表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 外山
126/216

大都会からの来訪者


菅井の葬儀から数週間が経ったある日



桐島は家で電話をしていた


「ああ、歩には会ったぞ」

「え、、、ホ、ホントに!」


そう驚いた声で答えたのは徒仲だった


徒仲は、渡部の話を聞こうと桐島に電話したのである

「名古屋に来てから出来た友達と歩が幼なじみだった んで、たまたま会ったんだよ」

「そ、、、それで、どうだったの!?」

徒仲は興奮気味に桐島に訊ねる

「どうって、、、まあ、、、」

桐島は頭をかきながら言葉を考える

「、、、多分、二度と会わねえと思うけど、、、」

「、、、は?なにが?誰と誰が?」

桐島の言葉を徒仲は理解出来なかった

「俺と歩がだよ、、、少なくともこっちから会う事はねえし、歩も同じじゃねえかな?」

「はぁ!?なになに!?意味分かんないんだけど!?なにがどうなったらそうなるの!?誠哉君!歩ちゃんになんかしたでしょ!」

徒仲は更に声を荒げて訊ねてくる

「いや、、、ちょっとややこしい話ではあるけど、、、」

桐島は少しめんどくさそうに言った

「じゃあじゃあ!そもそも誠哉君をフった理由ってなんだったの!?」

「だからそれもちょっとややこしいんだって ただ、俺をフった理由とお前らと連絡を取らなくなった理由は一緒だと思う」


「、、、全然分かんないんだけど!納得いかない!」

徒仲はふてくされた様子で言った

「納得してくれよ」

桐島はため息まじりに言葉を返す

「、、、誠哉君は、それでいいの?」

「ん、、、?」

「もう、、、歩ちゃんの事、別に好きじゃないって事?未練とかないって事?名古屋まで行ったのに、、、」

「、、、、、」

桐島はその言葉に少し考えた後、息をついた

「、、、そういうんじゃねえんだよなぁ」

「、、、え?」

桐島のズレた答えに徒仲は困惑する

「ま、、、徒仲は焦栄から聞いてると思うけど、、、名古屋にさ、俺の中学の時の友達がいたんだよ」

「、、、うん 焦栄から聞いた、、、」

徒仲は遠慮気味に答える 亡くなった事を知っているからだ

「昔、こいつと色々あってよ、、、ギクシャクした関係っつうかなんていうか、、、そんな簡単な言葉じゃ表せねえ事情があってさ、、、こいつも歩の幼なじみで、菅井緋斬っていうヤツなんだけど」

桐島はそこで息をつき、更に話を続けた

「緋斬に会った瞬間から、、、頭の中がなんか緋斬の事ばっかりで、、、歩の事がその次になってたんだよ」

「、、、、、」

徒仲は黙って電話越しに頷く

「そんで、緋斬が命に関わるような病気を持ってるって知って、、、歩はその緋斬の為に色々頑張ってて、、、それどころじゃねえっつうかさ、、、」

桐島は苦笑いしながら言った

「そんなコト、、、」

「なにより、、、なんか吹っ切れたんだよ」

「、、、え?」

「病気の緋斬の為に、頑張らないとって話を歩から聞いた時、、、全部スッキリした」

「、、、、、」

徒仲はあまり納得いかないまま話を聞いていた

「俺さ、埼玉のみんなに言ってたろ?別に歩の為に行くんじゃないって 自分が納得いかねえから確かめに行くんだって」

「、、、うん」

徒仲は静かに頷きながら、桐島がまだ埼玉にいた頃の事を思い出す

「今考えたら、ホントにその通りだったのかもな、、、フられた理由が分かった途端、スッキリしちまったんだよ、、、緋斬の葬式の時に歩を見ても、特に何も思わなかった もう歩も来てたのか、ぐらいでさ、、、」

