兄妹
10年前
「うっ、、、うぇ~ん、、、」
ある少女は、鈴科孤児院の部屋にいた
子供達の輪から外れ、1人泣いている
「あの子、、、もう一週間だけど、まだ泣いてますねぇ」
受付の男は溜め息混じりに呟く
「そうだね、、、もう5歳だし、ちゃんと物事が分かる年頃なんだろうねぇ」
おばあさんは困った様子で言った
「うぅ、、、お兄ちゃん、、、」
少女は泣きながら周りをキョロキョロ見る
「お兄ちゃん、、、どこ行ったの、、、ぐす、、、」
少女が泣きぐずりながらそう言うと、1人の少年が駆け寄ってきた
「どうしたんだよ?」
少年はいつまでも泣いている少女に声をかける
「ひぇっ、、、」
少女はビクッと体を震わせる
「なに泣いてんだよ 向こう行こう」
少年は少女の手を引いた
「い、いや、、、」
少女は手を振り払い、また座り込む
「、、、お前なぁ、いつまで泣いてる気だよ?何で泣いてんだ?」
少年は少女の横に座り、話しかけた
「、、、早くおうちに帰りたい、、、」
「ここが家だろ?みんなの家だ」
「違うもん!こんな所じゃない!」
少女は急に声を上げた
「、、、そうかよ!じゃあしらねー!」
少年は不機嫌な様子で立ち上がった この場所を侮辱されたようで気に入らなかったらしい
「だって、、、!」
「、、、、、」
少女の言葉に引き止められ、少年は立ち止まった
「だって、、、ここにはお兄ちゃんがいないもん、、、」
「、、、、、」
少年はまた、少女の横に座った
「お兄ちゃんいるのか?お前」
「うん、、、」
「お兄ちゃん、どこにいるんだ?」
「分かんない、、、」
「、、、、、」
少年は少女の真正面に座り直した
「よし、じゃあ今日から俺がお兄ちゃんだ」
「え、、、?」
少年の言葉に、少女はポカンと口を開けた
「俺が、お前のお兄ちゃんだ 本当のお兄ちゃんが見つかるまで、ずっと一緒にいてやる」
「、、、ずっと、、、一緒に、、、?」
少女の目からは涙がこぼれ落ちた
「ああ、、、って、え?な、なんで泣くんだよ」
「う、、、うぇ~ん、、、」
少女は泣きじゃくってしまった
「な、泣くなよ!お兄ちゃんになってやるから!な!え、え~っと、、、名前なんだっけ!?」
「うぇ~ん!」
少年は少女の名札を見た
「え~っと、、、愛!泣くなよ!俺は誠哉だ!お前のお兄ちゃんだぞ!」
「うぅっ、、、ぐすん、、、誠哉、、、」
少女は少し落ち着き、名前を呼んだ
「え、、、ち、違うって、お兄ちゃんだ な?」
「お兄ちゃんじゃない~!!うぇ~ん!」
「えぇ!?ま、まあ違うけどさぁ!」
「うぇ~ん!やっぱり違う~!」
「な、泣くなよ~、、、、、」
それが、桐島誠哉と鈴科愛の出会いだった
現在
桐島が名古屋に引っ越す事を聞きつけた鈴科は、南涯高校の前までやってきていた
「アパート、、、取り壊されるんだよね、、、」
先に口を開いたのは鈴科だった
「、、、ああ」
「だから、、、引っ越すんだよね、、、?」
「ああ」
桐島は同じように2度、頷いた
「、、、なんで名古屋なの、、、?」
「、、、、、」
鈴科のその問いに、桐島は答えなかった
「別にさぁ、埼玉のアパートとかだっておばあちゃんの知り合い、いっぱいいるよ?」
「、、、ああ、知ってる、、、」
「、、、じゃあなんで、、、?」
「、、、、、」
桐島は黙って鈴科を見つめている
「わざわざ、、、歩さんの為に、名古屋まで行くの、、、?」
「、、、ああ」
桐島はそうとだけ答え、小さく頷いた
「、、、あのさぁ、誠哉、歩さんにフられたんでしょ?今更何しに行くの?」
「、、、確かにそうだけど、、、ただ、、、」
桐島は顔を上げ、口を開いた
「、、、ただ、、、?」
「ただ、、、アイツが、、、」
桐島は2ヵ月前、渡部の家の前まで行った日の事を思い出していた
電話越しに涙をすする声、セリフ、雰囲気を頭の中に浮かべる
「アイツが、、、困ってるような気がした、、、」
「、、、は、、、?」
そんな言葉でしか桐島は表せられなかった
