不審者
ここから名古屋編突入です
無事、名古屋に到着した桐島は駅の構内から外に出た
駅周辺は埼玉に比べ人口密度が濃く、高さのある建物も密集している為慣れない桐島には少し威圧感があった
「ふぅ、、、あち、、、」
一瞬クラッとなるくらい照りつける太陽に手をかざす
「、、、、、」
桐島はゆっくりと周りを見渡した
一度は来た事があるものの、今と以前とでは気持ちが全く違う
それ故に、見え方も全く違っていた
(名古屋、、、か 何かと縁がある場所だな、、、)
桐島は改めて息をつき、現状を受け入れた
「よし、、、とりあえずアパートに向かうか、、、」
桐島はアパートへの簡単な地図を手に、歩き出した
地図に従って20分程歩いていると、だんだんと住宅が多い場所に導かれた
夏休みなので地元の小学生や中学生をよく見かける
「地図によると、、、ここの奥だよな、、、」
桐島は地図と周りの道を見比べながら慎重に歩く
目的地のアパートに着いた
「青っぽい外装って書いてあるし、、、これだよな」
桐島は改めてアパートの全体像を見た
2階建てで、1階に4部屋の計8部屋ある
築何十年かと言うぐらい年季の入ったアパートで、青っぽい外装も所々剥がれている
アパートの前には駐車場、その横には屋根付きの駐輪場があった
「、、、っ」
桐島は厳しい表情で頭をかかえた
「なんだ、、、?久しぶりに頭痛かよ、、、?」
(最近出ねえと思ってたのに、、、)
両手で軽くさすってみるが、痛みはなかなか取れない
「、、、?」
桐島はこのアパートに少し違和感を覚えた
「あれ、、、?なんか、、、?」
桐島はもう一度アパートの全体を眺めた
(、、、どっかで見た事あるような、、、)
思いだそうとするが明確な記憶は蘇ってこない
(くっそ、、、なんかモヤモヤすんな、、、)
桐島はイラついた様子で頭を掻いた
「誰よ?アンタ」
ふと背後からそんな声が聞こえてきた
「えっ!?」
桐島は慌てて後ろを振り返る
そこには20歳ぐらいの女性が立っていた
長い髪は腰近くまで伸び、くわえタバコをしながら桐島を見ていた
「あ、、、いやあの、、、」
ただでさえ人見知りの桐島は、年上の異性となるとかなり緊張した
「なにしてんの?このアパートの前で」
タバコをくわえたまま、女は怪しそうに桐島をじろじろ見る
「え、、、っと、今来たばっかりで、、、その、、、」
「んん!?聞こえないんだけど?」
ゴニョゴニョとした口調の桐島に女はイラつきながら聞き返す
「、、、すいません、、、」
桐島はとりあえず謝った
「、、、?」
女はふと、思い出したように顔を上げた
「、、、もしかして、桐島誠哉君?」
女はタバコを口から離し、おそるおそる訊ねた
「え、、、は、はい!そうです!」
桐島は激しく頷いた なぜ自分の名を知っているのか、ではなく身の安全が保証された事が嬉しかったようだ
「ふ~ん、じゃあさっさと言えばいいのに そういえば今日だっけ」
女はあくびをしながら呟いた
「え?」
「鈴科さんとこの子よね?一応ちゃんと話は通ってるから」
女は再びタバコを口にくわえ直した
「え、、、え~っと、、、」
桐島は頬を引っかきながら今の状況を考えてみた
「あの、、、大家さん、、、ですか?」
「は?今更?」
女は少し驚いた様子で答えた
「私の名前とか見た目、聞いてないの?」
「あ、はい、特に何も、、、」
「じゃあアンタ、今からどうするつもりだったの?名前分かんないんじゃ私がいる部屋も分かんないでしょ?」
「あ、、、確かに、、、」
桐島は全くもって何も考えていなかった
「、、、まあいいわ 私の名前は早乙女葵【さおとめあおい】 よろしくね」
「はい よろしくお願いしま、、、」
♪~♪
早乙女の携帯の着信音が鳴った
「あ、、、桐島君の部屋は103だから 詳しい事はまた今度 じゃあね」
「えっ?は、はい」
早乙女はサッと鍵を桐島に渡し、慌てて電話に出た
「はい、もしもし、、、」
早乙女はそのまま去っていった
「、、、ずいぶん不用心っつうか、、、俺が桐島誠哉になりすました不審者だったらどうする気だよ、、、」
桐島は鍵を改めて握り、アパートへと踏み出した
「部屋は103か、、、ん?」
桐島は少し離れた場所から一階の4部屋を見る
「、、、どっちが1だ、、、?」
桐島は一階の両端の部屋を見た
「、、、まあ普通に考えたら左が1だよな」
そう呟きながら右端の入り口からアパートの部屋の前に入った
一応、一番右端である部屋の番号をチェックする
「え~っと、、、お、やっぱこの部屋が104だな」
桐島は満足げに頷きながら呟いた
「って事はこの隣が103、、、」
ガチャ
すると104の部屋のドアが開いた
「、、、ひゃあっ!」
部屋の中から出てきた女性は声を上げた
部屋の目の前で、見知らぬ男が自分の部屋の番号を見ているのだから当然である
「あ、、、すいません 今ちょっと、、、」
「なにしてんねん!!」
桐島の言い訳を聞かずに女性は怒鳴りつけた
「え、、、関西弁、、、」
桐島は気づいた事をそのまま口にした
「なに誤魔化そうとしてんねん!私の部屋の前で何してたんや!」
関西弁の女は玄関に忍ばしてある木刀を素早く手に取り、身構えた
「い、いや違、、、ちょっと部屋の番号を確認、、、」
「私の表札と番号を見とったやろ!」
女は小さく首を振り栗色っぽい髪を目に入らないように分け、ろくに桐島の話も聞かずガンガン責めてくる
「え、えぇ~?い、いや別に表札とかは、、、」
ふと桐島は表札に目をやった そこには秋本梓【あきもとあずさ】と出ていた
「この不審者!警察呼ぶぞアホ!」
秋本は木刀をしっかり握りながら桐島を威嚇する
「だ、だから違うっつってんだろ!」
桐島もいい加減イライラしてきたようだ
「あれ?なにしてんの?」
ふとアパートの近くからそんな声がした
声の主は早乙女である
「あ、、、葵さん!気ぃつけてください!不審者がおるんです!」
「違うって!話聞けよてめえ!」
秋本の言葉を桐島はすかさず否定する
「う~ん、なんかよく分かんないけど、、、」
早乙女は首を傾げながら頭を掻いた
「もう仲良くなったのね 桐島君」
「アンタも話聞けよ」
テキトーな返事をする早乙女に桐島はビシッと言い返した
「桐、、、島、ですか?」
早乙女と知り合いである事を知った秋本は木刀をゆっくりおろした