「、、、そうなんだ」

徒仲は少し寂しそうな声で答える


「、、、俺がフられた理由は一応、緋斬にあった訳だけど、、、理由がなくなったから、じゃあヨリ戻そうかって、そんな話じゃねえから、、、」

桐島はグッと下唇を噛み締めた

「なにより、、、今、歩と会ったって、辛い事や嫌な事思い出すだけで、、、何にもなんねえからさ」

「、、、、、」

徒仲はなんとなく桐島の胸中を理解した

「詳しい事は、、、そうだな 冬休みとかには埼玉に帰ろうと思ってるから そん時にな」

「、、、うん よろしくね」

「おう」



プツッ



「、、、、、」

桐島は携帯電話を閉じた

(徒仲、、、やっぱちょっと元気なかったな、、、)

徒仲は明るいだけが取り柄なので、桐島は少し心配していた

「冬休みは、、、来月か」

桐島はカレンダーを見ながらボソッと呟いた






更にその数日後



ちょうど昼時、桐島と水野は近くのジャンクフード店にいた


「今日は塾とかねえのか?」

「うん 日曜日ぐらい休まないとねー」

2人はストローでジュースを飲みながら話していた


「それにしてもさぁ、誠ちゃんも名古屋にいるなんてなんかすごいよね!」

水野はぐーっと体を伸ばしながら言った

「ん、、、ああ」

桐島は少し目をそらしながら頷く

「いつから?やっぱり小学生の間?私がいなくなってからどれくらいで名古屋に来たの?」

「え、、、っと」

桐島は言葉を詰まらせ、考える

「誠ちゃんのとこの人も良い人?てゆうか全然気づかなかったなぁ 中学とかどこだったの?」

水野はワクワクした表情で次々訊ねる

「いや、、、違うんだよ」

「ん?」

桐島の言葉に水野は首を傾げる

「俺さ、、、誰にも引き取られてねえんだ」

「、、、え?」

水野は再び首を傾げた

「あのおばあちゃんは俺のホントのおばあちゃんだからさ、、、千佳は知ってると思うけど」

「うん、それは知ってるけど、、、?」

水野はよく分からない様子で答える

「だから、、、俺、中学の時から一人暮らししてんだよ」

「え、、、えぇ!?」

水野はガッと身を乗り出して驚く

「おばあちゃんの知り合いのとこだけどな、、、孤児院からもそんなに離れてねえアパートで一人暮らししてたんだ」

「えぇ、、、ウッソォ、、、」

水野は両手で口を覆いながら言った

「んで、そのアパートが今年の9月に取り壊しになってな、、、なんやかんやで名古屋に引っ越す事になったんだよ」

「え、、、じゃ、じゃあ今も一人暮らししてるの!?」

「え?ああ、まあ、、、」

あまりの水野の食いつきに桐島は少し動揺しながら答える

「てゆうか今年の9月って、、、今は11月だから、、、ま、まだ2ヶ月!?名古屋にきてから!?」

「い、いや8月には引っ越してたから、、、3ヶ月ぐらいだな」

「そうだったんだ!私てっきり誠ちゃんも名古屋の人に引き取られたんだと、、、」

水野はやっと少し落ち着き、身を引いた

「てゆうか、、、すごいなぁ、一人暮らし」

水野は遠い目をしながら外を眺める

「別に、そんな大した事でもねえけどな」

桐島はそう答えながらも少し得意げで、そして楽しそうだった

今まで、友人達に一人暮らしをしていると言うと気を遣われてきたが、水野にはそれがないからだ

身の上の事情を理解しあっている相手だと互いに気にする事も少なかった


「でも誠ちゃんってだらしなさそ~ 洗濯物とかめちゃくちゃ溜めてたりして」

水野はニヤニヤしながらジュースのストローで桐島を指す

「全然溜まってねえよ 千佳の真似して洗濯は覚えたからな」

「はははっ!私がよく洗濯してたの覚えてくれてたんだ!」

「そりゃあな 俺らの近くの世代ってそういうの出来る奴極端に少なかったろ?食器洗いとか洗濯とか」

「うんうん でも普通あんな小っちゃい頃は出来ないもんだよ」

「それがさ、この前おばあちゃんと受付のおっさんとそういう話してたんだけどよ 今の子は結構出来る奴多かったぞ」

