帰ってこれる場所
翌日
学校が休みの桐島は家でボーっとしていた
その日の内に名古屋から埼玉まで帰ってきたが、次の日になっても少し疲れていた
「、、、凛ちゃんにはああ言ったけど、、、どうすっかな、、、」
桐島は頭を悩ませながらフッと呟いた
「歩から話を聞くっつっても、、、電話は出てくれねえし、、、行っても会ってくんねえし、、、難しいな」
(やっぱ、、、なにか、今の状況を変えるモンがねえとな、、、)
桐島は軽く頭をかきむしった
「つっても全然分かんねえな、、、」
♪~♪
桐島の携帯が鳴った
「、、、メールか、、、?誰だよ、ったく、、、」
考え事をしている時に音がなると気が散ってしまう 桐島は少し不機嫌そうな様子で携帯を開いた
「、、、ん?」
画面を見た桐島は首を傾げた
桐島は鈴科孤児院にやってきていた
桐島にメールを出した相手は鈴科愛だった
「、、、、、」
桐島は孤児院の前で、改めてメールを読み直していた
「準備が出来たって、、、何の話だよ、、、」
桐島はよく分からないまま孤児院の中へ入った
桐島は廊下を歩き、子供達や鈴科がいるいつもの部屋へ向かっていた
「受付のおっさんもいねえし、、、どうなってんだ?」
いつでもこの孤児院の受付に座っている草津がいない事に桐島は違和感を覚えた
「にしても、、、今日、なんかあったような気がすんだよな~」
桐島は歩きながら考えてみる
「今日は日曜、、、まあまあ晴れてる、、、暖かい、、、ん~?」
今の状態を順番に口に出してみるが何も分からない
「、、、まあいいか 大事な事ならその内思い出すだろうし」
桐島はそう呟きながらいつもの部屋のドアに手をかけた
ガラガラ
「おーい、来たぞお前ら、、、」
パァーン!パァンパンパーン!!
「おわっ!」
桐島がドアを開けた瞬間、一気に連発で大きな破裂音が鳴った
思わず声を出し、のけぞってしまう
「えっ!?えぇ!?」
突然すぎる出来事に、桐島は頭の中が完全に真っ白になった
「誕生日おめでとー!誠兄ー!」
子供達は声を揃えて言った
「え、、、」
桐島はまだ頭がついていっていなかった
パァーン!
「うわっ!」
再び破裂音が鳴った 音がする方を見ると、クラッカーを手に持った鈴科がいた
どうやら先ほどの破裂音も子供達が放ったクラッカーの音のようだ
「愛、、、?」
「誠哉!誕生日おめでとう!」
鈴科はニコッと笑いながら言った
「え、、、あ、、、誕生日、、、?」
桐島はようやく事態を理解した 周りをよく見ると草津やおばあさんも笑顔で桐島を見ている
今日は5月23日
桐島誠哉の誕生日だった
「む、、、やっぱり誠哉、覚えてなかったみたいだよ!」
鈴科は子供達みんなに向かって言った
「あははー!自分の誕生日覚えてないなんて、変なのー!」
「誠兄びっくりしてるー!」
子供達は桐島を指差しながら笑った
「あ、、、そか、俺今日誕生日か、、、」
桐島は確認するように呟いた
「おばあちゃんが作ってくれた料理達でーす!」
鈴科は部屋の真ん中あたりを指した
テーブルをいくつも繋げて大きい一つのテーブルにしていた
その上に豪勢な料理が並んでいる 綺麗にセットされていて、まるでお店の料理のようだ
「うわぁ、、、すげえなぁ、、、」
桐島は感心したように料理を食い入るように見た
「ほほ、久しぶりに時間をかけて作ったよ」
おばあさんは料理に釘付けの桐島の横に立った
「ありがとうございます すげえ美味そうですね!」
嬉しそうにおばあさんにそう言うと同時に、鈴科は桐島の服を引っ張った
「誠哉!誠哉!あれは私が作ったんだよ!」
鈴科は料理の方を指差しながら桐島にアピールする
「ほほ、、、」
おばあさんは優しく見守りながら笑った
「いただきまーす!」
テーブルの周りを囲むように、子供達はウロウロしながら料理を食べる
まるで立食パーティーのようだった
「何から食おうかな~」
桐島は取り皿とお箸を片手にテーブル全体を見ていた
「せーにー!」
すると後ろから子供達の1人が声をかけてきた
「ん?」
「このミートボール、あげる!」
子供は自分の皿から桐島の皿にミートボールをうつした
「え?おう、ありがとな」
桐島はパクッとミートボールを食べた
「、、、お~、やっぱウマいな おばあちゃんの料理は!」
桐島はその子供に笑顔でそう言った
「誠兄!私のもあげるー!」
「僕のもー!」
すると子供達が桐島の周りに押し寄せてきた
「ま、待て!そんな一気に食えねえだろ!」
桐島は子供達を手で抑えながら言った
