考え
7月中旬
桐島の誕生日から2ヶ月ほど経った日
鈴科孤児院の子供達の小学校はみんな夏休みに入っていた
鈴科の通っている冥名中学校も夏休みに入っていたので、孤児院は一日中子供達と生活をするシフトに切り替わっていた
冥名中学校は、桐島と野波佳の母校でもある
「ふぅ~、なかなか暑いね~」
鈴科は壁にもたれながら座った
手でパタパタと自分を仰ぐ
「ちょっと昼寝しただけですぐ元気になるんだから、、、」
鈴科は感心したような呆れたような表情で子供達を見る
子供達は遊び道具を使って思い思いに遊んでいた
「ほほ、、、愛、暑いかい?」
それをイスに腰かけて眺めていたおばあさんは、鈴科の様子を見て言った
「え?うん、まあ暑いけど、、、大丈夫!」
鈴科はニカッと明るく笑ってみせた
「冷房、強くした方がいいかい?」
「しなくて大丈夫だよ!夏は暑いから夏なんだし、子供達にもちゃんとそれを教えないとね!」
鈴科は首にかけていたタオルで首回りと顔の汗を拭いた
「そうかい、、、」
「それに、まだ7月だし、、、今はまだ節約しないと!」
「ほほ、、、確かにねぇ」
おばあさんは穏やかな表情で答えた
「でも、こんな暑いのに学校に行くなんて、、、高校生様は大変ですねー」
鈴科はニヤニヤ笑いながら言ってみせた
高校の方が数日間長く、まだ夏休みに入っていなかった
「ほほ、、、せいちゃんの高校は、今日で最後だったかねぇ、、、」
おばあさんは桐島の姿を思い浮かべながら言った
「そうだったかな、、、あ、そういえば、誠哉のアパートって取り壊しになるんだよね」
鈴科は以前チラッと聞いた話を思い出したようだ
「そうだねぇ、、、」
「どこに引っ越すの?新しいアパート、遊びに行かないとねー!」
鈴科は楽しみそうに目をキラキラさせながら言った
「、、、愛にはまだ、言ってなかったかねぇ、、、」
「え?うん 聞いてないよ 今のアパートより遠い?ここから」
鈴科はもう一度、タオルで汗を拭きながら訊ねた
南涯高校は、一学期最後の日を終えようとしていた
「、、、、、」
2年2組、徒仲のクラスではホームルームが行われていた
夏休み前なので、その事についての話やプリントが配られたりしたが、徒仲は大して聞いていなかった
「、、、、、」
ぼーっとどこを眺める訳でもなく、静かにしていた
(歩ちゃん、、、今頃なにしてるかなぁ、、、)
ふと頭をよぎるのは、いつも渡部の事だった
(名古屋に、、、ちゃんと友達いるのかな、、、私と初めて会った時みたいな態度、とってないかな、、、)
徒仲と渡部が初めて会ったのは中学の時
当時の渡部は暗く、人見知りな様子で、対照的に、明るく社交的な徒仲を怪訝な態度であしらっていた
(、、、あれから、一回も連絡取れてない、、、)
徒仲はパカッと携帯を開いた
学園祭の日から、渡部は埼玉の皆とは一切連絡を取っていなかった
(なんで、、、?歩ちゃん、、、)
徒仲は携帯を閉じ、こみ上げてくる思いをぐっと抑えた
ホームルームも終わり、徒仲は荷物を纏めていた
一学期最後なので、荷物は全て持って帰らなければならない
だが別段量が増える訳でもなく、普段と特に見た目は変わらなかった
(夏休み、、、だけど歩ちゃん、こっちに帰ってきたりしないんだろうなぁ、、、)
徒仲は小さく息をついた
(そういえば、、、歩ちゃんが引っ越す前日、色々話したけど、、、)
徒仲はその日の喫茶店での会話を思い出していた
『新しい家、どんな感じ?』
『新しい、って言っても新築じゃないよ?一戸建てで、、、すっごい普通な感じ 2階建てなの』
『へぇ~、、、その内遊びにいっていい?』
『うん でも結構遠いから、道に迷わないようにね』
(結局、、、一回も遊びに行ってないや、、、)
徒仲はため息をつきながら荷物を持ち、教室を出た
(誠哉君も、、、もう歩ちゃんの事、諦めたのかな、、、)
徒仲は廊下を歩きながら、桐島と渡部の姿を頭に思い浮かべる
(2ヶ月ぐらい前に一回は歩ちゃんの家行ったらしいけど、会えなかったみたいだし、、、)
徒仲は更に落ち込んだ表情になった
(最近、特に何も聞かないし、、、確かに仕方ないよね、、、電話は繋がらないし、直接会いに言っても無理なんだから、、、)
徒仲はまた深くため息をついた
(でも誠哉君、1ヶ月ぐらい前まで確か、、、)
徒仲は、桐島から聞いたセリフを思い出す
『大丈夫だ、、、一応、考えてあるから』
(とか言ってたけど、、、どうなのかな)
徒仲は手を顎に添え、考えてみる
(もしかして、、、私に気を遣ってくれてただけかな、、、)
そう思うと、やたらと申し訳ない気持ちになってきた
(別れた相手の事、いつまでも掘り返されて、、、そりゃ良い気分じゃないよね、、、)
徒仲は桐島の言葉に対し、一つの答えにたどり着いた
(もう、、、私から歩ちゃんの話するのはやめよう、、、)
徒仲がそんな事を考えながら歩いていると、4組の教室の中が廊下から見えた
「ん、、、?」
教室の一角に人が数人集まっていた
よく見ると、野波佳や九頭、北脇に外山といつものみんなだった その集まりの中心で席についているのは桐島である
「なにしてるんだろ、、、?」
4組の教室は桐島と外山のクラスである
徒仲はとりあえず教室に入る事にした
「マジかよー!?なんでだよ!?」
「いつから決めてたのよそんな事、、、」
教室に入るとそんな声が聞こえてきた
どうやら桐島が責められているように見える
「何してるの?」
徒仲は皆の輪に入り、誰にでもなく訊ねた
「麻癒、、、お前は知ってたのか?」
野波佳は徒仲の両肩を掴み、訊ねた
「え、、、な、なになに?怖いなーもう」
徒仲は笑いながら野波佳の手を払ったが、皆の妙な様子にたじろいでいた
「麻癒、、、にも何にも言ってないのかよ、、、?」
野波佳は唯一イスに座っている桐島に訊ねた
「ああ、、、」
桐島は深く頷きながら返事をした
「、、、どうかしたの?みんな、なんか変だけど、、、」
徒仲はもう一度、誰に言うでもなく訊ねた
すると外山が、ゆっくりと口を開いた
「桐島、、、こいつ、もうちょいで名古屋に引っ越すらしいぜ、、、」
「、、、え、、、は!?」
徒仲はバッと桐島の顔を見た
「アパートが取り壊されるんだと、、、2学期からは違う学校だとよ、、、」
外山は頭をかきながらため息まじりに言った
「え、、、っと、、、」
徒仲は必死で頭の中を整理する
そして、1ヶ月ほど前に桐島から聞いた言葉を再び思い出していた
『大丈夫だ、、、一応、考えてあるから』
「、、、、、」
(こ、こういう意味だったの、、、?)
徒仲はこの言葉の本当の意味が、ようやく分かった