「そうなんだ!てゆうか懐かしいなぁ おばあちゃんとか受付のおじさんとか!」



2人は孤児院トークに花を咲かせ、普通の友人には話せないような孤児院内部の話で盛り上がっていた



「でもよ、千佳も高校卒業したら一人暮らしするんだろ?」

「へ?な、なんで?」

唐突な桐島の言葉に水野は少し動揺する

「とぼけんなよ お前と久しぶりに会った日、俺とぶつかってノートとか参考書とか教科書とか色々落としたろ?」

「う、うん」

「その時見たぞ?卆壬大学の対策参考書みてえな本 卆壬大学って東京だろ?」

「え、、、」

水野は目をそらしながらオロオロする

「まあ俺はその時、水野千佳、って名前にびっくりしてそれどころじゃなかったけどな」

桐島は笑いながらジュースを飲む

「、、、、、」

水野は黙って下を見ながらうろたえている

「、、、?」

桐島は水野の顔を覗き込む 急に元気がなくなったようだ

「千佳、、、?」

「、、、私、高校卒業したら就職しようと思ってるんだ」

「、、、え?」

顔を上げて言う水野に、桐島は驚いた表情をする

「大学とかは行く気ないよ」

「え、、、で、でもそんなに勉強してんのに、、、」

桐島は水野の持っていた参考書や塾の事を思い出していた

「高校を卒業したらもう勉強出来ないでしょ?だから今の内にしとこうと思って 卆壬大学の参考書は、、、力試しって感じ?」

水野はニカッと明るい表情で言った

「、、、そうだったのか」

桐島はあまり腑に落ちないまま返事をした

「にしても誠ちゃんでも、卆壬大学とか知ってるんだね ソツミってよく読めたね」

「当たり前だろ!めちゃくちゃ有名じゃねえか!」

バカにしたように言う水野に、桐島はムッとした言い方で答えた

「それに、、、先輩が行ったからな 卆壬に」

「、、、え?」

桐島の言葉に水野は敏感に反応する

「埼玉の高校で知り合いになった二つ年上の先輩なんだけど、今年から卆壬大学に行ってんだよ」

浜薫と片岡綾の事である

「はぁ!?ウソ!?卆壬大学に行ってる人と誠ちゃん知り合いなの!?」

水野はテーブルから身を乗り出して訊ねてくる

「え、、、あ、ああ」

「すご!!すごすぎだよそれ!!てゆうか誠ちゃん埼玉でどんな高校行ってたの!?超進学校じゃないの!?」

水野は非常に高いテンションで次々訊ねる

「い、いや全然そんな学校じゃねえけど、、、ただあの2人は結構自由人ってゆうか、、、」

「2人!? 2人もいるの!?卆壬大学に行ってる知り合いが!?」

「お、おう、、、」

水野の勢いに桐島は全くついていけず、たじたじだった

「すごーい!いつか紹介してね!その先輩達!」

水野は目をキラキラさせながら桐島にお願いした

「ああ、、、つうかさ」

桐島はそこで笑いながら言葉を止めた

「?」

「やっぱり卆壬大学行きたいんじゃねえの?先輩達の話にすげえ食い付いてくるし」

「え、、、?」

笑いながら喋る桐島に対し、水野は動揺していた

「べ、別に、、、」


♪~♪


すると携帯電話の着信音が、水野の言葉を遮るように鳴った

「ん、、、ああ、俺か」

桐島は携帯をポケットから取り出す

「わりぃ、ちょっと、、、」

桐島はそう言いながら携帯を開いた

水野は声を出さずに小さく頷く


画面には[早乙女葵]と出ていた

現在、桐島が住んでいるアパートの大家である


「もしもし」

「桐島君!?ちょっと今すぐ私の部屋来て!」

桐島がもしもし、を言い終える前に勢いよく早乙女は言った

「は?な、なんなんすか、、、」

「いいから来なさい!どうせ暇でしょ!」

「いや、、、今ちょっと外出てんすけど、、、」

「じゃあ今すぐ帰ってきて!」



プツッ ツーツーツーツー



「なっ、、、、、」

いきなり電話を切られ、桐島は首を傾げながら携帯を閉じた

「、、、なんだったの?」

