嫌い
「、、、浩二君と友達だったんだね、、、」
間が出来る前に渡部は話しかけた
「、、、ああ、まさかお前が須原の幼なじみだったなんて、俺も全然分からなかったけどな」
桐島はそう言った後、お茶を飲んだ テーブルを見つめるだけで渡部とは目を合わさない
「そうなんだ、、、」
渡部も桐島に合わせてお茶を口にする
「、、、、、」
「、、、、、」
互いにお茶を飲んでいる間、沈黙が流れる
「、、、、、」
先にお茶をテーブルに置いたのは渡部だった
「、、、なんで、名古屋に引っ越してきたの、、、?」
渡部はコップを見つめながらゆっくりと呟く
「、、、お前に会いにきたんだよ」
桐島はごちゃごちゃ誤魔化さず、思った事をそのまま口に出した
「、、、どうして、、、?」
渡部は目線を変えず、消え入りそうなか細い声で言った
「、、、お、お前が困ってると思ったからだよ 理由もろくに話さねえから、、、なんかあると思って、、、」
桐島はだんだん言葉に落ち着きが無くなってきた
「、、、前も言ったよね、、、理由なんてないって、、、」
渡部は冷たく突き放すような口調になった
「、、、ウソつくなよ 無い訳ねえだろ」
「、、、ないよ」
桐島の追及にも渡部は淡々と返事をした
「、、、じゃあ、、、なんで泣いてたんだよ、、、?」
「、、、!」
渡部はビクッと反応し、気まずそうに下を向く
「俺が、お前の家まで会いに行った時、、、電話越しに泣いてたじゃねえか、、、?あと、学園祭の日の別れ際にも、、、」
「、、、、、」
桐島のその言葉に渡部は何も言い返せない
「学園祭の結構前から、、、歩の様子がおかしかったって事も知ってる、、、なんか悩んで、迷ってたんだろ?」
「、、、、、」
渡部は下を向き、桐島に表情を見せないようにした
「なんで、、、なんにも言ってくれねえんだよ?俺は、歩が困ってるなら解決法考えてえし、苦しんでるなら助けてやりたい、、、それは今だってそうだぞ?」
「、、、、、」
渡部は下を向いたまま、ゆっくり首を振った
「やめて、、、そういう事言うの、、、」
「、、、え?」
桐島は渡部の意外な返答に思わず聞き返す
「、、、お願い、、、そういう優しいコト言わないで、、、」
渡部は俯いたまま呟くように言った
「っ、、、」
桐島は渡部の言葉に少し動揺したが、落ち着いて息を整える
「、、、そうか、、、なんも言えねえんだな、、、」
「、、、、、」
渡部は首だけでコクっと頷いた
「、、、、、」
桐島は俯き、ゆっくり息を吐いた
「ま、そりゃそうだよな」
桐島は顔を上げ、明るい口調で言った
「、、、え、、、?」
渡部もつられて顔を上げた
「今まで聞けなかった事、簡単に聞けるとは思ってねえし、お前がどうしても言えねえんってんなら仕方ねえよな」
桐島は勢いよくコップのお茶を飲み干した
「でもよ、、、俺はこれからもここに住んでっからさ、、、」
「っ、、、!」
「もし、、、なんかあったらいつでも言えよ?」
「それじゃっ、、、ダメなの!」
渡部は急に力強い声で叫んだ
「、、、えっ、、、?」
桐島は呆然とした表情で渡部を見る
「なんで、、、引っ越してきちゃったの、、、」
渡部は涙目になり、声は震えていた
「なんでって、、、」
「嫌い、、、」
渡部はボソッと小さい声で言った
「え?」
「誠哉君なんか嫌い!めちゃくちゃ嫌い!二度と見たくない!」
渡部はヤケになったように叫びだした
「はぁはぁ、、、」
「歩、、、」
桐島が気遣う素振りを見せると、渡部はバッと下を向いてしまう
「、、、誠哉君も、、、言って」
「、、、え?」
「私に同じ事言って、、、」
渡部は下を向いたまま一切顔を上げない
「、、、、、言って」
「、、、、、」
桐島は落ち着いて息をつき、下を向いている渡部の顔を見た
「俺は好きだ」
「、、、、、!」
2人しかいないこの個室では、その声が綺麗に響いた
「お前が何を考えて、ンナ事言ってんのか今の俺には全然分かんねえけど、、、」
「、、、、、」
「俺は、お前の事が好きだし、、、今もこれからもお前の味方だ」
「、、、、、」
渡部は下を向いたまま感極まっていた
目に力を込め、溢れ出そうな感情を必死に抑え込む
すると渡部は突然立ち上がった
「、、、歩、、、?」
「、、、帰るね」
渡部は小さい声でそう呟くと、荷物を持ち玄関へと歩き出した
「え、、、おっ、おい、、、」
「、、、、、」
桐島の引き止めに渡部は一切反応しなかった
ガチャ
渡部はそのままドアを開けた
「わっ、あ、、、歩ちゃん?どしたん?」
まさに今から桐島の家に入ろうとしていた秋本は、急に渡部が出て来て驚いた
「あ、、、ごめん、そろそろ帰るね、、、」
「あ、そう、、、?」
秋本の返事を聞くと渡部は軽く会釈し、夕方の薄暗くなってきた道を足早に帰って行った
「、、、桐島ー?」
秋本は玄関で靴を脱ぎ、部屋に入っていった
「、、、、、」
桐島は眉間にシワを寄せ、深刻そうな表情になっていた
「歩ちゃん帰ってったけど、、、なんかあったん?」
桐島の様子に少したじろぎながらも、秋本は訊ねた
「、、、なんもねえよ 別に」
桐島はサバサバした口調で言いながらお茶を飲んだ
「、、、ホンマに?」
「おう、びっくりするぐらい間が持たなくてよ やっぱり初対面の人間は苦手みたいだ」
「、、、はぁ、そんなんやったらあかんで?せっかく人見知り直すチャンスやったのに、、、」
秋本はため息をつきながら言った
「、、、わりぃな、お前の友達帰らしちまって、、、」
「、、、私らの友達、やろ?知り合いが少ない内は不安な事も多いやろうし、まあ気長に慣れていこな?」
秋本は喋りながら玄関に向かって歩いていく
「、、、おう」
桐島は軽く一言で返事をした
「ほなね 私も帰るわ」
「ああ、またな」
バタン
「、、、、、はぁ」
秋本が出て行ったのを確認し、桐島はため息をついた
「、、、くそっ、、、」
イラついた様子で頭をかき、ドサッとその場に寝転がった