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  作者: 外山
124/216

別れと出会い


菅井の葬儀が終わり、時刻は17時


渡部は1人、皆より先に帰ろうとしていた

「、、、、、」

建物を出て、ふと看板に目を送った


「、、、、、」

スッと目をそらし、更に歩き出す


すると、建物を出て少し行った先に、誰かがいるのが見えた


「、、、あ、、、」

渡部がその人物に気づくと、相手も渡部に気づいた

「、、、歩」

ゆっくりとその名を呼んだのは桐島だった

「、、、、、」

渡部は桐島の前まで歩いていった

「、、、、、」

スッと小さく会釈をし、通り過ぎようとすると、桐島が口を開いた

「帰るのか、、、?」

通り過ぎる渡部の背中に問いかける

「、、、うん 緋斬君のお母さんにも挨拶はしたから、、、」

渡部は微笑みながら答える

「、、、一緒に帰らねえか、、、?」

桐島は優しく笑いながら言った

「え、、、」

渡部は振り返り、桐島の顔を見る

「、、、、、うん」

渡部は淋しそうに笑った後、小さく頷いた




「、、、、、」

「、、、、、」

2人は何を話す訳でもなく、黙って歩いていた

人通りが多く、何かと騒がしいこの場所が、会話がなくても大丈夫なよう取り繕ってくれているようだった


「、、、その制服、、、銘東高校だよね、、、」

渡部は何気なく訊ねてみた

「ん、、、ああ 須原と同じだな」

「だよね、、、」

桐島の言葉に渡部はコクっと頷く

「お前の制服も初めて見たけどな」

「、、、そうだっけ?」

「ああ、南涯高校のより似合ってると思うぞ」

「え、、、そうかな、、、?」

渡部は少し照れた様子で聞き返す

「ああ、、、俺はなんとなくそう思った」

「、、、ありがとう」

渡部は前を向きながら答えた


すると、2人は横にある建物に目がいった

かなり高級なホテルである

「、、、、、」

桐島は眺めるようにそのホテルを下から上まで見た

「、、、ここ、覚えてる?」

渡部も同じように眺めながら呟くように訊ねる

「、、、ああ」

桐島はホテルを眺めたまま答える


この高級ホテルは、以前桐島と渡部が名古屋にやってきた時、桐島が泊まったホテルである

詳しくはタイトル【名古屋行】~【埼玉行】など


「私さ、、、名古屋の家が嫌で、抜け出してきてたの、、、」

渡部は当時の事を思い出しながら言った

「それで、誠哉君に会いたくてホテルまで来たんだけど、、、どうしようか迷っちゃって」

「? 迷った?」

桐島は首を傾げ、聞き返した

「うん、、、迷惑じゃないかなぁとか、なんで来たかの理由をどうしようかなぁとか、色々考えてたらどうしていいかよく分かんなくなって、、、誠哉君が出てきたらいいのになぁ、って思ってて、、、」

