表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 外山
101/216

玄関前の決意

土曜日


名古屋についた桐島は、渡部の家の前まで来ていた

渡部と凛の親戚や祖父が住んでいる、屋敷のような豪邸のすぐ近く

二階建ての極普通の住宅だった

この家は渡部と凛、両親の4人で住んでいた


詳しくは、タイトル【渡部の両親】~【埼玉行】や【困惑】にて




「、、、、、」

桐島は表札の【渡部】という名前を確認し、息を飲んだ

「、、、ここまで来ちまったか、、、」

桐島はそう呟いた後、呼吸を整えた

(わざわざ名古屋まで来たんだ、、、何もなしじゃ帰れねえな、、、)

桐島は落ち着いた様子でインターホンに指をつけた

「、、、、、」

(よし、、、)

意を決した桐島は、インターホンを押した



ピンポーン



普通の効果音だが、今の桐島には妙に静かに響き渡るように感じた

「、、、、、」

桐島は胸を手で押さえた 鼓動が速くなるのが自分でよく分かった

渡部の家の中から物音が聞こえる

おそらく玄関に出ようとしている音だ

インターホンを押してから妙に時間が長く感じられた



ガチャ



ドアノブが回り、ドアが開いた


「はい、、、あ」

ドアから出て来たのは凛だった

「あっ、、せ、、、いやさん、、、」

凛は一瞬声が大きくなりかけたが慌てて抑えた

「凛ちゃん、、、久しぶり」

「お、お久しぶりですけど、、、」

凛はハッと気づいたように玄関のドアを閉めた

「埼玉から、、、来てくれたんですか?」

「おう、、、歩、いるか、、、?」

「は、はい、、、今両親はどちらもいなくて、姉さんと私だけなんです、、、多分二階の部屋にいると思うのでお待ちください!」

凛は戸惑いながらも興奮気味にそう言って家に入って行った


「、、、、、」

(また待つのか、、、)

桐島は緊張を解きほぐすように深呼吸をする

(せめて、、、顔ぐらい合わせてえな、、、)

桐島は渡部の笑顔を思い浮かべると、苦しい気持ちになった





ガチャ


「っ!」

ドアが開く音に桐島は反応した

だが中から出てきたのは凛だった

「すいません、、、その、、、」

凛は気まずそうにそう呟きながらドアを閉めた

「、、、そうか、、、」

桐島は少し納得したように息をついた

「ごめんなさい、わざわざ埼玉から来てくださったのに、、、」

凛は丁寧に頭を下げ、桐島に謝った

「い、いやいいって、凛ちゃんはなんも悪くねえんだし、、、歩だって、、、そりゃ俺には会いたくねえだろうしな、、、」

「で、でも、、、誠哉さんに助けを求めたのは私です、、、それに、、、」

凛はゆっくりと頭を上げた

「誠哉さんが来てくれて、、、私、嬉しかったんです、、、」

凛は優しく微笑みながら言った

「え、、、?」

「姉さんの事、、、相談出来るのは誠哉さんだけだったから、、、」

「、、、、、」

桐島は凛の複雑な家庭事情を思い出した

(、、、両親とはまだギクシャクしてるみたいだし、、、引っ越してきたばかりの歩の話を出来る友達なんている訳ないし、、、確かに、凛ちゃんも大変だよな、、、)

