過去編~中学校~1.5
桐島、野波佳、菅井の3人が中学校に入学してから1週間と1日経った日の放課後
3人は帰り道を一緒に歩いていた
菅井の知り合いのラーメン屋に菅井の奢りで行く、という事で桐島と野波佳もついてきていた
「おい、、、マジで奢ってくれんだろうな、、、?」
桐島は後ろから低い声で呟く
「マジマジ いいから黙ってついてこいよしつけえなぁ」
菅井はめんどくさそうに言い返す こういう会話はもう既に10回近く行われていた
「金持ってきてねえからな 絶対お前に払わせるからな」
野波佳も桐島の横で菅井を注意深く観察しながら言う
「分かったって 信用ねえなぁ」
菅井はため息をついた
「、、、、、」
「、、、、、」
2人はじーっと菅井を見る
「、、、しつけえ」
菅井は2人の肩を強く叩いた
「いっっ!!」
「ってえなぁ!!なにすんだよ!!」
桐島と野波佳は叩かれた部分を押さえる
何故こんなに過剰反応するのかと言うと、2人は先ほどまでケンカをして全身アザだらけだからである
詳しくは【過去編~中学校~1】など
「人が好意で奢ってやろうってのに、疑り深いからだよ」
菅井はスネたような口調で言った
「だとしても叩く力が強えよ!軽くつつくだけでもまあまあ痛えのに!」
野波佳はやっきになって言い返す
「なんだよ野波佳 そんなに桐島にボコボコにされたのか~?」
菅井は神経を逆撫でするムカつく口調で言った
「ぁあ!?何が言いてえんだよ!?」
野波佳は後ろから菅井の肩を掴んだ
「おい桐島、お前らどっちが勝ちそうだったんだよ?」
菅井は肩を掴まれても特に気にせず、桐島に質問をぶつける
「、、、なにが?」
桐島は菅井に叩かれた肩を気にし、話を聞いていなかった
「お前ら殴り合ってたじゃん どっちのが強えんだよ?」
「そりゃ俺だろ どう考えても」
菅井の言葉に桐島は喰い気味に返答した
「はぁ!?どこがだよ!?俺の方が勝ってたろ!!」
「てめえの顔面見てみろや ほっぺが切れて流れてる赤いのなんですか?」
「お前こそ口ん中切れてんだろ!赤いツバ吐いたの見たからな!」
「俺はさっき赤ワイン飲んでたんだよ」
「ナメてんのか!?」
桐島の返答をきっかけに2人は言い争いを始めた
菅井をそれを見ながら笑っていた
「はっはっは!どっちもどっちだろーが」
「てめえが訊いたんだろ!」
桐島と野波佳は声を揃えて言い返す
「まあまあ、それよりラーメン屋着いたからよ?」
菅井は前方の建物を指差しながら言った
全体的に茶色く、のれんがボロボロでとにかく汚い店構えだった
のれんやその周りに書いてある文字から、中華系の料理屋である事はよく分かった
「なんかキッタネえけど、、、ホントに営業してんのかよ?」
野波佳は怪訝な表情で菅井に訊ねる
「まあとりあえず入ろうぜ」
菅井は野波佳の言葉を特に気にせず、先々店の中に入ってしまった
菅井に続いて2人ものれんをくぐる
中はカウンター席がメインで、テーブル席が2つ、所狭しと並んでいた
出入り口のすぐ横には古いマンガが置いてある
「おう緋斬 いらっしゃい」
カウンターのすぐ奥の厨房から店主が挨拶した 見た目からすると50歳前後だろうか
「ああおっちゃん 今日はツレがいっから」
菅井も軽く挨拶し、桐島と野波佳を指した
「ツレ、、、?おお、そうか」
店主はじっと2人を見た後、頷いた
「コイツが桐島でコイツが野波佳」
菅井は2人を順番に指し、店主に紹介する
2人は軽く会釈をした
「っ?、、、そうか」
店主は少し引っかかりながらも頷いた
「つー訳で悪いんだけどさ こいつらも俺みたいにちょっと割引、、、、、」
「ダメだ」
菅井の言葉を最後まで聞かず、店主はビシッと拒否した
「えっ、、、?」
菅井は店主の言葉に驚いた
「な、なんで?この前友人連れてきたらそいつらも安くするって言ってたろ?」
