揺れ動き
12月25日 21時半頃
鈴科孤児院は眠り鎮まっていた
全ての部屋の電気は消え、玄関の外灯と非常口の光、孤児院の周りの街灯から差し込む光のおかげで真っ暗闇ではなかった
桐島達も、孤児院のペースに合わせもう眠りについていた
桐島は少し特別な部屋で寝ていた
客人用の部屋、というか宿泊施設のような部屋が一つだけあるのだ
桐島は鈴科孤児院で寝泊まりする時、たまにここを使用する
部屋に水道もあり、少し便利らしい
ちなみに須原は草津の専用の部屋で寝ていた 玄関の付近の部屋だ
水野、秋本は鈴科やおばあさん、子供達と一緒に大部屋で眠りについていた 桐島がいる部屋の隣だ
こんな早い時間でも、いつもはすぐに眠りにつける桐島だが、今日はなかなか寝付けなかった
何度か寝返りを打ち、寝心地悪そうにする
どうやら昼間の外山の言葉がずっと引っかかってるようだ
『、、、何しに名古屋に行ったんだよお前は、、、違う女連れて帰ってきやがって』
(あいつ、、、勝手な事言いやがって、、、もうちょいちゃんと言い返しときゃよかった、、、)
度々外山の言葉を思い出しイラついていた
(なんでこんなにイラつくかはよく分かんねえけど、、、多分あいつの言い方がムカつくんだな、うん、、、)
桐島は自分自身に言い聞かせるように寝転びながら頷いた
ふと、水野の顔を頭に浮かべる
(、、、千佳は、、、どう思ってんのかな、、、)
桐島がそんな事を考えていると、部屋のドアがゆっくりと開いた
ガラ ガラ ガラ
「えっ、、、?」
桐島はそれに気づき、ハッと反応した
(な、、、な、なんだ?誰、、、?)
幽霊的な恐怖が桐島の体全身を強ばらせた
(く、暗くてよく見えねえ、、、)
桐島はグッと背中を地面にすりつけ、背後を取られないようにする 幽霊的なモノに背後のスペースにこられそうで怖いからだ
「、、、誠ちゃん、、、?」
「っっ!?」
(こ、声!?)
桐島は更に恐怖が増し、気配を消そうと動きを止める
(、、、?誠ちゃん、、、?)
桐島は言葉の意味について考えた 自分の名を呼ばれている
「誠ちゃん、、、起きてる、、、?」
「、、、千佳、、、か?」
桐島が返事をすると、パッと電気が点いた
「うわっ、まぶし、、、」
桐島は目を細めた 出入り口に立っていたのは水野だった
「良かったぁ~、起きてた~」
水野はホッと胸をなで下ろす 桐島が起きている事を確認した後、水野は部屋の電気を点けた
「千佳、、、なんだよ?まだ寝てなかったのか?」
桐島は布団から起き上がり、水野に訊ねる
「うん、なかなか寝付けなくてさぁ、、、てゆうか、、、その、、、」
水野は言いにくそうにもじもじしている
「ん、、、?」
桐島は首を傾げる
「ちょっと、、、来て?」
「え?なんだよ?」
「いいからちょっと来てよ ちょっとだから」
水野は何度も桐島を手招きする
「、、、まあいいけど」
桐島はよく分からないまま立ち上がり、水野と共に廊下に出た
2人は薄暗い廊下を歩き、トイレに向かっていた
水野は1人でこの廊下を歩き、トイレに行くのが怖かったようだ
「ごめんね、、、寝てるとこ起こして、、、」
「いや、、、まだ寝てなかったしいいよ」
「そう、、、?あ、ちょっ、歩くの速いよ!」
水野は慌てて桐島の右腕の服の裾をつまむ
「そうか?急いでると思って、、、」
「そんなに速いと怖いじゃん、、、」
水野はおそるおそる周りを見ながら桐島に身を寄せる
「、、、へへっ、昔っから変わんねえな、、、千佳は」
桐島は少し嬉しそうに笑いながら言った
「え、、、?」
「孤児院にいた時もさ、夜中によくトイレに付き合わされたなぁって、今思い出した」