「学園祭の日に別れた時も、それから2週間後に会いに行った時も、、、アイツ、、、泣いてたから、、、」
桐島は学園祭の日、渡部の目から流れる涙を思い出していた
「、、、、、」
「、、、、、」
野波佳と徒仲は2人の会話を黙って見守っていた
「、、、バカじゃないの?」
鈴科はキツく冷たい声で桐島に言いつけた
「なにそれ、、、全然理由になってないよ、、、」
「だから、、、俺は別に歩の為とか、そういう高尚な気持ちじゃなくて、、、ただ、何があったのか知りたいだけってゆうか、、、」
桐島は上手くまとまらないまま喋った
「どんな気持ちかなんかどうでもいいよ、、、誠哉が行って、何の意味があんのって話」
「、、、そんなもん知らねえよ、、、」
桐島は少し投げやりな言い方をした
「歩さんだって、、、もうとっくの昔にフった元カレなんかに頼ろうとなんかしてな、、、」
「うるせえな!!お前には関係ねえだろ!!」
桐島は下を向きながらそう言い放った
「っ、、、」
鈴科は目を見開き、驚いた表情で桐島を見る
「、、、おい誠哉、そんな言い方しなくても、、、」
野波佳はポンと桐島の肩に手を置いた
「、、、、、」
桐島は黙って野波佳の手を振り払う
「、、、あっそ、じゃあもう好きにしたら!確かに私には関係ない話でした!」
鈴科は後ろに振り返りながら言った
「、、、誠哉、歩さんの為にずいぶん必死だけどさ、、、」
鈴科は桐島に背中を向けたまま話し出した
「南の時、、、こんなに頑張ってた、、、?」
「っっ、、、!」
桐島の表情は一気に厳しくなった
「あの夏休み、、、南が苦しんで、病院にいた時、、、誠哉、、、何してたの、、、?」
「、、、、、」
桐島は黙り込み、下を向いた
「南が死んじゃった時も、お葬式来ないで、、、何してたの、、、?死んだ後も、私や焦栄君や緋斬君はお墓参り行ったよ!?南のお墓は名古屋にあるんだよ!?知ってるでしょ!?」
鈴科は振り返り、桐島の方を見ながら言った
「南の時は来なかったくせに、歩さんの為なら行くんだ!?」
「鈴科、、、」
「焦栄君は黙ってて!」
止めようとする野波佳を鈴科は素早く言葉で差した
「ねえ、、、なんとか言ってよ、、、?」
「、、、、、」
桐島は下唇を噛み締めながら、震えていた
「私は、、、緋斬君みたいに、南が死んだのは誠哉のせいだ、って言わないけど、、、でも、誠哉にだって原因はあったんだよ、、、?なんでお見舞いにも、お葬式にも来ないの、、、?」
「、、、ごめん」
桐島は口を開き、小さい声で呟いた
「謝ってなんかほしくない、、、」
鈴科はまた振り返り、背中を向けた
「結局誠哉は、、、南の事、大切に思ってなんかなかったんだ、、、」
「、、、、、」
鈴科のその言葉にも、桐島は何も答えない
「だってそうでしょ?歩さんの為なら名古屋に行けて、、、南の為なら行けないんだから、、、どうでもよかったんでしょ?南の事、、、」
「、、、、、」
「南が病気なの知ってて旅行なんかして、、、いくら日帰りだからって緋斬君にも言わずにさ、、、南がかわいそ、、、」
「鈴科」
野波佳は鈴科の名を呼んだ
「、、、、、」
鈴科は背中を向けたまま、口を塞いだ
「、、、もういいだろ、、、?」
「、、、ふん」
鈴科は野波佳の言葉に何も答えず、歩き去ってしまった
「、、、、、」
桐島は黙って立ち尽くしていた
「、、、ま、あいつも言い過ぎだと思うけどよ、、、」
野波佳は桐島の横に立ち、声をかけた
「あいつの気持ちも、分かるよな、、、?」
「、、、、、」
桐島は厳しい表情のまま、動かなかった
「、、、とりあえず、引っ越す前に連絡くれよな」
野波佳はそう言いながら桐島の肩を叩き、歩き出した
「あ、、、、、」
徒仲も色々と気になったが今は余計な事は聞かず、野波佳について行った
「、、、、、」
残された桐島は1人、学校の前に立ち尽くしていた
(俺は、、、、、)
今はただ、鈴科の数々の言葉が胸に刺さり、沁み、何度も響いていた