水野は少し心配そうに桐島に訊ねる

「訳分かんねえけど、、、アパートの大家の早乙女さんが、今すぐ帰ってこいって、、、」

桐島は不思議そうな顔で携帯を見ながら言った

「お、大家さん?」

「ああ、、、つっても二十歳ぐらいの若い女の人だけど、、、」

「私も行っていい?」

「え?」

水野の意外な提案に桐島は顔を上げた

「今から行くんでしょ?私もついて行っていい?」

「いや、、、まあいいけど、、、」

そもそも行くかどうかすらも決めていなかった桐島にとっては答えにくい提案だったが、とりあえず了承した

「誠ちゃんが一人暮らししてるアパート、どんなとこか見てみたいし!」

水野は楽しそうに笑いながら言った

「そか、、、じゃあ行くか」

「うん!早く早く!」

水野は立ち上がり、足早に店を出ようとした






桐島と水野の2人はアパートについた


築何十年かというそのアパートは水野の心を惹いた


「うっわ~、、、すごい年季入ってるね~」

水野は目をキラキラさせながらアパート全体を見渡す

「そうだな 普通にボロアパートだけど、、、」

「なんかいいじゃんこういうの!一人暮らしって感じでさ~♪」

水野は楽しそうに桐島の肩を揺らしながらアパートを見入っている

「、、、、、」

桐島はじっと水野を見る

「、、、?誠ちゃんどうかした?」

「いや、、、一人暮らしにすげえ憧れがあるみたいだけど、、、」

「そう?一人暮らしって若者の夢だと思うんだよね!みんな憧れてるんじゃないの?」

「、、、そうかな」

(俺は中学の時から一人暮らしだからな、、、あんまそういう憧れはねえな)

桐島は難しそうな表情で頭をかいた

「ま、いいか、、、とりあえず早乙女さんの部屋行くか」

「私も行っていいのかな?」

「いいんじゃねえか?ダメなら早乙女さんが言うだろうから、そん時は俺の部屋とかで待っててくれ」

桐島の言葉に水野は緊張した面持ちで頷いた




ピンポーン



前まで来た桐島は早乙女の部屋のインターホンを押す


「桐島くーん!?」

部屋の中から早乙女の声で訊ねてきた

「はい!桐島ですけど!」

「入ってきて!開いてるから!」

「なんで開いてんだよ、、、」

桐島は早乙女には聞こえないように小さく言い返した


ガチャ


「入りますよ」

桐島は靴を雑に脱ぎながら言った

「お邪魔しま~す、、、てゆうか靴いっぱい、、、」

水野は小声で呟く 確かに玄関には靴がやたら並んでおり、広くない空間に5、6足はあった


「なんの用ですかね、早乙女さ、、、」

居間についた桐島はそこで言葉を止めた

「え、、、」

桐島は驚いた表情でそこにいる人物を見た

「お邪魔します、、、、、」

水野も遅れて桐島の後ろにつく


中には須原と秋本がいた 楽そうにくつろいでいる


「ちょっと桐島君!!知り合いだったんなら早く教えなさいよね!!」

早乙女は座ったままだが桐島に強く詰め寄った

「い、いえ、、、てゆうか、はぁ?え?一体どういう、、、」

桐島は現状を全く理解出来なかった

桐島が見渡している居間には5人の人間がいる

大家である早乙女葵

隣人である秋本梓

友人である須原浩二


そして、、、、、


「うむ、久しぶりだな桐島」

「覚えてるかしら~?」

桐島にとっては強く印象に残っている先輩2人だった


「な、、、なんで、、、?」

桐島は現状に全くついていけていなかった

今、桐島の目の前にいる女性2人は本来名古屋にいるはずはなく、東京の大学に通っている筈だった


桐島の2歳年上の先輩



浜薫と片岡綾である



「、、、?」

水野は居間を見渡すが、当然知っている人物はおらず、桐島が何故動揺しているのか全く分からなかった















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