「う、、、うん」
水野は恥ずかしそうに頷く
「だってここのトイレってなんか遠いし、、、廊下は薄暗いし、、、怖いよ、、、」
「確かにな」
「誠ちゃん全然そう思ってないでしょ!私は本気で言ってるのに!」
「思ってるよ」
必死で喋る水野に対し、桐島は笑いながら答えていた
「でも、、、誠ちゃんの言う通り、私は大して変わってないと思う、、、」
水野は急に声のトーンを落とした
「ん?」
「少なくとも私は、、、何一つとして、変わった事は無いって思ってるよ?」
「、、、そっか」
水野の言葉に桐島は頷きながら答えた
そうこうしている内にトイレにつき、水野は電気をつけ、中に入っていった
用を終えた2人は、再び薄暗い廊下を歩いていた
「ここの廊下さ、電気が点くようにするべきだと思わない?」
「別に、外から光差し込んでっからいいんじゃねえか?真っ暗って訳でもねえし」
「違うよ!怖いじゃん!」
「まあ多少はな、、、てゆうか電気点くだろ おっさんが調節してるみたいな話を聞いた事あるぞ」
「えぇ!?じゃあ外からも点けれるようにするべきよね!」
2人はたわいもない会話をしながら歩いていた というか水野が怖がりな為、たわいもない会話を無理やり続けていた
2人の寝室にもう少しで着くという時に、水野はある事を思い出したようだ
「そうだ!あそこ行こうよ!」
「、、、?どこ?」
唐突に声を上げる水野に、桐島は首を傾げた
「帰ってきたら行こうと思ってたんだ!ほら、準備準備!」
「?」
2人は孤児院の中庭に出ていた
孤児院の廊下を奥に進んだ突き当たりに隣の棟へと続く渡り廊下がある
隣の棟は明らかに使われておらず全体的に寂れていた
その渡り廊下に外用のスリッパが置いてあり、それに履き替え中庭に出るのだ
2人は上着を羽織り、中庭を歩いていた
「誠ちゃん昔さ、中庭の奥にベンチ置いてたじゃん!あれってまだあるのかな?」
どうやら水野はそれを確認したかったようだ
「ああ、まだあるはずだぞ」
「やっぱり!?懐かしいから見てみたくなったんだー!」
水野は足元を確認しながら歩く
「ふぅ~、やっぱ寒いな、、、」
桐島は手をこすり、マフラーを口もとまで上げた
「そうね、、、もうちょっと上着とか着た方がよかったかも、、、」
水野は手袋をつけた手で頬をさする
「、、、あ!あれかな!?」
ベンチを見つけた水野は指を差しながら言った
「、、、おう、そうだな」
「うわーすご!なんか感動!」
水野は甲高い声を上げながらベンチに駆け寄る
桐島は水野の後を歩いていく
「おー!久しぶりだねぇ!お変わりなく!」
水野はベンチの背もたれをポンポンと叩きながら挨拶する
「ねえねえ!座ろ座ろ!」
水野は桐島を激しく手招きする
「いや、、、座らねえよ 水滴ついて濡れてるし、、、タオルもねえし」
水野に対して桐島はテンション低く答え、ベンチにそれほど接近せずに立ち止まった
「えぇ~?せっかく久しぶりなのに、、、」
水野は口をとがらせ、スネた口調で言う
「仕方ねえだろ まあ別にいつでもこれるしいいじゃねえか」
桐島はそう言いながら壁にもたれる
「う~ん、、、まあ、、、」
水野はしぶしぶ納得し、桐島の隣につく
「、、、、、」
水野はふと黙り、考え込んだ
「、、、?どうかしたか?」
急に黙る水野に、桐島は声をかける
「、、、ううん なんでもないよ、、、」
「、、、そか」
水野は首を振りながら答える 桐島はそれに軽く頷きながら答えた
この場所からは空の星や月が綺麗に見える というか、ベンチにもたれると自然と目線も上がる為、首も疲れずゆっくりと見る事が出来た