「、、、おいお前ら」
菅井の言葉を聞かず、店主は桐島と野波佳の方を見る
「お前ら、、、こいつの事なんて呼んでんだ?」
店主は菅井を指差し、2人に訊ねた
「え、、、?菅井、、、って呼んでるけど」
「菅井、だよな」
桐島と野波佳は何の事かよく分からず、とりあえず答える
「じゃあダメだな」
店主はため息混じりに言った
「はっ?」
「おい菅井!てめえそれ偽名じゃねえだろうな!?」
桐島と野波佳はそれぞれ反応する
「ンナ訳ねえだろ!おいおっちゃん!それだけじゃ分かんねえよ!」
野波佳にきっちり言い返し、菅井は店主に聞き返す
「俺はな、、、名字で呼び合ってる奴らを友人たぁ認めねえ」
店主は素早く首を振りながら言った
「え、、、?」
菅井は店主の意外なこだわりにたじろぐ
「友人を連れてきたら割引にでもなんにでもしてやるがな 名字で呼び合ってんじゃあなぁ」
店主は残念そうに呟いた
「い、、、いやいや名字で呼び合ってたって仲良いヤツらなんかいくらでもいるじゃん!訳分かんねえって!」
菅井は全く納得いかなかった
「確かにそうだが、、、お前らはそんな気がしねえ せめて表面だけでも仲良さそうにしてもらわねえとなぁ」
店主は薄ら笑いを浮かべながら言った どうやらそこだけは譲らないようだ
「、、、ちっ、おいお前ら 俺の名前知ってるよな?」
菅井はこそこそと小声で2人と話す
「知らねえよ お前なんか変な名前だったろ?」
野波佳は菅井の名前を覚えてないようだった
「確か、、、ヒサンだっけ?」
桐島は頭に浮かぶ言葉を口に出した
「ヒザンだよ!緋斬!悲惨みてえになってんだろ!」
菅井は小声ながらも強く言い返す
「んで桐島は、、、誠哉だよな 野波佳は焦栄か」
菅井は2人を順番に指差し、確認する
「よっし!誠哉!焦栄!」
菅井は店主に聞こえるように大きい声で2人の名を呼んだ
「ん?」
店主は振り向き、3人の方を見た
「つー訳でおっちゃん 割引でラーメン頼むな」
菅井はカウンターの席につく
「、、、まだそいつらの方を聞いてねえなぁ」
店主はまた3人に背中を向けた
「、、、、、」
(ちっ、めんどくせえけど、、、もうラーメンを食う口になっちまってんだよな、、、)
桐島は仕方なく、店主の意向に沿う事にした
「、、、そこの小皿取ってくれよ、、、緋斬」
菅井の前にある小皿を指差しながら桐島は言った
「、、、、、」
店主は笑顔で頷いていた
「俺も頼む、、、あと割り箸もな、、、ひ、、、ひ、、、」
野波佳は菅井の名前を少し言いづらそうにする
「、、、、、」
「、、、、、」
さっさとラーメンを食べたい菅井と桐島は野波佳を睨みつける
「、、、ひ、緋斬、、、」
2人のプレッシャーに負け、野波佳は絞り出すように口にした
「よし、いいだろう 友人割引だ」
店主はにっこりと笑顔で3人に言った
15分後
「はいよ 緋斬は味噌 誠哉は醤油 焦栄は豚骨だな」
店主は3人それぞれのラーメンを前にトンっと置いた
「お~、相変わらず美味そうだなおっちゃん」
菅井は割り箸をパキッと割りながら言った
「おう 当たり前だ」
店主は厨房に置いてあるイスに座りながら言った
(、、、確かに、、、美味そうだな)
(店は汚えくせに、、、)
桐島と野波佳は同じ事を感じていた
ズルズルッ
2人は同時にラーメンを口に入れた
「っ、、、!」
「う、うま、、、」
桐島と野波佳は少し驚きながらラーメンを飲み込んだ
「おっさん!美味いなこれ!」
野波佳はパァーっと明るい表情になり、どんどん食べだした
「おっさん言うんじゃねー!せめておっちゃんにしろ!」
店主は怒った口調で野波佳をたしなめる
「いやおっさん、マジでイケるよ」
「話聞いてんのか?」
続けて感想を述べる桐島におっさんは素早くツッコむ
「、、、へへっ」
菅井は得意げに小さく笑い、自分もラーメンを食べだした