渡部はちょうど自分の立ち位置に立って、一つずつ話した

「そしたらホントに誠哉君が出て来て、、、すごくびっくりしたけど、すごく嬉しかったな、、、」

「、、、そうか」

桐島は渡部の話を頷きながら聞いていた

「誠哉君はさ、、、あの時なんでホテルから出てきたの?」

「、、、お前の父親から聞いたんだよ、さっきから歩の姿が見えねえって 電話がかかってきてな」

渡部の問いに桐島は分かりやすく答える

「そうだったんだ、、、」

「あと凛ちゃんから、お前があんまり親戚と仲良くないって聞いてたしな それにあの時は、、、、、」

桐島はそこで言葉を止めた

「、、、、、あの時は、、、、、?」

渡部は続きが気になり、桐島に訊ねる

桐島はふと、ホテルの出入り口付近を見た


「あの時は、、、お前の事、好きだったからな、、、」

「、、、え、、、?」


渡部は一瞬、時が止まったかのような違和感を覚えた

ほんの一瞬だが、桐島の姿以外何も見えず、桐島の声以外何も聞こえなかった


「だから、、、心配だったんだよ」

「、、、、、」

渡部はふと、当時の事を思い出した





『俺は、、、一生、歩を大切にします!』





「、、、、、」

渡部は前を向き桐島には背を向け、ゆっくりと静かに目を閉じた

「、、、歩、、、?」

桐島は渡部に後ろから声をかけた

「、、、ありがとう!ここまででいいよ!」

渡部は急に明るい声を出した

「、、、え?」

「家、こっちじゃないでしょ?送ってくれてたんだよね?」

「え、、、ああ、駅までは送ろうかと思って」

「、、、大丈夫だよ 私はここまでで」

渡部は落ち着いた口調でそう言うと、優しく笑った

「、、、そっか」

桐島も同じように笑い返した

「じゃあ、、、」

「ああ、じゃあな」

互いに軽い挨拶をし、背中を向けて歩き出した

「、、、、、」

桐島は頭の中には色んな考えが巡り、心の中は色んな感情が入り乱れていたが、今はただただそれを必死で抑えつけていた


「、、、誠哉君!」

少し離れた場所から渡部の声がした

「、、、?」

桐島が振り返ると、こちらを見ている渡部の姿があった

「、、、どうした?」

桐島も声を張り、渡部に訊ねた

「、、、ありがとう!」

渡部は両手を口に添え、思い切り声を出した

「えっ、、、?」

桐島は渡部の言葉の意味が分からなかった

「、、、なんだよ!どういう意味だよ!」

桐島も手を口に添え、渡部に聞き返す


「、、、今まで、、、ホントにありがとう!」

「っ、、、、、」


桐島はその言葉を聞き、改めて実感した

「、、、俺の方こそ、、、ありがとう」

桐島は下を向き、小さい声で呟いた


「今まで、、、ありがとうな!」


桐島はそう言うと、大きく手を振った

それを見て渡部も手を振り返す


先ほどまでの状態で別れていたら、曖昧なままだった

この言葉を口にした事で、互いに明確に確認したのだ





もう、二度と会わない事を





「、、、、、」

「、、、、、」

2人が歩く道は違う


だが清々しい、スッキリした表情は2人とも同じだった

これでいいんだ、今はとにかく心底そう感じていた


歩く2人に強い風が当たった

冷たい秋風が2人の体を冷やした



2人はもう、一度として振り返る事はなかった








「、、、ふぅ」

桐島は息をついた

10月半ば、秋という季節は非常に寒い

手を上着のポケットに入れ、ボーっと家路についていた

「、、、、、」

殆どフリーズしたような状態で、何も考えられずにいた


何も考えないようにしていた


ドンっ


すると前から来た人物に桐島は肩がぶつかった

「きゃっ!」

「あっ、すいません、、、」

桐島は謝ったが、ぶつかった女性は荷物を落としていた

「いえこちらこそ!私の前方不注意で、、、」

「俺もボーっとしてたんで、、、」

桐島は女性に合わせて気遣い合いながら荷物を拾う

(つかこれ、、、教科書?学生か、、、?)

桐島はチラッとぶつかった女性を見た

ショートカットのその女性は高校の制服を着ていた


「すいません、荷物まで、、、」

「いえ」

桐島は最後のノートを女性に渡そうとした

その時チラッと、名前が目に入った


【水野千佳】


「え、、、っ?」

桐島は驚いた表情でバッと顔を上げた

「ありがとうございます、、、?」

水野は礼を言ったが、顔をじろじろ見てくる桐島に気づいた

「、、、ち、千佳、、、?」

「え、、、?」

水野はじーっと桐島の顔を見る

「、、、あ!もしかして、、、誠ちゃん、、、?」

水野は桐島の顔を指差しながら言った

「お、、、お前、なんでこんなとこに、、、?」

「誠ちゃんこそ、、、え?え?どういう事?」

桐島と水野はひたすら混乱するばかりだった



6年7ヶ月ぶりの再会だった










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