特に現在桐島や水野が住んでいる名古屋のような都会に比べれば、かなり鮮明に見える方だった
「じゃ、そろそろ戻ろっか?」
「ん、、、ああ」
「寒いもんねぇ~、風邪ひいちゃうかも」
水野は両肘をさすりながら言った
「そうだな、、、」
桐島はもう一度マフラーを口元まで上げ、水野の後について言った
翌日
桐島、水野、須原、秋本は名古屋に帰る為、駅に来ていた
徒仲達は4人を見送る為に駅までやってきていた
「お世話になりましたー なかなか楽しく過ごせました!」
須原が代表して皆に改めて挨拶した
「おう、いつでも来いよ」
「葵さんによろしく!」
野波佳と安川が前に出て挨拶を返した
「、、、、、」
秋本はシュンとした表情で佇んでいた
「どうしたの?」
特に秋本と仲良くなった北脇は、その異変に気づいた
「、、、ごめん、なんか淋しいなー思てね」
「、、、そう?じゃあ私もその内、名古屋に遊びに行くね」
「ホ、ホンマに!?」
そんな皆のやり取りを横目に、桐島は一息ついていた
「、、、、、」
桐島はグッと考え込む表情になっていた
「よう桐島」
すると外山が声をかけてきた
「、、、なんだよ」
「ちょっとは考え変わったか?」
外山はニヤニヤ笑いながら言った
「、、、うるせえな、何も変わってねえよ」
「、、、素直じゃねえなぁ」
外山は首を振りながらため息をついた
「もう帰るのね桐島君」
瞬が声をかけながら桐島のもとへ歩み寄ってきた
「あ、、、はい、最初からこういう予定で、、、」
「ふ~ん、、、」
瞬はふと、水野の方へ目を送った
「もー帰んのかよー!トンボ帰りだなー!」
「次は九頭ちゃんが名古屋にこればいいじゃない!」
「俺パスポート持ってねえからさ!」
九頭と水野が喋っているのが桐島、瞬、外山の目に入った
「、、、でさ、付き合ってるのよね?」
「は?」
瞬の唐突な言葉に桐島は驚いた
「千佳ちゃんと」
「はぁ!?付き合ってねえよ!」
桐島はムキになって言い返す
「え?あ、そう?」
「ですよねー?瞬さんもそう思いますよね?」
外山はひそひそと瞬に言う
「ふ~ん、、、素直になればいいのに」
「外山と同じ事言うなっ!」
桐島はそう言うと、改札口に向かって歩き出した
「あ、誠哉君!」
名古屋へ帰ろうとする桐島に声をかけたのは徒仲だった
「徒仲、、、」
桐島だけ立ち止まり、3人は改札口を通った
「、、、ごめんな 上手く行かなくて、、、」
桐島は目の前にいる徒仲だけに聞こえるように言った
「、、、ううん 私も、誠哉君ばっかりに頼って、、、ずっと謝りたかったの」
徒仲はシュンと下を向きながら言った
「だから、、、今度は、自分の為だけに頑張ってね」
「え?」
徒仲はふと、改札の向こう側にいる水野に目を送った
桐島も徒仲の見ている方を見る
「今度は、、、後悔しないようにね」
「、、、、、」
桐島はその言葉を聞き、水野から目を離した
そして、コクっと小さく頷いた
新幹線の中で、桐島は流れる窓の外の景色を見ていた
馴染みの地元も、久しぶりに帰ってくると妙な違和感のある景色に見える
桐島はふと、目線を水野に送った
「えー?さなっちゃん名古屋来るって!?」
「一応そう言ってたで!」
水野は秋本と楽しそうに喋っている
「、、、、、」
桐島は再び目線を窓の外に戻した
『、、、素直じゃねえなぁ』
『ふ~ん、、、素直になればいいのに』
『今度は、、、後悔しないようにね』
桐島の頭の中には外山、瞬、徒仲の言葉が渦巻いていた
「、、、、、」
(う~ん、、、)
桐島は不快そうな表情で、軽く頭をかいていた