「ごっそさんでしたー美味かったぜおっさん!」
野波佳はつまようじをくわえ、元気よく言った
「おっさんにしては美味かったぞ」
桐島も続いて挨拶した
「、、、あいつらはなんなんだ?」
全く言う事を聞かない2人の事を店主は菅井に小声で訊ねる
「さあ?バカなんじゃねえか?」
菅井は笑いながら言った
「それよりいくら?今日は俺の奢りなんだよ」
菅井は伝票を見ながら言った
「は、、、?お、奢りってお前、、、」
店主は驚いた表情で菅井を見る
「、、、家は大丈夫、今日は、、、すげえ特別な日だからさ」
菅井は小さく笑い、店主を安心させた
「、、、そうか」
店主は深くゆっくりと頷いた
「、、、?なんか遅くねえか?」
野波佳は出入り口付近から菅井と店主の方を見る
「まあ待ってりゃくんだろ」
桐島はあくびをしながら店の前で中腰でしゃがんだ
「おい誠哉!焦栄!」
すると中から店主の声が聞こえてきた
「、、、?」
桐島は顔を上げ、野波佳を見る
「なんか呼んでるぜ?」
野波佳は桐島にそう言うと再び店内に入った
「、、、なんだよ」
桐島はめんどくさそうに立ち上がり、野波佳に続いて入った
「お前ら、面白え事考えたぞ」
店主はニヤリと笑いながら言った
「? なに考えてんだよおっさん」
一番後ろにいる桐島は店主に訊ねた
「お前ら3人ともが、俺に腕相撲で勝てたらもっと割引してやる」
店主はドンと肘をテーブルに立てた
「もっと割引って、、、どんぐらいだよ?」
野波佳はとりあえずイスに座り、店主に訊ねる
「そうだな、、、今日お前らは3人で3杯食った訳だが、、、1杯分の料金にしてやろう」
「お~!かなり安いんじゃねえか?」
野波佳は2人と顔を合わせ確認する
「、、、しかも!これからお前らが3人揃ってきた時はいつでもその料金にしてやる!」
「よし、やろう」
桐島は急に乗り気になり、一番前に並んだ
「、、、おっちゃん、ホントにいいのかよ?」
菅井は小声で店主に耳打ちする
「モーマンタイだ お前の特別な日のネタになるんだったらなんでもしてやる 第一、俺が中坊に負けるワケがねえ」
店主は菅井に小声で返答し、腕をまくった
「お前ら2人は妙にアザだらけだ おおかたケンカでもしてたんだろう 腕っ節に自信がある奴からこい!約束は男らしく守ってやる!勝てたらの話だがな!」
店主はもう一度3人の前に肘をついた
ラーメン屋を出た3人は夕焼けが強い帰り道を歩いていた
「ラッキーだったな 安くなって」
桐島は菅井の肩にポンと手を置く
「しかもこれからも安いんだろ?飯食いに行くならこれからは絶対あそこだな!」
野波佳は新しくもらったつまようじをくわえていた
「そうだな、、、」
(悪い、おっちゃん、、、)
菅井は少し空を見上げながら店主の顔を思い浮かべた
3人は腕相撲で店主に圧勝し、無事、原価ギリギリの値段でラーメンを食べれる権利を得た
「つかもともと安かったのにな!あの店!」
「おう、美味かったしな」
野波佳と桐島はあのラーメン屋をずいぶん気に入ったようだ
「気に入ったみたいだな」
菅井はドヤ顔で言った
「まあな 次はいつ行く?緋斬」
桐島はいつになく楽しそうだった
「え、、、?」
菅井はバッと桐島の方を見る
「、、、おい緋斬 なんだよ?行かねえのか?」
桐島の言葉に答えない菅井に、野波佳は肩を叩きながら言った
「あ、、、いや、、、」
菅井は前をむき直し、少し俯いた
「、、、誠哉!焦栄!」
菅井は順番に2人の顔を見て名を呼んだ
「、、、なんだよ改まって?」
「いきなりでけえ声出すなよ!」
桐島と野波佳は不思議そうに菅井の顔を見る
「、、、明日にでも行くか!?」
菅井は明るい表情と声で言った
「ハハッ!それも悪くねえかもな!」
「経営出来なくしてやろうぜ 毎日行ってよ」
野波佳と桐島も、菅井につられたように明るい口調になった