってきたし、念願のマイカーを買える日もそう遠くねえな♪」

切り替えが早く楽観的なところは誠の良いところだった 誠はそのいい加減な性格ゆえ、今まで貯金は上手く出来なかったが、車を買うというモチベーション保ち続け、なんとかそれなりの額までもっていっていた

「早く美希とドライブしてえなぁ、、、とりあえずどこでもいいや 美希が行きたいとこなら」

ニヤニヤと笑いながら歩いていると、自宅に着いた

誠はアパートに住んでいた

そのアパートは2階建てで、1階に4部屋の計8部屋ある

築30年はあると思われるぐらい年季の入ったアパートで、青色の外装が施してあった

アパートの前には駐車場、その横には屋根付きの駐輪場があった

誠の部屋の番号は103だった


♪~♪


部屋のドアノブに手をかけようとしたところで、誠の携帯電話が鳴った

「うわっ、、、っと」

誠は慌ててポケットに手を入れる

「電話か、、、俺にはポケベルの方が合ってるんだけどな、、、」

この頃、携帯を持っているのは金持ちか、誠のように会社の規則として持っているかのどちらかだった 今のように誰でも持っている訳ではないため、かけてくる相手は限られていた





誠は家の前まで来たが帰らず、喫茶店に向かっていた 今は夕方なので、もう少しで閉店する時間である

大通りから一本外れた落ち着いた場所にその喫茶店はあった


カランカラーン


誠は喫茶店に入り、店内を見渡した

すると、窓際のテーブルにいる人物と目が合った

「あ、誠君!こっちこっち!」

人懐っこい笑顔で黒髪の女性は手を振った

「ああ」

誠は軽く返事をし、そのテーブルに向かった

彼女の名は神田由美【かんだゆみ】

誠の幼なじみである 誠とは違い高学歴で、今は大企業に立派に勤めている

「あれ?恭丞は?」

誠は周りを見ながら言った

「仕事中だったのかな?電話出なかったんだよね~ せっかく恭丞君の馴染みの店なのに」

由美は残念そうにため息をついた

「ふ~ん、、、ま、あれでも一応警官だもんなぁ~ 仕事中だったら電話にゃ出れねえかもな それよりちょうど腹減ってたんだよ」

誠はウキウキした表情でメニューを見る

「ホントは彼氏とデートだったのになぁ~ 急に用事が出来たって」

由美は唇を尖らせながらスネた表情になった

「はは!俺も同じ!まあ俺の場合は俺が急に誘ったのが悪いんだけどな」

「そうなんだ~、同じ会社の人なんだよね?彼女さんって」

「え?ああ、会った事無かったっけ?」

「ないよ!私は何回も会わせてって言ってるのに!」

由美は怒った口調で言った

「ん~、でも機会がねえだろ?友達に会わせたいから、、、って言うのも変だし」

「、、、確かにそうだよね」

「てゆうか由美の彼氏も見た事ねえし」

「え?そうだっけ?」



恋人との予定が上手くいかなかった幼なじみの2人は、たわいもない会話をしながら夕食の時間を過ごした










翌日

仕事を終えた誠は会社を出た


「美希、、、ちゃんと病院行ったかな、、、」

誠は夕方の空を眺めながら心配そうに呟く


♪~♪


するとちょうど誠の携帯電話が鳴った

素早くポケットから携帯電話を取り出す

「もしもし?」

「あ、、、誠君、、、?仕事終わった?」

「ああ、美希 今ちょうどな」

電話の相手は美希だった 誠はいつものように受け答えはしたが、少し元気がない美希を不思議に思った

「どうしたんだよ?病院行ったか?」

誠は出来るだけ明るい声色で言った

「、、、今から会える、、、?」

「え、、、?」

「、、、、、」

美希はそれだけ言うと黙り込んだ








2人は公園を待ち合わせ場所にし、会う事になった

大きい運動場に隣接するような形のその公園は少しだけ遊具があり、それらを照らすように等間隔で電灯が立っていた


誠はその場所のベンチで座りながら美希を待っていた


「なんだろうな、会って話したい事って、、、」

誠は手をあごに添え、考えてみた

「もしかして、、、病院ですげえヤバい病気が見つかったんじゃ、、、」

そう思うと誠はドキドキして落ち着かなかった

すると前方から足音が聞こえた

パッと顔を上げて見ると、美希が歩いてきている姿があった

「あっ、美希」

誠は立ち上がりながら美希を呼んだ

「ごめんね?待たせた?」

「いや、、、全然!」

誠は激しく首を振る やはり美希の様子はどこかおかしかった

「それよりどうした?会って話したい事って」

「うん、、、とりあえず座ろ?」

美希はベンチを指しながら言った いつもの強気なツンとした口調は無く、弱々しい口調だった

2人はベンチに座り、息をついた

「あのね、今日、病院行ってきたの」

美希は間を空けず言った

「そか、、、どうだった?」

「、、、私、誠君に言われる前から病院に行く予定があったって言ったでしょ?」

美希は誠の質問を後回しに話を続ける

「え?ああ そうだったな」

誠は深く頷きながら言った

「もしかしたらって思ってね、、、そういう兆候があったから行く予定だったんだけど、、、」

「? うん?」

誠は美希が何について言っているのかよく分からなかった

「それで実際に行って検査してもらった、、、やっぱりそうだったみたい」

美希は困惑しているような、どうしていいか分からないといった表情だった

「、、、な、なんなんだよ?」

(そんなヤバい病気なのか、、、?)

頭の中には知っている内のありとあらゆる病名が駆け回っていた


「、、、妊娠してるみたい、、、」


「、、、え?」


誠は美希の言葉がすぐには理解出来なかった

「、、、どうしよ?」

美希は不安げな表情で誠を見る

「、、、、、」

誠は状況をしっかり理解するまで、少しの時間がかかった











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