だが子供達の勢いは収まらず、桐島の取り皿はいっぱいに盛られた
「、、、、、」
その様子を鈴科は一部始終見ていた
「愛!助けてくれたって良かっただろ!こんな盛られたんだぞ!」
桐島はバランスの悪い取り皿の盛り方を器用に持ち、鈴科に見せた
「、、、じゃあ私からも入れちゃおっかな♪」
鈴科は素早くフライドポテトを一つ、山の頂上に乗せた
「あっ、てめ、、、」
桐島は素早く上から順に口に詰めていき、難を逃れた
「誠哉君は今年で17歳だったね」
ふと草津は桐島に訊ねた
「うん おっさんは45歳ぐらいだっけ?」
小さい時から知り合いの草津の前だと桐島は子供っぽい喋り方になる
「まあそんなとこだねぇ、、、じゃあ誠哉君がお酒を飲めるようになるのは3年も先か、、、」
草津は残念そうに呟きながら料理を口にする
「飲まないよ酒なんて、、、体に悪そうだろ?」
「えぇ!?飲まないのかい!?」
草津は大袈裟に驚いて見せた
「そんな驚く事じゃないと思うけど、、、せっかく小さい時からおばあちゃんに良いモン食わして貰ってんのに、舌が鈍るかもしんねえからさ」
「、、、そうかい」
草津は残念そうにしていたが、桐島のその言葉を聞くと少し穏やかな表情になった
「って事はやっぱり、将来は料理関係の仕事に就きたいと思ってるのかい?料理人ってのはみんな舌が良いって聞くからね」
「、、、そういう訳じゃないけど、、、」
桐島は照れくさそうに頭をかいた
「、、、たまにこうやって、おばあちゃんに作ってもらう料理を、、、いつまでも同じ感覚で食いてえから、、、かな」
桐島はそう言いながら、料理を口にした
「料理人とかは考えた事ないな~ 大体、調理師免許とかそういうのめんどくせえし 食ってウマいのが料理だろ?」
「、、、確かに、そうだねぇ、、、」
草津は穏やかな表情で頷きながら答えた
「ははっ、返事の仕方、なんかおばあちゃんに似てきてるぞ」
「えっ、そ、そうかい?」
「、、、、、」
桐島はふと、部屋の全体を見渡した
キャハハと笑いながら遊び始めてる子供
黙々と料理を食べている子供
小さい子に、食べさせてあげたり取り分けてあげたりしている子供
「、、、、、」
桐島はそれを見ると、ホッとした気分になった
(なんか、、、最近、色々あって疲れてたけど、、、)
ここ最近の出来事を頭の中に浮かべる
(ここにくると、、、やっぱ安心する)
そう思いながら気を抜いてると、いきなり後ろから平手打ちされた
パシーン!
と、思いのほか良い音が鳴った
「いっ!!」
頭を抑え、顔を上げると鈴科がいた
「愛!お前か!」
「うん なんかぼーっとしてるから、寝てるのかと思って♪」
「寝るか!」
「じゃあみんなー!そろそろケーキ用意しよー!」
鈴科は桐島の言葉を聞かず、子供達に指示を出した
「はーい!」
何人かの子供達と鈴科は教室を出て行き、、残った子供達は料理とは別のテーブルを用意した
「ったく、、、」
自分の言葉を聞かない鈴科に文句を言おうとしたが、ケーキを用意してくれると聞くとなんとも言えなかった
(まあ、、、ムカつく事もたまにはあるけど、、、)
「じゃーん!みんなで作ったバースデーショートケーキでーす!」
ケーキは鈴科が両手で持ち、周りにはフォークやロウソク、お皿を持っている子供達がいた
(それはそれでいいよな、、、家族なんだし、、、)
部屋の電気を消し、年の数だけ立てたロウソクの日だけが視界を保っていた
「はっぴばぁすでえとぅーゆー、、、」
拙い歌い方だが子供達は声を揃えて歌った
「いいって、歌まで歌わなくてもよ、、、」
桐島は照れ臭そうに呟いた
「はっぴばぁすでえ であー誠兄ー!はっぴばぁすでえとぅーゆー!」
子供達は歌い終えると、一斉に拍手をした
「っはぁー、、、」
桐島は一吹きでロウソクを消そうと息を吸う
(どんだけ疲れても、どんだけ困っても、どこに行っても、、、多分大丈夫だ)
「誠兄すごー!一回で全部消したー!」
子供はケーキに刺さっているロウソクをまじまじと見ながら言った
「ふぅ、、、当たり前だ!これぐらい!」
大して自慢にもならないが桐島は満足そうだった
「じゃあ切り分けるヨー!」
鈴科は長い包丁を手に持ち、ケーキの前に立った
「お前に持たせるとなんか怖いな、、、」
「誠哉が持ってる方が怖いけどね!見た目的に!」
鈴科は決められたセリフかのようにすかさず言い返した
「ははっ、そうかもな、、、」
(俺には、、、帰ってこれる場所があるんだから、、、)