桐島は、凛の苦しい部分をよく分かっているからこそ、普段から悪態をつかれても文句を言わないのだろう

「他に頼る人がいなかったから、、、遠くに住んでる誠哉さんにしか相談出来なくて、、、ホントにごめんなさい」

凛はもう一度、改めて頭を下げた

「、、、いいって 謝らなくて、、、」

桐島は凛の頭を上げさせた

「でも、、、」

「凛ちゃんが頑張ってんのは知ってるからよ、、、今回の事だって、ホントはめちゃくちゃ1人で悩んで、俺に電話してきたんだろ、、、?」

「、、、、、」

桐島の言葉に、凛は感情を抑え込むような表情をした

「なんかあるならいつでも相談してくれりゃいいよ 変な気遣いは要らねえからさ」


「、、、はい、、、!」

凛は深く頷き、表情を見せずに返事した



♪~♪


どこから携帯の着信音がする

「え、、、」

桐島の携帯電話だった 慌ててポケットから取り出しパカッと開いた

「だ、誰からですか、、、?」

「、、、、、」

黙って携帯を見つめる桐島に対し、凛は画面をのぞき込むようにして見た

「あ、、、ね、姉さん、、、?」

凛は二階の渡部の部屋の窓を外から見上げた

桐島の着信は渡部の家の電話から来ていた


「せ、誠哉さん、、、」

凛は不安そうに桐島の名を呼ぶ

「、、、、、」

桐島はその電話に出た

「、、、もしもし、、、」

おそるおそる探るように言った

「、、、誠哉君、、、?」

電話越しに聞こえる声は間違いなく渡部のモノだった

「あ、ああ、、、」

「、、、なんで、、、来たの、、、?」

渡部は元気なく、悲しそうに言った

「な、なんでって、、、」

「こんな遠いところまで、、、なんで、、、?」

「、、、、、」

桐島はゆっくり息を整えた

「、、、理由を、、、聞きたいからだよ」

「、、、理由、、、?」

「ああ」

聞き返す渡部に桐島は力強く答える

「なんで、、、急に別れたいって言い出したのか、、、なんで別れなきゃなんねえのか、、、教えてほしい」

「、、、、、」

渡部は桐島の言葉に対し何も答えない

「、、、お前が今、何を考えてんのか、、、全部教えてほしいんだよ もしなんか事情っつうか悩みがあるんなら、、、俺も一緒に考えるから」

「、、、、、」

渡部は電話越しでは聞こえないぐらい、小さな息をついた

「違う、、、全然違うよ誠哉君、、、」

「、、、え、、、?」

「私は、、、そんなキチンとした人間じゃないの、、、」

「、、、ど、どういう意味だよ、、、」

思っていた答えとイマイチ食い違わない桐島は思わず聞き返した

「理由なんてないよ、、、」

「え、、、?」

「理由なんてない、、、ただ、別れてほしいだけ、、、」

渡部はヤケになったような言い方をした

「歩、、、」

「今もこうして、、、誠哉君と話してるだけで辛いの、、、」

「っ、、、」

桐島は言い返す言葉を飲み込んだ

「お願いだから、、、もう帰って、、、」

「、、、、、」

「お願い、、、もう、会いにこないで、、、」

「歩、、、」

「もう、、、どうしていいか分かんなくなるから、、、」

桐島の声に被さるように渡部は言った

「、、、分かった」

桐島はゆっくりと呟いた

「、、、分かってくれたの、、、?」

「ああ、、、どうしても別れたいなら、、、そりゃ仕方ねえよ、、、」

「、、、ごめんなさい、、、」

「、、、でもな、これだけはよーく覚えとけ」

桐島は先ほどまでの腑抜けた様子とは違い、言葉に強さがこもっていた

「なんか困ってんなら、、、遠慮なく言え これからも、それは変わんねえからな」

「え、、、?」

「それに俺は、別れた理由聞くまで絶対諦めねえから 悩みがあんなら協力するからよ」

「、、、、、」

渡部は以前、桐島に言われた言葉を思い出した




『俺には気ぃ遣うな つまんねえ遠慮すんな 関係ないなんて二度と言うな 埼玉だろうが名古屋だろうが、、、助けてやるから、、、』




これは、親戚や両親や凛との事情を話した時、桐島が渡部にかけた言葉である

渡部はその言葉を聞いた時の嬉しさや感動も同時に思い出していた

「、、、、、」

「ん、、、?」

桐島は顔をしかめた 渡部の方から音が聞こえない

「、、、歩?歩?聞こえてんのか?」

「、、、うっ、うぅ、、、ヒック、うぅ、、、」

渡部の方からうっすらだが涙声が聞こえてくる

「歩、、、?」

「もう、、、ぐすっ、、、そんなに優しくしないでよ、、、」

「え、、、あ、あゆ、、、」



プツッ ツーツーツーツー


「あ、、、」

桐島は、喋っている途中で電話を切られた

「、、、電話、切れたんですか、、、?」

桐島が携帯を耳から離したのを見て、凛は訊ねた

「ああ、、、」

桐島は携帯を閉じ、二階の渡部の部屋を見つめた

「姉さん、、、なんて言ってました、、、?」

「、、、泣いてた、、、」

「え?」

ボソッと呟く桐島に凛は聞き返した

「、、、、、」

桐島は何かを決意したようにグッと携帯を強く握った


「、、、どうしますか?」

凛はとりあえず桐島に訊ねた

「、、、決めた」

「はい?」

「俺は、、、歩の口から話を聞くまで、、、絶対諦めねえ」

「、、、、、」

凛は驚いた表情で目を丸くさせた

「誰がなんと言おうが関係ねえ、、、歩が辛い思いをしてんなら、俺は無視しねえ」

桐島は固く決意した事を口に出した

「誠哉さん、、、」

「凛ちゃんにも迷惑かけるけど、、、よろしく頼むな」

「、、、はい」

凛は安心したような笑みを浮かべ、ゆっくりと頷いた










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